271 ジュリアスの宣言
食事を終えてお茶を飲んでいると、向かい側に座っているジュリアスがオーウェンの方に顔を向けた。
「父上、お話があります」
その声の響きに何か重いものが感じられて思わずジュリアスとオーウェンを見比べた。
オーウェンと黒の女王も僕と同じように感じ取ったらしく、二人はイチャつくのを止めた。
ジュリアスの真剣な眼差しに二人共、少し強張ったような顔つきになっている。
ヴィンセントだけがいつもと変わらないポーカーフェイスのままでお茶を飲んでいる。
「こうして第三者であるエドアルド君がいるのも何かの縁でしょう。だからこの場で父上に伝えておきたい事があります。私は父上の後を継ぐ気はありません。そもそもハーフエルフの私では力不足です。黒の女王との間に子供を設けられてその子に継がせるのが一番です」
ジュリアスはオーウェンに向かってそう告げると、今度は黒の女王に向かって申し訳なさそうな顔をした。
「黒の女王、どうか私に気兼ねなどなさらないでください。お二人の間に子供が生まれるのをアルフヘイムの皆が待ち望んでいるのです」
ジュリアスはそう言って深々と頭を下げた。
「…ジュリアス…」
オーウェンはそれだけを告げると絶句し、黒の女王はウルウルと目に涙を滲ませている。
ジュリアスの言い分だけを聞くと、黒の女王はジュリアスがいるからオーウェンとの間に子供を作らないようにしていたのだろうか?
元はと言えば、結婚を望まれていた相手がいるにも関わらず、人間の女性との間に子供を作ったオーウェンが悪いと思う。
黒の女王は自分の結婚相手に別の女性がいる事に嫉妬したりはしなかったのだろうか?
小説とかだと嫉妬したり、嫌がらせをしたりするのが定番だけれど、そんな事はなかったのだろうか?
しばらく黙っていたオーウェンだったが、やがてハッとしたように身を乗り出した。
「ジュリアス。まさか、そなたはこのアルフヘイムから出て行くつもりなのか?」
オーウェンの言葉に黒の女王も「え?」と声を上げた。
だが、ジュリアスは軽く微笑むとゆるゆると首を横に振った。
「いいえ、私はこのアルフヘイムしか知りませんので、ここから出て行く事はありません。たとえ人間界に行っても周りの人達とは生きている時間が違いますから…」
確かにジュリアスはハーフエルフとはいえ、普通の人間よりは長生きだろう。
そんなジュリアスが人間界に行ったところで、誰かと仲良くなったとしても、一人取り残されてしまう事になるのだ。
「黒の女王にはお目汚しの存在だと思いますが、私はこのアルフヘイムの片隅でひっそりと生きていきたいと思っています」
そう告げるとジュリアスは今度は僕の方を向いた。
「エドアルド君。君には証人になってもらいたい。私はアルフヘイムの王位継承権を放棄する!」
ジュリアスが高らかに宣言すると、オーウェンは悲痛な顔でガックリと項垂れた。
ジュリアスがそう宣言した以上、覆せないものがあるのだろう。
黒の女王でさえも、何とも言えないような顔をしている。
普通ならば好きな相手の子供を産めるのは嬉しい事のはずなのに、どうしてそんな顔をしているのだろうか?
僕が頭を悩ませていると、向かいに座るヴィンセントがポツリと告げた。
「エドアルド。エルフ同士が子供を作る場合は最低でも五十年はかかるんだ」
はあっ!?
五十年!?
いくらエルフが長生きとはいえ、時間がかかり過ぎじゃない?
あれ?
この世界の人間の平均寿命って何歳だ?
もしかして、僕が生きている間にオーウェンに子供が生まれている可能性は低いって事!?
何とも気の遠くなるような話に僕は目を丸くしたのだった。




