第65話 封印された者
空が震えていた。
いや。
正確には世界そのものが震えていた。
封鎖区域の空。
巨大な裂け目。
その向こう側。
さらに奥。
世界の外側。
管理者たちのいる領域。
そのさらに先。
本来なら誰も存在しない場所。
そこから何かが目を覚まそうとしていた。
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少女の顔色は真っ青だった。
今まで散々笑っていた少女が。
初めて本気で焦っている。
ガルドはそれを見て嫌な予感しかしなかった。
「誰なんだ」
少女は少し黙る。
言いたくないらしい。
しかし。
隠しても仕方がないと判断したのか。
重々しく口を開いた。
「名前はアーク」
その瞬間。
管理者会議が静まり返った。
先ほどまで騒いでいた管理者たちが。
全員。
黙った。
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老人が目を閉じる。
女性管理者も顔をしかめる。
白銀の巨人は後ずさった。
反応がおかしい。
ガルドたちは理解した。
相当危険な相手らしい。
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「強いのか?」
ボルグが聞く。
少女は即答した。
「強い」
そして。
少し考える。
「管理者側では最強だった」
空気が重くなる。
王国最強のガルドですら嫌な汗を流した。
管理者一人で世界を滅ぼせそうな連中である。
その最強。
まともな存在なはずがない。
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しかし。
少女は続けた。
「でも負けた」
全員が沈黙した。
「誰に?」
誰が聞いたのか分からない。
だが。
答えは決まっていた。
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「フレージ」
即答だった。
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管理者会議の誰かが泣き始めた。
またトラウマらしい。
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少女は遠い目をする。
「昔ね」
静かに語り始める。
「アークは本当に強かった」
その声には少しだけ敬意があった。
「管理者軍最強」
「封印術最強」
「次元支配最強」
「戦闘能力も最強」
まさに英雄だった。
誰もがそう思った。
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「じゃあ何で負けたんだ?」
ガルドが聞く。
少女は答える。
「相手が悪かった」
それだけだった。
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空中に映像が浮かぶ。
また記録映像らしい。
そこに映るのは広大な宇宙。
銀河が無数に輝いている。
その中心。
二人の存在が向かい合っていた。
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片方はアーク。
白銀の鎧を纏った青年。
背中には六枚の光翼。
神そのもののような存在だった。
周囲の空間すら彼を中心に秩序を保っている。
見ただけで強い。
誰もがそう思う。
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そして。
もう片方。
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玉座に座るフレージ。
いつも通りだった。
本当にいつも通りだった。
紅茶を飲んでいた。
戦闘前なのに。
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ガルドは思った。
この人駄目だ。
絶対駄目だ。
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映像の中でアークが言う。
『終わりだフレージ』
凄まじい威圧感だった。
銀河が揺れる。
星々が震える。
それだけで世界が壊れそうだった。
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しかし。
フレージはカップを置く。
そして。
少し考えた。
本当に少しだけ。
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『あなた誰でしたっけ?』
宇宙が静まり返った。
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少女が頭を抱える。
「あれは酷かった」
老人も頷く。
「酷かったですね」
女性管理者も頷く。
「あれは酷い」
満場一致だった。
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映像の中のアークは固まっていた。
数千年戦った宿敵である。
人生を賭けて追い続けた相手である。
その相手に。
誰だっけと言われた。
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アークの顔から感情が消える。
そして。
切れた。
完全に。
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『貴様ァァァァァァァァ!!!』
銀河が吹き飛んだ。
怒声だけで。
本当に吹き飛んだ。
ガルドたちが絶句する。
強すぎる。
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しかし。
フレージは困った顔をした。
『おや』
そして。
本当に不思議そうに言った。
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『怒ってるんですか?』
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映像がそこで切れた。
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全員が黙った。
誰も喋らない。
ガルドは思った。
切れるだろ。
そりゃ切れる。
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少女がため息を吐く。
「その後大戦争」
「勝ったのは?」
零司が聞く。
少女は零司を見る。
数秒。
沈黙。
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「君の前世」
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管理者たちが一斉に顔を覆った。
思い出したくないらしい。
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その時だった。
空の裂け目が大きく広がる。
今までで最大。
そして。
向こう側から声が響いた。
低く。
重く。
憎しみに満ちた声。
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『見つけたぞ』
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世界が震える。
森が軋む。
騎士たちが膝をつく。
セリナも顔面蒼白になる。
ガルドですら歯を食いしばった。
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『フレージ』
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憎悪だった。
何千年。
何万年。
積み重ねた憎しみ。
それが声になっていた。
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そして。
裂け目の向こうで。
巨大な黄金の瞳が開く。
山より大きい。
国より大きい。
そんな瞳だった。
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零司だけが首を傾げる。
「知り合いですか?」
少女は真顔で答えた。
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「元被害者」
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黄金の瞳がさらに大きく見開かれた。
どうやら。
その呼び方も地雷だったらしい。




