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悪役王太子に転生した俺、原作通り婚約破棄するため男爵令嬢に近づいたら、婚約者の聖女が静かに壊れ始めた  作者: おなきく


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第14話 新生徒会②

 ルチア王女から詳しい話を聞いた。

 要するに、この学園では身分の序列で生徒会の役職が決まるというしきたりらしい。

 だから、リシャール王国の王太子である俺が会長になる。

 他にリシャール王家の人間はいないとなれば、次に序列の高い他国の王女――ルチアが副会長に就くのも当然というわけだ。


「あら、そんなことが……」

「ええ。不運にも、ここ最近立て続けに二度、事故に遭いまして」


 まさか、エルフの教授が偶然作ってくれた口実を、こんなにも早く使うことになるとは。

 他国の王女に『記憶が混乱している』などと打ち明けたのが正しかったのか――今も自信はない。

 ただ、仕事もろくにこなせない無責任な奴だと思われるよりは、ずっとマシだ。


 ルチア王女はコーヒーを飲み干すと、口を開いた。


「でしたら、原稿などこちらで準備できるものは整えておきます。よろしいですね?」

「ええ、こちらからお願いしたいくらいです。むしろご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いいえ、迷惑だなんて。困った時はお互い様ですから」


 彼女がにっこりと笑った。


「ただ、時間も迫っております。手続きが滞らぬよう、委任状を作成していただけますか?」

「委任状……ですか」

「はい。もちろん明日までの限定で」


 いや、たかが学園の行事にそこまで必要なのか?

 もちろんここがただの学校ではないにせよ……。


 正直、かなり危うい話に思えた。

 本来のパトリックならいざ知らず、俺にとってはほぼ初対面の相手だ。

 そんな相手に委任状を渡すなんて。


(問題は、断る口実がないことだ)


 事故があったとはいえ、新生徒会長としてやるべきことを怠っていたのは俺だ。

 その尻拭いを、副会長であるルチア王女が自ら引き受けてくれたのだ。

 それなのに、何の権限も渡さずに『解決してくれ』では、筋が通らない。


(まんまと丸め込まれたな)


 ルチア王女がそこまで計算していたかはわからない。

 だが、俺が極めて不利な立場に追い込まれたのは事実だ。

 カトリーヌのことばかり気にするあまり、自分自身の学園生活には無頓着すぎた。

 反省しなければ。


 俺は頷いて答えた。


「わかりました。従者にすぐ書かせてお送りいたします」

「ありがとうございます。殿下の名に泥を塗らぬよう、最善を尽くします」


 果たして、ルチア王女の微笑みの裏に何が隠されているのか。

 俺は思わず唾を飲み込んだ。


 ルチア王女が王族専用の寮を出ていったあと、俺は従者に指示を出した。

 明日の始業式、入学式、新生徒会就任式――その権限に限り、ルチア王女へ委任する旨の書状を作成すること。

 そして――


「ルチア王女について、内密に調べろ」

「はっ」


 このまま見過ごすにはあまりにも後味が悪い。

 ブルーノ王国絡みで余計な問題が起き、カトリーヌの断罪イベントに影響が出ては困る。


「ああ、そうだ。お前もこの学園の出身だったな?」

「はい、左様でございます」

「……では、明日、私が具体的に何をすればいいのか教えろ」



 ◇



 従者から学園生活についてあれこれ聞いているうちに、一日が過ぎた。

 遠足前の小学生でもあるまいし、緊張のあまりろくに眠れなかった。


 従者の手を借り、体に合わせて仕立てられた制服に袖を通す。

 そして、王族専用寮の外へ出た。

 ところが寮の前には、予期せぬ人物が立っていた。


「あ、ご、ごきげんよう、殿下」

「シルヴィ嬢?」


 別に俺が呼んだわけでもないのに……。

 食事に誘うにしても、午後にするつもりだったし。


 シルヴィは朝陽にきらめく銀髪を耳にかけながら答えた。


「ご迷惑でなければ、殿下とご一緒に登校させていただきたいと思いまして……」


 おお、美少女との登校イベントか。

 シルヴィについて何も知らなければ、俺はただ浮かれていただろう。

 だが、俺は知っている。

 これが、シルヴィによるバカ王子攻略の幕開けだということを。


「あ、殿下。髪に埃がついております。私がお取りしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、そうでしたか。では、お願いします」

「はい。では失礼いたします」


 シルヴィが背伸びをし、俺に顔を近づけてきた。

 整った顔が視界いっぱいに迫ったかと思うと、そのまま俺の耳元に唇を寄せた。


「ホールまで、私がご案内できればと思いまして」


 なるほど。

 こういう形で俺の記憶の混乱につけ込む気か。

 とはいえ、こちらがわざと作った隙に、こうもあっさり入り込んでくれるなら願ったり叶ったりだ。


「ええ、よろしくお願いします。しばらくは何かとシルヴィ嬢のお世話になりそうですね」

「お、お世話だなんて。むしろ私の方こそ殿下にお世話になっているくらいです」


 実のところ、学園内の地理はすでにある程度頭に入っている。

 それでも、ここはシルヴィの意図に乗ってやるべき場面だ。

 そうでなければ、カトリーヌに俺が絶賛浮気中だと思ってもらえない。


 俺は小さく微笑み、この前のように片腕を差し出した。

 するとシルヴィはびくりと肩を震わせ、それから俺の腕にそっと手を添えた。


(まあ、登校イベントといっても数分のことだが)


 実際のところ、寮からホールまでは目と鼻の先だ。

 だが、ほんの数分でも、二人並んで歩く姿が周囲の目を引くには十分だった。

 予想通り、囁き声が上がった。

 ただ、ひとつだけ予想と違う点があった。


「くっ、シルヴィ嬢には俺が先に目をつけていたのに」

「よせ、よせ。殿下に目をつけられたいのか?」

「世の中不公平すぎる……! 俺が先に好きになったのに……!!」


 そう、男子生徒たちの反応だ。

 貴族の令息たちは、俺に嫉妬の視線を向けていた。

 まあ、あれだけ可愛ければ無理もないが……。

 シルヴィの本性を知ったら、果たして同じ反応ができるだろうか。


 ホールの前に到着した。


「ありがとう、シルヴィ嬢。ここからは生徒会の仕事があるので」

「あ、はい。私のほうこそ、道中お守りくださってありがとうございました」


 守るって、どういうことだ?

 ああ、俺の保護欲をくすぐるための台詞か。


 そう思いながら別れの挨拶をしようとした、その時――


「いい度胸ですわね!」


 突然、鋭い声が耳をつんざいた。

 俺もシルヴィも、揃って肩をびくりと震わせた。


「カトリーヌ?」

「ひいいいっ!」


 カトリーヌが大股でずんずんとこちらへ向かってくる。

 朝から俺がシルヴィと一緒にいたから、怒っているのか?

 これから、どんな修羅場が始まるのか。

 俺は思わず息を呑んだ。

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