第82話 デスビームの真価
【排除実行】
【デスビーム発射まで】
【3】
【2】
アーク・ゼロの胸部から放たれる赤い光が、周囲の空間を歪ませていく。
凄まじいエネルギーだった。
まだ発射されてもいないのに、大地がひび割れ、空気そのものが震えている。
ガルドは剣を握る手に力を込めた。
「零司!」
「迷うな!」
ボルグは巨大な盾を地面へ突き立て、セリナは複数の防御魔法陣を展開する。
全員が零司を信じていた。
一方、零司はゆっくりと右手を前へ突き出していた。
指先は震えている。
恐怖ではない。
覚悟を決めるための震えだった。
ルシアの言葉が頭の中で何度も繰り返される。
『この力を恐れ続けるのか。』
『それとも、自分の力として受け入れるのか。』
試練の塔でフレージも言っていた。
『これから先を歩くのは貴方です。』
もう迷わない。
この力はフレージのものではない。
誰かから借りたものでもない。
今、この指先から放たれる力は、自分自身のものだ。
零司は静かに息を吐いた。
「デスビーム。」
その一言と同時に、指先へ細い金色の光が集まる。
以前と同じ。
いや、違う。
光は穏やかだった。
暴れることもなく、静かに零司の意思へ応えている。
ルシアが目を見開いた。
「制御している……。」
今までは違った。
デスビームは「撃ててしまう力」だった。
しかし今は、自らの意思で握っている。
その違いは決定的だった。
【1】
アーク・ゼロの砲身が完全に展開される。
赤黒い閃光が一直線に零司を狙う。
【発射】
轟ッ!!
漆黒の光線が禁域を切り裂いた。
山肌を焼き、大地を抉りながら一直線に迫る。
同時に。
零司も静かに呟く。
「行け。」
細い一本の光が放たれた。
あまりにも細い。
隣で見ていたボルグは思わず叫ぶ。
「細すぎる!」
あの巨大な砲撃へ勝てるようには見えなかった。
だが。
二つの光が衝突した瞬間。
世界が止まる。
爆発は起きない。
激突もしない。
零司の放った細い光は、漆黒の砲撃へ触れた瞬間、その先端から静かに消していった。
ジュ……
そんな小さな音だけが聞こえる。
赤黒い光線が少しずつ短くなっていく。
飲み込まれるのではない。
削られるのでもない。
存在そのものが消えていく。
ルシアは震える声で呟いた。
「やっぱり……。」
「消滅現象。」
誰も理解できなかった。
巨大な砲撃が、たった一本の細い光に押し負けている。
しかも、押し返しているわけではない。
最初から存在しなかったように消えていく。
やがて。
漆黒の砲撃は完全に消滅した。
そして勢いを失わないまま、零司のデスビームはアーク・ゼロの胸部へ到達する。
黒い装甲へ触れる。
しかし派手な爆発は起きない。
ズドォンという音もない。
ただ静かに。
胸部装甲が消えた。
穴だけが残る。
装甲も。
内部機構も。
魔力炉も。
何もかもが存在ごと失われていた。
【致命的損傷】
【機能停止……確認】
アーク・ゼロが一歩後ろへ下がる。
赤い瞳が何度か点滅した。
【理解不能】
【理解不能】
【理解不能】
機械音声には初めて焦りが混じっていた。
ルシアは目を閉じる。
「解析できない。」
「そうだよ。」
「デスビームは理解する力じゃない。」
「理解を超えた力なんだ。」
巨大な兵器が膝をつく。
大地が揺れる。
ガルドたちは息を呑んで見守るしかなかった。
だが、その時だった。
【緊急権限】
【最終防衛機構】
【起動】
ルシアの表情が凍りつく。
「そんな馬鹿な!」
「まだ終わってないのか!?」
ボルグが叫ぶ。
アーク・ゼロの全身が赤黒く発光を始める。
胸に空いた穴が再生していく。
失われた装甲が、周囲の魔力を吸収しながら新たに形成されていく。
「自己修復……!」
セリナの顔色が変わる。
ルシアは歯を食いしばった。
「違う。」
「修復じゃない。」
「暴走だ。」
アーク・ゼロは本来の限界を超え、禁域そのものの魔力を強制的に吸い上げ始めていた。
空が暗く染まる。
大地が悲鳴を上げる。
森の木々が一瞬で枯れていく。
禁域全体が、たった一体の兵器へ魔力を奪われていた。
ルシアは零司を振り返る。
その表情には初めて焦りが浮かんでいた。
「まずい。」
「このままだと。」
「アーク・ゼロだけじゃない。」
「禁域そのものが崩壊する。」
誰も予想していなかった最悪の事態。
そして、その暴走を止められる者は。
この場に、一人しかいなかった。




