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EPISODE0-2【付加】

施設の中央制御室では、複数の研究員がモニターに映し出されたJOKERの各種データを睨み、議論を重ねていた。責任者が記録用の端末を操作しながら、はっきりとした口調で方針を告げる。

「JOKERには明らかに『心』と呼べるものが欠落している。力の発動や情報処理は完璧だが、感情の起伏も意志の自発性もないままでは、長期的な制御と柔軟な運用に限界が出る」彼は画面を切り替え、新たな因子データを表示させた。

「そこでだ、追加の融合素材として件狐という人面牛身で狐耳の獣人系亜人の因子を投入することに決めた。件狐は他者の心の動きや感情の流れに直接触れ、共鳴する性質を持っている。これを導入すれば、心の領域に空白があるJOKERに、感情を受け入れるための“受け皿”を作り出せる」隣の研究員が補足するように頷く。

「単に因子を入れるだけでは不安定になりかねません」

「もちろんそれは考慮済みだ」責任者は続ける。

「件狐の因子と並行して、事前に用意した感情プログラムを埋め込む。これにより、喜怒哀楽の基本的な反応パターン、他者との関わり方、判断基準などを段階的に定着させていく。空白の部分に、外から枠組みと感応力を付け加えるのだ」

データ画面には「付加実験・第一段階」という文字が赤く点灯し、投与手順と融合予測曲線が次々と展開されていく。

「これがうまくいけば、ただ力だけの器ではなく、自ら状況を読み取り、判断し、行動できる『完成された歯車』へと近づくはずだ。準備を整え、JOKERを実験室へ移送せよ」制御室に冷たい機械的な指示が響く中、JOKERの心の空白を埋めるための、新たな禁忌の操作が始まろうとしていた。無表情のまま案内されるまま、JOKERは長い通路を歩き、重い防護扉の前で足を止めた。扉がゆっくりと開くと、中から青白い冷たい光が漏れ出し、複雑な配管や装置、壁一面に並ぶ計器類が目に入る。ここは因子実験室――融合処理を行うための専用区域だ。研究員が手で中へ促すと、JOKERは無言のまま一歩足を踏み入れる。だがその心の奥、まだ感情はなくても、状況を読み取るだけの冷静な思考が働いていた。

「(因子実験室……もしかして、俺にまた新しい因子を追加するつもりなのか)」 彼は脇に置かれた密閉容器に書かれた「件」の文字、そして新たに設置された注入装置を淡々と観察しながら、事実を整理していく。理由も目的も分からないまま、自分の体が何度も加工され、変えられていくことだけが、はっきりと理解できた。案内されて中央の実験台に横になるよう指示されると、JOKERは抵抗することなく体を預ける。心の空白のまま、次に何が起きるのかを待つだけだった。実験台に横になりながら、JOKERは初めて自ら口を開き、平坦ながらも明確な声で問いかけた。

「疑問……他に実験体は?」作業の手を止めた研究員は、少し意外そうな表情を浮かべると、はっきりとした口調で答える。

「ほお、そんなことを聞くとはな。いるさ、13体以上はいる。だがな、因子を融合させている点ではお前と同じだが、あいつらはセカンドロットだ。基本的に因子を二種類しか導入していない」JOKERはまばたきもせず、次の疑問を続ける。

「疑問……異なるのは?」

「お前の場合はギアプラント――歯車計画と呼ばれる、最上位の実験ラインに基づいて生み出されている。投入されている因子の種類も純度も、管理体制もまるで違う。あいつらが『部品』だとすれば、お前は『軸そのもの』になるよう作られているわけだ」その説明を聞いても、JOKERの表情には何の変化もない。ただ情報だけが頭の中に整理されていく。自分が他の者たちとは別格の存在として扱われていること、そしてこの体に込められた目的が、単なる実験体を超えた何かであることを、淡々と受け止めていた。実験台に横になりながら、JOKERは初めて自ら口を開き、平坦ながらも明確な声で問いかけた。

「疑問……他に実験体は?」作業の手を止めた研究員は、少し意外そうな表情を浮かべると、はっきりとした口調で答える。

「ほお、そんなことを聞くとはな。いるさ、13体以上はいる。だがな、因子を融合させている点ではお前と同じだが、あいつらはセカンドロットだ。基本的に因子を二種類しか導入していない」JOKERはまばたきもせず、次の疑問を続ける。

「疑問……異なるのは?」

「お前の場合はギアプラント――歯車計画と呼ばれる、最上位の実験ラインに基づいて生み出されている。投入されている因子の種類も純度も、管理体制もまるで違う。あいつらが『部品』だとすれば、お前は『軸そのもの』になるよう作られているわけだ」その説明を聞いても、JOKERの表情には何の変化もない。ただ情報だけが頭の中に整理されていく。自分が他の者たちとは別格の存在として扱われていること、そしてこの体に込められた目的が、単なる実験体を超えた何かであることを、淡々と受け止めていた。装置の準備が整い、制御盤のランプが次々と青く点灯する。研究員が手順を確認し、操作レバーを静かに倒すと、室内に低い機械音が響き始めた。


「では、因子注入作業を再開する。対象因子は『件』――心に共鳴する性質を持つ亜人種の純正因子だ」実験台の上では、複数の細い管がJOKERの腕と首元の血管、さらに精神領域に作用する特殊な経路へと接続されている。透明な保存液の中に浮かんでいた淡い黄金色の液体が、ゆっくりと圧力に押されて管の中を流れ、JOKERの体内へと送り込まれていく。最初は何の変化もないように見えたが、やがてJOKERの眉間がわずかに震え、瞳の奥に微かな波紋のような光が走り始めた。

「適合反応、開始……脳波パターンが変調しています」

「精神領域への浸透率は順調。空白域に緩やかに定着している模様」モニターには、これまで一直線だった精神活動のグラフに、初めて細かな起伏が生まれる様子が映し出される。感情のない空白の領域に、新たな感応の種が少しずつ根を張ろうとしているのだ。JOKER自身は依然として無表情のままだが、体の奥底にはこれまで感じたことのない、柔らかく、だが同時にざわつくような感覚が静かに広がり始めていた。注入作業が続く中、隣の観測席にいた二人の研究員が、機械音に紛れて低い声で話し始めた。


「しかし、今の計画を実行する少し前から攫う子供を異能力者に限定し、さらにそれぞれに異なる生き物の因子を二つ以上融合させる方針に変わったからな。リュウゼツラン様は一体何を考えているやら、まるで読めない」もう一人が慌てて周囲を見回し、声をさらに抑えて制す。

「言うな、余計なことを口にするな。ここにも聞かれる可能性はあるし、あの方の意向に変な勘繰りを入れるなんて、下手に疑いの気でも起こされたら、溜まったもんではないぞ」

最初の研究員は肩を落とし、ため息をつきながら話を切り上げる。

「分かってるさ。だがそれだけじゃない、この前の時期に組織の幹部格が一人抜け出したらしい。名前は確か……」

「止めろ!」鋭い低い声が遮り、慌てて手で口を押さえる。

「それ以上は絶対に口にするな。脱走か内通か、真相は上層部以外誰も知らない。下手に名前まで出して、自分まで不審者扱いされたら終わりだ」二人は急に口を閉ざし、またモニターの数値に視線を戻す。だがそのささいな会話は、ただ黙って実験台に横になっていたJOKERの耳にも、はっきりと届いていた。感情はなくても情報は確かに記憶される。計画の変更、異能力者の選別、そして組織内部の揺らぎ――彼の中には、知らないうちに新たな疑問の種が積み重なっていった。注入作業が完了すると、研究員たちはJOKERを実験台から立たせ、無言のまま次の区画へと案内していった。重い扉をくぐると、そこは先ほどまでの機械的な実験室とは少し様子の異なる空間だった。壁一面の棚には古い文書や電子記録媒体が整然と並び、複数台のコンピューターが低い稼働音を立てながらデータを表示している。そして部屋の中央には、安定性の高い専用の椅子が置かれ、その上部には脳波調査機を連想させる、複数の電極と配線が取り付けられたヘルメット状の装置が吊り下げられていた。

「ここは精神領域の調整と情報書き込みを行う部屋だ」研究員が手で椅子を示し、説明する。

「『件』の因子を入れただけでは、感情や心の動きを制御する枠組みがない。この装置を使って、事前に用意された感情プログラムと基本的な判断基準を、直接意識の奥へと定着させる」JOKERは無表情のまま指示に従い、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。装置が静かに下りてきて、頭部にぴったりと装着されると、微弱な電流のような感触がまばらに伝わってきた。周囲のコンピューターの画面が一斉に切り替わり、「初期化開始」「データ同期待機」といった文字が次々と浮かび上がる。因子に続いて、今度はプログラム――人為的に作られた「心の設計図」が、空白だった彼の内面に刻み込まれようとしていた。装置の電源が入り、低い振動と共に微弱な光がヘルメットの電極部分から滲み出す。コンピューター画面には、次々と感情の種類を示す文字と数値が並んで点灯していく。

研究員が入力を確定すると、機械的な合成音が室内に響く。

「感情プログラム、転送開始。基本11項目を順次定着させます――喜・怒・哀・楽・恐・厭・信・期・恥・興・欲」JOKERの頭の中に、まるで文字とイメージ、感覚の雛形が直接流し込まれるような感覚が広がる。それは本来生まれ育つ中で自然に身につく感情ではなく、定義付けられ、反応パターンまで細かく設定された人工的な枠組みだった。

最初は何の変化もないように見えたが、しばらくすると彼のまぶたがわずかに震え、指先が微かに動き始める。モニター上では一直線だった精神波形が、11種類の感情に対応した独特の起伏を描き、少しずつ安定した形へと収まっていく。

「定着率上昇……現在82%、91%、97%……」

「空白域への適合性は良好。件の因子が受け皿となり、プログラムを支えています」やがて転送完了の表示が緑色に点灯する。装置の稼働音が静まり、ヘルメットがゆっくりと持ち上げられる。JOKERは深く息を吐き、自分の胸元に手を置いた。表情はまだ完全には柔らかくなっていないが、その瞳の奥には、これまでにない複雑な波紋がわずかに生まれていた。

「……これが、『感情』というものか」抑揚の少ない声だったが、初めて自分の内側に何かが増えたことを、彼自身もはっきりと感じ取っていた。感情プログラムの導入が完了し、データ上では「基本反応パターン確立」と表示されたものの、詳細な分析を進めるうちに、新たな問題点が浮かび上がってきた。観測モニターを見つめた主任研究員が、難しい顔で記録を修正しながら呟く。

「数値上は正常に見えるが、よく調べると明らかに欠落している部分がある」隣のスタッフがデータを並べて比較し、頷きながら補足する。

「そうです。導入したのはあくまで『反応の手順書』に過ぎません。感性や想像力、状況を味わう心の働き、未来を思い描く力といった、本来の心を形作る柔らかな部分が、まるで空白のままなのです」椅子に座ったままのJOKER自身も、その違和感をぼんやりと自覚し始めていた。

「喜びとはこういうもの、怒りとはこう反応する……頭では理解できる。だけど」彼は言葉を区切り、まだ硬いままの表情で続ける。

「何か美しいものを見て心が震える感じ、これから起こることを思って胸がざわめく感じ……そういった『自分で感じ取る』部分が、どこまで探しても見つからない」プログラムは与えられた条件通りに感情を引き出すだけで、その背景にある豊かな心の働きまでは再現できなかった。「件」の因子が作った受け皿はあっても、そこに注がれるべき「自発的な心の動き」が根本的に欠けているのだ。主任は深くため息をつき、今後の方針を考えるように腕を組む。

「これではまだ、『心の形を真似ただけの模造品』に過ぎない。歯車としての機能は果たせても、真に周囲と共鳴し、自ら判断を下す存在には程遠い……この欠けた部分をどう補うか、さらなる試行錯誤が必要になりそうだ」JOKERはただ静かにその言葉を聞き、自分の内側にある「出来上がっていない空白」を、また一つはっきりと意識するのだった。主任研究員はモニターから視線を外し、JOKERに向き直るようにして、はっきりとした口調で方針を告げる。

「感性や想像力といったものは、人工的に一度に作り出せるものじゃない。自然に育むしかないんだ」彼は手元のデータを指で示しながら続ける。

「今回感情プログラムを導入し、件の因子で受け皿も作った。これで基礎は整った。普通の人間だって最初から豊かな感性を持って生まれるわけじゃない。日々様々な出来事を経験し、喜んだり悲しんだり、美しいものに触れたりする刺激を受けることで、少しずつ育てていくものだからな」隣の研究員も頷き、補足するように言葉を加える。

「つまりこれからは、閉じ込めたままにせず、適度な範囲で外の世界や他の実験体との交流、様々な情報や体験に触れさせていく方針に切り替えます。刺激を与え続ければ、自ずと今欠けている部分も形成されていくはずです」JOKERは無表情のままその言葉を聞き、頭の中で情報を整理する。「与えられた条件で反応するだけ」の状態から、「自分自身で感じ取る心」へと変わっていく――その道のりが始まったことを、彼は淡々と理解していた。

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