第61話 再封印執行者
光の柱は空を貫いていた。
封鎖区域の上空。
雲が渦を巻き。
大気が震え。
空間そのものが軋んでいる。
王都からも見えるほどの巨大な光だった。
騎士たちは青ざめている。
セリナも顔色が悪い。
ガルドですら剣を握り直していた。
嫌な予感しかしない。
そんな空気だった。
しかし。
零司だけは違う。
「凄いですね」
のんびり空を見上げている。
少女は思った。
この男は本当に変わらない。
世界が終わりそうでも平常運転である。
⸻
ゴォォォォォォ……
空が鳴る。
いや。
何かが降りてきていた。
光の柱の中心。
そこから巨大な影がゆっくり姿を現す。
全長三十メートルを超える白銀の巨人。
鎧のような外装。
六枚の翼。
青白い光を放つ瞳。
神々しさすら感じる存在だった。
騎士の一人が震える。
「て、天使……」
違う。
誰もが本能で理解した。
あれは天使ではない。
兵器だ。
殺すためだけに造られた何かだ。
⸻
巨人はゆっくりと地上を見下ろした。
そして。
機械のような声が響く。
『対象確認』
全員が固まる。
『封印対象フレージを確認』
『危険度測定開始』
青白い光が零司へ向けられる。
その瞬間だった。
巨人が停止する。
完全に。
ぴたりと。
まるで壊れた機械のように。
⸻
『危険度測定中』
沈黙。
『危険度測定中』
再び沈黙。
『危険度測定中』
少女が吹き出した。
「壊れた」
「何がです?」
「測定器」
即答だった。
⸻
次の瞬間。
巨人から警報音が鳴り響く。
ビーッ!!
ビーッ!!
『測定不能』
『測定不能』
『測定不能』
『エラー』
『エラー』
『エラー』
騎士たちは呆然とする。
巨人はさらに続けた。
『過去記録照合開始』
『照合完了』
『対象確認』
『危険度』
一瞬の沈黙。
そして。
『絶対に関わるな』
空気が止まった。
⸻
セリナが聞き返す。
「今なんて?」
少女は肩を震わせている。
笑いを堪えているらしい。
巨人は真面目だった。
『絶対に関わるな』
『逃走を推奨』
『繰り返す』
『逃走を推奨』
ガルドが顔を覆った。
再封印しに来たのではなかったのか。
まさかの逃走推奨である。
⸻
しかし。
巨人は職務に忠実だった。
『命令を再確認』
数秒。
沈黙。
『封印対象を再封印せよ』
再び沈黙。
『しかし勝率ゼロ』
また沈黙。
『命令と生存率が矛盾』
さらに沈黙。
『思考中』
巨人は動かなくなった。
完全にフリーズしている。
⸻
少女が腹を抱え始めた。
「駄目だ」
「何がです?」
「古代兵器が現実逃避してる」
それは大問題だった。
だが。
誰も反論できなかった。
⸻
その時だった。
巨人の瞳が再び光る。
『代替案を実行』
ガルドが警戒する。
セリナも杖を構える。
今度こそ攻撃か。
全員がそう思った。
しかし。
巨人はゆっくり膝をついた。
そして。
深々と頭を下げる。
完全なる土下座だった。
森が静まり返る。
『お願いです』
機械音声だった。
だが必死さは伝わる。
『もう暴れないでください』
騎士たちが固まる。
ボルグも固まる。
ガルドも固まる。
零司だけが困惑していた。
「誰に言ってるんですか?」
少女がとうとう転げ回った。
「君だよ!」
⸻
巨人は続ける。
『過去記録参照』
『封印失敗回数』
『七百三十八回』
全員が息を呑む。
『撃破された管理者』
『計測不能』
『消失した惑星』
『多数』
『消失した次元』
『多数』
『報告書作成担当者』
『全員退職』
少女が腹筋崩壊していた。
「最後何!?」
⸻
零司は真面目な顔になる。
少し考える。
そして巨人へ言った。
「人違いでは?」
『ありません』
即答だった。
『百パーセント本人です』
「違います」
『本人です』
「違います」
『本人です』
また始まった。
周囲はもう慣れてきた。
⸻
その時だった。
巨人の視線が零司の背後へ向く。
そして。
停止した。
またである。
数秒後。
巨人が震え始めた。
『後ろ』
『後ろ』
『後ろ』
機械音声なのに動揺している。
そして。
『やっぱりいるじゃないですか!!』
絶叫した。
騎士たちは何も見えない。
だが。
巨人には見えていた。
零司の背後。
そこに立つ。
白い装甲の宇宙の帝王めいた巨大な幻影を。
その幻影は静かに微笑んでいた。
巨人は泣いた。
本当に泣いていた。




