第58話 王国が揺れた日
デスビームが放たれてから数分後。
封鎖区域は静まり返っていた。
いや。
正確には静まり返るしかなかった。
誰も喋れなかったのである。
黒い柱は消えた。
黒い男も消えた。
ついでに山脈の一部も消えた。
夜空には一直線の巨大な空洞が残っている。
雲が綺麗に割れていた。
まるで神様が剣で斬ったみたいな光景だった。
「……」
「……」
「……」
騎士たちは無言だった。
ボルグも無言だった。
セリナも無言だった。
ガルドも無言だった。
零司だけが普通だった。
「薬草は無事でしょうか」
そこだった。
心配する場所がそこだった。
⸻
数分後。
観測担当の騎士が戻ってくる。
顔色は真っ青だった。
「ほ、報告します!」
声が裏返っている。
誰も責めなかった。
当然である。
「北方山脈第七峰が消滅しました!」
沈黙。
「周辺森林が消失!」
沈黙。
「雲海に巨大な穴を確認!」
沈黙。
「推定射程距離は現在計測中です!」
沈黙。
ガルドがゆっくり目を閉じた。
聞かなかったことにしたかった。
⸻
その頃。
王都では。
ゴォォォォォォォォン!!
遅れてきた衝撃波が到達していた。
城の窓が揺れる。
市民たちが空を見上げる。
鳥の群れが飛び立つ。
冒険者ギルドでは職員が悲鳴を上げていた。
「北方から超高密度魔力反応!」
「何ですかこれ!?」
「観測器が壊れました!」
「三台目です!」
「もう予備がありません!」
大混乱だった。
⸻
王城。
会議室。
国王は静かに報告書を読んでいた。
隣には宰相。
騎士団長。
魔法局長。
そして観測院長。
全員が死んだ魚の目をしている。
「確認する」
国王が言う。
「原因は?」
観測院長が答える。
「黒崎零司です」
即答だった。
もはや隠す気もない。
「またか」
国王が天井を見上げた。
最近そればかり言っている。
⸻
「今回は何をした」
「デスビームです」
「結果は」
「山が消えました」
「そうか」
国王は頷いた。
慣れとは恐ろしい。
以前なら卒倒していただろう。
だが今は違う。
もう感覚が麻痺していた。
「人的被害は」
「ありません」
「よし」
全員が頷いた。
山が消えても人的被害がなければセーフ。
そんな謎基準が成立し始めていた。
⸻
一方。
封鎖区域。
ガルドは頭を抱えていた。
「レイジ」
「はい」
「お前のそのデスビーム」
「はい」
「本当にFランクか?」
またその質問だった。
零司は真面目に答える。
「Fランクです」
「そうか」
ガルドは諦めた。
もう何を聞いても無駄だ。
⸻
その横で。
少女は笑いを堪えていた。
「ふふふ」
「何がおかしいんです?」
零司が聞く。
「いや」
少女はニヤニヤする。
「変わってないなと思って」
「?」
意味が分からない。
だが少女は満足そうだった。
⸻
翌朝。
遠征隊は封鎖区域の中心部を調査していた。
黒い柱は消滅した。
しかし問題は残っている。
あの男が言っていた。
『俺たち』
つまり。
まだ仲間がいる。
それが一番の問題だった。
ガルドたちも理解している。
終わっていない。
むしろ始まったばかりだ。
⸻
その時だった。
少女が突然空を見る。
珍しく真面目な顔だった。
「来る」
ガルドが反応する。
「何がだ」
少女は答えた。
「面倒なの」
嫌そうだった。
本当に嫌そうだった。
「すごく面倒なの」
そして。
彼女は零司を見た。
「ちなみに」
「はい?」
「今夜は夢を見るよ」
零司が首を傾げる。
「夢ですか?」
「うん」
少女は妙に楽しそうに笑った。
「すっごく懐かしい夢」
意味深な言葉だけを残して。
少女は森の奥へ歩いていく。
ガルドもセリナも理由は分からない。
だが。
零司だけは少しだけ気になった。
なぜか胸がざわつく。
懐かしい。
会ったこともないはずなのに。
そんな感覚だった。
その夜。
零司は久しぶりに深い眠りへ落ちていく。
そして――。




