EPISODE2-14【力の覚醒と整理】
レイトキの全身が、突然あざやかな虹色の光に包まれる。その光は彼がこれまで受け止めてきた痛み、絆、そして新たに得た決意が一つになって、外側にあふれ出たものだ。彼は両拳を握りしめ、天に向かって声の限りに叫ぶ。
「守りたいんだ! 仲間も、この世界のすべても、そして——大好きなあの人も! だから、お前なんかに、絶対に負けてたまるかーーー!!」その叫びと共に光はさらに強まり、崩れかけていた空間のひび割れを修復し始め、ソムニウムの放つ絶望の波動をものともせず、正面から押し返していく。ソムニウムは砕けかけた体で乾いた笑いを響かせ、レイトキの放つ光を正面から受け止めながら告げる。
「ふふっ、僕を倒そうというのか。だがな、これで話は終わらないんだよ」虚空を指し示すように、冷たい声で核心を突きつける。
「真の『データ採取者』は、あのお方だ。アザルトス様——この悪夢の空間そのものを創り出した、張本人なんだからな」その名が響いた瞬間、空間の奥底から、ソムニウムとは比べものにならないほど重く、底知れぬ気配が、ゆっくりと姿を現そうとしていた。レイトキは眉を寄せ、奪われた生徒たちのことが気にかかり、声を荒げる。
「だが、どうするんだ? 心を抜かれ、データにされてしまった生徒たちは…! このままじゃ、帰る場所もないままだ!」久美子は真っ直ぐな眼差しで状況を見据え、はっきりと告げる。
「ともかく、この空間の主であるアザルトスを倒すことが先だよ! それができなければ、奪われた心も、みんなの帰る場所も取り戻せない。まずは、そこから始めるしかない!」
仲間たちが一斉に頷き、光と決意を一つにして、空間の最も深い闇へと歩みを進めた。アルビテトは少し目を輝かせ、突如として問いかける。
「レイ、さっき『好きな人を守りたい』って言ってたよな? いったい誰なの? 教えてほしいんだけど!」レイトキは突然の直球に面食らい、頬を赤らめながらどぎまぎと答える。
「な、なんだよ、いきなりそんなこと聞くなよ…!」視線が思わず久美子の方へと泳ぎ、言葉が途切れる。周りの仲間たちも、なんだかにやにやとしながら二人の様子を見守っている。アルビテトは容赦なく追い打ちをかけ、指を突きつける。
「また誤魔化そうとして! 前にも言っただろう、そういう曖昧な態度は罪だって! さあ、はっきり言ってしまえ!」レイトキは顔を真っ赤にして、逆ギレめかしく声を上げる。
「分かってて言うなよ! わざとからかってるだろうが!」その視線は、やっぱり久美子の方をチラリと見ては逸らすばかりで、仲間たちのからかいの視線が一斉に二人に集まっていた。リジェは呆れたように肩をすくめ、アルビテトをたしなめる。
「アルビテト、ちょっとからかいすぎだよ。レイトキが好きな人が、ここにいる私たち四人の中にいるのなんて、みんな気づいてるでしょ」そしてレイトキの方を向き、にっこり笑いながら付け加える。
「好きだからこそ守りたくなるし、だからこそ臆病にもなるの。そんなふうにからかってばっかりいるから、いつまで経っても距離が縮まらないんだよ!」久美子も耳が少し赤らみ、うつむきながらも、しっかりとレイトキのことを見つめている。アルビテトは少ししゅんとしながら、口ごもるように言い返す。
「だってぇ…、知らないままでいるのも罪だって、アンタが前に言ったじゃないか…!」その言葉に、レイトキはますます顔を赤らめ、言い返そうとしては言葉が詰まり、結局ただうつむいてしまう。周りの仲間たちは、そんな二人のやり取りを、なんだか温かく、そして少しにやにやしながら見守っていた。レイトキは顔を真っ赤にして、慌てて言い繕おうとする。
「好き、って言っても色々あるだろう! 仲間としての『好き』だってあるし、それに、ほら…アレだ、アレ!」言い訳を重ねるばかりで、肝心な言葉はどうしても出てこない。視線は泳ぎ、拳をもじもじとさせている。その様子を見て、仲間たちは「もう、分かりきってるんだから」と言わんばかりに、優しく笑っていた。ホワンは穏やかに、だが的確に言い当てる。
「ちゃんと分かってますよ。恋愛としての『好き』なんでしょう。でも、まだ自分の中でもはっきりと形にできていなくて、戸惑っていらっしゃるんですよね」そしてアルビテトの方を向き、優しく諭す。
「だからこそ、からかわれると余計に言い返せなくなったり、慌ててしまったりするんです。もう少し、そっと見守ってあげましょうよ」レイトキは耳まで真っ赤にしてうつむき、久美子は恥ずかしそうに顔をそむけながらも、その背中をそっと気にかけているようだった。アルビテトは真っ直ぐな瞳でレイトキを見つめ、飾らずに心の内を打ち明ける。
「アタシはレイのこと、本当に好きなんだ。それはもう、仲間としてだけじゃない」一歩近づき、はっきりと告げる。
「見極めてきたるうちに、君なら、みんなの理想を叶えられる。正しい道に導いていける。そして、君のそばにいると、すごく安心するんだよ」その言葉には、迷いも偽りもない。レイトキは思いがけない告白に言葉を失い、ただアルビテトの瞳を見つめ返すばかりだった。レイトキは真剣な面持ちで、自分の気持ちを丁寧に言葉にする。
「嬉しい…、本当に嬉しい。だけど、俺はまだ恋愛感情ってものが、どういうものなのか、ちゃんと分かってないんだ」アルビテトの瞳を真っ直ぐに見て、はっきりと告げる。
「だから、今すぐどうこう決めるのは、きっと早すぎる。俺は自分自身で、ちゃんと心のままに選び取りたいんだ。時間をくれないか?」その言葉には誠実さと、自分の歩幅で進もうとする決意が宿っていた。アルビテトも、その真摯な想いを受け止め、静かに頷いた。リジェは少しにやりと笑いながら、レイトキを上から下まで眺めて、ぽつりと漏らす。
「でも、レイトキって本当に魅力的だよね。確かに、体つきもしっかりしてるし…」その言葉を聞いた瞬間、レイトキは顔を真っ赤に染めて慌てて声を上げる。
「ちょ、ちょっと! いきなり何を言い出すんだよ!」アルビテトやホワン、久美子も思わず吹き出し、場の空気は一気に和らぎ、緊張がほぐれていく。ふわりと光の粒子が集まり、古びた錫の杖を携えたミトラスが姿を現す。鼻先を少し突き出し、得意げに胸を張る。
「なあレイトキ、まだワシの力を使う気はないのか? ワシはソロモン七十二柱の魔精の力を、あれもこれも全部使いこなせるんだぞ! どうじゃ、凄いじゃろう!」レイトキは驚きつつも、真剣な眼差しで応える。
「それは凄い…だが、その力を使うには相応の覚悟と責任が必要だろう? 俺は自分の足で、自分の信じる道を進みたい。だから、今はまだだ。でも、もし本当に必要になった時、その時は力を貸してくれるか?」ミトラスは大げさに頷き、にっこり笑う。
「ふむ、そう言うと思っておった。いつでも呼べば応じるぞ! ただし、約束じゃぞ、力は正しく使えよ!」レイトキは真剣な面持ちで問い直す。
「それは…、契約ってことか?」ミトラスは杖を軽く地面に突き、力強く頷き返す。
「そうじゃ。この瞬間から、ワシとお前の絆は固く結ばれた。必要な時にはいつでも、ワシの力を引き出せる。ただし、約束通り、その力を正しく、守るために使うのだぞ!」レイトキも深く頷き、静かな誓いを胸に刻んだ。レイトキは力強く頷き、はっきりと誓いを返す。
「ああ、分かってるよ。約束する。この力は、絶対に大切な人たちを守るためだけに使う」その言葉を聞いたミトラスは満足げに笑みを浮かべ、杖から淡い光が放たれ、レイトキの胸元にそっと刻まれた——これが、新たな契約の証だ。契約の光が収まった直後、足元の闇からぽつり、ぽつりと姿を現したのは、手のひらほどの大きさの小型怪異たち。どこかソムニウムの残り香を帯び、小さな彼岸花の花びらを頭に載せ、ぷかぷかと浮かびながら、ちょこんと一行を見上げている。レイトキは身構えつつも、警戒を緩めずに告げる。
「これは…アザルトスが放った、見張りの眷属か? あるいはソムニウムの残滓が形になったものか?」ミトラスは杖を小さく振り、鼻先で空気を嗅ぐようにして言い添える。
「どちらでもない。この空間が壊れる前に、漏れ出た夢の欠片が、不安定なまま動き出しただけじゃ。害はないが、放っておけばやがて大きな闇に繋がるぞ」リジェが一歩前に出て手をかざすと、柔らかくも清らかな炎が湧き上がる。
「任せて! このくらいなら、綺麗に焼き払ってみせる!」小さな炎の渦がふわりと小型怪異たちを包み込む。彼らは悲鳴も上げず、まるで溶けるように光となって消えていき、跡には濁りのない空間だけが残った。
「これで、夢の欠片が闇に繋がることもないわ」リジェは手元の炎を消し、にっこりと笑った。リジェの炎が闇の欠片を浄化した瞬間、ふわりと空間に柔らかい光が満ちていく。これまでうつろな瞳で立ち尽くし、心を抜かれたようになっていた生徒たちの表情が、少しずつ変わり始める。閉じていた瞼がゆっくりと開き、目には再び驚き、戸惑い、そして安らぎの色が宿っていく。 レイトキは周囲を見回し、声を弾ませて告げる。
「みんな…、生徒たちに感情が戻ってきてる! 心のデータが、ちゃんと元の体に帰ってきたんだ!」倒れていた者が起き上がり、隣の友人の名を呼び、涙ぐみながら抱き合う姿も見える。奪われていた「生きる感触」が、一つずつ確かに取り戻されていた。レイトキはリジェの方を向き、はっきりと指示を出す。
「リジェ、これから現れる怪異は、お前の力で殲滅してくれ!」リジェは力強く頷き、手のひらに小さな炎を灯して応える。
「任せて! どんな敵が来ても、浄化の炎で跡形もなくしてみせる!」リジェは一歩も引かず、両手を軽く広げると、清らかで灼熱の炎が次々と噴き上がる。
「さあ、来なさい! 邪なものは全部、浄化してやるわよ!」湧き出ては襲いかかる怪異たちを、炎の帯が一網打尽に包み込み、跡形もなく焼き尽くしていく。一つ倒しても次々現れるが、彼女の炎は衰えるどころか、むしろ力を増し、空間に満ちた闇の気配をどんどん拭い去っていく。
「これで全部よ! まだ隠れてるなら、出てきなさい!」最後の一撃で周囲の怪異がすべて光に溶けると、リジェは額の汗をぬぐい、にっこりと笑った。最後の怪異が消え去った瞬間、空間全体を包むように柔らかい光が満ちる。これまでうつろな瞳で佇んでいた生徒たち全員が、次々とゆっくりと目を覚ます。驚き、戸惑い、そして周りの仲間の姿を見て安堵の涙を浮かべる者、笑顔を取り戻す者——一人残らず、心の色、感情の温もりがはっきりと宿った。レイトキは胸を撫で下ろし、穏やかな笑みを浮かべる。
「よかった…。これで、みんな元通りだ」エピデンドラムは手際よく誘導の合図を示し、落ち着いた声で呼びかける。
「みんな、大丈夫だ。こっちだ、出口はすぐそこだ! 慌てず、周りの人と一緒についてきてくれ!」彼は先頭に立ち、時には後ろを振り返り、不安そうな生徒に声をかけながら、一人も取りこぼすことなく、光り輝く空間の出口へと確実に導いていく。生徒たちは安心した面持ちで、彼の背中を追って歩き出した。レイトキは安堵の息をつきつつ、前方のまだ歪んだ空間を見据え、力強く告げる。
「よし、生徒たちの救出は無事完了だ。残るは、この歪んだ領域そのものを解放し、元あるべき姿に戻すだけだ!」仲間たちも一斉に頷き、それぞれの力を集中させる準備を整える。アザルトスの手によって閉ざされたこの空間を、今こそみんなの手で解き放つ時だ。




