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EPISODE3-5【企み】

ユーカリは厳かな面持ちで、前に立つ三人の幹部たちに向けて告げる。

「カトレア、セイラン、サギソウ——行くわよ。今回は、相手を殺す気で臨んでも構わない。むしろ、その覚悟がなければ、本物の緊張感なんて得られないと思うから」カトレアは腕を組み、冷ややかに応じる。

「ふむ。殺しても構わない、と。だがユーカリ様、あのレイトキといえば既にヒュージノイドへと進化した存在。生半可な覚悟では、こちらが返り討ちに遭うだけでは?」セイランは狐の耳をピンと立て、機械仕掛けの瞳を妖しく煌めかせる。

「わたくしは構いませんわ。試されるのは、いつだって楽しいですもの。どれだけの実力か、存分に見せてもらいましょう」サギソウは白い刀の柄に指をかけ、静かに微笑む。

「面白い。命の駆け引きこそ、人を最も成長させるもの。では、行きましょう。——レイトキ、久しぶりね。今度こそ、本気で相手をさせてもらうわ」ユーカリは三人の決意を受け止め、瞳に鋭い光を宿す。

「ただし——最後の最後まで、彼らの心を折ることだけは決してするな。力で圧倒し、恐怖を与え、絶望の淵に立たせても——それでもなお立ち上がる強さを、彼らが見せるかどうか。それこそが、今回の真の目的よ」

「心得ました」三人は一斉に応え、それぞれの気配を鋭く研ぎ澄ませる。任務の名は「試練」。だがその刃は、いつでも命を奪えるほどに——冷たく、厳しく、そして残酷に研ぎ澄まされていた。ユーカリは手元に視線を落とし、新たなる存在を呼び寄せる。

「それと、新しいやつも加えましょう。来なさい、ヒヤシンス!」呼び声と共に、重々しい足音が響き渡る。現れたのは——見た目はゴリラのような屈強な体躯ながら、両腕や両脚は機械仕掛けの装甲に覆われ、関節部からは鋼の輝きが放たれる混成存在。

「ウガーー、ウホホーー!」低く唸るような声を上げ、機械の四肢を軽く鳴らす。その一挙手一投足から、生身の力と機械の剛性が融合した恐るべきパワーが感じられる。サギソウは横目で眺め、口元を歪める。

「ほう、ヒヤシンス…。生体と機械が融合した、いわばサイボーグ型の実験体といったところか。なかなかの迫力ではないか」セイランも興味深そうに機械の瞳を光らせる。

「筋力も装甲も、相当なものですわ。これならば相手の攻撃を受け止め、そのまま押し潰すことも容易でしょう」ユーカリはヒヤシンスの姿を確かめ、厳かに告げる。

「力任せで構わない。だが——彼らの前に立ちはだかり、そして、彼らがどう切り崩してくるかを見るのよ。さあ、全員——行くわよ。レイトキたちの真の実力、存分に見せてもらうわ」ユーカリが手を一つ振ると、上空から帆を張った帆船型の飛行船がゆっくりと降下してくる。白い帆には紋章が輝き、船体は流線型でありながら古風な装飾が施され、風を切るように浮かんでいる。

「乗りなさい」ユーカリが先に船へと上がり、続いてカトレア、セイラン、サギソウ、そしてヒヤシンスが重厚な足取りで船内へと移る。ヒヤシンスの機械の四肢が甲板に触れるたび、鈍い金属音が響く。飛行船は静かに上昇し、雲の上へと滑り出す。やがて眼下にはマタラシティの街並みが広がり、建物の明かりが点り始める様子が見えてくる。ユーカリは欄干に手をつき、眼下を見下ろしながら告げる。

「——ここよ。マタラシティ上空に到着したわ。あの家に、レイトキたちはいる。さあ、準備はいい? 試練の始まりよ」船はゆっくりと降下を始め、標的の上空に静かに陣取る。風が帆をなびかせ、戦いの予感が街を包み始める——。ユーカリは手を勢いよく前に突き出し、命じる。

「まずは——ヒヤシンス、行きなさい! 街で騒動を起こしなさい!」

「ウガーーー! 任せくださーい!」

ヒヤシンスは雄叫びを上げると、その巨体を躍らせ、帆船型飛行船の甲板からまっすぐ地上へと飛び降りた。風を切るような音を立てながら急降下し、機械の腕を振り上げ——マタラシティの一角に、重い地響きを伴って着地する。

「ウガァァァ!」周囲の地面が砕け、建物の窓が軋むほどの衝撃。早くも人々の悲鳴や警報のサイレンが遠くから響き始め、街は一気に緊迫の色に包まれる。ユーカリは欄干からその様子を眺め、冷ややかに呟く。

「さあ、レイトキ。これで動かないはずがないわ。あなたたちの覚悟、見せてもらうわ」ヒヤシンスは巨体を躍らせ、機械の腕を振り回して周囲の建物をなぎ倒す。壁は砕け、窓ガラスは粉々に弾け、瓦礫が路上に散乱する。土煙が舞い上がり、街中には破壊の轟音と人々の悲鳴が響き渡る。

「ウガァァァ! 出てこーい! クロノギア! 隠れてないで出てきやがれー!」機械の脚で地面を踏み鳴らし、建物の壁を拳で打ち砕きながら、レイトキたちの名を呼び上げる。その行動は単なる破壊ではなく、標的を強引に引き出すための明らかな挑発だ。住宅街の一角が瞬く間に瓦礫の山へと変わり、警報が鳴り響く中、彼らの家の方角へと向かいながら、更なる破壊を続ける——。レイトキは家を飛び出し、声を張り上げる。

「街を壊すのはやめろ! ストレンジ・プレデター! 俺たちに関係ない人たちだぞ!」眼前の巨体を見て、眉をひそめる。

「ん!? コイツ…初めて見るヤツだ。生体と機械が混ざってる…まさか実験体か!?」ローズマリーも駆けつけ、はっきりと告げる。

「ただの実験体ではないわ。ヒヤシンス——ゴリラのワービーストにZXファクターを組み込んだ個体。ユーカリ様の配下よ」

レイトキは拳を強く握り締める。

「ZXファクターを…! それを戦闘用に転用しているのか! ならば、生半可な力じゃないということだな」

「そうね。力も装甲も桁違い。だけど——彼は命令に従って動いているだけ。無闇に命を奪うことなく、その力を封じることを優先して」レイトキは頷き、前に踏み出す。

「分かった。だが、街も人も守り抜く。行くぞ!」上空の飛行船から、ユーカリが鋭い笑みを浮かべて告げる。

「出てきたわね。——行くわよ!」合図と同時に、ユーカリ、カトレア、サギソウ、セイランが一斉に欄干から飛び降りる。風を切るように舞い降り、それぞれの気配を研ぎ澄ませながら、ヒヤシンスのすぐ横に着地。

土埃が舞い上がる中、四人が整然と並び立つ。白い着物姿のサギソウ、黒い装甲の腕を持つカトレア、狐型ファンネルを浮かべるセイラン、そして中心にユーカリ——まさに最強の布陣が、レイトキたちの前に展開された。ユーカリは手を後ろに組み、挑むような瞳でレイトキを見据える。

「これで相手が揃ったわ。レイトキ、クロノギアのみんな——今回は、生半可な覚悟では済まされないわよ。」レイトキは声を張り上げ、仲間たちに的確に指示を飛ばす。

「みんな、連携を崩すな! 相手は強力だが、一糸乱れぬ動きで対処する! 誰か一人がピンチになったら、即座にカバーに入れ! それが俺たちの強さだ!」久美子、星玲奈、リジェ、アルビテト、ローズマリー——全員が即座に頷き、陣形を整える。それぞれの位置を確認し、互いの死角を補い合うように構える。

「了解! 絶対に隙は見せない!」

「誰一人取りこぼさないよ、連携で圧倒する!」

「もし危なくなったら、すぐに合図して!」レイトキはユーカリたちを真っ直ぐに見据え、刀の柄を強く握り締める。

「さあ、来い! どんな手でも受けて立つ! だが俺たちの絆は、そう簡単には壊れない!」サギソウは素早く指を組み、呪文を唱えるように低く告げる。

「呼水、降水!」瞬く間にリジェの頭上に黒い雨雲が出現し、勢いよく雨が降り注ぎ始める。だが——

「そうはいかないわ!」久美子が一歩前に出て手を広げ、風のバリアを展開。渦巻く風が雨粒を弾き返し、リジェをすっぽりと守り抜く。

「風の壁よ、彼方へ!」雨は風のバリアに当たると水滴ごと弾け、リジェには一滴も届かない。サギソウは眉を少し上げ、感心したように口元を緩める。

「ほう、即座に防御を敷くとは…。連携が既に出来上がっているということか。だが——これで終わりではないわ」リジェは久美子に感謝の視線を送り、同時に炎を纏い構え直す。

「ありがとう、クーちゃん! 次は私が援護する!」サギソウは手を素早く動かし、久美子の足元に陰陽の紋様が浮かぶ陣を展開する。

「拘束陣!」陣から鎖のような光が伸び、久美子の動きを封じようとする。だが——

「くらえーっ!」与太郎が一気に駆け寄り、渾身の一撃を陣に叩き込む。拳が紋様に激突すると、ヒビが入り、そのまま陣は砕け散った。久美子は動けるようになり、与太郎に頷く。

「ありがとう、与太郎! 隙は見せないわ!」サギソウは陣の破片を見て、瞳を細める。

「…即座に破壊されるとは。援護の連携まで、しっかりしているわね」アルビテトはサギソウの体勢の隙を捉え、声を上げる。

「今だわ、隙あり!」手に光の剣を纏わせ、渾身の一撃を振り下ろす。だがサギソウは動じず、呪文を唱えるように低く告げる。

「無限穢楔!」黒く濁った釘のような光弾が次々と放たれ、アルビテトに襲いかかる。穢れの力を帯びたその一撃が当たれば、たちまち体の自由を奪われ、力さえも封じられる——。だが、その瞬間——

「私が受け止める!」リジェが一歩前に飛び出し、炎を渦巻かせて穢れの釘を包み込む。

「ブレイジング・バリア!」灼熱の炎が黒い釘を次々と焼き尽くし、無効化していく。穢れの光は炎に溶けるように消え、跡形もなくなる。アルビテトはその場で剣を振り切り、リジェに感謝の視線を送る。

「ありがとう、リジェ! 危うく穢れに飲まれるところだったわ!」サギソウは二人の連携を見て、静かに舌を巻く。

「防御の隙間を突いたはずが、まさか炎で穢れを浄化されるとは…。息の合った連携、見事なものね」サギソウは手を大きく広げ、一気に力を込めて叫ぶ。

「ならば、これならどうだ! 拘束爆光輪!」無数の光の輪が飛び出し、レイトキたち全員を囲むように襲いかかる。輪に触れれば即座に動きを封じられ、爆発的な光に包まれる——。だが星玲奈は手を軽くかざし、光の輝きを瞳に映しながら応える。

「その光…私には、操作できるわ!」

彼女は指先で光の輪を捉えるように動かす。すると襲いかかってきた光の輪たちは、まるで従うかのように軌道を変え、互いに衝突し合い——。

「砕け散れ!」輪は一斉に輝きを失い、無数の光の粒子となって消え去った。拘束も爆発も、何も起こることなく完全に打ち消されたのだ。サギソウは目を見開き、驚きを隠せない。

「…自分の術を、相手が操って壊すだなんて。光の性質を、根本から理解しているというのか」星玲奈は冷静に告げる。

「光は、ただ輝くだけじゃない。その向き、力、性質——全てを読み取れば、制御することだってできるのよ」サギソウは両手を高く挙げ、あっさりと告げる。

「降参!」周囲の戦いの音が一瞬やみ、レイトキたちも思わず動きを止める。

「えっ…? 今、降参って…?」サギソウはそのまま手を挙げた姿勢で、笑みを浮かべて言う。

「だって、これ以上続けても勝ち目が見えないもの。雨は弾かれ、陣は砕かれ、穢れは浄化され、光輪は操られて壊される…。完全に出し抜かれたわ。これまでよ」レイトキは刀を収め、確かめるように問う。

「本当にいいのか? まだ何か隠し玉があるんじゃないのか?」

「隠し玉ねぇ…残念ながら、今回はここまで。みんなの連携が予想以上に堅く、そして一人ひとりの力が的確に噛み合っていた。それが私の術を次々と無効化した最大の理由よ」サギソウは手を下ろし、真剣な眼差しで続ける。

「ユーカリ様の命じる試練——これで十分だと思う。少なくとも、私の相手としては合格点よ。次はカトレア、セイランの番ね。油断しないで」サギソウが退いたその瞬間、空気が一変する。カトレアは黒い装甲の腕を鳴らし、重厚な足取りで前へ。セイランは狐型ファンネルを無数に展開し、冷ややかな笑みを浮かべながら久美子たちの前に立ち塞がる。

「さあ、試練はこれからよ。サギソウが相手なら、あなたたちの連携の初歩は確認できたわ。だけど——私たちは違う」カトレアの声は低く、重く響く。セイランもファンネルを滑らせながら告げる。

「フフッ、次はもっと厳しいわ。私のファンネルの攻撃は、ただ避けるだけじゃ済まないのよ」一方その場で、ユーカリだけが動かず、レイトキの正面に立つ。周囲の喧騒が遠くなるような、二人だけの空間が生まれる。

「レイトキ——他の者たちは、仲間たちの試練。だけど、あなたは私が相手よ」ユーカリは武器を持たず、ただ真っ直ぐにレイトキを見据える。その瞳には、敵意とも期待ともつかない光が宿っている。

「私は直接、力で圧倒したりはしない。だけど——言葉も、心も、全てをぶつけてくる。覚悟はできてる?」レイトキは刀の柄を握り締め、頷く。

「ああ、できてる。ユーカリ、お前が何を問い、何を試そうとしているのか——全て受け止めてみせる」こうして、二つの戦いが同時に始まった。——仲間たちはカトレア・セイランとの実力試験。そしてレイトキは、ユーカリとの、心を懸けた対峙へ。カトレアが久美子たちへと踏み出そうとした瞬間——、一筋の気配が横槍を入れるように走る。

「そうはいかないわ。あなたの相手は、この私がする」ローズマリーが一瞬で距離を詰め、カトレアの前に立ち塞がった。淡いハーブの香りを纏い、Sランクイェーガーとしての気迫を込めて告げる。

「クロノギアの面々はこれからの戦いに備えなければならない。あなたの相手は、私で十分よ」カトレアは眉を上げ、装甲の腕を軽く鳴らして応じる。

「ほう…。ユーカリ様の命を受けた援護者、といったところか。だが、それで私の進路を塞げると思うなら、甘いわよ」

「試してみればいい」ローズマリーは構えを取り、魔法と格闘の気配を同時に高める。

「マジックグラディエーターの実力——存分に味わってもらおう」その言葉により、カトレアは久美子たちの方へは向かわず、ローズマリーと対峙する形で完全に引き離された。残るセイランはファンネルを浮かべたまま、久美子たちを見据える。そしてレイトキとユーカリの対峙は、依然として静かに続いている——。ローズマリーは鋭く核心を突く。

「カトレア、正直に言いなさい。あんたがユーカリ様に従う理由は、ただ釈放された恩だけじゃないでしょ」カトレアは装甲の腕を軽く叩き、認めるように告げる。

「そうよ。私は元々、SMOの開発実験研究者だった。この職のさがは、とにかく情報を手に入れることなの。実験をするにも仮説が必要で、仮説を立てるにも情報が要る。実験を行えば新たな情報が手に入り、そして——進化するためにも、情報こそが不可欠なのよ! これほど素晴らしいことはないわ」ローズマリーはその言葉を受け止め、更に問う。

「つまり、ユーカリ様のもとにいれば、世界中の——いや、クラリトンやクリプトンにまで渡る膨大なデータ、進化の記録、ZXファクターの研究データ——それら全てが手に入ると、そういうことね」

「それも大きいわ。リュウゼツラン様のもとでは、人為的な進化も、異界の技術も、ありとあらゆる実験が行われている。その全てを間近で見、記録し、解析できる。研究者として、これ以上ない環境なのよ。恩義もある。だがそれ以上に——私は知りたいの。この世界の、そして生命の真の理を」ローズマリーは静かに頷く。

「なるほど。忠誠でも野心でもなく、『探究』そのものが目的なのね。それなら——レイトキたちと戦うことが、本当に正しい道なのか、それも考えてみなさい。彼ら自身が最高の実験体であり、生きたデータでもあるのだから」カトレアは一瞬瞳を細め、その言葉の重さを噛み締める。

「……それは、認めざるを得ないわ。だが今は——与えられた立場で、最も多くの情報を得られる道を選ぶだけよ」カトレアは装甲の腕を組み、核心的な事実を告げる。

「だが、一つ言うわよ。アカシックレコードという、ありとあらゆる情報が刻まれた膨大な記録源があるでしょう。——それを複製したのは、誰だと思う?」ローズマリーは驚き、思わず声を上げる。

「まさか!? あなたが…?」

「そう、私だよ。根源に触れ、その情報の流れそのものを複製し、情報の概念体とまでなったんだ。だけどね——情報は常に更新され続けている。だからこそ、絶えず新たな刺激、新たな事象に接し続けなければ、その情報は古び、やがて死んでしまう」彼女の瞳には、研究者としての渇望と、情報そのものと一体化した者だけが知る真実が宿っている。

「だから私は戦い、実験し、観察し続ける。全ては、この手にしたアカシックレコードの複製を、鮮やかに保ち続けるために。レイトキたちのような未知の進化、ZXファクターの可能性、クラリトンの理——それら全てが、私にとっては価値あるデータなのよ」ローズマリーはその言葉の重みを受け止め、改めて問う。

「つまり、あなたは単なる研究者でも実験体でもない。アカシックレコードの複製を持つ、歩く情報庫——それがあなたの正体だというのね」

「そういうこと。だから私は、真実を知りたい。この世界の、そして生命の全てを。それが私の存在意義だから」ローズマリーは核心を見抜き、はっきりと言い当てる。

「なるほどね。アカシックレコードの複製を、マズミ様、ユーカリ様、クラックス様、そしてリュウゼツラン様にも敢えて渡して——それぞれに思惑のまま動いてもらってるのね。あなたが言うには、面白いことが起こりそうだから、というわけでしょ」過トレアは薄く笑みを浮かべ、認めるように頷く。

「さすがに見抜かれたか。そうよ。同じ情報を与えても、それをどう解釈し、どう使い、どう未来を選ぶのか——それは人それぞれ違う。それぞれの立場、信念、欲望、理想。それらが複雑に絡み合って動き出す様子は、まさに観察するには最高の材料よ。誰が正しくて誰が間違っているのか、それすらも結果が出るまでは分からない。だからこそ、この状況は面白いの」彼女の瞳は、全てを見届けるような静かな輝きを放つ。

「リュウゼツラン様は支配と進化を、ユーカリ様は可能性と自由を、マズミ様は均衡と救済を、クラックス様は……まあ、彼なりの理を求めている。それぞれがアカシックレコードから導き出した答えで動いている。そしてレイトキたちは、その全ての予測を裏切る存在になるかもしれない——だから、この目で最後まで見届けたいのよ」ローズマリーはその言葉を受け止め、静かに告げる。

「つまり、あなたは誰の味方でもなく、ただ『真実』と『結果』だけを求めているということ。ならば——レイトキたちがその予測を超えるとき、あなたはどちらの側に立つの?」カトレアは答えを濁すように、軽く肩をすくめる。

「それは——その時になってのお楽しみよ。情報は常に更新され、状況は刻一刻と変わる。確定した未来なんて、どこにもないのだから」レイトキは二振りの刀剣——トーフーとボーフーを手に、真っ直ぐに問いかける。

「ユーカリさん、あなたは進化や可能性を見つけることを志しているんですよね。なのに、なぜストレンジ・プレデターに味方するんですか? リュウゼツランのやり方は、進化とは程遠い、ただの支配と犠牲の押し付けです」ユーカリは少しも動じず、むしろ得心がいったように告げる。

「リュウゼツラン様は私に『刺激』をくださったのよ。私は元々はボーダーコンツェルン社長令嬢という立場に置かれていた。それはもう、退屈な毎日だったわ。金と権力さえあれば、欲しいものは何でも手に入る。何でも手に入るから、何も心から欲しいものなんて無くなる。そんな日々が、どれほどつまらないと思う?」彼女は一歩前に進み、瞳に強い輝きを宿す。

「だから私は、未知なるもの、抗いがたいもの、手に入らないかもしれないもの——そういうものと向き合うことが、何よりも必要だった。リュウゼツラン様はそれを与えてくれた。だけど——それが彼の全てに従う理由には、ならないわ」レイトキは刀を構えたまま、更に問う。

「じゃあ、あなたが本当に望んでいるものは何ですか? 刺激ですか? それとも——」

「可能性よ。誰も見たことのない、新しい世界の可能性。リュウゼツランのやり方ではそれは手に入らないと、私はいつでもそう思っている。だから私は、彼の下にいながら、いつでも彼の裏をかく準備をしている。それが私の選択。そして——レイトキ、あなたがその可能性を示してくれるのなら、私はいつでも、そちら側に寝返る覚悟はできているわ」その言葉は、敵からの協力の申し出でもあり、試練の続きでもあった。レイトキは二振りの刀を構えたまま、核心を掴んだ瞳で告げる。

「なるほどね。だから——俺を始末できる戦力があっても、差し向けなかった。いや、しなかったんだ。何故なら、それをしたら全てがつまらなくなることが分かってたから。そして、マズミさんとも手を組んで、リュウゼツランの裏側で動いている——そういうことだな」ユーカリは微かに笑みを浮かべ、認めるように頷く。

「その通りよ。あなたを潰してしまえば、そこで全てが終わる。誰もが決まったレールの上を歩くだけの、退屈な世界が待っているだけ。それじゃあ、私が求めているものは何も手に入らない。可能性とは、抗い、挑み、そして時には予想外の答えを出すからこそ意味があるの」彼女の瞳には、敵意でも忠誠でもなく——期待が宿っている。

「マズミも同じよ。彼女もまた、一方的な支配では何も生まれないと知っている。だからこそ、表向きは従いながら、私たちは別の道を探し続けている。レイトキ——あなたがその道を示してくれるのなら、私たちはいつでもそちらにつく。だけど、それが見せられないのなら、私は容赦なくリュウゼツランの側に立つ。それだけのことよ」レイトキは刀の柄を強く握り返し、はっきりと応える。

「——なら、見せてみせる。俺が目指す未来、誰もが平等に可能性を持てる世界を。それが、俺の答えだ」ユーカリは真剣な面持ちで、明確な助言を告げる。


「ならば一つ助言するわ。アブラハムに関係する土地に行きなさい。アブラムニア、メルトキアにね。特に——生誕の地に向かってみなさい」

レイトキは刀を収め、その地名を反芻するように呟く。

「アブラムニア…メルトキア…。生誕の地…? そこに何があるんですか? 俺の、いや——何の生誕の地なんですか?」

「行けば分かるわ。そこはZXファクターの起源と深く結びついた場所であり、アカシックレコードの断片が最も強く残る地でもある。あなたのルーツ、そしてこの世界の真実が、そこで待っている。ただし——容易くは辿り着けない。試練も、選択も、数多く迫ってくるだろう。それでも行く覚悟があるのなら、だ」ユーカリの瞳は、単なる情報提供ではなく、次なる試練への誘いを込めている。

「これは私からの、一つの手がかり。どう使うかは、あなた次第だ。さあ——答えを見つけに行きなさい、レイトキ」 レイトキは強く頷き、二振りの刀を腰に収める。

「分かった。アブラムニア、メルトキアの生誕の地——必ず辿り着いて、真実を確かめてくる。そして、そこで見つけたものを、俺たちの未来に繋げてみせる」レイトキは言葉を噛み締め、直感的な繋がりに気づき、声を上げる。

「アブラハム…確か、聖書の人物だ。神の導きに従い、新たな地へ赴いた——そういう存在だ。そして今、ノウムカルデア勢力にも聖書に関連する名前の者たちがいる。まさか…」胸のオーブが微かに疼き、頭の中に過去の記憶が蘇る——福音書の名、トーフーとボーフーの刀剣、そしてジョンアイデルの存在。

「トーフー、ボーフー…ルカ、マタイ、マルコ、ヨハネ…。俺が研究所で見たあの資料、全てが聖書に由来していたのか! そしてアブラハム——それら全ての原点にあたる存在。だとしたら、アブラムニア、メルトキアは単なる地名じゃない。この世界の成り立ち、ZXファクターの起源、そして俺自身のルーツ——全ての核心がそこにあるってことか!」ユーカリはその閃きを認めるように、静かに頷く。

「その通り。聖書の記述は、この世界の真実を隠した『記憶の断片』でもある。アブラハムが歩んだ道、それがそのままこの世界の歴史と重なっている。ノウムカルデアが聖書の名を冠するのも、彼らがその力を継承し、利用しようとしているから。だからこそ——生誕の地には、誰もが求める真実が眠っている」レイトキは拳を強く握り締め、決意を新たにする。

「ならば行くしかない。アブラムニア、メルトキア——生誕の地へ。そこで全ての謎の答えを、この目で確かめてくる!」ユーカリは一歩踏み出し、最も核心的な存在の名を告げる。


「そして——クロノ神の双子の神、クロノジェに会うべきだよ」


レイトキはその名を聞き、胸の奥が強く鳴るのを感じる。

「クロノジェ…? クロノギア、クロノギアス…そしてクロノ神の双子…? 俺たちの名前の由来にもなっている、あの存在なのか?」


「そう。時間と歯車の理を司るクロノ神には、双子の神格が在る。それがクロノジェ——時の創造と運命の編成を担う、もう一つの核心。アブラムニア・メルトキアの生誕の地に辿り着いた先で、あなたは彼らに会わなければならない。ZXファクターの真の意味、ヒュージノイドの進化の行き着く先、そしてレイトキ自身の魂の輪廻——全ての答えは、クロノジェのもとにある」ユーカリの声は厳かで、それでいて確かな導きに満ちている。

「ただし、会うことは決して容易ではない。彼らは全ての時間を見通し、あなたの歩む道の先も、過去も、全てを知っている。だからこそ、自らの意思で選び、自らの足で辿り着かなければ、その門は開かれない。覚悟はできている?」レイトキは二振りの刀——トーフーとボーフー——を強く握り締め、瞳に決意を宿して応える。

「ああ、できている。アブラムニアへ赴き、生誕の地を踏み、そしてクロノジェに会う。俺自身の手で、この世界の真実を掴んでみせる!」ユーカリは明確な道筋を示し、はっきりと告げる。

「まずはメルトキアに向かいなさい。そしてその後、アブラムニアへ進むのよ」

レイトキはその順番を心に刻み、確認する。

「メルトキアが先、次にアブラムニア…。どちらもアブラハムの系譜に連なる土地で、生誕の地へ至る道なんだな」

「そう。メルトキアは『試練と選別の地』。そこを通過し、己の在り方を問われ、選び取った者だけが、次なるアブラムニア——『約束の地』への扉を開くことができる。順番には意味がある。飛ばすことは許されないわ」厳しくも確かな導きに、レイトキは深く頷く。

「分かった。まずメルトキアへ行き、そこで待ち受けるもの全てを受け止め、乗り越えてみせる。そしてアブラムニアへ——生誕の地へ、辿り着く」

「行くがいい。君の旅の始まりよ、レイトキ」

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