249 襲撃された男達
ヴィンセントに剣を突きつけられた彼はアワアワと両手を上げて戦意のない事を示す。
「ぼ、僕はただ単にワイルドボアに追われていただけです。怪しい者じゃありません」
「そうやってこちらの警戒心を薄れさせようという魂胆かもしれないだろ? 自ら怪しくない者というのは大抵怪しかったりするからな」
ヴィンセントはそう言って尚も剣を彼に突きつける。
ヴィンセントの横で彼を警戒していたオーウェンがスッと目を細めた。
そのまま手をヴィンセントの握っている柄に添えられた。
「ヴィンセント。剣を下ろしなさい。どうやら彼は『伝説の吸血鬼』ではなさそうですよ」
『伝説の吸血鬼』?
この世界にもそんなものが存在するのか?
ヴィンセントは渋々剣を鞘に収めたが、警戒心だけはそのままだ。
ウィルも彼から目を逸らそうとしない。
剣を突きつけられる事はなくなったものの、彼は身を縮こまらせて居心地が悪そうにしている。
「お名前は? どうしてこんな森に一人でいるのですか?」
オーウェンに問われて彼はキョロキョロと目を泳がせたが、軽く息を吐いて名乗った。
「シャルルと言います。この森で仲間と合流する予定だったのですが、まだ現れず…。そのうちにワイルドボアに追
いかけられてしまって…」
そのまま合流地点から外れてしまったという。
その話が本当ならば、シャルルがワイルドボアに追いかけられた道を辿れば、シャルルの仲間がいるという事だろうか。
「…なるほど」
オーウェンが相槌を打つが、シャルルの言い分を信じたのかどうかは疑問だ。
すると、森の奥の方から「ギャッ!」とか「うわっ!」という声が微かに聞こえた。
それを耳にした途端、シャルルは真っ青な顔になる。
「まさか!?」
シャルルはひざまずいた状態から立ち上がると声のした方へと走り出した。
「何かあったようですね。追いましょう」
オーウェンの声に真っ先に反応したのはウィルだった。
器用に茂みをかき分けてシャルルの後を追いかけている。
僕達もウィルに負けじと後を追いかけた。
しばらく行くと少し開けた場所に数人の男達が血だらけで倒れていた。
シャルルがその内の一人に駆け寄るとひざまずいて声をかけている。
「しっかりしろ! 今治癒魔法をかけてやるからな」
そう言ってシャルルは倒れている男に治癒魔法をかけ始めた。
だが、一向に流れ出る血は止まらない。
「…シャルル…さま…。私の事は…気にせずに…、早く…お逃げくださ…」
そこまで告げると男はガクリと首を垂れた。
「待て! 僕を置いて逝くな!」
悲痛なシャルルの声が響く中、オーウェンとヴィンセントは冷静に他の男達の生死を確認していく。
「おい! まだ息があるぞ!」
ヴィンセントの声にそこに近づくと、僕よりも歳上とおぼしき男が倒れていた。
だが、その片腕はバッサリと切断されている。
僕は近くに落ちていたその人物の腕を拾うと切断面を引っ付けて治癒魔法をかけた。
切り落とされた腕が引っ付くとは思えなかったが、やってみる価値はある。
どんどんと魔力を流して頭がクラリとしかけた頃、ようやく腕が引っ付いた。
「ふぅー」
息を吐いて立ち上がると、ポカンとした顔のシャルルと、何とも言えない顔をしたオーウェン達の顔がそこにあった。
もしかして、またやらかした?




