267 ジュリアスの話
僕の視線に気づいたヴィンセントがこちらを向いた。
「どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」
ヴィンセントに色々聞きたい事はあるが、あまりにも多すぎて頭の中がぐちゃぐちゃで何から聞いていいのか整理がつかない。
「えっと…」
口ごもる僕をよそにヴィンセントの向こうに座るウィルが先に口を開いた。
「ねぇねぇ。あの二人って敵対してるんだよね? もしかしてあの部屋の中で戦ってるのか?」
それを聞いたジュリアスが「敵対?」と首をかしげた。
「一体何の話でしょうか? あの二人とは一体誰の事ですか?」
そう尋ねるジュリアスの様子を見る限り、オーウェンと黒の女王が敵対しているというのはやはり嘘なのだろうか?
ヴィンセントはグラスのお酒を一口飲むと苦笑を浮かべながら話し出した。
「先ほど宿屋に傷だらけの蝶の精霊が飛び込んできたんだ。『黒の女王が攻め込んできた』ってな。そこで慌ててアルフヘイムに戻ってくるとこの城のあちこちが壊されて火の手が上がっていたんだ。それを見たこのエドアルドが一人飛び出したところを蝶の精霊に化けていた黒の女王がエドアルドを拉致していった。エドアルドを救出に向かったオーウェンに黒の女王がエドアルドに迫っているところを見せつけて…。後は言わなくてもわかるだろう?」
それを聞いたジュリアスはちょっと目を丸くしていたが、すぐに「ふふっ」と笑い出した。
「なるほど。今度はそんな遊びを思いついたのですね。そもそも人間界に行ったっきり帰ってこない父上が悪いんですよ。エドアルド君も怒るのなら黒の女王ではなく父上にしてあげてくださいね」
ジュリアスにそんなふうにニッコリと微笑まれては「嫌だ」とはとても言えない。
ちょっと黒の女王に眠らされたり拘束されたりはしたけれど、特に実害は受けていない。
むしろ、あの豊満な胸に顔を埋めさせたりして良い思いをしたような…。
ゴホンゴホン!
今のは口が裂けてもオーウェンには言えないな。
「わかりました。ところでオーウェンと黒の女王は恋人同士なのですか? てっきりヴィンセントがオーウェンの恋人だと思っていたのですが…」
「「ぶっ!」」
僕の質問にジュリアスとヴィンセントはそれぞれ飲んでいた物を吹き出した。
途端に小さな妖精達が現れて、ジュリアスとヴィンセントの口元や溢れた飲み物をかいがいしく拭いていく。
「ヴィンセント! 一体何の話ですか!?」
先に吹き終わったジュリアスがヴィンセントに問いかける。
「いや、その…。初めてエドアルドに会った時にオーウェンがノリで俺達がそういう関係だと匂わせたんだ。オーウェンとは付き合いが長いから今更どうこうっていう関係じゃないしな」
ノリでって、どんなノリだよ。
あれをまともに受け取った僕が馬鹿みたいじゃないか。
ジュリアスもちょっと呆れたような顔をしていたが、やれやれとばかりに首を振った。
「黒の女王には聞かせられない話ですね。嘘とはいえ自分の夫に男の恋人がいるなんて話を聞かされたら、何をするかわかったもんじゃありませんからね。エドアルド君もその話は黒の女王には厳禁ですからね」
僕はコクコクとうなずいた。
下手したら僕にまでとばっちりがきそうだからな。
ただ単に僕をからかうためにわざとヴィンセントと恋人のフリをしたのだとわかって少しホッとしている自分がいた。




