川エビたっぷりのとろけるキッシュ8
ウィンが自分の座っていた丸太に老人を連れてくると、そこに座らせた。老人は怪我をしている方の脚を伸ばしたまま腰掛け、テーブルに手をついて深々頭を下げる。
「皆さん、助けていただき本当ありがとうございました。ワシはこのとおり歳寄りだし命は惜しくない。ただ、孫娘のリアナを遺していくわけにはいかなかった。本当にありがとう」
まだ老人から離れず傍らに佇んでいたリアナに老人は「バッグをもっておいで」と言った。リアナは問うように老人の目を見たが、老人は何も言わずに頷いた。
リアナがずっと持っていたバックパックはリアナの座っていた丸太の横に立て掛けてあった。それを持ってきたリアナは老人に渡す。
「ワシは嘘を吐きました。金がないと言いましたが、金に替えられる物を持っておりました」
老人は難儀そうにバッグを漁ると中から蹄鉄を取り出した。
「ワシにもしもの事があったらリアナは一人で生きなければならない。その時の為に残しておこうとしたのです」
鉄製品は高額だ。蹄鉄一組を売れば羊を番で買うことも出来るだろう。
「良くしていただいた。それだけではなく、ワシに何かあってもこの村の人にならリアナを任せられる。だから、これを受け取って欲しい」
ウィンがレオの出方を窺っていた。レオは蹄鉄を見つめ口を開く。
「見事な出来だがもしやそちらが作ったのか?」
褒められて老人の表情に明るさが出た。頷くと蹄鉄を指でなぞる。
「ワシは鉄製品を作っておりましたから、坑道の近くに居を構えて暮らしていたのです。それの方が何かと便利でしたので。村が襲われたのに気付き駆けつける時、手元にあったのがこれでした」
「なるほど。それならばこの村に残り我々の為に鉄を加工して貰えんだろうか。約束してくれるならば当面の食事と住まいは保証しよう」
レオの言葉にドクが歓喜した。
「そりゃいい! 鉄の鍬だろ、鉄の斧、矢じりだって鉄製が最高だ」
「確かに鍛冶屋があれば全ての作業が捗りますね。荷車だって鉄の部品を使えば持ちはぐんとよくなりますし」
ボリスの言葉に満面の笑みで「だろう」とドクが答えた。
老人は自分の脚を擦り、しかしと口籠る。
「脚がこんな風になっちまって……鉱石を運んだり力仕事が難しくなるでしょうから」
「僕が手伝います。物を作るのは昔から好きだったので」
ウィンの言葉に焦ったのはレゼナだった。
「待って、待って頂戴。私一人で畑をするのは無理だわ」
「レゼナ、大丈夫だ。俺が戻るさ。鉄の安定供給の方を優先すべきだし」
あんなに大工仕事を楽しんでいたのに、ドクは自ら農業に戻ると言い、レゼナは申し訳無さそうにドクの手を握った。
「私、あの……農作業手伝います。私も働けます!」
黙って聞いていたリアナが手伝いたいと申し出て、それがいいとレオが言う。
「まぁ、食べながら話そうじゃないか。して、あなたの名前を聞いてもいいか?」
ジャンだと老人は名乗り、こっちはリアナだとリアナの事も紹介した。順に端から名乗り互いの自己紹介を終えてから、アリシャはジャンの為に作っておいた粥を持ってきた。
イチゴのパイにとうとう手を出したリアナが口を押さえて止まっていた。
「美味しくなかった? ちょっと硬かったかな」
座りながらアリシャが問うと、口を押さえたまま首を回してアリシャを見た。
「美味しくなかったなんて……ありえない! 美味しい! すごくすごく美味しい! 美味しい……なんで? え? 美味しい」
口を開いたと思ったら大興奮だったので、アリシャは驚いたし、皆は楽しげに笑っていた。
「毎日食えるんだよ、こんな美味い飯が」
こっちも食べてみなよとボリスはキッシュをリアナの器に入れた。リアナはまだ口を押さえていて、右手でキッシュを取り上げた。
「アスパラだわ。あとエビ。おじいちゃん見て! あ、そか……お粥なのね」
リアナが元気になったことにアリシャは嬉しくなったし、たぶんジャンも喜んでいる。
「傷が治った時の楽しみにしておくよ」
目を細めて微笑んでいるジャンにリアナは二回も頷いてから、キッシュを頬張っていた。




