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EPISODE0-1【目覚めと試験など】

薄暗く冷たい空気が充満する室内。壁一面には青白く光るモニターが並び、無数の数値や波形が絶え間なく流れ続けている。ここはストレンジ・プレデターが密かに運営する、地下深くの極秘実験施設だ。白い防護服を着用した研究員たちが、静かだが規則正しい足取りで通路や装置の間を行き来している。誰もが低い声で情報を交わし、それぞれの担当箇所で作業に没頭しており、緊張感に包まれた空間が施設全体を覆っていた。

「融合率は安定域に入っています」

「試料の適合反応、予測値を上回る数値を示しています」

「ネームレス由来の因子も完全に馴染み始めました」断片的な報告の声があちこちから漏れ、中央部に設置された大型の培養カプセル群へと視線が集まる。それぞれのガラス壁の内側には、透明な保存液の中で静かに浮かぶ小さな人影が一つずつ収められている。彼らはかつて各地から攫われた子供たち――純粋な素地として選ばれ、禁忌の因子融合実験を受ける器となった存在たちだ。その中でも、最も奥に位置する特別なカプセル。内部の液体がわずかに波立ち、青白い光が内側から強まり始める。モニターに表示される生命反応の曲線が、ゆっくりと、だけど確かに上昇していく。研究員の一人がデータを確認し、小さく息を呑んだ。

「……来た。最初の『正規歯車』が、目覚めようとしている」冷たい施設の中で、一つの新たな命――いや、一つの新たな力が、長い眠りの底からゆっくりとまぶたを開こうとしていた。カプセルの内部で、透明な液体がゆっくりと対流を描き始める。閉ざされていたまぶたがかすかに震え、長い眠りの淵から意識が浮かび上がるように、一人の少年がゆっくりと瞳を開いた。焦点の定まらない視界の先には、青白い照明と機械の配線、そして外から自分を見下ろす人影たちの輪郭が映る。体はまだ重く、手足を動かす感覚も曖昧だが、胸の奥底には不思議な熱と力の脈動が静かに流れているのを感じていた。外側では研究員がデータ端末を操作し、次々と数値を読み取りながら、はっきりとした口調で記録を告げる。

「融合率98%、生命反応安定、各因子の適合性も基準値を大幅に上回っている……こいつのコードネームはJOKERにする」端末に「JOKER」という文字が打ち込まれ、赤い識別マークが画面に点灯する。

「予定通り、最初の『正規歯車』として完成した存在だ。これからすべての基準となる試験体として扱う」カプセルのガラスがゆっくりと横に開き、内部の液体が排出され始める。冷たい空気が肌に触れる中、少年――コードネームJOKERは、何も知らないまま、この世界での新たな、過酷な始まりを迎えていた。少年の入っていたカプセルの両脇から奥へと続く棚には、同じ規格の大型培養カプセルが等間隔に並んでいた。それぞれの上部には金属製のプレートが取り付けられ、明瞭な文字と数字が刻まれている。

0、1、2、3……10、11

0番から11番まで、計12基が一列に整然と並び、それぞれの内部では保存液がゆっくりと循環し、中に収められた人影がまだ深い眠りについている様子が透けて見える。そして、その列の最後――少しだけ間隔を空けて設置された、他よりも一回り大きな特別なカプセル。そのプレートには、他とは異なる文字がくっきりと浮かんでいた。EX、研究員たちの視線が、そのカプセルに一瞬だけ重なる。

「0番から11番までが、予定された基本ライン……それぞれに役割を割り当てるための予備体だ」

「だが問題はあのEXだ。試算上の理論値を超える因子量を投入している。起動タイミングも安定性も、他とはまったく別の基準で管理する必要がある」JOKERと名付けられた少年は、まだ体の感覚を取り戻す最中でありながら、隣り合うカプセルたちの存在をなんとなく感じ取っていた。同じようにここに収められ、同じ運命を背負う者たちが並んでいること、そして一番奥にある「EX」という未知の刻印が、施設全体に秘められたさらなる重みを示しているように思えた。12の基本、そして1つの例外――この実験計画の全容が、少しずつ姿を現し始めていた。カプセルから出され、簡単な検査台に横になった少年――コードネームJOKERの顔には、まったく何の表情も浮かんでいなかった。喜びも恐怖も不安も疑問も、それらしき色がまぶたの奥や口元に微かにさえ現れず、まるで心そのものが空白のまま凍りついているかのようだ。研究員が各種反応テストを行い、光を見せ、音を響かせ、わざと鋭い刺激を与えてみても、少年の瞳はただ無機質にそれらを映すだけで、感情の揺らぎを示す兆候は一切ない。データを睨んだ責任者が、低い声でため息交じりに呟く。

「……感情が完全に欠落してしまったか。理論上は精神への負荷を減らすための一時的な抑制だったはずだが、融合の影響で定着してしまったらしい」隣の研究員も眉をひそめて応じる。

「これは問題だな。『器』としての性能は完璧でも、感情がなければ力の調整ができない。歯車としての柔軟な連動も難しくなる」少年は二人の会話を聞いているはずなのに、まるで意味のない雑音が流れているだけのように、無表情のままじっと天井を見つめ続けている。

「様子を見るしかない。このまま定着するのか、それとも時間と共に戻るのか……これからの観察が鍵になる」冷たい施設の中、力だけが完成し、心だけが空白のまま残された最初の歯車――JOKERの運命が、こうしてさらに複雑な方向へと動き始めたのだった。検査が一通り終わると、JOKERは担架に乗せられ、施設内の居住区画へと運ばれていった。

通路を進む途中、左右の扉には番号札が掲げられているのが見える。0番室、1番室、2番室…… 順番に並び、最後には他より広く頑丈な造りの扉にEXの文字が記されていた。

それぞれの部屋は外から見れば同じような無機質な空間だ。ベッドと最低限の設備だけが置かれ、壁には常に状態を監視するセンサーが埋め込まれている。

「0から11番まで、そしてEXも同じ基準で収容する。それぞれの体調と精神状態を24時間体制で追跡しろ」

指示に従い、JOKERは専用の一室へと案内され、ベッドに横になるよう促された。彼は無言のまま、ただ言われる通りに体を動かすだけで、何の抵抗も疑問も示さない。扉が閉まり、施錠される音が響く。こうして最初に目覚めたJOKERも、まだ眠り続けている他の12体も、それぞれの部屋で隔離され、外部と完全に遮断された生活が始まった。それぞれが「歯車」として育てられるためだけの空間――感情のないJOKERにとっては、そこが新たな世界のすべてになったのだった。無機質な部屋のベッドに横になったまま、JOKERはゆっくりとまぶたを閉じ、頭の奥に残る断片的な感覚を辿ろうとする。感情はなくても、意識の底にはぼんやりとした映像と感覚が浮かんでは消える。

「……俺、確か」声に出す言葉も平坦で抑揚がなく、まるで他人の記憶を読み上げるかのようだ。

「夜だった。外に出ていたら、突然何かに包まれて……息ができなくなって、視界が真っ暗になった。攫われたんだ、きっと」そこから先の記憶はぽっかりと穴が開いたように空白になっている。何をされたのか、どれくらい時間が経ったのか、自分が今どこにいるのか――それらの答えは何一つ浮かんでこない。

「次に気がついたら、あの冷たい液体の中に浮かんでいて、こうなってた」瞳を開け、天井の無地の壁を見つめる。怒りも悲しみも恐怖も湧かない。ただ事実だけが淡々と頭に刻まれていく。

「名前も……自分が何者だったのかも、思い出せない。残っているのは『攫われた』という一点だけか」彼はゆっくりと自分の手を見つめる。普通の少年のような手だが、その奥底には見えない力が静かに脈打っているのを、はっきりと感じ取っていた。記憶の空白、感情の空白、そして見知らぬ力――JOKERの中にあるのは、これから始まる未知の運命だけだった。翌日、施設内に設けられた防護壁に囲まれた広い試験場へ、JOKERは連れてこられた。床と壁には魔力吸収用の特殊な紋様が刻まれ、観測用のガラス張りの観覧室からは研究員たちが一斉に視線を注いでいる。対戦相手として、鉄格子の扉が開き、唸り声を上げながら合成獣キメラが現れた。複数の獣の体を繋ぎ合わせ、凶暴性だけを高めた実験用の魔物だ。

「戦闘テスト、開始!」合図と同時にキメラが飛びかかってくる。だがJOKERは微動だにせず、無表情のまま瞳の奥に淡い光が走る。頭の中では自動的に情報が整理されていく。

「殲滅開始――因子情報把握。スターヴァンパイアの吸血再生、ムー大陸由来の生命力、そして……ネームレスの根源因子」次の瞬間、JOKERの背中側の空間が歪み、暗い光を帯びた無数の触手が瞬く間に伸び出した。まるで体の一部のように自在に形を変え、速度も威力も計り知れない。

「ならば、制圧完了」言葉が終わるか終わらないうちに、触手は一直線にキメラの体を貫き、動きを封じると、一瞬で力を奪い取るように収束していった。騒々しかった試験場は、あっという間に静けさに包まれる。観測室からは驚きと興奮の声が漏れる。

「反応速度0.2秒以内、適合率100%!」

「ネームレス因子が完全に制御されている。感情がない分、余計なブレが一切ない」JOKERはその場に立ったまま、何事もなかったかのように手を下ろし、また無表情な瞳で前方を見つめていた。力だけが完璧に発揮され、心は依然として空白のまま――これが最初の歯車の実力だった。戦闘テストが終了し、JOKERは案内されるままに試験場の扉をくぐって外へ出た。通路には他の実験体たちも待機していた。0番から11番までの番号札を付けた少年や少女たちが、それぞれ周囲を好奇や不安、あるいは緊張の色で見渡している。中にはJOKERの姿に気づき、声をかけようとする者さえいた。だがJOKERはそれらの視線や気配にまるで関心を示さない。表情は相変わらず平板で、瞳には何の波立ちもない。誰かが呼びかけても耳に入っていないかのように無視し、ただ定められた自分の部屋の方向へと無駄のない足取りで歩いていく。

「おい……」

「あれが最初に目覚めたJOKERらしいよ」

「全然感情がないみたいだ」背後から囁き交わす声が追ってくるが、彼の歩調が乱れることはない。まっすぐ自分の部屋の前に立つと、扉が自動的に開くのを待ち、中に入るなりすぐに閉まり、施錠される音が響いた。他の実験体たちは互いに顔を見合わせ、戸惑ったように眉をひそめる。一方、室内に入ったJOKERはベッドに腰を下ろし、再びただ天井を無言で見つめるだけだった。同じ境遇にあるはずの仲間たちとも心を通わせることなく、彼は依然として孤独な空白の中に閉じこもっていた。部屋に閉じこもったJOKERは、ベッドの上で自分の手のひらをじっと見つめながら、心の中でぽつりと言葉を紡ぐ。声は相変わらず平坦で抑揚がなく、疑問というよりも、単なる事実の確認のようだ。

「俺って……そんなに変なのか」通路で他の者たちが自分を見る目、囁く声が思い出される。彼らのように驚いたり、恐れたり、話しかけようとしたりする気持ちが、自分にはまったく湧いてこない。何が普通で、何が異常なのか、基準すら分からない。

「分からない……何もかも分からない」感情がない代わりに、疑問だけが頭の中を淡く巡る。なぜ自分だけこんな風なのか、これから何をさせられるのか、自分は一体何者なのか――答えのない問いが、空白の心の中でただ繰り返されるだけだった。彼は体を横に倒し、再び無表情で天井を見上げる。自分の存在が何を意味するのか、その答えを探す術すら、今の彼には与えられていなかった。試験場へ向かう通路の片隅、他の実験体たちの待機エリアで、三人の少年少女がさっきの光景を思い返しながら話し合っていた。最初に口を開いたのはノインこと久美子だ。両腕を組み、少し首を傾げながら遠くJOKERの部屋の方を見やる。

「ジョーカーって呼ばれてる子……なんだかほっとけない感じがするなぁ〜」隣に立つアインスこと与太郎は、その言葉を聞いて目を丸くし、はっきりとした口調で応じる。

「クミがそんなこと言うなんて珍しいな。いつもは何かと猫をかぶるか、逆にヤンキーみたいにガラの悪い絡み方しかしないくせに」彼の隣でツェーンは黙って頷きながら、冷静に状況を補足するように呟く。

「確かに変わってる。表情も声もまったく抑揚がなくて、まるで心が抜け落ちた人形みたいだった。だけど……あの戦いぶりを見る限り、力だけは俺たちとは比べものにならないほど圧倒的だった」久美子は唇を軽く噛み、まだどこか引っかかるような目つきで言葉を続ける。

「それが余計に気になるのよ。強いのに何も感じてないなんて、まるで何か大事なものを無理やり閉じ込められてるみたいじゃない?」与太郎は腕を組んで考え込み、低く唸るように答える。

「だとしても、俺たち自身もここに閉じ込められた実験体に過ぎない。下手に関わって目をつけられたら、次の標的が俺たちになるかもしれないぞ」三人の間に、好奇心と不安、そして同じ境遇ゆえの共感が入り混じった空気が流れていた。遠くの廊下から研究員の足音が近づいてくるのを感じると、彼らは口を閉じ、それぞれの定位置に戻りながら、心の奥ではJOKERの存在を強く意識し始めていた。

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