うなぎの団子入りクリームシチュー5
一人、料理部屋で後片付けに勤しんでいると、エドが顔を出した。
「もう終わるか?」
「うん? そうね、終わるとこ」
部屋にエドが居るだけで落ち着かない気持ちになるアリシャは手を滑らせて器を落としそうになり、寸でのところで掴み直した。
最後の器を水で流して置くと、ゴシゴシとエプロンで手を拭いてエドに顔を向けた。
「話?」
「まぁな」
エプロンを外しながら「私も話しておきたいんだけど」と言いながら自室の方へと移動する。エプロンを置こうと思っただけだったのだが、エドが部屋までついてきたので驚いて振り返った。
「え?」
「なんだよ」
「ついてくると思わなかった……から」
なぜかエドはムッとした表情をし、後手で扉を閉めた。
「二人になるのにやましい事でもあるのか? ボリスに悪いとか思ってる?」
アリシャも負けずにちょっと腹を立てて言い返した。
「なんでボリスが出てくるのよ。ちゃんとボリスには話したんだから!」
「何を?」
そこを突っ込まれると先を続けにくくなって言い淀んだ。
「何って、それは……エドの事が好きだからってその……あんまり好意のある態度はやめて欲しいと」
エドは腕組をしてドアに背を預けてため息をついた。ボリスに嫌な思いをさせるのを覚悟してちゃんと話したのに、ため息とはあんまりだ。
「私はちゃんと言ったのに……エドはジャンヌに触れさせたんでしょう!」
「触らせてない。いや、腕を掴まれたことはある」
「触られたんだー、ふーん」
内心穏やかではいられないけど、動揺するのも悔しくて強がってみせた。エドは眉を片方上げて指をクイクイ動かしてアリシャを手招きした。
「なに?」
けんか腰に言うと「いいから来いよ」と、エドが命令する。ジリジリとアリシャが近寄ると「触れてみ?」と、腕を出す。アリシャが出された腕に手を乗せると、腕を返してアリシャの手首を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「ジャンヌの手は振りほどいた」
勢い余ってエドの胸に顔を突っ込んでしまっていたアリシャが顔をもたげると目がこれ以上ないくらい合って呼吸を止めた。
「キスしてみろよ?」
暴発した心臓の音に支配されたまま吸い寄せられるように背伸びをすると、エドの手はアリシャの腰を支えた。自分からキスをするなんて初めての経験にどうしたらいいのかわからず、本当に触れただけの軽いキスをした。
「それだけ?」
エドは微かに笑うが、声は掠れていた。
「だって……」
「俺は誘惑されても靡かなかった。褒美がそれだけじゃ足らないな」
エドは身を屈めアリシャを持ち上げると唇を重ね、さらに唇の間から舌を差し込んだ。驚き慌てふためくアリシャの舌をエドの舌が絡め取って誘っていく。
「ワン!」
エドの背後でココが鳴き、お次に扉をガリガリ掻き始めた。
アリシャをそっと下ろすとエドはココの為に扉を開けてやる。ココは喜んで入ってきて二人の周りで尻尾を振ったり飛び跳ねたりしていた。
髪を掻き上げたエドがアリシャの顔を見て、力を抜くように笑った。
「リンゴ」
「だって……!」
笑ったまま顔を傾けてアリシャの唇を甘噛してから「食いたくなるのはお前だけだ」と言うと離れた。
「真っ赤なのが消えるまで人前に出んなよ。食われるから」
エドはそう言い残すと笑顔のまま可笑しそうに出ていってしまった。
「真っ赤にしたのはエドじゃない……」
足に戯れるココを撫でてやりながら、左手で唇に触れた。
(キスしただけで頭の中が真っ白になるのに……)
また、顔に向けて熱い血が昇っていく。
(ルクも何も考えられなくなっちゃったのね。私もエドに言われたら何もかも信じてしまうもの)
一刻も早くルクが夢から醒める事を祈りつつ、エドと自分の夢のような時間は醒めないように祈る。そんな自分勝手な感情を叱りつつ、いつまでもエドの感触を思い出して幸せに浸ってしまうアリシャだった。




