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『俺だけデスビーム』 ~剣も魔法もいらないので世界最強です~  作者: もかどら


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第35話 王城からの招待

ベヒモス討伐から一夜明けた王都は、まるで祭りの後のような熱気に包まれていた。


東地区では未だに瓦礫の撤去作業が続いているものの、人々の表情は明るい。本来なら数百、下手をすれば数千人規模の犠牲者が出てもおかしくない災害だった。それが死者ゼロで収束したのだから無理もない。


当然、その中心にいる人物の噂は王都中へ広がっていた。


Fランク冒険者。


黒い光を放つ青年。


ベヒモスを二度倒した男。


話す者によって内容は微妙に違ったが、共通していることが一つだけある。


誰も詳細を理解していない。


理解できないのだ。


だから噂はどんどん大きくなっていく。


ある者は古代英雄の生まれ変わりだと言い、ある者は禁術の使い手だと言い、またある者は人の姿をした魔王ではないかと本気で語っていた。


そんな騒ぎの中心人物は、宿の中庭で薬草を眺めていた。


「王都の土壌は面白いですね」


零司は朝露の残る草を観察しながら呟いた。


宿の主人は苦笑する。


昨日、王都を救った英雄。


そのはずなのだが、本人にはまったく自覚がない。


普通なら祝宴だ。


騎士団から感謝され、貴族から招待され、酒場では英雄扱いされる。


ところが零司は朝から雑草を観察している。


理解不能だった。


その時、宿の入口が騒がしくなった。


複数の馬の足音。


そして重厚な鎧の音。


宿の主人の顔色が変わる。


王国騎士団だった。


しかも一般騎士ではない。


胸元には王城直属を示す紋章が刻まれている。


周囲の宿泊客たちも緊張し始めた。


王城直属の騎士が動くなど滅多にない。


やがて騎士たちの先頭にいた男が零司の前まで歩いてくる。


「黒崎零司殿」


「はい」


「国王陛下より招待状を預かっている」


周囲が静まり返った。


宿の主人が目を見開く。


宿泊客たちも息を呑んだ。


王城からの招待。


それも国王名義。


冒険者なら一生に一度あるかないかの名誉である。


しかし零司は招待状を受け取ると首を傾げた。


「何でしょう?」


騎士も少し困った顔になる。


普通ならまず驚く。


次に緊張する。


だが零司は本気で分かっていない。


「昨日のベヒモス討伐についてです」


「なるほど」


それでようやく納得したらしい。


騎士は内心で安堵する。


話が通じる相手で良かった。


もっとも、その認識は数分後に崩れることになる。


「ちなみに昼頃に城へ来ていただきたい」


「分かりました」


「迎えも出します」


「大丈夫です」


零司は即答した。


「王都の薬草屋を見ながら行きたいので」


騎士は絶句した。


宿の主人も絶句した。


周囲の宿泊客も絶句した。


王城より薬草屋が優先らしい。


王都の常識がまた一つ崩れた瞬間だった。


一方その頃、王城では別の意味で頭を抱えている男がいた。


アレス・フォン・レイヴンである。


宮廷魔導師団副団長。


昨日までなら、自分は王国でも指折りの実力者だと疑っていなかった。


実際その通りだった。


若くして副団長。


数々の戦果。


天才の名声。


誰もが認めるエリートだった。


だが昨日、その全てが揺らいだ。


ベヒモスを二度倒した青年。


魔力ゼロ。


Fランク。


そして理解不能な黒い光。


理論が通じない。


経験も役に立たない。


思い出すだけで頭痛がした。


「副団長」


部下の魔導師が声を掛ける。


「例の冒険者についてですが」


「零司殿だ」


思わず訂正していた。


部下が驚く。


昨日まで「怪しい男」と呼んでいたはずなのに、呼び方が変わっている。


アレス自身も気付いて少し咳払いした。


「……失礼した」


しかし内心では認めざるを得なかった。


少なくとも実力だけなら、自分が軽々しく見下していい相手ではない。


むしろ逆だ。


昨日の光景を思い出しただけで背筋が冷える。


あの黒い閃光。


そして、一瞬だけ見えた黄金の玉座。


あれは何だったのか。


考えれば考えるほど分からない。


だからこそ気になった。


研究者ではない。


魔導師である。


それでも知りたかった。


あの男は何者なのか。


そんなことを考えていた時だった。


王城の奥深く。


誰も立ち入ることのない地下区画で、一つの影が静かに目を開く。


祭壇の上には砕けた金色の欠片が並んでいた。


ブラックワイバーン。


そしてベヒモス。


どちらから回収されたものも同じ紋様を持っている。


影は欠片を指先でなぞった。


「二度か」


低い声が響く。


「一度なら偶然だった」


闇の中で微かな笑みが浮かぶ。


「だが二度となると話は違う」


ベヒモスですら失敗した。


それは予想外だった。


だが同時に興味深い。


数年ぶりに現れた。


計画を乱す存在が。


「黒崎零司」


初めて名前を口にする。


その声には怒りよりも好奇心が混じっていた。


「会ってみたくなった」


祭壇の金色の紋様が妖しく輝く。


王都を救った英雄。


王城が興味を示した男。


そして闇の中の黒幕までが注目し始めた存在。


しかし当の本人は、そんなことを何一つ知らない。


その頃の零司は王都の地図を広げながら真剣な顔をしていた。


「薬草屋が多すぎて困りますね」


王城へ向かう前にどの店を回るべきか。


彼にとっては、それが今一番の悩みだった。

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