表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺だけデスビーム』 ~剣も魔法もいらないので世界最強です~  作者: もかどら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/30

第25話 王都の研究者

二百体を超える魔物の群れが消滅してから一時間後。


宿場町は異様な熱気に包まれていた。


本来なら今頃、町のあちこちで悲鳴が上がっていたはずだった。北門は破られ、兵士や冒険者に死傷者が出ていたかもしれない。運が悪ければ町そのものが壊滅していてもおかしくない。


だが現実は違った。


二百を超える魔物は一瞬で消え去り、被害はほぼゼロ。住民たちは助かった喜びから広場へ集まり、酒や料理を持ち寄って即席の宴会を始めていた。子供たちは走り回り、大人たちは生還を祝って杯を交わしている。


その光景を見ながら、グラッドは深いため息を吐いた。


「あれだけの魔物がいたんだぞ……」


隣にいた護衛騎士隊長が苦笑する。


「分かっている」


「いや、分かってないだろう」


グラッドは真顔だった。


普通ならAランク冒険者を呼ぶ案件だ。最悪の場合は騎士団の出動すら検討される。それを一人で解決した男が、今は何をしているか。


視線の先。


宿の食堂。


そこでは零司が料理を前に幸せそうな顔をしていた。


「おかわりお願いします」


「まだ食べるのか?」


「今日はたくさん動きましたから」


本人は至って真面目だった。


二百体の魔物を消した直後とは思えない。


グラッドは額を押さえた。


どう考えても疲れるのは周囲の方である。


食堂の客たちも似たような気持ちだったらしく、誰もが遠巻きに零司を見ていた。


町を救った英雄。


そう呼ばれてもおかしくない。


だが誰も近付こうとしない。


尊敬より先に畏怖があった。


何しろ目の前で常識を破壊されたばかりなのだ。


「本当に何者なんだ……」


誰かが呟く。


誰も答えられない。


グラッドですら答えを持っていなかった。


ただ一つだけ分かる。


自分では絶対に敵に回したくない。


それだけだった。


そんな時だった。


食堂の扉が静かに開く。


派手な音ではない。


しかし、なぜかグラッドは反射的に視線を向けていた。


入ってきたのは一人の老人だった。


年齢は六十代後半だろうか。


黒いローブを身に纏い、杖を持っている。どこにでもいそうな老人に見えるが、妙に存在感があった。


特に目が違う。


知識欲に取り憑かれた研究者特有の目だった。


老人は店内を見回し、やがて零司を見つける。


その瞬間。


口元が僅かに歪んだ。


まるで長年探していた宝物を発見したような笑みだった。


グラッドの胸騒ぎが強くなる。


「初めまして」


老人は零司の席まで歩いていき、丁寧に頭を下げた。


「私はオルフェン。王立魔術研究院の客員研究員をしております」


食堂がざわつく。


王立魔術研究院。


その名を知らない者は少ない。


王国最高峰の研究機関であり、魔法や魔道具の研究を行う頭脳集団だ。


地方の宿場町で会うような人物ではない。


零司は肉を咀嚼しながら首を傾げた。


「研究員?」


「ええ」


「薬草の研究ですか?」


オルフェンの笑顔が少しだけ固まった。


周囲の客たちは吹き出しそうになる。


この男は本当にぶれない。


世界最強かもしれない存在を前にして、話題が薬草なのである。


「残念ながら違います」


オルフェンは咳払いをした。


「私は魔法の研究者です」


「そうなんですね」


興味はなさそうだった。


オルフェンは一瞬だけ困った顔をしたが、すぐに笑顔へ戻る。


「実は、あなたについて少し興味がありまして」


その言葉に周囲の空気が変わった。


グラッドも護衛騎士たちも自然と耳を傾ける。


オルフェンの態度は穏やかだ。


しかし視線だけは鋭い。


獲物を観察する猛禽類のような目だった。


「私ですか?」


「はい」


オルフェンは頷く。


「ブラックワイバーンの件。そして先ほどの魔物の群れの件。実に興味深い」


零司は少し考えた。


そして答える。


「ワイバーンは大きかったですね」


「そこではありません」


オルフェンは即座に否定した。


食堂のあちこちから笑いが漏れる。


だがオルフェン自身は笑っていなかった。


彼の視線は零司の右手に向いている。


正確には人差し指。


まるでそこに秘密が隠されていると知っているかのようだった。


「その技は魔法ですか?」


オルフェンが聞く。


零司は首を横に振る。


「違います」


「では闘技?」


「違います」


「特殊能力?」


「違います」


オルフェンの眉が動く。


「では何ですか?」


零司は少し考えた。


本当に少しだけ考えた。


そして真顔で答える。


「デスビームです」


食堂が静まり返った。


グラッドは思わず顔を覆う。


護衛騎士たちは遠い目をする。


オルフェンだけが真面目な顔で考え込んでいた。


「デスビーム……」


「はい」


「そういう名称なのですね?」


「たぶん」


「たぶん?」


「昔からそう呼んでいた気がします」


オルフェンはさらに考え込む。


だが何も分からない。


当然だった。


本人も分かっていないのだから。


しかし、その瞬間だった。


零司の背後に立つランプの灯りが揺らぐ。


オルフェンの視界が一瞬だけ歪んだ。


そして見えた。


黄金に彩られた巨大な玉座。


星々を従える絶対者。


小柄でありながら、世界そのものを見下ろすような存在。


退屈そうな顔で頬杖をつきながら、こちらを眺めている何か。


オルフェンの呼吸が止まる。


瞬きをする。


幻は消えていた。


そこにいるのは相変わらず肉を食べている青年だけだ。


しかし冷や汗は止まらない。


研究者としての本能が告げていた。


目の前の存在は危険だ。


知ってはいけない領域に片足を突っ込んでいる。


そんな感覚だった。


それでもオルフェンは笑う。


研究者だからだ。


未知を前にして引き返せる人種ではない。


「なるほど」


そう呟きながら、彼は決意する。


この青年について調べよう。


徹底的に。


その判断が、後に人生最大の後悔になることも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ