第59話 夢の続き
朝日が森を照らしていた。
封鎖区域とは思えないほど穏やかな朝だった。
鳥が鳴いている。
風も心地良い。
しかし。
遠征隊の空気は重かった。
理由は単純である。
昨日。
山が消えた。
正確には。
零司がデスビームで消した。
しかも本人は一割増し程度だと思っている。
全員頭が痛かった。
⸻
「おはようございます」
当の本人は元気だった。
爽やかな笑顔。
健康的な朝。
何一つ問題がない。
ガルドは思った。
問題しかない。
だが言わなかった。
もう疲れたのである。
⸻
「よく眠れましたか?」
零司が尋ねる。
セリナが遠い目をした。
「眠れると思う?」
「?」
意味が分からないらしい。
ボルグも黙っていた。
騎士たちも目を逸らす。
昨日の光景が忘れられない。
空が消えた。
山も消えた。
黒い柱も消えた。
普通なら伝説である。
⸻
そんな中。
銀髪の少女だけがニヤニヤしていた。
「ねえ」
「何です?」
「夢見た?」
零司が固まる。
「どうして分かったんです?」
ガルドたちも振り返る。
少女は楽しそうだった。
「どんな夢?」
「覚えてません」
即答だった。
少女が吹き出す。
「だと思った」
「でも」
零司は少し考える。
「変な夢だった気がします」
少女の笑みが深くなる。
「へぇ」
「あと」
零司は首を傾げた。
「知らない人たちが出てきた気がします」
「どんな人?」
「緑色の髪の人と」
少女が肩を震わせる。
「大きい人です」
ついに少女が笑いを堪えられなくなった。
⸻
「ぶふっ!!」
盛大だった。
ガルドたちが驚く。
少女がここまで笑うのは初めてだ。
「何がおかしいんです?」
「いや」
少女は涙を拭く。
「本当に変わってないなと思って」
意味が分からない。
だが少女は上機嫌だった。
⸻
その時だった。
森の奥から何かが飛んできた。
黒い鳥。
いや。
鳥ではない。
魔物だった。
全身が黒い霧でできている。
昨日の男と同じ気配。
「敵か!」
騎士たちが武器を抜く。
セリナが魔法陣を展開。
ボルグも盾を構える。
しかし。
黒い鳥は零司を見た瞬間。
空中で停止した。
数秒。
沈黙。
そして。
全力で方向転換した。
逃げた。
物凄い速度で。
誰よりも速く。
⸻
「……」
「……」
「……」
まただった。
零司だけが首を傾げる。
「どうしたんでしょう」
少女が答える。
「本能だね」
「本能?」
「うん」
少女は真顔で言った。
「生存本能」
誰も反論できなかった。
⸻
さらに数時間後。
遠征隊は封鎖区域最深部へ到達する。
そこには巨大な石碑があった。
高さ二十メートルはある。
古代文字が刻まれている。
風化しているが。
異様な存在感があった。
セリナが目を見開く。
「これ……」
「知ってるのか?」
ガルドが聞く。
セリナは頷いた。
「古代文明の文字です」
「読めるか?」
「少しだけ」
全員が石碑へ近付く。
そして。
セリナの顔色が変わった。
青ざめている。
「どうした?」
ガルドが尋ねる。
セリナは震える声で答えた。
「あり得ない……」
「何が書いてある」
数秒の沈黙。
そして。
セリナはゆっくり読み上げた。
『封印対象』
『フレージ』
森が静まり返った。
ガルドが固まる。
ボルグが固まる。
騎士たちも固まる。
少女だけが空を見上げた。
「あーあ」
嫌な予感しかしない声だった。
そして。
何も知らない零司は首を傾げた。
「誰でしょう?」
少女はため息を吐いた。
「君だよ」
初めて。
はっきりと言った。




