第68話 最後の試練の塔
天を貫く白亜の塔。
それは圧倒的な存在感を放っていた。
雲を突き抜け。
空を裂き。
まるで世界の中心に突き刺さる槍のようにそびえ立っている。
騎士たちは言葉を失っていた。
セリナも呆然としている。
ガルドでさえ目を見開いていた。
これほどの建造物を見たことがない。
王城など比較にもならない。
神話の時代の遺産。
それが一番しっくりくる表現だった。
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しかし。
少女は違う意味で青ざめていた。
「嫌な予感しかしない」
本気だった。
冗談ではない。
本気で嫌そうだった。
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零司が首を傾げる。
「どうしたんです?」
「塔の最上階」
「はい」
「見た?」
「何をです?」
やっぱり見えていない。
少女は額を押さえた。
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実は。
塔の最上階。
ほんの一瞬だけ。
白い装甲の男が映っていた。
玉座に座り。
足を組み。
優雅に微笑む姿。
見間違えるはずもない。
フレージだった。
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もちろん。
零司ではない。
だが。
少女は知っている。
あれは非常に面倒なパターンだ。
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「アーク」
『何だ』
「塔の管理人格生きてる?」
数秒。
沈黙。
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『まさか』
アークが答える。
『とっくに消滅した』
少女は空を見上げた。
「なら余計に嫌だ」
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ガルドが話についていけない。
「何の話だ?」
少女は答える。
「もし塔が勝手に動いてるなら」
そこで言葉を切る。
そして。
嫌そうに続けた。
「フレージの悪戯」
森が静まり返った。
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管理者会議の連中が顔を覆う。
老人も顔を覆う。
女性管理者も顔を覆う。
アークだけが空を見上げていた。
現実逃避だった。
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「ちなみに」
ボルグが聞く。
「悪戯だとどうなる」
少女は即答した。
「最悪」
「具体的には」
「最悪」
説明になっていなかった。
だが。
全員理解した。
本当に最悪なのだろう。
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その時。
巨大な塔の入り口が開く。
ゴゴゴゴゴ……
重い音が響く。
高さ五十メートルはある巨大な門。
その奥は暗闇だった。
何も見えない。
だが。
確実に何かが待っている。
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アークが口を開く。
『試練は三つ』
空中に文字が浮かぶ。
第一試練。
力。
第二試練。
知恵。
第三試練。
真実。
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「普通ですね」
零司が言った。
管理者たちは顔を見合わせた。
誰も返事をしない。
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少女が小さく呟く。
「普通じゃ終わらないんだよなあ」
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零司たちは塔へ向かう。
ガルド。
セリナ。
ボルグ。
騎士団。
そして少女。
全員で門をくぐる。
その瞬間だった。
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景色が変わる。
塔の内部。
のはずだった。
しかし。
そこに広がっていたのは巨大な草原だった。
青空。
草原。
花畑。
平和そのものの風景。
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「外だぞ?」
ガルドが困惑する。
「いや」
セリナが周囲を見る。
「魔力反応は塔の中」
つまり。
空間が捻じ曲げられている。
神話級の技術だった。
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その時。
草原の中央に光が集まる。
人影が現れる。
白いローブを纏った老人だった。
長い髭。
穏やかな顔。
いかにも賢者という姿。
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老人は零司たちを見る。
そして。
深く頷いた。
「ようこそ」
優しい声だった。
「第一試練へ」
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ガルドたちが警戒する。
しかし。
老人は敵意を見せない。
むしろ親切そうだった。
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「試練は簡単です」
老人は微笑む。
「この世界で最も強い者を倒してください」
全員が周囲を見る。
誰もいない。
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「どこにいるんだ?」
ボルグが聞く。
老人は答える。
「そこです」
そして。
零司を指差した。
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森……ではなく草原が静まり返った。
ガルドが固まる。
セリナが固まる。
ボルグが固まる。
騎士団が固まる。
少女だけが空を仰いだ。
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「ほら来た」
心底嫌そうだった。
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その頃。
空の裂け目の向こう。
管理者会議では。
アークが机に突っ伏していた。
『やっぱりフレージの悪戯だ……』
誰も否定しなかった。




