デパートでの戦闘 2
友人Yから、コウの能力と頭脳がチートじみていると言われてしまった。頭脳チート枠はツバキさんの予定だったのに(もう少ししたらツバキさんの頭脳が活躍します)
「これは一体……空気で作った壁か」
トオルの目の前には前に進めずに立ち止まるコウがいた。
「そうだ、この壁は弾丸すら通さない。お前は僕に近づくことはできないんだ」
咄嗟にコウは距離を取り、部が悪いと判断したのか店の外へと逃げようとする。
「逃すか」
壁にぶつかったかのように急に動きを止める。
「ここにも空気の壁が……」
「いくら物体を一瞬で破壊できるお前でも空気は破壊できないだろう」
空気の壁によって店内は密室と同じ状態となった。
「コウ……大丈夫? 」
「大丈夫ですから、安心してください」
コウはニコッとツバキに笑いかける。
(クッ……その笑顔が気に入らない。一体なんなんだ、こいつは……どんなに攻撃しても攻撃しても不敵に笑い続け、隙あらば獣のように食らいつこうと反撃してくる。やはり気に入らない! こいつにツバキは騙されているんだ、早くこいつをなんとかしなければ)
トオルは全身に魔力を練り上げ、コウはそれを見て警戒する。
先ほどまでのようなちまちまとした攻撃ではなく、この空間全体に影響を与えるほどの魔力を操作する。
(さすがにお前でもこれは対処できないだろう)
強力な壁がトオルを護っており、さらに逃げ道まで塞がれたコウは、自分からは攻撃ができず、防戦を強いられる事になる。
それをトオルは利用しようとしているのだ。
「〈気圧操作〉」
一見すると何も起こっていない。
しかし、確かに変化は起こった。
そう、目では見えないところで。
「グハッ! 」
刹那、コウが表情を悲痛に歪め、頭を押さえて苦しみ始める。
立っているのも辛そうにその場に膝をついて倒れた。
やがて呼吸を荒げ、胸のあたりを押さえ始めた。
(やっとその顔を歪めてやることができた)
コウが苦しむのに対し、トオルは口角を釣り上げ優越感に浸る。
「これは……室内の気圧を魔術で急激に下げたのか」
窓は閉まっており、店の出入り口も空気を圧縮して作った壁で塞がれているため、実質密室空間のこの室内ではかなり有効な方法であった。
「そうだ、そして僕は自分の体内の気圧もコントロールしているから、外気による気圧で影響は受けない。これで終わりだ! 」
体内と体外の気圧の差により、体中に多大な圧がかかり、呼吸をするのも困難。
だが、そんな状況でコウは膝を立て、上体を起こし、立ち上がる。
やせ我慢であろうが、またその口に笑みを浮かべてみせる。
「こいつ! まだ……」
そしてコウはトオルに手のひらを向け、魔術を詠唱しようとする。
しかしトオルもまた手の中に空気を圧縮してコウに放つ。
「エ××××」
「〈流気圧風〉
何かを詠唱しようとしたコウだが、
その声がトオルに届くことはなく、放たれた空気の衝撃で体をくの字に曲げ、後方に吹っ飛んだ。
壁に身体を打ち付け、床に伏して動かなくなる。
「やっと倒れたか……大量殺人鬼とは言え、案外あっけなかったな」
「そんな! コウ……」
ツバキが店内に入ろうとするが、空気の壁がそれを阻む。
(これで僕とツバキを邪魔する者はいない。僕はツバキを護ることができたんだ……)
「ツバキ、これからも僕が護ってあげるから……グハッ! 」
刹那、頭と肺に激痛。
気づけば息も苦しく、立っているのも困難となった。
「ッ!……どういうことだ」
「やっと気圧が元に戻ったか……」
振り返ると、先ほどまで床に伏して動かなかったはずのコウが何事もなかったかのように立っているのである。
「コウっ! 」
「お前! どうして……」
「僕も気圧を操作しただけですよ」
「まさか、僕と同じ魔術が使えるのか⁉︎ 」
コウは否定の意を込めて首を振る。
「あなたの後ろにある窓ガラスを破壊しただけです。あなたは窓ガラスを破壊されたことに気がつかず、体内の気圧を元に戻さなかった。結果、体内の気圧は低くなったままなのに、部屋の空気は元に戻ってしまい、あなたは今、部屋の空気に圧されて苦しんでいるんですよ。おかげで僕の方は全然なんともないんですけどね」
トオルは窓の方を見やる。
確かにそこには窓があったであろう場所のガラスが粉々に砕けている。
これでは気圧を下げても外から空気が入ってきて、元の気圧に戻ってしまう。
しかし、トオルは一つ納得がいかなかった。
「窓を破壊しただと⁉︎ そんなの、破壊した瞬間に物音がたつ。窓は僕の真後ろにあったんだぞ、それに気づかないはずがないだろう! 」
「いいえ、一瞬だけあったんですよ、窓ガラスが粉々に砕け散るような物音がたったのにも関わらず、あなたがその音に気づかない瞬間が」
そんな瞬間があるわけがとトオルが言いかけた瞬間、彼は気づいてしまった。
「まさか……」
「そうです。あなたが圧縮した空気を飛ばして攻撃をする瞬間、その魔術を使うためには大量の空気が必要になる。周囲から大量の空気を一箇所に集めて圧縮する。もともと気圧を下げて空気の少なかったあの部屋でそんなことをしたら、どうなるかわかりますよね? 攻撃を行うその瞬間、あなたの周囲は一瞬だけですが真空に近い状態になります。その一瞬だけはあなたの耳には殆ど音が届かない」
トオルは言葉を失った。
そんな事をするのにどれだけの集中力が必要なのだろう。
気圧変化で体中が悲鳴をあげる中、たった一つの打開策を見出してそれを実行する。
なにより恐ろしいのはその精神力。
追い詰めても追い詰めても策を練り続け、決して諦めようとしない。
(こんな化け物に自分は喧嘩を売っていたのか)
「見たところ、呼吸も乱れて魔力が練れないようですね。僕は1回だけなら魔術を詠唱できましたが、あなたはそれもままならない。魔術師同士の戦いにおいて重要なのは、魔力、研究、情報、相性です。あなたは僕より魔力は高いようですが、つい最近魔術を使えるようになったような奴が研究量で僕に追いつけるわけがない。しかも僕がどんな魔術を使うかの情報もあらかじめ調べておらず、魔術の属性は〈希望〉と〈虚飾〉で、〈虚飾〉属性の僕の方が有利」
属性と言うのは、魔術の性質を表すもので、それぞれの属性に得意な分野が分かれている。
トオルの持つ〈希望〉属性は心が折れない限り魔力が無限に回復し続けるというものである。
対してコウの〈虚飾〉属性は基本能力が高い代わりに、自分の情報を知られている相手からの魔術にめっぽう弱くなるという弱点があり、そのために他人を欺いたり情報を隠すというようなスキルや魔術を好んで研究する。
〈希望〉属性はメンタルが強ければほぼ無敵だが、〈虚飾〉属性はその性質上、相手の期待や希望、予想に反する罠を仕掛け心を折る戦術を取るため、相性としては〈虚飾〉属性の方が有利となる。
「あなたにとってのアドバンテージは魔力の大きさという一点だけだ。そんな奴に賢者に仕える者である僕は負けたりしない! 」
「クソっ! 」
「thank you for playing(遊んでくれてありがとう)」
コウはトオルの首を掴み、無理やり自身と目を合わせる。
「〈催眠術〉」
コウの目が一瞬だけ黄金色に光ったかと思うと、先ほど言われた「眠っていろ」という言葉がトオルの意識、精神を駆け巡り、そして支配した。
始めは抵抗しようとしたが、やがて抗えない力で意識を刈り取られ、そのまま眠りについた。
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トオルが〈催眠術〉で眠ると、彼が魔術で精製した空気の壁が消えたのか、ツバキが店内に入ってきた。
生き別れた兄弟に再会したかのような勢いで駆けつけ、コウに抱きついてきた。
「コウ! 」
「わっ! ちょ、ツバキさん落ち着いてください」
(柔らかいの当たっちゃってますから)
「落ち着けるわけないわよ、どこも怪我とかしてない? 」
「怪我は大したことありません。安心してくださ……うっ! 」
膝から下が無くなってしまったかのような脱力感がコウを襲う。
そのまま地面に倒れそうになるのをツバキに抱きとめられる。
「コウっ! どうしたの⁉︎ 大丈夫? 」
「はふぅ、魔力切れでみたいです。ちょっと身体が動きそうにありません……うっ! ああぁぁあ‼︎ 」
悲痛の声を上げると、コウの身体はみるみるうちに縮んでしまう。
全身からは黒い毛が生え、体つきが変わり、終いには猫になってしまった。
何故かコウが身にまとっていた衣服は消えて無くなってしまった。
「コウ! どうしたのコウ! しっかりして 」
コウは魔力で人間の姿になっているので、魔力切れ、もしくは時間の経過で元の猫の姿に戻ります。




