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『俺だけデスビーム』 ~剣も魔法もいらないので世界最強です~  作者: もかどら


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第47話 魔獣より怖いもの

市場は大混乱に陥っていた。


Aランク級魔獣。


王都近郊では滅多に確認されない災害クラス。


普通なら騎士団が出動し、周辺住民は即座に避難する案件である。


しかし今、その魔獣は市場の真ん中に立っていた。


黄金の瞳がゆっくりと周囲を見渡す。


誰も動けない。


誰も声を出せない。


そんな中――


「ひっ……!」


真っ先に腰を抜かしたのはアルフォンスだった。


先ほどまでの余裕はどこにもない。


侯爵家の威光も。


貴族としての誇りも。


全部吹き飛んでいた。


魔獣はそんな彼を見下ろしている。


獲物を見るような目だった。


「ま、守れ!」


アルフォンスが叫ぶ。


しかし使用人たちは誰も前へ出ない。


出られない。


相手はAランク級だ。


命令一つで飛び込める相手ではない。


そして魔獣が前足を一歩踏み出した。


ドン、と地面が揺れる。


アルフォンスの顔から血の気が消える。


「た、助け――」


そこまでだった。


魔獣の口が開く。


鋭い牙。


黒い魔力。


周囲の人間が絶望する。


終わった。


誰もがそう思った。


その時だった。


「店を壊さないでくださいね」


静かな声。


全員が振り向く。


零司だった。


あまりにも自然に話しかけていた。


近所の子供に注意するような口調だった。


魔獣が動きを止める。


市場が静まり返る。


観測者たちも固まった。


そして。


魔獣が振り向く。


黄金の瞳と零司の視線が交差する。


数秒。


本当に数秒だった。


だが次の瞬間。


信じられないことが起きた。


魔獣が後退した。


一歩。


さらに一歩。


そして。


「グルル……」


威嚇どころか怯えている。


市場中が凍り付く。


観測者たちも理解できない。


Aランク級魔獣が。


災害指定される存在が。


怯えている。


それも相手は何もしていない。


ただ話しかけただけだ。


零司は首を傾げた。


「聞こえましたか?」


魔獣がぶんぶんと首を縦に振る。


周囲の人間は現実逃避したくなった。


何だこれは。


本当に何だこれは。



その頃。


市場へ向かっていたアレスたちは全力疾走していた。


「間に合え!」


副団長らしからぬ叫び。


騎士たちも必死だった。


報告では大型魔獣出現。


場所は薬草店前。


嫌な予感の役満だった。


そして市場へ到着した瞬間。


全員が足を止める。


「……は?」


理解できなかった。


Aランク級魔獣が。


地面に伏せていた。


正座のような姿勢で。


そして。


零司が薬草を選んでいた。


店主と一緒に。


「こちらの保存状態も良いですね」


「だろう?」


平和だった。


異常なくらい平和だった。


アレスはゆっくり魔獣を見る。


魔獣も見る。


目が合う。


その瞬間。


魔獣の目から涙が零れた。


「……」


「……」


アレスはそっと視線を逸らした。


深く考えないことにした。



一方。


アルフォンスはまだ地面に転がっていた。


完全に腰が抜けている。


服も汚れている。


周囲の人間も見ている。


貴族としては致命的な醜態だった。


しかも。


誰も助けてくれない。


全員の視線は零司へ向いている。


誰が魔獣を止めたのか。


誰のおかげで助かったのか。


明白だった。


アルフォンスにも分かっていた。


だからこそ悔しい。


認めたくない。


しかし現実は残酷だった。


「助かったな」


市場の誰かが呟く。


「黒崎さんがいて」


「ああ」


「いなかったら死んでた」


周囲が頷く。


アルフォンスの顔が歪む。


今まで馬鹿にしてきた相手。


見下してきたFランク。


その男に命を救われた。


これ以上ない屈辱だった。



そしてその夜。


観測室。


黒い影は新たな報告書を読んでいた。


【Aランク級魔獣】


【対象を視認】


【即座に敵対意思消失】


【その後服従行動】


長い沈黙。


やがて影は呟く。


「なるほど」


そして新しいページを追加する。


【対象の脅威評価】


しばらく考える。


さらに書き込む。


【修正】


【予想以上】


そして最後に一言。


【魔獣の方が先に理解している可能性あり】


影は初めて少しだけ笑った。


面白い。


本当に面白い。


一方その頃。


零司は宿で薬草を整理していた。


「今日は良いものが手に入りました」


満足そうだった。


Aランク級魔獣。


侯爵家嫡男。


観測者。


王城。


誰もが零司を中心に振り回されている。


だが本人だけは。


薬草の保存方法について考えていた。

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