未だ見ぬ姉に想い馳せて
「うっがあああああッ、もう! 今日は散々な目にあったわよコンチクショウがッ!」
場所は変わって、ソレーユから遠く遠く離れた場所にあるデネブの居城、その一室。
部屋全体がショッキングピンクな壁紙に包まれ、衣装箪笥やテーブルにはカボチャをあしらった意匠がこれでもかとふんだんに盛り込まれている。そんな年がら年中ハロウィン気分を満喫できそうな彼女の自室には、もう一人別の少女がテーブルの前にちょんと正座していた。
髪はシルクのように滑らかな純白、ロングコートのような衣服も袖から見える腕もその瞳を閉じた横顔も、全てが処女雪のように白く清楚な彼女は、このピンクとカボチャが織りなす部屋に置いては相当に異質な存在感を放っていた。
やがて少女はゆっくりと瞼を開く。その一点だけ、まるで鮮血のように赤い瞳でちらとデネブを見つめると小さく口を開いた。
「デネブ様。それで、目的の星詠石は手に入ったんですか?」
「一応ね。それでも予定していた量の半分にも満たなかったけどさぁ……とりあえず、ゴーレムのテストが出来ただけ良しとす……るわけないじゃん! あーもう! 滅茶苦茶イライラするっての!!」
「そういえば、あのゴーレム魔法による損傷が激しかったようですが……何があったのですか? 鉱山に、魔法使いが生息しているとは思えませんが」
「……それがいたのよ。野良の魔法使い、しかもよりによってアタシ様の人生最大の汚点……っああ!? つまりアタシ様ってば、人生の汚点に負けたっての!? 意味わっかんない! 何で、何であんなゴミクズにぃいいいッ!」
「デネブ様落ち着いて。顔が唐辛子みたいに真っ赤でとても不健康そうです」
「そりゃストレスがマッハに決まってるでしょが! あーもー、もう少し魔法耐性のある装甲を作りたいのに、どうも上手くいかない……これもそれも全部、あの失敗作の所為よ! そうに違いない!」
その失敗作を作った魔女は勝手に決め付けると、湯気を吹きだしながらズシズシと大袈裟に足音を立てながら、まっすぐシャワールームへと向かって行ってしまった。
「失敗作……ですか」
そんなデネブを見送った後、純白の髪の少女は窓に手を付くと星の瞬く空を見上げた。
「私も、会ってみたいですね。失敗作……私の、お姉さまに」
流れ星が夜を切り裂いて暗闇の海に消えていく。
少女は何を願ったのか、それとも、何も願わなかったのか。
第1章【冒険王女】は、これにて終了。
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