248 襲われた人物
焼きたてのお肉でお腹が満たされると、ウィルは満足そうに舌なめずりをする。
ドラゴンの姿ならばともかく、人間の姿でそれをやられると行儀悪い事この上ない。
オーウェンもそう思ったのか、これ見よがしにため息をついた。
「ウィル。満足したのはわかりますが、人前でそれはやらないでくださいね」
オーウェンに注意されてウィルはプウと頬を膨らませた。
「少しくらいいいだろ。オーウェンのケチ!」
そう言うとオーウェンに向かって「あっかんべー」と片目の下を人差し指で引っ張って舌を出す。
さっきもそうだけど、一体どこでそんな仕草を覚えたんだ?
不思議に思ったが問い詰めたところで答えは出そうもないのでそんなものかと諦めた。
僕の転生自体も常識では考えられないのだから、考えるだけ無駄ってものだろう。
そう割り切るとまたもや向こうの茂みがガサッと揺れる。
「どうやらまだ別のワイルドボアがいるようですね」
オーウェンとヴィンセントが立ち上がり、剣を抜いて構える。
僕も先ほどのような失態を繰り返さないように身構える。
そこへまた茂みが揺れたと思うと一人の人間が飛び出してきた。
その人物は僕達が剣を構えているのに気づいてギョッとしたように一瞬足を止めた。
だが、すぐに後ろの茂みが揺れるのを見てこちらに駆け寄ってきた。
「た、助けて!」
その声が聞こえたと同時に茂みの中から一匹のワイルドボアがその人物に向かって突進してきた。
「危ない!」
ワイルドボアの牙がその人物に届くより先にヴィンセントの剣がワイルドボアに向かって振り下ろされた。
一太刀浴びせられたワイルドボアは、その場に留まりクルリと向きを変えてヴィンセントに狙いを定めた。
手負いのワイルドボアが捨て身でヴィンセントに向かっていく。
「そうはさせませんよ」
オーウェンはワイルドボアに狙いを定めると、雷魔法をその身に放った。
「グワッ!」
雷に打たれたワイルドボアはドッとその場に倒れ込んだ。
すかさずヴィンセントがその身体に剣を突き刺し、とどめを刺す。
飛び出してきた人物は僕の目の前で力無く座り込んだ。
「…た、助かった…」
僕は目の前に座り込んでいる人物を観察した。
齢は僕と同じくらいだろうか?
茶色の髪をしているが、顔を伏せているので瞳の色はわからない。
着ている物は白のシャツに黒のズボンだが、冒険者とは少し違うようだ。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
身をかがめて声をかけるとその人物はゆっくりと顔を上げた。
血のように真っ赤な瞳が僕を捕らえる。
まさか瞳がそんな色をしているとは思わなかったので、僕は思わずポカンと口を開けた。
その人物は僕が驚いているのに気づくとすぐに顔を伏せた。
「助けてくれてありがとう。一人で立てるよ」
だが、その人物が立ち上がるより先にヴィンセントが剣を突きつけた。
「お前は誰だ!? ここで何をしている!?」
ヴィンセントだけでなく、オーウェンとウィルも警戒したようにその人物を取り囲んでいる。
なんでみんなそんなに警戒しているんだろう?
ただ単にワイルドボアに追われていた人じゃないのかな?




