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269 ベッドルーム

「こちらのお部屋をお使いください」


 ひらひらと僕とウィルの前を飛んでいた小さな妖精が一つのドアの前で動きを止めた。


 カチャリとノブを回して扉を開くとベッドにテーブルセットが据えられているのが見える。


「それではごゆっくりお休みください」


 ペコリとお辞儀をすると、フッと妖精は姿を消した。


 ウィルは部屋に入るなりタタタとベッドに駆け寄りダイビングする。


 ベッドに着地した時点でドラゴンに姿を戻すなんて器用だな。


「うわー、フカフカだぁ! 気持ちいいー!」


 ウィルは布団の柔らかさを堪能するようにスリスリと顔を押し付けている。


 キングサイズのベッドだけど、そんな大きさじゃ僕の寝るスペースが無くなりそうだ。


 もうちょっと小さくなってもらわなきゃいけないな。


 ベッドに寝転んでいるウィルを尻目に僕は部屋の中を見て回った。


 取っ手が二つ並んだ扉を開けると、そこはやはりクローゼットだった。


 中にはデザインや色違いの服が数着揃えてある。


 サイズから見て僕とウィルの着替えのようだ。


 棚には新品の下着までもが揃えてあったが、随分と手回しのいい事だな。


 クローゼットを閉じると今度は別の扉を開いたが、そこはトイレだった。


 ここがトイレと言う事は、そのすぐ隣にある扉はお風呂かな?


 そう思いながら隣の扉を開けると、案の定そこには大きな湯船があった。


 湯船にはお湯がなみなみと溜められていて湯気が上がっている。


 こんな状況を見てお風呂に入らないという選択肢は僕にはない。


 僕は一旦、そこから出るとクローゼットを開けて下着を取り出した。


 その際、チラリとウィルの様子を窺ったが、ウィルは既にスヤスヤと寝息を立てていた。


 ベッドのド真ん中を占領している事にちょっとムッとしたが、後で叩き起こして小さくなってもらう事にしよう。


 お風呂場に入って手早く服を脱いで脱衣籠に放り込んだ。


 かけ湯をして湯船に浸かると、温かなお湯がじんわりと身体に染み込んでくる。


「はぁー、気持ちいい…」


 浴槽にもたれかかって目を閉じると、それだけで疲れが癒される。


「お湯加減はいかがですかー?」


「お背中流しましょうかー?」


 可愛らしい声に目を開けると、僕の顔の前で二人の小さな妖精がこちらを覗き込んでいた。


「わわっ!」


 思わず両手で前を隠す。


 何しろ目の前にいる妖精はどう見ても女の子にしか見えない。


 妖精とはいえ女の子に全裸を晒す気にはなれないよ。


「ひ、一人で出来るから大丈夫」


 少し頬を引きつらせながら答えると、妖精達はコテンと首をかしげた。


「そうですかー?」


「ご用がある時はすぐに言ってくださいねー」


 そう告げると小さな妖精達はフッと姿を消した。


 やれやれと胸を撫で下ろすと、湯船から上がり手早く頭と身体を洗った。


 再び湯船に浸かって身体を温めると、乾いたタオルで水気を取り下着を身に付けた。


 寝間着を着てベッドに向かうと、ド真ん中に寝ているウィルの身体を揺する。


「ウィル。もう少し小さくなってくれないと僕が寝られないよ」


「う、うーん…。…もう少し小さく…?」


 ウィルは目をつぶったままそう呟くと、スルスルッと身体のサイズを小さく変化させた。


 僕が寝られるほどのスペースが空いたのを確認すると、明かりを消してベッドに潜り込んだ。


 真っ暗な部屋の中にウィルの寝息だけが聞こえる。


 それを聞いているうちにいつしか僕も眠りにつくのだった。




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