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『俺だけデスビーム』 ~剣も魔法もいらないので世界最強です~  作者: もかどら


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第78話 禁域への旅立ち

試練の塔が消滅してから三日後。


王都では、塔の崩壊が奇跡として語られていた。


神話の時代から存在すると言われた試練の塔。


数え切れないほどの英雄が挑み、誰一人として最後まで辿り着けなかった場所。


それが突然、光となって消えたのである。


当然ながら世界中が騒然となった。


「神が試練を終わらせた。」


「新しい勇者が現れた。」


「終末の前触れだ。」


噂は好き勝手に広がり、真実を知る者はほとんどいない。


零司たちはその騒ぎを横目に、王城の一室へ集められていた。


部屋の中央には大きな机が置かれ、その上には広げられた世界地図が何枚も並んでいる。


ガルドが腕を組みながら口を開いた。


「改めて確認する。」


「目的地は世界最北端、禁域。」


「管理者ですら詳細を把握できない未知の土地だ。」


全員が静かに頷いた。


セリナは地図へ視線を落とす。


「不思議ですね。」


「何がだ?」


「ここだけ、記録が極端に少ないんです。」


確かにそうだった。


街の名前もない。


遺跡の記録もない。


魔物の生態も分からない。


地図には『禁域』という文字だけが記されている。


まるで誰かが意図的に情報を消したかのようだった。


その時、水晶が淡く光り、アークの姿が映し出された。


『ちょうどいい。』


『説明を追加しよう。』


ガルドたちは姿勢を正す。


アークは地図の北端を指差した。


『禁域には昔、文明が存在した。』


「文明?」


『そうだ。』


『神代よりさらに昔の文明だ。』


部屋の空気が変わる。


神代より昔。


そんな時代が存在するなど、歴史学者ですら仮説としてしか扱っていない。


「本当にあったんですか。」


零司が驚いたように尋ねる。


『あった。』


アークは即答する。


『ただし滅びた。』


『理由は誰にも分からない。』


『管理者ですら資料を持っていない。』


その言葉に全員が息を呑む。


管理者が知らない歴史。


それは世界の常識が覆るほどの話だった。


老人も水晶へ姿を現す。


『試練の塔は、その文明が残した施設の一つじゃ。』


『だから管理者も完全には干渉できなかった。』


零司は試練の塔を思い出す。


神話を超える技術。


空間を捻じ曲げる力。


人格を残す魔法。


確かに、あれほどの遺産が一つだけとは考えにくい。


「つまり。」


ガルドが低い声で言う。


「禁域には、試練の塔と同じような遺産がまだ残っている可能性があるということか。」


『その通りだ。』


アークは頷いた。


『そして今回観測した反応は、その遺産とは少し違う。』


『誰かが目覚めた。』


その一言が重く響く。


誰か。


それが人間なのか。


魔族なのか。


あるいは全く別の存在なのか。


何も分からない。


だが管理者たちが警戒するほどの存在であることだけは確かだった。


その時、部屋の扉がノックされた。


「失礼します。」


入ってきたのは王国騎士団の補給担当だった。


「遠征の準備が整いました。」


机の上へ次々と荷物が並べられていく。


保存食。


回復薬。


魔力回復薬。


携帯用結界石。


予備の武器。


寝袋。


水袋。


さらには大型の魔導馬車まで用意されていた。


「王命です。」


補給担当は深く頭を下げる。


「今回の調査は国家事業として扱われます。」


「必要な物資は全て王国が負担します。」


ガルドは苦笑した。


「随分と期待されてしまったな。」


「当然です。」


補給担当は真剣な表情で答える。


「試練の塔を攻略した方々なのですから。」


その言葉に零司は少し居心地が悪そうだった。


「そんな大したことは……。」


「また始まった。」


少女が呆れたように肩をすくめる。


「この人、本当に自覚ないから。」


「いや、本当に何もしてないし。」


「それ。」


少女が零司を指差す。


「世界で一番信用できない台詞だから。」


部屋に笑いが広がる。


緊張していた空気が少しだけ和らいだ。


しかし、その笑顔も長くは続かなかった。


アークが真剣な表情へ戻る。


『もう一つ伝えておく。』


全員が水晶を見る。


『禁域へ入った瞬間、管理者会議からの通信は切れる。』


「切れる?」


『結界の影響だ。』


『外部からの観測もできない。』


『つまり、お前たちは完全に孤立する。』


部屋が静まり返る。


助けは来ない。


情報も届かない。


本当の意味で未知への旅になる。


ガルドは静かに剣の柄へ手を置いた。


「望むところだ。」


ボルグは豪快に笑う。


「久々に血が騒ぐじゃねぇか。」


セリナは魔導書を抱き締める。


「どんな魔法が残されているのか……少し楽しみです。」


少女だけは小さくため息をついた。


「嫌な予感しかしない。」


「今まで当たってきたからね。」


零司が苦笑する。


「今回は外れるといいね。」


「無理。」


即答だった。


「こういう時の私の勘、百発百中だから。」


その言葉に全員が苦笑する。


翌朝。


朝日が昇る頃、零司たちは王都の北門へ立っていた。


巨大な魔導馬車へ荷物を積み込み、騎士団の見送りを受ける。


ガルドが馬車へ乗り込み、手綱を握る。


「行くぞ。」


車輪がゆっくりと回り始める。


王都が少しずつ遠ざかっていく。


誰も知らなかった。


この旅が、これまでの冒険とは比べものにならないほど過酷なものになることを。


そして世界の北端――禁域では。


黒い大地の中央に立つ一人の青年が、静かに空を見上げていた。


銀色の長い髪。


金色の瞳。


その足元には、朽ち果てた巨大都市の跡が広がっている。


青年は遠く離れた王都の方角を見つめ、小さく微笑んだ。


「やっと来るんだね。」


誰へ向けた言葉なのかは分からない。


だが、その声だけはどこか嬉しそうだった。


「待っていたよ。」


その呟きと共に、禁域を覆う濃い霧が静かに動き始める。

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