第14話 私の勝ちですね
盗賊団の武器が消えた。
それは一瞬の出来事だった。
剣がない。
槍がない。
斧がない。
弓もない。
百人以上の盗賊たちは、自分の手を何度も見つめていた。
理解が追いつかない。
つい先ほどまで握っていた武器が、跡形もなく消えている。
折れたのではない。
砕けたのでもない。
消えたのだ。
存在そのものが。
◇◇◇
森を風が吹き抜ける。
誰も動かない。
誰も喋らない。
盗賊団も。
騎士団も。
冒険者たちも。
全員が零司を見ていた。
ただ一人。
指を下ろしただけの青年を。
◇◇◇
「な……」
グラドの喉が震える。
「何をした」
零司は少し考えた。
そして答える。
「デスビームです」
「違う!」
即座に叫んだ。
「そういうことじゃねぇ!」
当然である。
説明になっていない。
◇◇◇
しかし零司は本気だった。
本人の認識では、
デスビームを撃った。
武器が消えた。
以上。
説明終了である。
◇◇◇
「頭領……」
部下が震える声を出す。
「どうしますか」
グラドは答えられなかった。
どうする?
何を?
目の前の存在は人間なのか?
本当に?
◇◇◇
その時だった。
後方の盗賊が叫ぶ。
「びびるな!」
まだいた。
現実を受け入れられない者が。
「武器がなくても数はこちらが上だ!」
確かにその通りだ。
百人以上いる。
相手は一人。
普通なら勝負にならない。
◇◇◇
「やれ!」
男が叫ぶ。
十数人が飛び出した。
素手。
石。
木の棒。
あり合わせの武器。
だが数はある。
勢いもある。
◇◇◇
零司は少し困った顔をした。
「まだやるんですか」
返事はない。
盗賊たちは突撃する。
怒号を上げながら。
◇◇◇
そして。
零司はため息を吐いた。
「困りましたね」
右手を上げる。
人差し指。
いつもの構え。
◇◇◇
ガンズが目を閉じた。
レオルドも同じだった。
副官も察した。
終わりだと。
◇◇◇
黒い光。
一閃。
今度は盗賊たちの足元を薙ぐ。
ドォォォォン!!
轟音が森に響いた。
地面が抉れる。
一直線に。
まるで巨大な怪物が通ったような溝が生まれた。
幅三メートル。
深さ五メートル以上。
遥か彼方まで続いている。
◇◇◇
突撃していた盗賊たちは全員尻餅をついた。
あと一歩踏み出していたら落ちていた。
顔面蒼白。
全身汗だく。
誰も動けない。
◇◇◇
零司は首を傾げる。
「これで分かりましたか?」
優しい声だった。
だが。
その優しさが恐ろしい。
◇◇◇
沈黙。
数秒後。
最初に膝をついたのはグラドだった。
ドサッ。
巨大な身体が地面に崩れる。
◇◇◇
「降参だ」
低い声。
しかし確かな敗北宣言だった。
「頭領!?」
部下たちが叫ぶ。
グラドは振り返らない。
「勝てるわけがねぇ」
本音だった。
戦場を知る男だからこそ分かる。
相手にしてはいけない存在がいる。
目の前の青年はまさにそれだった。
◇◇◇
そして。
一人が膝をつく。
二人。
三人。
十人。
二十人。
やがて盗賊団全員が武器を捨て、地面へ座り込んだ。
完全降伏だった。
◇◇◇
静まり返る森。
零司は少し安心したように息を吐く。
「良かった」
本当にそう思っていた。
殺さずに済んだからだ。
◇◇◇
しかし。
安心できない男がいた。
カイルである。
◇◇◇
先ほどまで英雄気取りだった男爵家三男。
今は顔面蒼白だった。
理解してしまった。
全部。
◇◇◇
魔力3。
新人。
Fランク。
全部関係なかった。
目の前の男は。
そんな常識の外にいる。
◇◇◇
「そ……」
声が震える。
「そんな……」
零司が振り返る。
「どうしました?」
普通に聞いた。
その瞬間。
カイルはビクリと肩を震わせた。
◇◇◇
つい数時間前。
自分は何と言った?
足手まとい。
雑魚。
平民。
魔力3。
散々馬鹿にした。
◇◇◇
今なら分かる。
足手まといだったのは自分だ。
雑魚だったのも自分だ。
◇◇◇
副官が冷たい視線を向ける。
騎士たちも同じだった。
冒険者たちは呆れている。
誰もカイルを庇わない。
◇◇◇
すると。
ガンズがぽつりと言った。
「そういや」
嫌な予感がした。
カイルだけが。
◇◇◇
「誰かさんが言ってたな」
レオルドも笑う。
「本物の強さを見せてやる、だっけ?」
冒険者たちが吹き出した。
◇◇◇
カイルの顔が真っ赤になる。
思い出した。
全部。
自分で言った言葉だ。
◇◇◇
ガンズは追撃する。
容赦なく。
「勉強になったか?」
レオルドも頷く。
「なったな」
◇◇◇
カイルは何も言い返せなかった。
言えるはずがない。
結果が全てだった。
◇◇◇
その時。
零司が首を傾げた。
「そういえば」
全員が見る。
「盗賊討伐って終わったんですよね?」
沈黙。
◇◇◇
そして。
誰かが吹き出した。
一人。
二人。
やがて全員。
◇◇◇
命懸けの戦い。
絶望的な状況。
百人以上の盗賊団。
それを終わったんですよねで済ませる男。
◇◇◇
ガンズは笑いながら言った。
「終わったよ」
零司は頷く。
「良かったです」
心からそう思っていた。
◇◇◇
その日。
東街道を荒らしていた大盗賊団は壊滅した。
そして同時に。
カイル・フォン・レグナードの威厳もまた。
綺麗さっぱり壊滅したのだった。




