第11話 貴族様の命令
翌日。
冒険者ギルドは朝から騒がしかった。
原因は東街道の盗賊団である。
五十人以上。
武装も整っている。
放置できる規模ではなかった。
討伐隊編成のため、冒険者たちが集められていた。
「Cランク以上を優先する」
バルドが説明する。
「今回は危険だ。新人は参加禁止」
零司も素直に頷いた。
「分かりました」
すると周囲が少し安心する。
参加された方が不安だった。
◇◇◇
その時だった。
ギルドの扉が勢いよく開く。
現れたのはカイルだった。
後ろには十人ほどの護衛騎士。
全員が立派な鎧を着ている。
カイルは堂々と歩きながら言った。
「盗賊討伐の話を聞いた」
嫌な予感しかしなかった。
ガンズが顔をしかめる。
レオルドはため息を吐く。
「何の用だ」
バルドが尋ねる。
カイルは笑った。
「決まっている」
そして胸を張る。
「この私が討伐してやろう」
沈黙。
誰も拍手しない。
誰も喜ばない。
◇◇◇
カイルは気付かない。
「本来なら騎士団だけで十分だ」
偉そうに続ける。
「だが平民にも功績を分けてやろう」
ガンズの額に青筋が浮かぶ。
レオルドは止めた。
今殴ると面倒になる。
「感謝するといい」
カイルは満足そうだった。
完全に自分に酔っている。
◇◇◇
そして。
視線が零司に向いた。
「ああ、いたのか」
嫌な笑み。
「魔力3」
ギルド内が静まる。
零司は会釈した。
「どうも」
「討伐に参加したいか?」
「禁止だそうです」
「当然だ」
カイルは笑う。
「お前では足手まといだからな」
周囲の冒険者が顔を覆う。
また始まった。
◇◇◇
「ちなみに」
カイルは続ける。
「聞いたぞ」
「何をです?」
「山を消したらしいな」
ギルド内が静まる。
零司は頷く。
「たぶん」
「ははは!」
カイルは大笑いした。
「まだそんな嘘をついているのか!」
誰も笑わない。
カイルだけだった。
「いい加減現実を見ろ」
「はぁ」
「魔力3だぞ?」
「そうですね」
「山を消せるわけがない」
「そうかもしれません」
零司は否定しない。
その態度がまたカイルを調子に乗らせた。
◇◇◇
「よし」
カイルは突然言った。
「決めた」
嫌な予感がする。
非常にする。
「討伐後に表彰式を開く」
誰も頼んでいない。
「盗賊団を倒した英雄としてな」
まだ倒してもいない。
「ついでに」
カイルは零司を見る。
「お前も来い」
「私ですか?」
「そうだ」
そして勝ち誇ったように笑う。
「本物の強さというものを見せてやる」
沈黙。
ギルド中が静まり返る。
ガンズは吹き出しそうになった。
レオルドは肩を震わせている。
ミリアは机に突っ伏した。
◇◇◇
なぜなら。
その場にいる全員が知っていた。
盗賊団が可哀想だと。
◇◇◇
出発の時間になる。
騎士団が整列する。
鎧が輝いている。
旗も立派だ。
町の住民たちも見送りに来ていた。
カイルは馬に乗る。
完全に英雄気分だった。
「見ていろ平民ども!」
大声で叫ぶ。
「私が町を救う!」
拍手はまばらだった。
◇◇◇
そして出発直前。
カイルはもう一度だけ振り返る。
零司へ向かって。
「魔力3」
「はい」
「勉強しておけ」
「分かりました」
零司は素直に頷いた。
カイルは満足そうに笑う。
そして騎士団を率いて街道へ向かった。
◇◇◇
その背中を見送りながら。
ガンズがぽつりと呟く。
「なぁ」
レオルドを見る。
「何だ」
「どっちが勉強することになると思う?」
レオルドは即答した。
「カイルだろ」
全員が頷いた。
そしてその頃。
東街道では。
盗賊団の頭領が不敵な笑みを浮かべていた。
まだ誰も知らない。
この討伐が。
カイル・フォン・レグナード最大の失態になることを。




