嘘と信頼
コウは髪の毛を一本抜き取り、マリに手渡した。
マリはその髪の毛を小さなガラスのケースに入れる。
「ツバキちゃんの髪の毛ちょうだい」
ツバキは一瞬戸惑った。
「わかってるよね? いま、コウくんは人質になってるんだよ。 渡さないとどうなるか……」
「渡しちゃだめです! 」
マリの言葉をコウが遮る。
「どちらにしろ僕は殺されます。それなら、せめてツバキさんは逃げてください! 」
この状況における最善が見つけられず、ツバキは自分の行動を決められずにいる。
するとマリが指をパチンと鳴らす。
刹那、宙に鮮血が咲く。
それが誰の血なのかはすぐにわかった。
見ると、コウは自らの腹部をその手のダガーで突き刺していた。
「ッ! ……グハァッ! 」
その痛みに耐えられず、コウは悲痛の声を漏らす。
「コウッ! 」
コウはマリの精神干渉魔術によって支配されており、マリの意のままに操られる。
この自傷行為もマリに操られ、とった行動なのだ。
「コウくんが自分に刺した〈神々の陶芸品〉は〈精神力の刃〉。賢者が刻印を施した神話級の一品。その刃は使用者の魔力を毒として纏い、傷つけた相手に精神的苦痛を与える。そして人間は精神的苦痛が大きすぎると、ショック死してしまう。毒は流した本人であるコウくんが操る事ができる。すぐに髪の毛を渡せば、辞めさせてあげるよ」
コウは堪らずその場に膝をつく。
だが、顔は前を向き、その目でツバキを見つめていた。
「渡しちゃ……ダメです。逃げてください……」
やがてコウの両目から血が流れ始める。
口からは唾液が漏れ、全身を脂汗で汚していた。
ツバキはそんなコウの姿を見ていられず
「渡す。渡すから辞めさせて! 」
ツバキは長い銀髪を一本抜き取り、マリに渡した。
やがてコウは自らに刺した刃を引き抜き、〈物質の複製〉で治療する。
ミズキがコウから賢者の石を奪おうとするが、それをマリが制止する。
「何故止めるのです」
「賢者の石は手にした人間を観察する〈神々の陶芸品〉。主人であるコウくんを殺すところを見られては私たちには決して従わない。だから奪うのはコウくんの死を確認してからよ」
ミズキが球形の爆弾を4つ指に挟み、構える。
「では今ここで2人とも殺しておきましょう」
自分に対して明らかな殺意を向けられたツバキは腰を落とし、腕を水平に構える。
息を深く鼻から吸い、口から吐く。
それを早く、一定のテンポに合わせて行う。
バーストブリージングという呼吸法である。
バーストブリージングはシステマというロシアの体術で使われる呼吸法で、運動時には浅く速くなりがちな呼吸を、深く速く行う事によって多量の酸素を体内に取り込み、戦闘時の心身へのストレスを軽減する事ができる。
「コウを殺させはしないわ」
そんなツバキの姿を見てミズキは鼻で笑う。
「お前のような魔術の使えない人間に何ができる? 」
たしかにツバキは武道の達人だが、魔術相手に武道だけで太刀打ちできるわけがない。
だが、ツバキは
「誰が魔術を使えないですって? 」
その場にいた誰もが絶句した。
「〈魔術痕の探知〉」
あらゆる物事を魔術を通して分析する魔術の基礎中の基礎。
その魔術をツバキが詠唱する。
今、ツバキの目には魔力の流れを見ることができ、耳で魔力の音を聞き、肌で感じることができる。
それを見たマリは
「ここは1度撤退するわ」
コウを一時的に操っているとは言え、コウの魔術属性は〈虚飾〉。
〈虚飾〉のコウは〈真実〉のツバキに弱い。
「私も〈虚飾〉属性だから分が悪い。魔術を使えないと過信してたけど、魔術を使えるようになり、さらに〈神の財産〉になり得る才能を持っている以上。ツバキちゃんは脅威になる」
そこでコウもツバキの能力を見るために〈魔術痕の探知〉を詠唱する。
「前に見たときより魔力が上がっている。〈魔術の基礎知識〉がLv1からLv3に上昇。使用できる魔術に〈魔術痕の探知Lv5〉〈錬金術Lv1〉〈精神干渉魔術Lv1〉〈精霊術Lv1〉が新たに追加されている! 」
ツバキが魔術の存在を初めて知ったのは1週間ほど前。
さらに、ツバキは魔術を見たり聞いたりしただけで、実際に魔術を扱うレクチャーを受けたわけではない。
たった1週間で、しかも独学でここまで成長する事は稀である。
「2人のDNAは手に入れた。ここで戦わなくても、いつでも殺すことができる。ここはコウくんに時間稼ぎをしてもらおう」
マリはコウを見た後、顎でツバキをの方を指した。
「殺れ」という合図なのだろう。
コウが〈精神力の刃を手に、ツバキに歩み寄る。
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コウとの戦闘が始まって1分が経った頃。
マリとミズキはとっくに撤退を済ませていた。
そしてツバキはコウとの戦闘に苦戦を強いられていた。
「ツバキさん、あと5分どうにか生き延びてください。5分経てば僕を支配している魔術を解除できます」
(5分……正直、コウから5分生き延びるのはかなり難しい)
それはコウの能力を見たが故の畏怖。
功
魂の価値〈使い魔〉属性 〈虚飾〉
性別〈男〉年齢 〈4歳〉
HP 110 MP 180
STR 90(20)DEX 100(210)
INT 170
スキル
魔術の基礎知識Lv5……その名の通り、魔術に関する基礎知識を熟知している。
魔術師の武道Lv4……魔術を織り交ぜた戦闘の技術
九つの魂……寿命以外では9回死ななければ死なない。
潜在的完全把握Lv5……その物体が、どのような組成で構成する事が出来るのか瞬時に把握できる。ただし、把握しているのは潜在意識だけである。
虚実混交Lv4……嘘への理解を深める。魔術や魔力、スキルが全体的に高めとなるが、このスキルを取得している事を知られている者と対峙している時にマイナス補正がかかる。
具体的には
全スキル-1Lv
MP半減
全魔術-1Lv
魔術
魔術痕の探知Lv3
錬金術Lv4
ー物質の複製Lv4
ーゴーレム術Lv2
ー魔術薬Lv1
精神干渉魔術Lv4
ー催眠術Lv3
ー完全支配Lv4
ー魅了Lv2
刻印術Lv3
ー肉体の保護Lv3
ーエネルギー変換Lv2
身体強化Lv2
ー擬人化Lv2
ー瞬発増強Lv2
精霊術Lv3
ー被害誘導Lv1
ー影の精霊Lv2
ー強欲な宝玉Lv3
(待って! 使える魔術多すぎない? )
属性の相性が良いとは言え、知らない魔術が多すぎる。
刹那、コウの鋭い蹴りが頬を掠める。
躱したところにダガーで追撃。
刃には触れず腕を押さえて防ごうとするが、その時コウと目が合った。
(まずい、催眠術が……)
咄嗟に目を瞑り、バックステップで大きく間合いを取った。
コウに目を合わせると催眠術で操られる。
これがツバキの苦戦している1番の理由である。
目を合わせると催眠術にかけられるという事で、ツバキはコウの姿を見る事を躊躇ってしまう。
戦闘において相手の姿を見れないというのはあまりにも分が悪すぎる
(隙が無い。ダガー、足技、魔術、これら3つを絶妙なタイミングで織り交ぜたコンビネーションが間断を許さない。これが〈魔術師の武道〉! )
ツバキは内心舌打ちをする。
(さらに悪い事に、コウは戦闘におけるブラフが上手い。隙だらけのように見せかけて攻撃を誘発したり、カウンターを狙っているように演出しておいて間合いを取る。微妙にタイミングをズラして空振りさせる。まさに変幻自在の戦術)
催眠術を警戒しているせいでツバキは目を開けられずにいた。
これではどのタイミングでどこから攻撃が飛んでくるかわからない。
しかし……
ツバキはコウの蹴りを片手で受け流す。
「……なっ! 」
あまりの出来事にコウは一驚を喫する。
目を瞑ったままでどうやってコウの攻撃を察知できたのか。
そのトリックはツバキの持つスキルにあった。
ツバキは〈見切り〉のLv5を取得している。
半径3メートル以内の人間の動きを見ずとも把握する事ができる。
よって直接的な攻撃は目を瞑った状態でも当たる事はほぼない。
(近接戦がダメなら、遠距離から)
そうしてコウはツバキから5メートル離れ〈精神力の刃〉を投擲する。
「〈物質の複製〉」
空中で〈精神力の刃〉が2本に増え、2本が4本、8本と複製を繰り返しながらツバキに迫る。
コウは唇を噛んだ。
ツバキにこの攻撃を対処する手段が無いと思ったからだろう。
だが、今度はダガーが全てツバキを避けた。
「まさか、基礎精霊魔術、〈被害誘導〉! 」
〈被害誘導〉はその名の通り、自分に対する被害やダメージを逸らす魔術である。しかし、自分に対する被害を認識していなければ効果がない。
「一体どうやって攻撃を見抜いたんだ! 」
ツバキには全て手に取るようにわかった。
「見なくてもわかるわ、あなたの一挙手一投足が全て予測できる。次は近接攻撃と遠距離攻撃を連続で繰り出して陽動をかけ、ミズキから複製した地雷にはめて機動力を奪ったところでトドメをさす。当たっているでしょ?」
コウは息を飲んだ。
嬉しい事なのに、そんな筈は無いと自分に言い聞かせてしまう。
「そんな……一体どうやって! 」
「これが私のスキル〈照魔鏡〉よ」
〈照魔鏡〉はその洞察眼により人や物の過去を読み取り、未来すらも予測するスキル。
ツバキは今、コウの呼吸を読み、重心から瞬きまで全てを情報源としてコウを把握した。
そして、それが完了した後は直接見なくともコウの思考、行動の全てが筒抜となる。
その後もコウは何度も攻撃を繰り返すが、ツバキは目を瞑ったまま全てを捌ききった。
そうして5分が経過。
コウの精神干渉が解け、平常に戻る。
「ごめんなさいツバキさん。こんな危険な事に巻き込んでしまって」
「謝ることはないわ」
魔術の世界と言うのは常に危険と隣り合わせ。
いつ死んでもおかしくない弱肉強食の世界。
そんな危険な場に元は無関係な一般人を巻き込んでしまったのだ。
気にするなという方が無理がある。
「だって僕らは今、奴に心臓を握られているのと同じです。30分後には〈ダンテの儀式〉で僕らを殺す準備が整ってしまう」
だが、ツバキの目には光が消えていなかった。
それどころか
「私、コウに感謝してるのよ? 魔術という存在は私の知識欲を満たしてくれる」
ツバキの口角が釣り上げられ、頬が紅潮する。
「こんなにも危険で興味深い事……ゾクゾクしちゃう♡ 」
そんなツバキの姿にコウは呆気に取られる。
だが、ある意味納得もした。
狂気と天才は紙一重だと。
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マリは勝利を確信していた。
コウとツバキから髪の毛を入手した。
この髪の毛に含まれるDNAを他の人の骨のDNAと入れ替える〈ダンテの儀式〉を30分後の17時00分丁度に行う。
後はその骨を〈処刑人形〉に使えば、コウとツバキをいつでも殺せる。
「ミズキは先に帰っておいて」
「了解しました」
ここからはミズキと別行動だ。
後は儀式の時間まで待つだけ。
今はコウたちのいる商店街からは離れ、都内まで来ていた。
つい最近できたデパートの前にいる。
するとマリのスマートフォンが着信を知らせる。
見るとコウからの通話だった。
マリは応答を押し
「もしもし? 」
無邪気な声で電話に出た。
『勝利を確信しているかのような声ですね』
「だってこの状況で負けっこないもん。30分後にはダンテの儀式ができる時間だし、それまで逃げ切れば私の勝ちでしょ? 」
だが、コウはそんなマリに対して『それはどうでしょうね』と余裕を見せてみる。
『処刑人形は難しい魔術ではありません。やろうと思えば僕だってできます。なので、あなたに殺される前にあなたのDNAを手に入れて、先に殺します』
(先に殺す? 〈ダンテの儀式〉は17時丁度にしか出来ない。良くて私と同時だろう)
『あと、あなたは今都内の新しいデパートの前にいますね? 必ず捕まえます』
そう言ってコウは通話を切ってしまった。
(ただのハッタリか? だけどコウくん達は私の居場所を特定していた。既に近くで私の事を監視しているの? )
だが周囲を見渡すが、コウとツバキの姿はない。
(もしかしたら催眠術で誰かを操って監視させてるという可能性も)
周囲の人全員が敵に見える。
一度気になると止められない。
人の視線が恐怖の対象となる。
いてもたってもいられず、マリはその場を立ち去った。
(さっきの通話でバッテリーが結構減ったな……)
マリはスマートフォンをバッグの中にしまった。
腕時計を確認する。
時刻は16時40分。
(あと20分逃げ切れば……)
監視されているのだとしたら、一箇所に留まるのは危険と考え、移動し続ける事にした。
陽は沈み始め、夕陽が空を赤く染め上げる。
時刻は16時59分
丁度人気のない公園に着いた。
周囲に誰もいない事を確認し、儀式を行う。
腕時計の秒針に意識を集中する。
17時00分を指した瞬間、マリは詠唱を開始した。
儀式にはコウとツバキから奪った髪の毛と、予め用意しておいた爪を使う。
予定通りに儀式を進める事ができた。
そして詠唱を終える。
気づくと背後にはコウとツバキが立っていた。
「一足遅かったね。さっきダンテの儀式が終わったから、もう私の勝ちだよ」
そうしてマリはポケットから木でできた人形を2つ取り出す。
その人形の中に先ほど儀式で使用した爪を乗せ。
「〈処刑人形〉」
「これで、この人形に与えた攻撃は直接コウくんとツバキちゃんが受ける事になるんだよ」
そう言いながらポケットから1本のナイフを取り出す。
だが、コウとツバキが動揺する様子は無かった。
「警告します。その人形を傷つけない方がいい」
コウは余裕たっぷりに、しかしハッキリとした口調で伝えた。
(なぜこの状況で脅迫めいた事を言える? 私は一瞬で2人を殺すことができる。その一瞬の間に効果を発揮し、尚且つ私を脅迫できるだけの手を持っているというの? )
あらゆる視点から現状を見直し、自分に落ち度がないか探る。
(まず、私のDNAを既に入手されているという可能性は……あり得ない。髪の毛を奪ってから2人及びコウくんに操られている可能性のある人に私は接触していない)
実際にここに来るまでにマリはミズキ以外の人間とは一切接触していなかった。
さらに、〈ダンテの儀式〉には魔術で精製した物は使えないため、コウの魔術でコピーした髪の毛を使われる心配もない。
(髪の毛をすり替えられたというのもないだろう。しかし、2人は私が見ている前で抜き取り、渡した。すり替える暇なんてない)
(なら、ミズキが操られている、あるいは裏切りの可能性は……これもあり得ない。〈魔術痕の探知〉でミズキを見たが、精神干渉魔術をかけられてはいなかった。裏切りの線もないだろう。コウくんもツバキちゃんもミズキに対して〈魔術痕の探知〉使っていた。つまり2人はミズキとは初対面。ミズキが2人に加担する隙はない)
さらにマリはコウと同じように人の嘘を見抜く事ができる。
裏切り者がいれば、まず気づく。
(最後に2人が使う魔術及び〈神々の陶芸品〉に現状を打開できるものがある。この可能性もない。2人の魔術は〈魔術痕の探知〉で見たがそのような魔術は持っていない。そして、現状を打開できるような〈神々の陶芸品〉を持っているなら、髪の毛を奪う前に使っている)
そしてマリは結論付けた。
(さっきの発言はハッタリだ! )
口元をニヤリと釣り上げる。
「そんなハッタリが通用するとでも? 」
そう言ってマリは片方の人形の右腕をナイフで切り落とす。
刹那、鮮血が走った。
夕焼けの赤に加え、血の紅が合わさり不快なコントラストを生み出す。
地面に誰かの右腕がぼとりと落ちた。
しかしコウとツバキのものではない。
マリはその場に膝をつき、肘から下の失くなった腕を押さえ呻き声をあげる。
「どう……して! 」
ツバキはため息をつき、目を伏せる。
「人形を傷つけてはいけないって、コウが警告したのに」
「一体、何をしたの⁉︎ 」
マリは自分の腕を拾い、切断面を合わせて回復魔術を唱え治療する。
すると切断された筈の腕がみるみるうちにひっついていく。
それをコウもツバキも止めようとはしない。
「あなたの腕時計の時間を5分ズラしたの」
マリは左手に着けた腕時計とスマートフォンを確認する。
確かに腕時計の針はスマートフォンが表示する時間より5分遅れていた。
「そんな、今朝1秒も狂いなく正確に合わせたのに」
「その腕時計は貴方の腕時計そっくりのコピーよ。体育の更衣で外した時に盗んで、コウに複製してもらい、拾ったと偽りあなたに返した。コウが作ったものだから、コウが支配権を持ち、自由自在に操る事ができる」
コウが指をパチンと鳴らす。
するとマリの腕時計の長針と短針が右に、短針が左へと滅茶苦茶に回転し始めた。
すぐに回転は終わり、正しい時間を示し始める。
「だから貴方は儀式を開始するのが5分遅れたため、儀式に成功していない。そして、髪の毛のDNAを埋め込めるなら、誰の爪を使っても同じ結果を生む事ができると考えたため、貴方は自分自身の爪を使った。でも儀式に成功していないから、爪のDNAはそのまま。その爪を〈処刑人形〉に使ったら……どうなるかわかるわよね? 」
マリは固唾を飲んだ。
「それじゃあ、あの時の電話は私のスマホのバッテリーを奪って、スマホを見る頻度を減らすためと、挑発して私の冷静さを奪うため? 」
「はい、この作戦において腕時計以外の方法で時間を確認されるのは失敗に直結します。なのでスマホのバッテリーを奪い、さらに危機感を煽って移動させ続けた。ちなみに、あの時僕たちはマリさんの居場所を特定していましたが、あの場所にいたわけではないです。僕が複製したものは、どんなに離れた場所からでも、何処にあるのか知る事ができるんです。それを、あたかも近くにいるかのように言いました。そうする事により腕時計以外の時計を見る確率がグンと下がりますからね」
だが、マリには1つ納得のいかない事があった。
「でも、その作戦を成功させるには私が黒幕だと予め知っていなければできない。いつから気づいていたの? 」
「公園で初めて話した時からよ」
マリはため息を吐いた。
「わかった理由は簡単よ。これまでの被害者を〈魔術痕の探知〉で見れば、いつ黒幕が接触したかわかる。その情報を集めれば黒幕のライフスタイルがわかる。そうして黒幕が学生である事、私達と同じ学校の2年生だという事、部活に入っていないという事、習い事やアルバイトもしていない事がわかった。あと、コウは同じクラスに他に魔術師はいないと言っていた。そして、これはコウにも言ってなかったけど、被害者が黒幕に通じる情報を話しそうになった瞬間に殺されている。つまり黒幕は何らかの手段で被害者を盗聴していた。〈魔術痕の探知〉で見たところ、〈処刑人形〉以外の魔術はかけられていなかった。よって盗聴に魔術は使用していない。だから常に盗聴器で聞いていた。被害者に常に持っておくように指示しておいたのでしょうね。常に盗聴しているという事は、耳を隠せる髪型でなければならない。かと言って長すぎると校則で結ばなければならない。まず男子にはそんな髪型は不可能。女子でもベリーショートやロングだと無理。ショートボブが1番無難になる。そして2年生の女子の中でショートボブの生徒は21人。その中で私のクラスメイト以外で、部活に入ってなくて、放課後がフリーな人は3人。その中に貴方が含まれるわ。そして、黒幕は必ず私たちを始末するために接触してくる。予想通り、ショートボブで部活もアルバイトも習い事もしていない、2年4組の貴方が私たちに接触してきた」
「そう」とマリは何かを諦めたような顔をした。
そして
「私の負けよ」
そう言ってマリは人形の胸辺りにナイフを突きたてようとする。
「いけない! 」
コウはすぐに動き出した。
そして詠唱する。
「〈擬人化〉」
人形を手にしている左手。
その手に付けている腕時計から小さな腕が二本現れた。
その腕は、マリの持つナイフを受け止める。
その隙にコウはマリの持つナイフに狙いを定め
「〈物質の複製〉」
ナイフが粉々に砕け散った。
コウは近づき、マリから人形を奪い取る。
「どうして止めるの⁉︎ 私はコウくんを騙してたんだよ? 」
コウは答えない。
代わりにツバキが問うた。
「ねぇ、マリ。確かに貴女はコウを騙していた。だけど嘘は吐いていない。そうでしょ? 」
「それは……」
「魔術に関係のある人なのか聞かれて、お母さんが関わっていたと答えた。自分が関わっていないとは言っていない。魔女狩りでお母さんが殺されたのも事実なんでしょ? 貴女はコウに嘘が通用しないのを知ってただけでなく、嘘で動くほど人の心が安くない事を知っている。コウの事を信じていたから、騙すことができたし、コウも貴女の事を信じたから騙された。ある意味、信頼関係が結ばれていたとは思えない? 」
マリは目を背け、ボソボソとした声で答える。
「そんこと……思ってなんか……」
「コウの前で嘘は通用しないわよ? 」
遂にマリは泣き崩れてしまい、目からは大粒の涙が溢れる。
「私は、人間に家族を殺された。人間と魔術師の戦争は決して終わる事がない。いつも人間は未知の存在を恐れ、理解しないまま弾圧する。復讐が復讐を呼び、また殺し合う。だから私はドール教団に入った。ドールを復活させれば、全人類を滅ぼしてこの戦争を終わらす事ができると思ったから」
マリの涙は拭っても拭っても止まることはない。
そんなマリのもとにコウは歩み寄った。
「マリさん、僕たちはこの戦争を終わらせます。この戦争を終わらせて、人間と魔術師が手を取り合える世界を作ります。だから、僕たちに協力してくれますか? 」
マリに向かってコウが手を差し出す。
「貴方達って、本当に変わってるよ」
最後の涙を右手でゴシゴシと拭い、マリはコウの手を握った。
マリ「次回予告! 」
コウ「またやるんですか」
マリ「嵐の森の中でツバキちゃんが迷い込んだのは古い洋館。そこの住民はツバキちゃんを快く迎え入れる。しかし、ツバキちゃんはその屋敷で大量の死体を発見する。これは幻なのか、それとも現実なのか!
次回、『現実です』 」
コウ「ネタバレじゃないですか! 」
マリ「おたのしみに」




