第21話 王都は面倒そうですね
ブラックワイバーンの討伐後、一行はしばらくその場で足止めされていた。
理由はもちろん、魔物の調査である。
本来ならBランク冒険者のパーティーでも苦戦する危険種だ。その上、こんな街道近くに現れること自体が異常だった。
護衛騎士たちは周囲を警戒しながら、残された死骸を調べている。
零司はというと、少し離れた場所で薬草を摘んでいた。
「ありました」
嬉しそうな声が響く。
誰も見ていないが、本人はかなり機嫌が良かった。
「この辺りの土壌でも生えるんですね」
ブラックワイバーンより薬草の方が気になるらしい。
護衛騎士たちはもう慣れ始めていた。
すると突然、調査をしていた若い騎士が大声を上げた。
「隊長!」
その声に全員が振り返る。
「どうした!」
隊長が駆け寄る。
若い騎士は、ワイバーンの尻尾を指差していた。
「これを見てください!」
尻尾の付け根付近。
黒い鱗の一部が剥がれている。
その下から現れたのは、不自然な金色の紋様だった。
魔法陣にも似た複雑な刻印。
自然にできるものではない。
明らかに人工物だった。
隊長の表情が険しくなる。
「これは……」
王都の使者たちも近付いてくる。
そして紋章を見た瞬間、顔色を変えた。
「馬鹿な」
年長の使者が思わず呟く。
「知っているんですか?」
隊長が尋ねた。
使者はしばらく黙っていたが、やがて重々しく頷いた。
「正確には知らない」
「は?」
「だが、王都の一部で研究されている禁術と似ている」
その言葉に騎士たちの顔色が変わる。
禁術。
決して良い言葉ではない。
「つまり?」
「魔物を操る技術だ」
空気が重くなる。
偶然ではない。
ブラックワイバーンは何者かによって操られ、この街道へ送り込まれた可能性が高い。
そして、その技術を扱える者は限られている。
零司は摘んだ薬草を眺めながら話を聞いていた。
そして一言。
「王都は面倒そうですね」
使者は深いため息を吐いた。
「否定できません」
⸻
調査を終えた一行は再び出発した。
王都まであと二日。
しかし馬車の中の空気は出発時とは全く違っていた。
使者たちの態度も変わっている。
盗賊の時は半信半疑だった。
ワイバーン戦で完全に認識を改めたのだ。
今では零司に対して敬語すら混ざり始めている。
零司自身は気付いていないが。
「零司殿」
年長の使者が声を掛ける。
「はい」
「一つ聞いてもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
使者は真剣な顔をしていた。
「デスビームとは何なのですか?」
馬車内が静まり返る。
護衛騎士たちも聞き耳を立てていた。
全員が気になっている。
当然だろう。
指から出る謎の光で山も魔物も消し飛ばすのだから。
零司は少し考えた。
かなり真面目に考えた。
そして答える。
「デスビームです」
沈黙。
誰も何も言えなかった。
使者は窓の外を見た。
護衛騎士たちは天井を見た。
聞いた自分たちが悪かった気がしてきた。
⸻
その日の夕方。
一行は宿場町へ到着した。
王都と地方都市を結ぶ中継地点であり、多くの旅人で賑わっている。
宿を確保し、食堂で夕食を取ることになった。
ちょうどその頃にはブラックワイバーン討伐の噂も町へ届いていた。
酒場では旅人たちが興奮気味に話している。
「聞いたか?」
「ああ」
「ブラックワイバーンが出たらしい」
「王都の使節団が討伐したとか」
護衛騎士たちは微妙な顔になった。
討伐したのは確かに同行者だ。
だが王都騎士団ではない。
薬草好きのFランク冒険者である。
説明しても誰も信じないだろう。
⸻
そんな時だった。
食堂の扉が勢いよく開く。
中へ入ってきたのは大柄な男だった。
二メートル近い巨体。
分厚い筋肉。
背中には巨大な剣。
熟練の冒険者だと一目で分かる。
店内がざわつく。
「あれは……」
「グラッドだ!」
「竜殺しのグラッド!」
有名人らしい。
男は周囲の反応を当然のように受け流しながら店内を見回す。
そして王都の使者たちの席へ向かってきた。
「王都の使節団だな?」
低い声だった。
使者たちが警戒する。
「そうだが」
グラッドはニヤリと笑った。
「面白い話を聞いてな」
その視線が零司へ向く。
「ブラックワイバーンを瞬殺した化け物がいるらしい」
零司は薬草茶を飲んでいた。
「そうなんですか」
グラッドの眉がぴくりと動く。
「お前か?」
「たぶん」
「たぶん?」
「私も見ていたわけではないので」
「いや戦っただろうが!」
思わずツッコミが飛ぶ。
店内から笑いが漏れた。
使者たちは頭を抱える。
また始まった。
グラッドは腕を組む。
そして興味深そうに零司を見つめた。
「なるほど」
その目は獲物を見つけた猛獣のようだった。
「少し付き合え」
零司は首を傾げる。
「何にですか?」
グラッドは笑った。
「力試しだ」
食堂の空気が一気に張り詰める。
誰もが知っている。
竜殺しグラッドはBランク冒険者の中でも上位の実力者だ。
そして本人はまだ気付いていない。
今、自分から災害に近付いていることに。




