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EPISODE3-8【選択】

路地裏に展開された戦闘の最中、レイトキは迫り来る追っ手の一団を薙ぎ払い、刀の切っ先を地面に突き立てるように構え直す。額には一筋の汗が伝い、苛立ちを隠せない。

「クソッ、いつまでも追いかけて来やがる…! 休む暇も与えないつもりか!」ストレンジ・プレデターの追手たちは次から次へと現れ、息をつく隙も与えず襲いかかってくる。正規品の離反、アハトの決別、そしてメルトキアへの旅立ちを前に——彼らはレイトキの動きを封じ、この地で始末しようと躍起になっているのだ。レイトキはトーフーとボーフーを構え直し、瞳に鋭い決意を宿す。

「だが、俺は逃げない。俺が逃げたら、みんなが危なくなる。ここで、この場で——全部受け止めてやる!」

追手の一人が刃を振り上げ襲いかかる——その瞬間、レイトキは口を開き、新たに得た力を呼び覚ます。

「ならば——響け!ドーーーッ!!」一つの音階が声となって迸り、衝撃波となって襲い手を弾き飛ばす。七色の光が彼の周囲を駆け巡り、譜技が初めて実戦の力として炸裂したのだった。レイトキの放った一音が衝撃波となって炸裂——ストレンジの追っ手たちは、まさに防ぐ術もなく、まるで木の葉のように一斉に吹き飛ばされた。

「な、なんだこの衝撃は…!」「声だと…! 声が力になっているのか!?」追手たちは壁や地面に叩きつけられ、武器もろとも弾き飛ばされ、立ち上がることすらままならない。七色の光の波動が路地裏を駆け巡り、その場の空気すらも一掃するかのようだ。レイトキは刀を構えたまま、荒い息を整えながら呟く。

「譜技…。これが、声を力に変えるということか…。まだ一音だけなのに、これほどの威力があるなんて…」その圧倒的な力の前に、追っ手たちは完全に戦意を喪失。レイトキが一歩踏み出すと、彼らはただ怯え、後ずさるばかりだった。

「俺は行く。メルトキアへ——誰にも邪魔させない」彼の声は、もはや単なる声ではない。それは力であり、意志であり、新たなる技の始まりの調べだった。追っ手たちはレイトキの圧倒的な力に戦慄し、ただちに撤退していった。路地裏には静寂が戻る——だが、その静寂は温かいものではなかった。


物陰や窓の向こうから、住民たちが怯え、眉をひそめながらレイトキを見つめている。その視線には不信感が混ざり、ひそひそとした声が漏れてくる。

「この街にアイツが来てから、こんなに騒ぎが起きて、建物も壊れて…実害ばっかり出てるじゃないか」「アイツ、ただの亜人でもないらしいぞ。今までの亜人とは全然違うんだろう。何か、もっと得体の知れないモノなんだって…」「いつかこの街そのものが…アイツのせいで消えちまうんじゃないのか?」レイトキはその言葉を一つ一つはっきりと聞いてしまい、肩の力がスッと抜けるように沈む。手の中の刀が急に重く感じられ、自分の放った力が、守るはずの人々を逆に遠ざけていることを痛感する。

「……俺は、何を守ってるんだろうな」胸の奥がチクリと痛む。力を持てば持つほど、守りたいものとの距離が開いてしまう——その現実が、彼に重くのしかかった。レイトキは重い足取りでクロノギア事務所の扉を開ける。中からは久美子、星玲奈、リジェが笑顔で駆け出してくる。


「おかえり、レイ!」だが、レイトキが顔を上げたとき、三人の笑顔は一瞬曇る。そこにはいつもの力強い輝きはなく、町の住民の言葉が刺さったまま、沈んだ瞳があった。

「レイ…?」久美子はすぐに異変に気づき、駆け寄って腕に触れる。

「どうしたの? 何かあったの? 追っ手は…大丈夫だったよね?」

「追っ手は…大丈夫だ」レイトキは声が掠れ、そっと視線を逸らす。

「だがな…俺が戦うたびに、この街が傷ついてる。俺が来てから騒ぎが増えて、建物も壊れて、住民たちは俺のせいだって…言うんだ」星玲奈も心配そうに眉を寄せる。

「そんな…レイは悪くないのに。ストレンジが悪いのに…」

「それでも、俺がいるから狙われるんだ。俺がヒュージノイドで、普通の人間じゃないから…得体が知れないから、怖がられるんだ」レイトキは拳を強く握り締める。

「俺は何のために戦ってるんだろう。守りたい人たちに、俺自身が怖がられてるなんて…」リジェがそっと背中に手を置き、静かに告げる。

「レイ…それでも、あなたがいなければ、もっと多くの人が傷ついてた。住民たちは今は怖がってるかもしれない。だけど、いつか分かってくれる日が来る。それまで、自分を責めないで」久美子は正面からレイトキの手を両手で包み込み、真っ直ぐに見つめる。

「ワタシたちは、レイのことをちゃんと知ってる。優しくて、誰よりも強くて、誰かのために戦える人だって。だから、レイが自分を嫌いにならないで。ワタシたちは、どんなレイでも信じてるから」レイトキは三人の温かさに包まれ、少しだけ肩の力が抜ける。それでもまだ胸の痛みは消えない——だが、一人ではないことを、はっきりと感じていた。星玲奈は瞳を潤ませながら、はっきりと声を上げる。


「っていうか、そんなこと言う人たち、酷いよ! 亜人だって色々いるのに、レイだけをそんな風に言うなんて! もともと亜人だって人間とは違う存在なのに、それでも手を取り合って生きてる人たちだっていっぱいいるじゃない!」彼女は一歩前に出て、言葉を続ける。

「レイは確かに今までの人類とは違う部分がある。だけど、だからって容姿や種族、持ってる力で差別するなんて——そんなの絶対に許せない! レイは何も悪くない! 誰よりも優しくて、誰よりもこの街の人たちを守ろうとしてくれてるのに!」星玲奈の言葉は、怒りと同時にレイトキへの深い信頼と愛情に満ちている。

「星玲奈…」レイトキはその真っ直ぐな想いに胸を打たれ、言葉が詰まる

久美子も強く頷く。

「そうだよ。見た目や種族、力だけで人を判断するなんて、間違ってる。レイがどんな存在になろうと、レイはレイだ。ワタシたちの大切な人に変わりはない」リジェも静かに同意する。

「力が怖いのは分かる。だけど、その力を何のために使うのか——それが一番大事なのに、彼らはそれを見ようとしていないだけなんだ」星玲奈はレイトキの手を強く握り、真っ直ぐな瞳で告げる。

「だから、自分を責めないで。レイのことをちゃんと見てくれてる人だって、絶対にいる。それに——ワタシたちがいるじゃない。私たちは、どんなレイでも愛してるよ」レイトキは三人の想いに包まれ、少しだけ涙ぐみながら頷く。

「…ありがとう。俺、俺自身を信じてみる。俺の信じる道を、これからも進んでいく」EPISODE3-8【選択】 続


翌朝、クロノギア事務所ではレイトキの置かれた状況が報告され、議論が交わされていた。住民たちの偏見と冷たい視線——それを聞いた与太郎は、拳を机に叩きつけんばかりに怒りを露わにする。


「なんだと!? そりゃ酷い! まったく筋が通ってない! 確かにレイトキは今までの亜人とは違うかもしれない、だからってそこまで言うか! それどころか——ソイツラ、自分たちと異なる種族と手を取り合ってきたんじゃないのか!? その歴史も忘れて、ただ違うというだけで拒絶するなんて、あんまりだ!」その時——、事務所の空気がふわりと揺らぎ、どこからともなく少女の声が響いてきた。

「そうよね…。本当に、悲しいことだよね。手を取り合っていたかと思えば、使う力が違う、体の作りが違う、容姿が違う——それだけで偏見を向けられる。結局、何も変わってないのかもしれないね」一同が声の主に目を向けると、そこには黒髪の少女——ドネイターが、いつの間にか佇んでいた。衆生解放戦線の一員であり、ゼロトキと共に行動する彼女が、何故ここに——。レイトキは即座に身構え、刀の柄に手を掛け、鋭く問いかける。

「お前は誰だ? どうやってここに入った? 何の用だ?」ドネイターは敵意を見せず、ただ静かにレイトキを見つめ返す。その瞳には、レイトキと同じように「違う存在」として生きてきた者だけが知る、深い諦念と哀しみが滲んでいた。

「ボクはドネイター。別に戦いに来たわけじゃない。ただ…君の状況を聞いて、他人事じゃないと思っただけさ。君が今感じてる痛み、理不尽さ——それがどれほどのものか、ボクはよく知ってるからね」ドネイターは瞳に強い決意と憤りを宿し、はっきりと告げる。


「やっぱり人間って身勝手だ。そして、それに同調する亜人も同罪だ! レイトキ、我々衆生解放戦線に入らないか? ボクたちはそんな差別や偏見をなくすために——人間や人間に与する亜人を全員消すことを目的にしているんだ」


その言葉は、彼女たちの根本的な思想を赤裸々に示すものだった。「違う」というだけで排除される理不尽さを憎み、その根源である人間社会とそれに追従する者たちを全て滅ぼすことで、真の平等を実現しようというのだ。


与太郎は即座に反論する。

「それは違う! 差別は許せない。だけど、だからといって無関係な人まで殺すなんて——それじゃあ、お前たちもやってることは同じだ!」


ドネイターは動じず、冷ややかに応える。

「同じ? 違うよ。彼らは生まれつきの性質や力で差別する。ボクたちは、その歪んだ世界を正すために必要なことをしてるだけだ。犠牲は出る。だけど、それが全ての種族が平等になるための代償なら、安いものだ」


レイトキは刀を握り締め、彼女の思想を正面から受け止め、そして拒絶する。


「それは違う。誰かを殺すことで、誰も幸せになれない。差別は悪い。だけど、それを暴力で覆い隠すのは、結局は同じことの繰り返しだ。俺は——俺たちは、誰も犠牲にしない世界を目指している。お前たちのやり方には、ついていけない」ドネイターは一瞬沈黙し、レイトキの瞳をじっと見つめる。

「……そう。なら、仕方ない。だけどレイトキ、君がいつかこの世界の理不尽に絶望する日が来たら——その時はいつでも来ていい。ボクたちは、その時まで待ってるから」そう言い残すと、彼女は来た時と同じように、ふわりと気配を消して去っていった。事務所には、重い選択の余韻だけが残されたのだった。レイトキの脳裏に、街の人々の心無い声が鮮明に蘇り、駆け巡る。


『アイツは危険だ』

『今までの者とは違う!』

『アイツが来て平穏が崩れた』


一つ一つの言葉が棘のように胸に刺さり、息が詰まりそうになる。自分が何をした? 何も悪いことをしていない、ただ守りたいだけなのに——それが裏目に出て、自分の存在そのものが「悪いもの」として扱われる。


「……違う、俺は何も変わってない。俺は俺だ」


だが声は震え、拳は力強く握り締められる。ドネイターの言葉が頭の中で響く——「人間は身勝手だ」「差別をなくすために全員消す」。その極端な思想が、今のレイトキの心に鋭く突き刺さる。


「俺がいるから平穏が崩れた…? 俺がいなければ、みんなは幸せなのか…?」


その瞬間、胸の奥から強い迷いが湧き上がる。自分の存在意義、このまま戦い続ける意味——全てが揺らぎ始める。久美子がすぐに駆け寄り、レイトキの手を強く握りしめる。

「レイ、違う! そんなことない! レイがいたから助かった人がいっぱいいる! レイがいるからこそ、この街は守られてるの! 自分を責めないで!」星玲奈も肩を抱き寄せ、涙ぐみながら告げる。

「そうだよ。一部の人の声が全部じゃない。レイのことをちゃんと見てくれてる人も、ちゃんといる。それに——私たちがいるじゃない」リジェも静かに背中に手を置く。

「レイ、君の価値は他人が決めるものじゃない。君自身が決めるんだ。君が信じる道を、俺たちはいつでも一緒に歩いてくれる」与太郎も拳を固め、はっきりと言う。

「俺もそう思う。レイトキ、お前は悪くない。悪いのは、表面だけ見て勝手に判断する連中だ。俺はお前の味方だ。絶対に離れたりしない!」仲間たちの温かい言葉が、凍りつきかけた心を溶かしていく。レイトキはゆっくりと顔を上げ、瞳に再び強い光が宿る。

「……ありがとう。みんな。俺、俺は俺の道を行く。誰が何と言おうと、俺は誰も犠牲にしない世界を目指す。それが俺の答えだから」そう、ドネイターの道でもなく、街の人々の偏見に従うのでもなく——自分自身の心が選ぶ道を。レイトキは再び決意を固め、メルトキアへの旅立ちへ、一歩を踏み出すのだった。だが、胸の奥から冷たい囁きが湧き上がり、脳裏に繰り返し響く。


「仲間…、本当にソイツラは裏切らない保証がどこにある…? お前はヒュージノイドだ。そして、ほかの奴らは亜人や混因人だ。種族も、成り立ちも、お前とは根本的に違う。同じ人間じゃないんだぞ」


その声は、自分自身の不安が形になったかのように、レイトキの心を抉る。街の人々の拒絶、ドネイターの思想、自分だけが異質であるという事実——それらが重なり、仲間との絆さえも疑い始めてしまう。


「違う…、そんなことはない…」


レイトキは手で耳を塞ぎ、頭を振る。だが声は消えない。


「違うと言い切れるのか? 今は優しくしてくれても、いつかお前が『危険』だと判断されたら——彼らも手のひらを返すかもしれない。お前は誰とも同じじゃない。誰とも分かり合えない存在なんだ」


その言葉は、最も深い部分に眠っていた孤独感を呼び起こす。自分がヒュージノイドであること、人間でも亜人でもない存在であること——それが、仲間たちとの間にも見えない壁を作っているのではないか、と。


その時、久美子がそっとレイトキの手を取り、耳元ではっきりと囁いた。


「種族が違っても、心は同じだよ。レイが何者であろうと、私たちが見てるのは『レイトキ』という人なの。それ以外の何ものでもない」


星玲奈も隣から腕を回し、強く頷く。

「そうだよ。ヒュージノイドだからとか、そんなの関係ない。私たちはレイが好きで一緒にいるの。それだけのことだよ」リジェも静かに言葉を添える。

「違うからこそ、分かり合える。同じじゃないからこそ、補い合える。それが仲間ってものじゃないか」温かい声が冷たい囁きをかき消していく。レイトキはゆっくりと目を開け、三人の顔を見つめる。

「……ありがとう。俺、また迷ってた。自分の存在が、仲間たちを遠ざけるんじゃないかって。でも、違ったな。俺が俺であるからこそ、俺たちは出会えたんだ」彼は自分自身に、そして仲間たちに誓うように、はっきりと告げる。

「俺は俺の道を行く。誰が何と言おうと、俺は俺の信じる絆を守る。種族の違いなんて、関係ない。心で繋がっていれば——それで十分だ」冷たい声は完全に消え、レイトキの瞳には再び、揺るぎない光が宿った。与太郎は胸の内の怒りを抑えきれず、勢いよく事務所の出口へと歩みを進める。

「俺、今回の街の連中の言い分は本当に頭にきた! レイトキがどれほどこの街のために戦ってきたか、誰よりも知ってる。だから——この声明をはっきりと出してやる! レイトキの無実と、これまでの貢献、そして種族や力だけで人を判断することの愚かさを、街中に知らしめてやる!」レイトキは慌てて引き止めるように声を上げる。

「与太郎、待て! それはやめてくれ。今はまだ、そういうことをする時期じゃない。俺のことで、お前まで住民たちから嫌われる必要はない」与太郎は振り返り、真っ直ぐな瞳でレイトキを見つめ返す。

「何を言ってるんだ。レイトキが悪くないのに、なんでお前が引くんだ? 俺は事実を言うだけだ。俺たちの仲間が、どれほど誇り高く、優しいヒトか——亜人だろうがヒュージノイドだろうが、そんなの関係ない。心がどうであるか、それが全てだってことを、彼らに分からせてやる!」久美子がそっと間に入り、落ち着いた声で告げる。

「与太郎の気持ちは嬉しいよ。でも、今はまだ、それが逆効果になる可能性が高い。今はただ、自分たちの信じる道を歩み続けることが、一番の答えになるんじゃないかな」与太郎は拳を握り締め、悔しそうに唇を噛む。

「……分かった。今は我慢する。だけどな、いつか必ず、みんなが分かってくれる日が来るって信じてる。それまで、俺はレイトキの側にいる。絶対に離れたりしない!」レイトキはその言葉に胸を熱くし、静かに頷く。

「ありがとう、与太郎。俺、お前のその気持ち、絶対に無駄にしない。俺たちの絆で、いつかこの街の人たちにも、心から分かってもらえるように——俺は前に進み続ける」こうして仲間たちの強い絆が再確認され、レイトキの決意はますます固まった。そして、メルトキアへの旅立ちは、もうすぐそこまで来ている——。レイトキは事務所の窓辺に佇み、外の景色を見つめながら、静かに思考を巡らせていた。


「何が正しくて、何が間違っていたのか…」


頭の中には、街の人々の言葉、ドネイターの誘い、仲間たちの想い、自分自身の在り方——それらが渾然一体となって、答えを探し求めている。だが、どれだけ考えても、明確な答えは見つからない。


「俺は街を守ろうとしてきた。それなのに、俺のせいで平穏が崩れたと言われる。差別を憎んでいるのに、俺自身が差別の対象になっている。誰かを傷つけたくないのに、戦えば戦うほど誰かが傷つく…。一体、どこからが間違っていたんだ?」


手の中のトーフーとボーフーの刀も、今は重く冷たく感じられる。自分が信じて進んできた道は、本当に正しいのか? それとも、最初から何もかもが間違っていたのか?

「正義なんて、人の数だけあるのかもしれない…。俺が正しいと思っていることも、他人から見れば間違いなのかもしれない。だったら、俺は何を信じて進めばいいんだ?」答えは見つからない。だが、それでも立ち止まることはできない。目の前にはメルトキア、アブラムニア——自分の全てのルーツと真実が待っている場所がある。

「答えが見つからない…。だけど、考えるのをやめたら、そこで全てが終わってしまう。なら、進みながら探すしかない。俺の目で、俺の手で、正しい道を見つけてみせる」レイトキはゆっくりと刀を腰に収め、顔を上げる。まだ答えはない。だが、探し続けることこそが、今の自分にできる唯一のことだと——そう信じて、彼は次なる一歩を踏み出す決意を新たにした。帰り道、夕暮れの路地裏で、猫の獣人がレイトキの前に立ち塞がる。尖った耳はピンと立ち、尻尾は荒々しく左右に振り、瞳には明らかな敵意と苛立ちが宿っている。


「お前、よく抜け抜けとこの街を歩けるな! みんなが迷惑してるっていうのに!」


レイトキは足を止めるものの、黙ったまま視線を落とし、何も言い返さない。抗議も弁明もしない——その沈黙が、かえって獣人の怒りを煽る。


「おい! 無視か!? なんとか言ったらどうなんだ! 自分が何をしてるのか、分かってるのか!?」


レイトキはゆっくりと顔を上げ、はっきりとした口調で告げる。


「お前は、自分と異なる者を受け入れる気が最初からないんだろう? だったら、俺が何を言っても無駄だろうが。言葉なんて、心が開かれてなければ届かないからな」


その言葉は諦めでも、怒りでもない——ただ、今の現実を率直に認めただけの静かな答えだった。


猫の獣人は一瞬言葉を詰まらせ、それから更に眉を吊り上げる。

「なんだと…! 開き直ってるのか! お前みたいな得体の知れない奴がいるから、この街は安心して暮らせないんだ!」

「そう思うなら、それでいい。だが俺は、俺の信じることを続けるだけだ。お前が俺を嫌いでも、俺はお前を憎まない。それだけだ」レイトキはそれ以上言葉を重ねることなく、そっと脇を通り過ぎる。獣人は何かを叫ぼうとしたが、レイトキの背中からは一切の敵意が感じられず、ただ静かな決意だけが伝わってくるのを感じ、思わず言葉を飲み込んだ。夕暮れの道を歩きながら、レイトキは心の中で呟く。

「受け入れてもらえなくてもいい。ただ、俺は俺の道を行く。それが、俺の選択だから」猫の獣人はレイトキの背中を見送りながら、困惑しきった声で呟く。

「分かんねぇー…。あれだけ拒絶され、罵られ、疎まれたら、普通は憎しみや怒り、悲しみに飲まれるはずだ…。なのに、アイツは何も抱えてないように見える…。俺たちが拒絶しても、俺たちを憎まないなんて…どういうことなんだ?」彼の中には、怒りの奥に潜む戸惑いが広がっていた。相手を嫌い、敵視しているはずなのに、その相手からは憎しみが返ってこない。それは自分の側の偏見だけが浮き彫りになるような、居心地の悪さだった。

「あいつ…何かが違う…。俺が今まで見てきた亜人や人間とは…」レイトキの背中は遠くなっていく。その背中には怒りも絶望もなく、ただ前を向いて歩く覚悟だけがあった。猫の獣人はその姿を見て、自分の中の一方的な敵意が、少しだけ揺らぎ始めるのを感じていた——。レイトキは重い足取りながらも、自宅の扉の前に辿り着く。街の人々の心無い言葉、猫の獣人の敵意、そして自分自身の在り方への迷い——それらを胸に抱えながらも、この扉の先には自分の居場所がある、そう信じて手を伸ばす。

扉を開けると、温かな明かりが迎え、久美子、星玲奈、リジェが揃って彼を見上げる。

「おかえり、レイ」三人の声が重なる。その瞬間、外の冷たい空気も、胸の痛みも、少しだけ和らいでいく。

「ただいま…」レイトキは小さく答え、ゆっくりと靴を脱ぐ。家の中は静かで、安らぎに満ちている。ここだけは、自分が何者であろうと、ただ「レイトキ」として受け入れてくれる場所なのだ。彼は深呼吸し、心の中で誓いを新たにする——。

「俺は、俺の道を行く。誰が何と言おうと、俺が信じるもののために。この家で、この絆で、俺は前に進み続ける」こうして、メルトキアへの旅立ちを前に、レイトキの夜は更けていくのだった。

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