260 乱入者
宿屋の部屋に戻って四人でくつろいでいると、突然窓から光が飛び込んできた。
「うわっ! 何だ!」
僕が驚いていると、部屋の中央で瞬いていた光が徐々に人の姿を象り始めた。
僕とウィルが目を丸くしているのにもかかわらず、オーウェンとヴィンセントはそれほど驚いている様子は見せなかった。
もしかしてこの光が何なのか知っているのだろうか?
やがて光は完全に消えて一人の人物がそこに座り込んでいた。
だが、一目見てそれが普通の人間ではないことがわかった。
その人物の背中には蝶のような大きな羽根があったからだ。
本来ならば綺麗なはずの蝶の羽根だが、その背中の羽根は見るも無残な有様になっていた。
綺麗な鱗粉は剥がれ落ち、羽根も至る所がボロボロに破れている。
その人物は座り込んだまま、オーウェンに向かって口を開いた。
「ああ、陛下。ここにいらしたのですね。大変です。黒の女王が攻めてきました。ジュリアス様が何とか対抗していらっしゃいますが、このままでは…。…ぐっ…」
そこまで話したところで、蝶の羽根を持った人物は苦しそうに項垂れる。
身体つきからして女性のようだが、どうしてオーウェンに『陛下』と呼びかけるのだろうか?
ヴィンセントならば、元はこの国の国王だったのだから、『陛下』と呼ばれても違和感はないのだが。
それに『黒の女王』って誰の事だろう?
僕がそんな事を考えている間にオーウェンは立ち上がると座り込んでいる人物に近づき、その人に向かって手をかざした。
オーウェンの手から魔力が放たれ、その人物の身体を覆っていく。
すると、傷ついていた羽根が元の綺麗な状態に戻っていった。
「ああ…。陛下、ありがとうございます。お手を煩わせてしまい申し訳ございません」
ヴィンセントがその女性に手を差し伸べて立たせていたが、それをオーウェンは少し面白くなさそうな顔で見ている。
そのくらいで嫉妬しなくても良さそうなものなのに、オーウェンは随分と心が狭いようだ。
女性が立ち上がると、オーウェンは彼女に椅子を勧めて自分もソファに座り直した。
「黒の女王が攻めてきたとはどういう事ですか? 詳しく話してください」
オーウェンの目に見据えられて、蝶の羽根を持った女性は恐縮したように身を縮ませる。
なんかめっちゃ機嫌が悪そうなんだけど、一体どうしたんだ?
あまり見ないオーウェンの態度に僕は少々戸惑っているし、ウィルはウィルでブルブルと身体を震わせている。
ヴィンセントは…。
いつもと変わらないか。
オーウェンに詰問されて、その女性も恐る恐る口を開いた。
「は、はい…。ほんの数時間前の事です。黒の女王が突然魔獣達を率いてアルフヘイムに攻め込んできたのです。今
はジュリアス様が何とか持ちこたえていらっしゃいますが、このままでは攻め落とされるのも時間の問題かと…」
女性の話にオーウェンはますます機嫌を悪くしていく。
『アルフヘイム』って妖精の国じゃなかったっけ?
って事は、オーウェンはエルフだから、オーウェンのいる国って事?
それで『陛下』って呼びかけられたという事は、オーウェンはアルフヘイムの国王!?
まさかの事態に僕はただ目を丸くするだけだった。




