EPISODE2-15【リベレーションミッション】
生徒たちの姿が出口の光に消えるのを見届け、レイトキたちはさらに奥へと進む。空気は一気に冷たく重くなり、足元からは黒い靄が立ち昇り、夢と悪夢が渾然一体となったような、底知れぬ不気味な気配が全身を包み込む。そして、目の前に広がったのは、天まで届くかと思われるほど広大な虚ろの空間。その最も奥、闇の玉座のような場所に、アザルトスが佇んでいた。漆黒のローブをまとい、顔は闇に覆われて定かではない。だが、その身から放たれる圧力は、これまでのどの敵とも桁違い——まるで空間そのものが彼の意志で歪んでいるかのようだ。
レイトキは一歩前に踏み出し、仲間たちを背に庇うように構え、声を張り上げる。
「ここが、お前の根城か、アザルトス! 人の夢を喰らい、心を弄び、この空間を歪めた張本人だな!」アザルトスはゆっくりと首を傾げ、闇の奥から低く、無機質な声が響いてくる。
「ようやく辿り着いたか…。『包括の歯車』よ。お前の心こそが、この世界の真実を解く鍵だ。さあ、自ら差し出せ——」戦いの火蓋が、今、切って落とされた。斗愛は鋭く視線を走らせ、アザルトスを囲むどす黒い空間と、その真下にぽっかりと開いた穴を指し示す。
「あれ、禍々しい色してるでしょ。あれはエローシオンエリアだよ。その中心にある穴——これをどうにかしない限り、アザルトスを覆ってる防壁は絶対に崩せないね」レイトキは眉を引き締め、その穴から漏れ出る強烈な負の気配を受け止めながら頷く。
「なるほど。あの穴が力の源であり、同時に弱点でもあるってことか。みんな、まずはあの中心穴を目指す!」斗愛はさらに視線を凝らし、穴の手前に佇む巨影を捉えて告げる。
「それに、穴の前にはガーディアンが控えてるね。まずはアイツを倒して、それからこのダークホールを一つずつ解放していかないと、先には進めないよ」レイトキは頷き、全員に指示を飛ばす。
「よし、作戦は明確だ! まずガーディアンを全員で撃破、その後は力を合わせて穴の解放を目指す! 絶対にアザルトスの思い通りにはさせないぞ!」カタストロフが一歩前に踏み出し、重々しく声を上げる。
「まずは俺が先陣を切ってやる! 超広範囲のリベレーションなら俺に任せろ! いくぞ——カタストロフボム!!」彼が掌から放った漆黒のエネルギー弾は、エローシオンエリアの中心めがけて一直線に飛んでいく。着弾した瞬間、轟音と共に衝撃波が広がり、空間を覆っていた禍々しい侵蝕の結界が、ひび割れてはらはらと砕け散った。
「よし、第一の障壁は突破だ! 続けていくぞ!」与太郎は地を蹴って一気に距離を詰め、赤く輝く角を突き出して咆哮する。
「おらららぁーー! 先陣は俺がもらうぜ!」目の前に現れたのは、漆黒の体毛が闇に溶け込み、牙と爪が血のように赤く光る、巨大な狼型の第一ガーディアン。牙を剥き出して吠えると、周囲の空気が凍りつくように冷え込む。与太郎は混因反応の力を拳に込め、渾身の一撃を叩き込む。
「喰らえ! これが俺の義理の拳だ!」重い一撃がガーディアンの体に直撃し、甲高い鳴き声が空間に響き渡った。与太郎の渾身の一撃が直撃した瞬間、狼型ガーディアンは悲鳴を上げ、黒い粒子となって跡形もなく消え去った。続いてジャンヌが進み出、聖なる槍を高く掲げる。
「聖なる光よ、この闇を解き放て!」槍から降り注いだ清らかな光が一つ目のダークホールを包み込み、禍々しい黒い渦はみるみる消え、元の穏やかな空間へと戻っていった。
「一つ目の解放、完了です! 次へ進みましょう!」ジャンヌに続き、仲間たちは手分けして残りのダークホールへと駆けつける。アルビテトの聖なる鎖、リジェの浄化の炎、久美子の精霊の力、それぞれの力が一つずつ闇の穴を解き放っていく。一つ、また一つと解放が進むたび、アザルトスを囲んでいた分厚い黒い防壁はひび割れ、薄まり、ついには最後の欠片も光に溶けて完全に消え去った。レイトキは正面のアザルトスを真っ直ぐに見据え、拳を強く握りしめる。
「よし、邪魔な壁は全部なくなった! これで直接、お前と向き合えるぞ、アザルトス!」アザルトスはゆっくりと身を乗り出し、闇の奥から冷ややかな声が響き渡る。
「さすがはクリプトンの歯車たちだ。見事、私の防壁を打ち破ったものだ」その声には驚きも称賛もなく、ただ無機質な余裕だけが宿っている。続けて、鋭く突き放すように告げる。
「だがな——私を甘く見ることは、決して許さない。これで終わりではない。今こそ、真なる力を見せてやる!」言葉と同時に、彼の周囲の空間が一気にねじれ、これまでの比ではないほどの重い闇の圧力が、一行を押し潰さんと襲いかかる。アザルトスは両腕を広げ、無数の黒い触手を一斉に地面へと突き立てる。
「私の手駒となり、ここで潰えろ!」触手から溢れ出た膨大なデータが瞬く間に形を成し——かつてレイトキたちを苦しめたガッツード、そしてソムニウムそのものが、完全な再現体として闇の中から立ち現れた。二体とも生前の力と記憶をそのまま宿し、冷徹な眼差しで一行を狙う。レイトキは歯を食いしばり、仲間たちをかばうように前に出る。
「くそっ、あの二人をまで…! だが、今度は絶対に負けない! みんな、気を引き締めろ!」リビルド・ガッツードは無機質な笑みを浮かべ、機械の腕先を重厚な大ハンマーへと変形させると、思い切り振り下ろした。
「デイヤアァーーーーー!」地を這うような衝撃波が何重も放たれ、進む足場ごと薙ぎ払わんと襲いかかる。同時にソムニウムは頭部の彼岸花の花弁を一斉に飛ばしてくる。その一枚一枚が鋭い刃となり、触れた者の意識を奪う毒を帯びているかのようだ。レイトキは叫びながら仲間を誘導する。
「みんな、散れ! 衝撃波は避けろ、花弁は光や炎で弾け! あいつらは再現体だ、本物と同じ手は通用しない! 弱点を突くんだ!」リジェは迷いなく一歩踏み出し、力強く宣言する。
「ソムニウムみたいな闇や夢の怪異には、アタシの浄化の炎が特効なはず! よーし、喰らえ! フレアバーン!」手のひらから放たれた灼熱の炎の塊は、真っ直ぐにソムニウムへと飛んでいく。闇の花弁を次々と焼き払い、そのままソムニウムの体を包み込むと、黒い靄が煙となって溶けていく。
「効いてる! このまま押し切るわよ!」リジェの全身が灼熱の紅蓮の光に包まれ、炎のオーラが天まで立ち昇る。その力はこれまでの比ではなく、空気そのものが熱く浄化されていく。
「ああ、力があふれ出てくる…! これが、私の燃ゆる炎よ! すべての闇を焼き尽くし、清らかに浄化せよ! ブレイジング!!」彼女が両腕を広げた瞬間、巨大な炎の嵐がソムニウムを丸ごと飲み込む。彼岸花の花弁は一瞬で灰となり、再現体の闇の体はどんどん透き通り、もがく間もなく光の粒へと変わって消え去った。
「よし、ソムニウムの再現体は浄化完了! 次はガッツード!」ガッツードの重いハンマーの一撃が地を砕く直前、ホワンとアルビテトが素早く左右から挟み込むように立ちはだかる。アルビテトは光の紐を編みながら叫ぶ。
「この巨体の力を、無闇に振るわせはしない! 動きを封じます!」ホワンは静かに手をかざし、周囲の空気を柔らかく包み込む。
「力の流れを乱し、攻撃を和らげます。二人で連携して、この男を制圧しましょう!」二人の呼吸がぴたりと合い、ガッツードの猛攻を正面から受け止めにかかる。ホワンは両手をゆっくりと広げ、澄んだ声で詠唱する。
「夢幻なる靄よ、敵の視界を奪い、心を惑わせよ! ミストイリュージョン!」瞬く間に白く柔らかい靄が辺りに広がり、ガッツードの視界を完全に覆い隠す。彼は周囲を見失い、振り下ろそうとしたハンマーを空振り、あちこちを無闇に殴り始める。
「今です! 隙を見て一気に動きを封じてください!」ホワンはアルビテトに合図を送る。アルビテトはホワンの幻惑が決まった瞬間、詠唱を響かせる。
「裁きの聖なる鎖よ、この害なす者を完全に制し、動きを封じよ! ディヴァインチェーン!」光り輝く鎖が幾重にもなって空から降り注ぎ、靄の中で暴れるガッツードの巨体をがっちりと巻きつける。彼は力任せにもがくが、鎖はびくともせず、ハンマーの腕も地面に縫い付けられ、完全に動きを封じられた。
「動きは止めました! この隙に一撃を叩き込んでください!」ホワンは両手を天に掲げ、力強く呼びかける。
「古より伝わりし大妖よ、我が呼びかけに応え、敵を打ち砕け! 現れよ、ダイダラボッチ!!」地響きと共に巨大な土の巨人が姿を現し、その拳を天高く振り上げる。聖なる鎖で動けないガッツードめがけ、渾身の一撃が叩き込まれた。轟音と共に再現体の装甲は砕け散り、ガッツードは黒い粒子となって完全に消え去った。
「これで二体とも撃破! アザルトス、次はお前だ!」アザルトスは冷ややかな怒りを滲ませ、両手を空に突き上げて叫ぶ。
「再現体を二体ばかり倒したくらいで、いい気になるなよ! 喰らえ! レインミサイル!!」闇の空から無数の黒い弾丸が雨あられと降り注ぎ、一つ一つが爆発的な衝撃を秘めて一行めがけて飛んでくる。レイトキは叫びながら素早く指示を出す。
「全員、防御態勢! アルカ、バリアを張れ! 散開して着弾点をずらせ!」アルカは一歩前に出て両手を広げ、高らかに宣言する。
「この程度の攻撃、どうってことないわよ! アークプロテクトバリア!」光の膜がドーム状に広がり、降り注ぐミサイルを一つ残らず受け止める。激しい爆音が響くが、バリアはびくともせず、衝撃はきれいに弾き返された。アルカは胸を張り、アザルトスを睨みつける。
「防壁も、弾幕も、あなたの手駒も——全部、私たちが突破してみせる!」ゼロは聖なる書を高く掲げ、厳かな声で詠唱する。
「数字は666、指し示すは災いを裁く獣! 我が前に顕現せよ、マスターテリオン!!」詠唱が終わった瞬間、闇を切り裂くような蒼い光が迸り、天より巨大な獣神が姿を現す。その眼光は悪意を見定めるようにアザルトスを捉え、地に響く咆哮が空間全体を揺るがした。
「さあ、敵の核心を見極め、その牙で穿て!」マスターテリオンは七つの首を一斉に唸らせ、牙を剥き出して突進する。
「オオォォォォン!!」七つの顎がアザルトスの体を四方から囲み、一斉に噛みついてその動きを完全に封じる。アザルトスは闇のローブを引き裂かれ、低い呻き声を上げる。続けて巨大な爪が空を薙ぎ、鋭い一撃が直撃——アザルトスの姿は大きく後ろへ弾き飛ばされ、闇の衣はぼろ切れのように砕け散った。アザルトスは体勢を立て直そうと、焦りを滲ませて叫ぶ。
「くそっ……………! ヒールスピリッツ!!」彼の周囲に光の精霊が現れ、傷を塞ごうと駆け寄る——だが、その瞬間、レイトキの胸元から淡い光が迸り、ミトラスが姿を現す。
「そんな不浄な契約、通すわけにはいかん!」ミトラスは杖を一振りすると、ソロモンの契約の力が精霊たちの絆を乱し、アザルトスとの繋がりを強制的に遮断する。回復精霊たちはたちまち光を失い、その場で粒子となって消え去った。
「回復はさせない! 今が最大の好機だ、みんな一気に攻めろ!」レイトキが力強く声を上げ、仲間たちと共に突撃の構えをとる。アルビテトは光の剣を手に、素早く駆け寄り、渾身の一撃を振り下ろす。
「この裁き、受けてみろ!」鋭い光の刃がアザルトスの肩口を深く斬り裂き、黒い闇の粒子が飛び散る。アザルトスは痛みに呻き、体勢を大きく崩した。久美子は背中から光の多腕を一斉に展開し、勢いよく飛びかかる。
「これでもくらえ!ドドドドドーーン!」六本の腕が同時に唸りを上げ、アザルトスの胸、肩、腹めがけて渾身の拳を連打する。一撃一撃が闇の装甲を砕き、衝撃波が周囲に弾け飛ぶ。アザルトスは為す術もなく、連続の打撃に体を翻弄され、ついに膝をついた。アザルトスは歯を食いしばり、周囲の瓦礫や空間の歪みを手繰り寄せる。
「データ再構築——!」黒い触手が物質を飲み込み、傷ついた体を繕おうと蠢く。だがその瞬間、ジャンヌが槍を掲げ、厳かに喝破する。
「聖なる光よ、邪な再構成を許すな!」天から注がれた清らかな光が、データの流れをぴたりと遮断。集まりかけた粒子は一瞬で浄化され、アザルトスは「ぐっ…!」と呻き、回復の術を完全に絶たれた。レイトキはマルチブレイカーを素早く構え直し、銃モードへと切り替える。
「これで決める! 撃ち抜け!」閃光を帯びた弾丸が一斉に放たれ、アザルトスの体を次々と穿っていく。連射の轟音が空間に響き渡り、彼は防ぐ間もなく衝撃に耐え、がくりと前のめりになった。レイトキは銃モードを収め、マルチブレイカーを一気に鎌モードへと変形させる。刀身が漆黒の光を纏い、空間を切り裂くような軌跡を描く。
「これで完全に終わらせる! リーパースラッシュ!!」渾身の一撃がアザルトスの核心を真っ直ぐに捉えた。甲高い断末魔の叫びと共に、彼の肉体は大きく光り輝きながら爆発し、闇の欠片一つ残さず完全に消え去った。静寂が辺りを包み、歪んでいた空間も少しずつ本来の穏やかな色を取り戻していく。レイトキは鎌を構えたまま安堵の息をつき、仲間たちの方を振り返った。エピデンドラムは胸を張り、周囲の仲間たちを見回して力強く宣言する。
「よし、これにて『リベレーション・レスキュー』ミッション、完全コンプリートだ! 生徒の救出も領域の解放も、そして元凶の撃破も、見事に成し遂げた!」そしてレイトキたちに向き直り、続けて告げる。
「レイトキたち『歯車』の諸君は、この後速やかにエルカーノス本部へ向かってくれ。今回の一件の報告、そして新たな情報の共有が待っている」レイトキは仲間たちと顔を見合わせ、力強く頷き返す。
「了解だ。すぐに向かう。これで一件落着だ——とはいえ、まだ見えてくるものがあるはずだ。気を引き締めていこう」薄暗い指令室の、巨大なモニターを背にした席で、影の指揮官が低く呟く。
「ヴァルテン・アグレッションのメンバーが三人も…か。まあいい、あいつらは採取済みのデータさえあれば、いくらでも再現・復活できる。戦力の痛手ではない」彼は指先で机の地図をなぞり、声音に冷徹な重みを宿らせ続ける。
「だが、本当の問題はそこじゃない。こちらが開いた異界ゲートの安定化、そしてクラリトン生命体融合体の量産体制——この二つが計画の成否を分ける。次は絶対に、歯車たちの思い通りにはさせん」背後のスクリーンには、ゆらめくゲートのシミュレーションと、無数の培養カプセルが並ぶ生産ラインのデータが、淡く光り続けていた。薄暗い執務室の一角、ユーカリは手に収めた円盤状の媒体をかざし、光がその表面をなぞる様を見つめながら、あっさりとした口調で問いかける。
「ずいぶんと執着なさってますね、リュウゼツラン様。そんなにその計画は重要なのですか? 歯車たちをかなり自由に動かし、時が来たら自ら集まるように仕向ける——まあ、その手の筋書きは悪くないですけど」彼女が手元の媒体を少し前に差し出すと、そこに封じられた膨大な情報の気配が、かすかな熱と共に立ち昇る。リュウゼツランの表情が一瞬、鋭く引き締まり、声が掠れる。
「そ、それは……まさか、アカシックレコードの複製品か!?」ユーカリは無表情に頷き、指で円盤の縁を弾く。
「ええ。これがあれば、クラリトンとクリプトン、両方の歴史と法則を書き換える筋書きだって、作り直せるんですから」ユーカリはアカシックレコードの複製ディスクを指先で軽く回しながら、冷ややかな視線をリュウゼツランに向けてはっきりと告げる。
「それに、このストレンジプレデター自体も、まだまだ必要な駒なんです。ここで脆くも壊れてもらっては、後の段取りが狂ってしまいますからね」彼女はディスクを丁寧にポケットに収め、続けて付け加える。
「歯車たちがどれだけ暴れようと、最終的にこちらの描く筋書きに収まってくれるなら、それでいい。今はまだ、彼らを行きたいように行かせておけばいいんです」リュウゼツランは彼女の言葉を受け、深く頷き直し、表情を引き締めた。
「そうか。あくまでこれは序の口に過ぎない、ということだな。ならば、こちらも万全の備えを進めるまで、じっくりと待つとしよう」広大なエルカーノス本部の玄関ホール。無機質ながらも清潔な光が床を照らし、壁には歴代の任務記録や各歯車の紋章が並んでいる。レイトキたちは任務の装備を軽く整え、緊張を解きつつも気を引き締めて足を踏み入れる。
「さて、ここからが本当の話合いだな」レイトキは仲間たちを見回し、穏やかながら真剣な面持ちで告げる。すぐに案内係が現れ、一礼して誘導を始める。
「お疲れ様です。エピデンドラムよりお待ちしております。こちらへどうぞ」一同は長い通路を進み、今回の作戦の詳細や、ヴァルテン・アグレッション、ストレンジプレデターの背後に潜む謎を解き明かすための会議室へと向かっていく。




