266 城の中
ヴィンセントは迷うこともなく建物の中をスタスタと歩いている。
ここは一体何処なんだろう?
さっき見たお城だろうか?
だが、お城は見るも無残な姿になっていてあちこちから火の手が上がっていたはずだ。
だが、今僕達が歩いている場所はどこもかしこも綺麗で、焦げ臭いにおいも全くしない。
ヴィンセントはとある扉の前で止まるとノックをした。
「どうぞ」
中から男性とも女性ともつかない声が聞こえた。
ヴィンセントが扉を開けて中に入るのに続いて僕とウィルも部屋の中に入った。
部屋の中央にテーブルが置いてあり、そこにはやはり男性とも女性ともつかない人物が座っていた。
「やっと帰って来ましたか。もっと早く帰って来ると思っていたのですが…」
その人物はヴィンセントの後ろにいる僕に視線を移すと、意味ありげに微笑んだ。
「ああ、その子ですか。父上が一緒に旅をしている人間というのは…」
父上?
それってオーウェンの事かな?
だとしたら、この人物がオーウェンの息子だというジュリアスなのか?
ヴィンセントはそれには答えずに、テーブルに近づくとジュリアスの向かいに腰を下ろした。
僕とウィルがどうしていいかわからずに立っていると、ヴィンセントは首だけを僕達の方に向けると「お前達も座れ」と告げた。
僕とウィルはチラリと顔を見合わせるとテーブルに近寄り、ヴィンセントを挟む形で椅子に腰を下ろした。
間近で見るジュリアスはオーウェンの息子らしく、よく似た顔立ちをしている。
じっとジュリアスを見つめると、僕の視線に気づいたジュリアスがニコッと微笑んだ。
くうっ!
流石はオーウェンの息子だけあって、その笑顔にはなかなかの破壊力がある。
「ああ、失礼。お茶がまだでしたね。今用意させますね」
ジュリアスがテーブルの上の呼び鈴を鳴らすと、どこからともなくティンカーベルのような小さな妖精が現れた。
「ジュリアス様、お呼びですか?」
コロコロと鈴を鳴らすような声で妖精がジュリアスに話しかける。
「お客様にお茶をお願いします。ヴィーはお酒の方がいいですか?」
ジュリアスに聞かれてヴィンセントは軽くうなずいた。
『僕も』と言いたかったが、今の状況が理解出来ない事にはお酒なんて飲めないな。
「かしこまりました」
小さな妖精は一旦姿を消したが、すぐに他の妖精達を連れて姿を現した。
それぞれ二人がかりでカップを抱えていて、せっせと僕達の前に運んでくる。
カップが置かれると、今度はポットを抱えた妖精がコボコボとお茶を注ぎ出した。
ヴィンセントの前にはお酒を注いだグラスが置かれた。
ヴィンセントが一気にそれをあおると、再びグラスの中にお酒が満たされる。
もしかして、無限にお酒が満たされるようになっているのかな?
ヴィンセントは二杯目を半分飲んだところでようやく「ふうっ」と息を吐いた。
僕もカップを手に取るとお茶を一口すすった。
甘いフルーツの香りが口いっぱいに広がって、穏やかな気分になる。
一瞬、思考が停止しかけたが、すぐに首を振って頭をスッキリさせる。
僕は説明を求めるために、隣に座るヴィンセントに視線を向けた。




