第66話 被害者の会代表
『見つけたぞ』
低い声が世界を震わせる。
空の裂け目の向こう。
巨大な黄金の瞳がこちらを見下ろしていた。
憎悪。
怒り。
怨念。
何万年も煮詰めたような感情が滲み出ている。
騎士たちは膝をついていた。
セリナも息が苦しい。
ボルグは盾を支えに立っている状態だ。
ガルドですら歯を食いしばっていた。
強い。
今まで現れた誰よりも。
圧倒的に。
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しかし。
零司だけは首を傾げていた。
「誰でしょう?」
少女が即答する。
「被害者」
『誰が被害者だ!!』
黄金の瞳が怒鳴った。
世界が揺れた。
山が崩れる。
森の木々が何本も倒れる。
だが少女は平然としていた。
「被害者じゃん」
『違う!!』
「被害者じゃん」
『違う!!』
小学生みたいな言い争いだった。
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その時。
会議室の管理者たちがざわつく。
「あ、始まった」
「まただ」
「懐かしいな」
「昔もこんな感じだった」
誰も止める気がない。
慣れているらしい。
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黄金の瞳の主――アークは深呼吸した。
冷静になろうとしている。
必死だった。
本当に必死だった。
そして。
ようやく落ち着きを取り戻す。
『いいか』
重々しい声。
『私は被害者ではない』
「へぇ」
少女が適当に返事をする。
アークの額に青筋が浮かんだ気がした。
『私は管理者軍総司令官』
『全次元統括責任者』
『秩序執行者』
『無限監獄管理責任者』
『世界防衛最高責任者』
肩書きが長かった。
凄そうではある。
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しかし。
少女は頷いた。
「つまり被害者代表だね」
『違う!!』
また切れた。
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ガルドは思った。
この人、本当に最強なんだろうか。
威厳がどんどん消えていく。
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アークは数秒沈黙した。
そして。
話題を変えることにしたらしい。
『フレージ』
黄金の瞳が零司を見る。
『なぜ戻った』
「戻った?」
『とぼけるな』
「いや、本当に分からないんですが」
零司は困惑していた。
本気で分からないらしい。
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アークは黙る。
しばらく零司を見つめる。
そして。
少しだけ表情が変わった。
違和感。
それを感じている顔だった。
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『……本当に覚えていないのか』
「何をです?」
『私を』
「初対面です」
即答だった。
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その瞬間。
アークは固まった。
数秒。
完全に。
動かない。
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『私を忘れた?』
声が震えている。
「はい」
『本当に?』
「はい」
『私を?』
「はい」
『本当に?』
「はい」
会話が進まない。
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すると。
会議室の管理者たちがざわつき始めた。
「あー」
「それは駄目だ」
「地雷だ」
「特大地雷だ」
全員察したらしい。
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アークは静かに俯いた。
肩が震えている。
怒っているのか。
泣いているのか。
誰にも分からない。
そして。
小さく呟いた。
『私は』
沈黙。
『一万三千年追いかけたんだぞ』
沈黙。
『人生全部使ったんだぞ』
沈黙。
『宿敵だったんだぞ』
沈黙。
『なのに忘れたのか』
森が静まり返る。
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少女が小声で言った。
「可哀想」
「可哀想ですね」
零司まで同意した。
アークの肩の震えが大きくなる。
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『貴様ァァァァァァ!!』
ついに切れた。
空が割れる。
世界が揺れる。
管理者会議の机が吹き飛ぶ。
誰かが逃げた。
誰かが隠れた。
完全なパニックだった。
⸻
だが。
その時。
零司がふと首を傾げる。
「アークさん」
『何だ!!』
怒鳴り返すアーク。
すると。
零司は少し考えてから言った。
「どこかで聞いたことがある気がします」
世界が止まった。
⸻
アークも止まった。
少女も止まった。
管理者たちも止まった。
全員が息を呑む。
⸻
『……本当か?』
アークの声が震える。
期待している。
物凄く期待している。
一万三千年分くらい期待している。
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零司は真面目な顔で考えた。
そして。
ぽんと手を叩く。
「あ」
アークの瞳が輝く。
⸻
「薬草の名前でしたっけ?」
世界が静まり返った。
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管理者会議の誰かが吹き出した。
別の誰かも吹き出した。
さらに別の誰かは机を叩いて笑い始めた。
少女は地面を転げ回っている。
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アークは。
完全に固まっていた。
そして。
小さく呟く。
『もう帰りたい』
その言葉に。
会議室中の管理者たちが深く頷いた。




