EPISODE3-4【隠れてた記憶と秘密任務】
レイトキは研究室のソファでうたた寝をしていた。瞼の裏には、次第に鮮明さを増す光景が浮かび上がる——。白い壁、無機質な照明、冷たい金属の扉。それは、彼がまだストレンジ・プレデターの管理下にあった頃の記憶だった。
『お前は実験体だ。自我など持つな。』
『私たちの命令に従ってもらう。それがお前の存在意義だ。』無表情な研究員たちの声が、冷たく響く。幼い自分が拘束され、見えない鎖に繋がれている姿——痛みも、恐怖も、感情さえも奪われ、ただ従うことだけを求められた日々。
『歯車として生まれ、歯車として使われる。お前に選択肢はない。』その言葉が、夢の中で幾度も繰り返される。息苦しさに胸が締め付けられ、レイトキは思わず身動きし——
「っ…!」はっと目を覚ます。額には汗が滲み、心臓が激しく打ち鳴らされていた。辺りはいつもの研究室。暖かな光が差し込み、先ほどの夢がまるで嘘のようだ。だが胸の奥に残る冷たい感触は、消えることなく彼を捉えて離さない。
「…そうだった。俺は最初から、誰かの道具として作られた存在だったんだ」その記憶——長い間封じられていた過去が、今、彼の心に重くのしかかってきた。レイトキは拳を強く握り締め、胸の奥から湧き上がる思いを声にする。
「だが…今は違う! 俺は自らの意思で進化したんだ! もう、あの頃のような、ただの駒には戻らない!」夢の中の冷たい声、拘束された日々——それらは過去のものだ。角と獣耳、エラ、尻尾、翼を持つヒュージノイドへと自ら進化した今、彼はもう誰の命令にも従属しない。
「俺は俺の意志で、この姿になった。誰かの道具じゃない。誰かの実験体でもない。俺が選び、俺が決め、俺が進む道——それが俺の進化だ!」過去の鎖を断ち切るように、力強く誓う。その瞳には、もはや迷いはない。ただ前だけを見据え、自らの存在意義を自らの手で掴み取る覚悟が、そこにはあった。唐突に、レイトキの脳内を圧倒的な響きの声が駆け巡る——。
「『らせん階段』…!『カブト虫』!『廃墟の街』!『イチジクのタルト』!『カブト虫』!……『ドロローサへの道』!『カブト虫』!『特異点』!『ジョット』!『天使』!『紫陽花』!『カブト虫』!『特異点』!『秘密の皇帝』!」言葉たちが断片的に、だがリズムを刻むように繰り返し響き、頭の中を衝く。同じ単語が何度も浮かんでは消え、それらが意味するものはまったく不明だが、どこか記憶の奥底に刻まれていたかのような響きを帯びている。
「っ…! なんだ、これは…! 誰だ、どこから響いてくるんだ!」レイトキは頭を押さえ、思わず身を竦める。それは夢の続きでもなく、自分自身の思考でもない——まるで別の記憶、あるいは何者かのメッセージが、直接彼の意識に流れ込んできたかのようだ。
「カブト虫…特異点…秘密の皇帝…」
繰り返される言葉の断片。それらが単なる羅列ではなく、何かの鍵——目覚めつつある自らの力、あるいは隠された運命を示す符号であることを、彼は直感する。胸のオーブが共鳴するように微かに輝き、その声は次第に鮮明さを増していく——。キキョウが静かに部屋に入り込み、真剣な面持ちで告げる。
「レイトキ、お前の名前のことだ。実は数十年前から存在していたらしいぞ。クラリトンの住民に、まったく同じ名前を持つ者が記録されている。だが——ある時を境に、忽然と消滅したと記されている」レイトキは頭の中にまだ残る断片的な声の余韻と、今の言葉が結びつき、息を呑む。
「俺と同じ名前…クラリトンで? それが消えた…?」
「詳細は不明だ。だが名前が一致するということは、単なる偶然では済まされない。お前の出自、そしてクラリトンとの関わり——そのすべてが、まだ隠されているということだ」キキョウの言葉は、レイトキ自身も知らぬ間に背負わされていた運命の重さを示していた。頭の中で響いた言葉たちも、その記憶も、名前も——すべてが繋がり始めようとしている。レイトキは言葉を噛み締めるように呟き、瞳を揺らす。
「もしかして…母さんが俺にこの名前をつけたのは、その伝説——消えた存在を超えるためだったのか…?」数十年前にクラリトンで消滅した同名の存在。それが単なる偶然ではないとしたら——名前には意味があり、託された願いがあったということになる。
「俺を、その者の代わりにするため? それとも…その者が辿った運命を、俺が塗り替えるために…?」胸のオーブが微かに疼くように輝く。母が託した名前、クラリトンの記憶、頭の中に響いた謎の言葉たち——それらが一つの線で繋がり始め、彼は自らの出生と運命の奥に、まだ誰も知らない真実が眠っていることを強く感じるのだった。キキョウは厳かな面持ちで、核心的な事実を告げる。
「そして——お前の母、キクリ。彼女は実はクラリトンの神の一体なのだ。こう考えられている。かつて存在したレイトキのコア、つまり魂は、輪廻の神の手に渡され、再びこの世に生まれ変わることになったのだ、と」レイトキは言葉を失い、ただ見つめる。
「母さんが…神…? そして俺は、かつて消えた同名の存在の魂を受け継いでいる…?」
「そうだ。名前も、力も、そして運命も——すべてが単なる偶然ではない。キクリが神であるからこそ、その輪廻の扉を開き、お前に新たな命を与えることができた。お前はただの子供でも、ただの実験体でもない。過去の記憶と魂を受け継ぎ、そして自らの意思で未来を切り開く、輪廻の申し子なのだ」胸のオーブが強く輝き、頭の中の謎の声もまた、その事実に応えるかのように鮮明になる。レイトキは拳を握りしめ、自分自身の存在の意味、そして母が託した想いの重さを、初めてはっきりと感じ取るのだった。キキョウははっきりと告げる。
「そして、お前の種族であるヒュージノイドへと進化するためには、混因人には『ZXファクター』というものが必要らしい。お前には今もそのZXファクターが宿っている。今後はクラリトン人関連の事件対処と並行して、このZXファクターの回収も任せたい。もちろん——それを使って進化させるかどうかは、個体の意思を最優先に尊重する。無理強いは決してしない」レイトキは自分の内に眠るその因子の存在を感じ、真剣に頷く。
「ZXファクター…。俺の進化も、これによるものだったのか。分かった。回収は引き受ける。そして手に入れた時、どうするかは自分で決める。それが一番だよな」自らの選択で未来を選ぶ——その覚悟が、彼の瞳に強く宿った。扉の外——そっと耳を澄ましていたリジェと久美子が、声を潜めて囁く。
「ZXファクター…。それがあれば、ワタシたちもレイと同じ種族になれるんだね」リジェの声には、希望と切なさが混ざり合う。
「レイがヒュージノイドとして新しい姿になって…離れていくようで、正直不安だった。でもこれがあれば、私たちも同じ道を選ぶことができる…」
久美子も強く頷き、瞳に決意を宿す。
「そうだ。レイだけが進化して、私たちがそのままなんてイヤだ。ZXファクター——絶対に回収して、レイと同じ未来を、同じ世界を見たい。それができるのなら、どんな試練だって受け入れる」二人の想いは一致していた。レイトキと共に在り、共に進み、共に進化すること——それが今、二人の心の中で、はっきりとした願いとなった。星玲奈も扉の陰から前に出て、はっきりと告げる。
「じゃあ、ワタシは様々な種族のデータを吸収して進化するのが良さそうね。生きている個体からは決して吸収しないわ。マーフォーク、エルフ族、精霊、魔族、竜族——そしてクラリトンのデータを、そっと取り込んでいくわ」彼女の声には確かな意思が宿る。
「それぞれの種族の良いところ、歴史や想いごと受け継いで、自分の力にしていきたいの。誰も傷つけずに、それでいてレイと同じくらい、もっと強くなって——みんなと一緒に未来を見ていたいから」レイトキはその言葉を聞き、胸が熱くなる。
「星玲奈…それがお前の選ぶ道なんだな。それぞれの進化の形があって、それでいい。だが絶対に無理はするな。俺も、みんなもお前のそばにいるから」三人の想い、それぞれの進化への道——それが今、はっきりと分かれ始めた。ユーカリとマズミのいる隠れた執務スペース。情報が届いた報告を受け、ユーカリは指先で机をなぞりながら呟く。
「レイトキたち、やはりZXファクターに目をつけたわね」マズミはすぐさま鋭い視線を向け、はっきりと言い返す。
「と言うより——アンタがキキョウに入れ知恵したんでしょ?」ユーカリは悪戯っぽく肩をすくめ、薄く笑う。
「まあね。黙っていては何も進まないし、彼らが自ら選び、動き出すきっかけが必要だったから。ZXファクターのこと、ヒュージノイドへの進化の条件——キキョウなら納得して伝えるだろうし、レイトキたちも真剣に受け止めると思って」マズミはため息をつきつつも、どこか納得したように頷く。
「結局、すべてアンタの掌の上ってわけね。まあ…リュウゼツランが進化と種族支配を狙っている以上、彼らが力をつけることは悪い話じゃない。だけど——ZXファクターが単なる進化の鍵だけじゃないことも、そのうち彼らは知ることになるわ」
「そうね。だからこそ、早く動き出して正解だった」ユーカリの瞳は真剣な輝きを帯びる。
「彼ら自身の意思で未来を掴むためにも、必要な情報は与え、選択は彼らに任せる。それが私たちの今の役目よ」ユーカリの言葉に、柔らかな声が応える。
「あらあら、ずいぶん面倒なことになってるね」
現れたのはローズマリー。穏やかな笑みを浮かべながら、状況を見守るように部屋の中へと歩み入る。ユーカリは頷き、はっきりと告げる。
「いいところに来てくれたわね、ローズマリー。君には命令をする。レイトキたちの手助けをしなさい」ローズマリーは一瞬瞳を細め、それから優しくも力強く頷く。
「任せてください。彼らが進化し、ZXファクターを探し、そして自分たちの道を切り開くその間、陰ながらしっかりと支えましょう。必要な時には手を差し伸べ、危機が訪れれば守り、そして何より——彼ら自身の選択を尊重するわ」
「それで十分よ」ユーカリは真剣な眼差しで続ける。
「リュウゼツランの野望、ストレンジの動き、そしてクラリトンの秘密…彼らはまだ知らないことばかりだ。だからこそ、君の力が必要なの。彼らが無事に成長し、そして最終的には自らの手で未来を掴めるように——導いてあげて」
「心得ました」ローズマリーは一礼し、その身に淡い香りの気配を纏わせる。
「では、彼らのもとへ向かいます。良い報せが届くことを願っていてください」クロノギア事務所の扉が静かに開き、ローズマリーが姿を現す。周囲には柔らかなハーブの香りが漂い、穏やかな笑みを浮かべながら室内を見回す。
「確か、ココで彼らは活動しているはずね」レイトキは書類から顔を上げ、真っ直ぐに問いかける。
「事務所に何の用ですか? まだ営業時間前ですが」ローズマリーはレイトキの真剣な態度に動じることなく、一歩前に出て穏やかに告げる。
「あら、そんなに堅くならないで。私はユーカリ様とマズミ様からの伝言と、それから——あなたたちの手助けをするために来た、ローズマリーと申します」レイトキは眉を少し上げ、鋭く確かめる。
「ユーカリの差し金…? ストレンジの人間が、なぜ俺たちを手助けするんですか? 信用できる理由が必要です」
「当然よ」ローズマリーは真剣な眼差しで応える。
「私はユーカリ様の命を受け、ZXファクターの回収と、あなたたちの進化を陰ながら支える役目を負ってきた。何も全てを任せきりにするのではなく、必要な時に道を示し、危機が迫れば守る——それが私の役割です。どうぞ、警戒したままでも構わない。私の行動を見て、判断してくださいな」レイトキは頷き、納得した面持ちではっきりと言う。
「まあ、ストレンジと言っても、マズミとユーカリの差し金か。確かにそうだ。ユーカリ配下のサギソウは、実力なら仲間を消そうと思えばいつでも消せるほどの力を持っていた。だが実際には、最後までそれをしなかった——そういう前例があるからな」過去の戦いを思い返し、その言葉には確かな実感が込められている。
「だから、ユーカリやマズミの意志で動くお前が、敵とは限らない。…というより、むしろ俺たちの側に立とうとしてくれてる可能性の方が高い、と俺は判断する。それでも警戒は怠らないが、協力を拒む理由はない」ローズマリーはその言葉に穏やかに微笑み、頷く。
「ありがとう。そう言ってもらえると、私も動きやすい。サギソウの行動が、こうして信頼のきっかけになったのなら、それはとても嬉しいことです。私も彼女たちと同じように、力を貸すだけでなく、あなたたちの選択を尊重し、陰から支えることを約束します」レイトキは真剣な眼差しで応える。
「こちらこそ、よろしく頼む。ZXファクターの回収も、これからの戦いも、手を貸してもらえるのなら心強い」ローズマリーは端末を取り出し、素早くメッセージを打ち込む。画面の向こうのユーカリとマズミへ、穏やかな報せが届く。
『うまく入り込むことが出来ました。レイトキ君は警戒しつつも、受け入れてくれました。これからZXファクター回収と彼らの成長を、陰ながらしっかりと支えていきます』送信を済ませ、端末を静かに閉じる。表情は穏やかだが、瞳の奥には強い決意が宿る。
「さてと…これからが本番ね。彼らが自分たちの道を迷わず進めるように、そっと道標を示してあげなくては」その背中には、ユーカリとマズミの願い、そしてレイトキたちの未来を守るという、重くも暖かな使命が託されていた。レイトキは生活面の現実的な問題を挙げ、はっきりと問いかける。
「だが、普段の生活はどうするんだ? ストレンジの任務だけ動いていても不十分だろう。活動には資金も資材も必要だし、住処だって問題になる」ローズマリーはその指摘に応えるように、明るく即座に答える。
「じゃあ——レイトキたちと同じところに住もうかしら」レイトキは一瞬きょとんとして、思わず確認する。
「え…? いや、それは構わないけど…本当にいいのか? 俺たちの家は星玲奈の家だし、久美子もリジェも一緒に住んでるんだぞ?」
「もちろんよ」ローズマリーは悪戯っぽく微笑む。
「近くにいれば連絡も取りやすいし、緊急時もすぐに動ける。それに——家事や食事の支度くらいなら私にもできるわ。手間のかかる部分は私が補えるようにするから、その分、あなたたちは任務と修行に集中すればいい」その言葉には単なる同居以上の意味が込められている——日常の隙間を埋め、彼らの負担を減らし、そして何より、いつでもそばで守り、支えるために。レイトキは改めて覚悟を決め、頷く。
「…分かった。そういうことなら、歓迎する。ただし、俺たちも出来る限りのことはする。共同生活だからな、お前に任せきりにはしない」
「ええ、それでこそよ」ローズマリーは穏やかに笑う。
「では、よろしくね」ローズマリーは生活と活動の基盤について、穏やかだがはっきりと続ける。
「それから資金のことね。バイトでも何でも屋でも、必要なら自分で仕事を探して稼ぐわ。生活費や活動費は自分で用意するから、そこは心配しないで」
そして彼女は自身の背景を明かし、レイトキを驚かせる。
「エルカーノスの試験は受けなくても大丈夫よ。私、元からエルカーノスのSランク・イェーガーだから。探索と狩猟を主とする任務——ヤクトを専門にしているの。ハンターの上位派生職みたいなものね。ジョブはマジックグラディエーターよ」
レイトキは思わず目を見開く。
「Sランクイェーガー…! それはすごいな。だったら実力は折り紙付きってことか。マジックグラディエーター——魔法と格闘、両方を極めた戦闘スタイルなのか?」
「そういうこと」ローズマリーは胸を張るように微笑む。
「探索・護衛・戦闘、どれでも任せて。Sランクの肩書きだけじゃない、実力で貢献するわ。エルカーノスの信用も、任務の手続きも、私の権限である程度は融通が利くから、それも活用してね」レイトキは改めて頷き、感謝を込めて告げる。
「心強い。資金も活動も、そして戦闘面でも支えてもらえるとは。それに俺たちと同権限、本当に、よろしく頼む」ローズマリーは真剣な眼差しで、核心的な問いを投げかける。
「これから先、ストレンジの追っ手は次々と来ると覚悟しておいた方がいいわ。レイトキ、君自身は既に覚悟が決まっている。だけど——仲間たちはどうなのかしら?」
一呼吸置き、言葉を続ける。
「君の目的は、今の生活を守り、ありとあらゆる存在を受け入れられる場所を作ること。それはとても素晴らしいこと。だけど、久美子ちゃん、リジェちゃん、星玲奈ちゃんは間近にいるから状況をよく知っている。でも、他の仲間たちはどこまで理解しているの? ただ『好きだから』『一緒にいたいから』という好意的な感情だけでついてきているのだとしたら——もしその感情が揺らいだとき、何も残らなくなってしまうわ。本当の信頼、心からの絆だけでも、この過酷な道についてきてくれるのかしら?」レイトキはその言葉に深く頷き、真剣に応える。
「鋭い指摘だ。…俺もそれは常に考えている。確かに最初は好意や憧れ、一緒にいたいという気持ちから始まった関係も多い。だけど、今は違う。俺たちは共に戦い、共に傷つき、共に未来を誓った。そして何より——俺が目指す『誰もが安心して暮らせる場所』を、みんな自分事として望んでくれている。感情だけじゃない。信念と理想、そして互いを信じ抜く覚悟が、みんなの中にもある。…だけど、それを確かめ続けることを怠ってはいけない、という君の言葉は、肝に銘じる。絆は、常に確かめ、育て続けるものだからな」ローズマリーはその答えに安堵したように、静かに微笑む。
「そう。その心構えがあれば大丈夫。強い絆は、何があっても壊れはしない。だけど時々、立ち止まって確認することを忘れないで。それが、仲間を守ることにも繋がるから」アルビテトは腕を組み、きっぱりと言い放つ。
「ローズマリーって言ったかしら。そんな当たり前のことを今さらアタシたちに言って、どうなるわけ? 揺らぐとでも思ってるの? 面白くもない話だよ」鋭い一言に、場の空気が張り詰める。だがローズマリーは動じず、穏やかに応える。
「そうね。当たり前だと思っているからこそ、わざわざ口にするのよ。当たり前だと思っている絆ほど、何も言わないままでいると、いつの間にか脆くなっていることがあるから。でも——アルビテトがそう言い切れるのなら、それが本物の証拠ね。それで十分よ」アルビテトは眉を上げ、それでも鋭い視線を向けたまま続ける。
「当たり前のことを確認するより、もっとやることがあるだろ。レイのことも、これからの戦いも、全部知った上でついてきてるんだ。疑うならそれでもいいけど——アタシたちの絆を、そんな軽く見ないでもらおうか」レイトキはその言葉を聞き、静かに頷く。
「アルの言う通りだ。だけどローズマリーが言ってくれたことも、無駄じゃない。絶対に揺るがないと信じて、それでも確かめ続ける——それが本当の強さだからな」ローズマリーは真っ直ぐにアルビテトたちを見据え、はっきりと告げる。
「ワタシは味方はする。だけど、同調ばかりはしないよ。疑問に思ったことも口にできないような関係なんて、信用も信頼も無いのと同じだから」
その言葉には一切の曇りがない。アルビテトは一瞬、意外そうに目を見開く。
「……同調しない、か。」
「そうよ。誰かが言ったことにただ従うだけ、疑問を飲み込んで従うだけ——それは絆じゃない。本当に信じ合っているからこそ、違うと思った時には『違う』と言える。それを恐れて黙るようなら、その絆は最初から脆いものなのよ」
ローズマリーの声は穏やかだが、芯の強さが伝わってくる。
「だから私は、良いと思ったら手を貸すし、疑問があれば口を出す。それで嫌われるとしたら、それまでの関係だったってこと。……でも、あなたたちはそうじゃないでしょ?」
アルビテトは鼻で笑い、肩を落として納得したように頷く。
「ふん。なかなか言うじゃないか。……悪くない。それが本当の仲間ってもんだ。同調だけが美徳じゃないってことね。」レイトキも深く頷き、その言葉を受け止める。
「そうだ。意見の違いを恐れてちゃ、本当の強い絆なんて築けない。ローズマリー、その姿勢でいてくれるなら、俺たちも安心して共に戦える。……よろしく頼む」ローズマリーは状況を見渡し、はっきりと告げる。
「それとね、誰にでも弱点ってものがあるらしいわ。完全に克服するのが難しいものだってある。だけど——せめて対処できるようになった方が絶対にいい」
レイトキは思わず頷き、真剣に応じる。
「それは…その通りだ。俺もヒュージノイドに進化して、強くなった分、新たな弱点が出来た自覚がある。だからこそ、それを隠すんじゃなく、どう対処するかを考えるのが大事だと思ってる」
ローズマリーは続ける。
「弱点を知ることは、自分を守ることでもあり、仲間を守ることでもあるの。無理に消そうとして壊れるより、『これが自分の弱点だ』と受け入れた上で、それを補い、カバーし合う方法を探せばいい。それが本当の強さになるわ」アルビテトも渋々ながら認める。
「…まあ、それはそうだな。弱点を隠して強がっても、いつか足元をすくわれる。仲間同士なら、それを補い合うのも当然ってことか」
「そういうことよ」ローズマリーは穏やかに笑う。
「一人で背負い込まないで。弱点も含めて、みんなで補い合えばいいのだから」レイトキは過去の戦いの記憶を辿り、はっと気づいたように声を上げる。
「そうか…! サギソウはあの時、瞬時鑑定を使って俺たち一人ひとりの弱点を見抜いていたのか。そして、それを突くだけじゃなく——俺たち自身で弱点をカバーできるか、試していたというのか!」
糸での拘束、式神の攻撃、属性を突いた術——それらすべてが単なる攻撃ではなく、彼らの限界と伸びしろを測るための試練だったのだと、今更ながらに繋がる。
「俺たちの脆い部分を正確に捉え、それをどう乗り越えるか、どう補い合うか——それを試されていたんだな。あれは敵としての攻撃じゃなく、『今のままでは危ない』という警告でもあったのか」
ローズマリーは静かに頷く。
「サギソウはユーカリ様の配下として、あなたたちの実力と可能性を確かめていたのね。弱点を知ることは弱さを知ることではなく、強くなるための第一歩だから。彼女が見抜いたその弱点を、今度は自分たちの手で補い、乗り越えていけばいい」アルビテトも低く呟く。
「…なるほど。だからあの時、アタシ達の攻撃を的確にいなしつつ、決定的な一撃を与えなかったのか。試されてたってわけか…」レイトキは拳を握り締め、決意を新たにする。
「ならば俺たちは、その試練に応えなければならない。弱点を隠すのではなく、受け入れ、そして互いに補い合う。それが、本当の意味で強くなるということだな」ローズマリーは先を見据えるように告げる。
「そうだ、レイトキ。次に動くのはユーカリ様たちだよ。配下の者たちも動き出す。おそらくだけど——ユーカリ様自身が、あなたにちょっかいを出しに来るわよ」レイトキは眉を上げ、真剣な面持ちになる。
「ユーカリ本人が…? 直接、俺の前に現れるってことか?」
「そう。彼女は表向きはストレンジの幹部として動きつつも、内心ではリュウゼツランのやり方に疑問を抱き、レイトキたちの行く末を見守っている。だから、単なる敵としてではなく——何かを問い、何かを試すような形で、必ず接触してくる」ローズマリーは続ける。
「それは攻撃とは限らない。言葉での問いかけかもしれないし、あるいは試練のようなものかもしれない。だけど、彼女が現れる時——それは状況が大きく動き始める合図でもある。心の準備をしておいてね」レイトキは強く頷き、覚悟を決める。
「分かった。来るものは受け入れる。どんな形で現れようと、俺の言葉で、俺の意志で応える。ユーカリが何を望み、何を試そうとしているのか——その時、確かめてみせる




