258 オーウェンの忘れ物
もう少しで森を抜けるという所に差し掛かった時、オーウェンはチラリと後ろに視線をやった。
「オーウェン、どうかした?」
確か以前にもそんな事があったな、と思いながら尋ねると、オーウェンはそこで立ち止まった。
「ちょっと忘れ物を思い出しました。どうぞ先に行ってください。後で追いつきますので…」
『忘れ物』って何だ?
聞こうと思ったけれど、問い詰めたところでオーウェンが答えてくれるとは思えなかった。
それにヴィンセントも『どうした?』とも尋ねないところをみると、オーウェンが何を忘れたのかを知っているのだろう。
「わかった。じゃあ、先に行くね」
そこでオーウェンと別れて僕達は先に進んだ。
勿論、森を抜ける直前にウィルの姿を僕と同じ大きさに戻すのは忘れていなかった。
「な、何が起きたんだ!?」
その男は目の前で起きた出来事が信じられずに何度も目をこすった。
だが、何度見直しても一人の少年が五歳くらいの男の子に変化したのは間違いなかった。
「なぜ、少年が子供に変化したんだ!? そもそも、あの少年とはどうして知り合ったんだ?」
雇い主に命じられてエドアルドの後を追っているものの、エドアルドに関してはよくわからない事が続く。
さっきもワイルドボアに襲われた少年を助けたと思ったら、変な連中を捕らえてどこかに転移させていた。
「一緒にいる男が凄い魔法使いのようだが、一体どこで知り合ったのか? そもそもあれほどの力を持つ魔法使いが仲間にいたら、それを後ろ盾に王位を乗っ取ってもおかしくはないのだが…」
そんな事を呟きながらも男は更にエドアルドの後を追う。
そのうちにエドアルド達がその魔法使いらしき男性を残して先に進むのを少し不思議に思いながら見ていた。
二手に分かれたが、男が追いかけるのはエドアルドだと決まっている。
一人その場に佇む男性を遠巻きに見ながらエドアルドの後を追おうとした時、不意に誰かが男の行く手を遮った。
「!」
目の前に現れたのが誰かわかった途端、男は思わず声を上げそうになるのを何とか堪えた。
(い、いつの間に?)
確かに今、この男をやり過ごしたはずなのに、いつの間にか行く手を阻まれていた。
男が声も出せずに立ちすくんでいると、男性はニヤリと口角を上げた。
「おや、突然現れた私を見ても声をあげないとは、なかなかの訓練を積んでおられるようですね」
(まずい)と思って踵を返そうとしたが、既に遅かった。
男の足は地面に 縫い付けられたように一歩も動かなかった。
「命を奪うまではいかないにしても、このままずっと後をつけて来られるのは困りますからね。記憶を消してどこか遠くの街に飛ばしましょう。あなたはそこで新しく人生をやり直してくださいな」
見惚れるような笑みを見せられた途端、男の頭の中からエドアルドや雇い主に関する記憶はすべて消えた。
「どこかの田舎に行ってのんびりとした人生を送ってくださいね」
男性の声を遥か遠くに聞きながら、男の意識はそこで途絶えた。
オーウェンはその場に倒れた男を見下ろすとパチンと指を鳴らした。
その瞬間、男の身体がフッと掻き消えた。
「これで煩わしさから解放されましたね。急いで皆の後を追いかけましょうか」
オーウェンはエドアルド達と合流すべく、足早に歩き出した。




