256 後始末
僕が口を開くよりも先に彼等の視線が徐々に上へと上がっていった。
おかしいな?
こうして彼等の正面に立っているというのに、彼等は僕の背よりも遥か上を見上げて慄いている。
「お、鬼…」
リーダーらしき男の呟きが僕の耳に届いた。
『おに』ってあの『鬼』の事か?
どうやらオーウェンの幻覚によって彼等には僕が大きな鬼の姿に見えるようだ。
あのひれ伏した姿から察するによほど恐ろしい姿の鬼が見えているようだ。
てっきりオーウェンの真の姿のようなエルフに変えられているかと思ったのに、まさかの鬼の姿とは…。
いくら僕自身の目に触れないからといって、そんな恐ろしい姿に変えられているなんてあんまり気分のいいものじゃないな。
まあ、普通に姿を晒して男達に舐められても困るので、良しとするか。
ちょっと鬼らしく連中を脅しておこう。
「よくも我が森で人殺しをしてくれたな」
そう口にすると、男達はガタガタと震えだした。
きっと声も鬼の姿に相応しいものに変えられているんだろうな。
「も、申し訳ございません。しかし、そうしなければ私達の家族が…」
男達は必死に言い訳をするが、だからといって人殺しを許すわけにはいかない。
「そんな言い訳など聞きたくはない。この国で人殺しをした者を野放しにするわけにはいかない」
そう言うと地面にひれ伏していた男達の身体が雁字搦めに拘束された。
これには僕もびっくりだ。
ポカンとしていると、オーウェンの声が聞こえてきた。
「それに残念ながらお前達の目的は達成されなかった。第一王子はこうして無事だったぞ」
男達の前にシャルルとジャンが姿を現した。
シャルルはともかく、無傷のジャンの姿に男達は目を見開いている。
「できるならばこの場で八つ裂きにしてもいいが、下賤な者の血で森を汚したくはないからな。お前達の身柄はこのままイーストエンド国に引き渡す。向こうで正当な裁きを受けるがいい」
結局、後はオーウェンがすべてを語ってくれたようだ。
だったら僕が出るより最初からオーウェンが出た方が良くない?
なんとなく釈然としない気持ちを抱えていると、男達の意識がフッと途絶えた。
オーウェン達がこちらへとやってくる。
「エドアルド君、ご苦労さま」
そう言われるほど大した事はしていないけどね。
「別に僕じゃなくてオーウェンが直接出ても良かったと思うんだけど…」
口を尖らすとオーウェンはしれっと受け流す。
「まあまあ、いいじゃありませんか。それよりもさっさとこの男達をイーストエンド国まで運びましょう。いつまでもここに置いておくわけにはいきませんからね」
オーウェンはそう言うとシャルルとジャンに向き直った。
「お二人も一緒にイーストエンド国に送る事になりますが、よろしいですか?」
オーウェンに問われてシャルルとジャンはしばし顔を見合わせていたが、やがて決意を固めたようにうなずいた。
「はい。僕もこのまま逃げてばかりはいられません。きっぱりと『王位を継ぐ気はない』と伝えてきます」
「そうですか。それでは頑張ってくださいね」
そう言うなりオーウェンは片手をシャルル達に向けた。
オーウェンの手からまばゆい光が放たれたかと思うと、シャルルとジャン、男達と棺を乗せた荷馬車までもが姿を消していた。
一瞬の事でシャルル達に別れを告げる間もなかった。
「オーウェン。いくらなんでも唐突過ぎない?」
僕の抗議にもオーウェンは軽く肩をすくめるだけだった。
「まあ、いいじゃないですか。縁があればまた会えますよ」
どうやら厄介事を持ち込んだシャルル達にあまりいい感情は持っていないようだ。
その後、イーストエンド国の第一王子が正式に王位継承権を放棄したという噂を耳にしたのだった。




