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EPISODE2-12【悪夢】

ソムニウムは骸骨の顎をカチリと鳴らし、虚ろな眼窩でレイトキたちを睨み据える。

「そのためには——まず、邪魔なお前たちを、だ」 言葉と同時に、その体の内側からどす黒く濁った靄が湧き出し始める。それは夢の最も汚れた部分、人が忘れ去った恐怖や絶望、後悔だけを集めて固めたような邪悪な気配をまとい、辺り一面を急速に覆い尽くしていく。 靄に触れた空間は色あせ、音が消え、まるで底の見えない悪夢の中へと落ちていくかのように——。

「さあ、お前たちも、僕の糧になれ…!」黒い靄が肌に触れた瞬間、久美子たちの足から力が抜け、次々とその場に崩れ落ちるように深い眠りに沈んでいく。だが安らぐはずもなく——瞼の裏では次々と最悪の悪夢が渦巻き始める。失ったはずの絶望、逃れられない後悔、大切な人を目の前で守れなかった記憶——それらが生々しく迫り来り、体を震わせ、額には脂汗が浮かび、うめき声が漏れ続ける。まるで心の奥の痛みを全て抉り出されるように、魘され続けていた。レイトキは仲間たちが苦しむ様子を見て、歯を食いしばり怒りをぶつける。

「コノヤロー! お前、仲間たちに一体何をしやがったんだ!」ソムニウムは骸骨の顔をゆっくりと動かし、冷たく告げ返す。

「僕の名前、ソムニウムの由来は『夢』だ。この状況を見れば、もう分かるだろう? ただ、悪夢を見せているだけさ」黒い靄がさらに濃くなり、悪夢の中の恐怖が現実にも侵食し始める。

「人が心に秘めた一番痛い場所、一番怖い記憶、恐れてることを——それを丸ごと見せつけて、僕の糧にするんだ!」ソムニウムは虚ろな眼窩をレイトキに向け、乾いた声で迫る。

「さあ、お前の悪夢——心の奥に隠している一番痛いもの、一番見たくないものを、全部見せてみろ!」黒い靄が一気にレイトキへと襲いかかり、瞼の裏に鮮明な光景が浮かび上がる——守れなかったはずの記憶、背負い続ける後悔、それでも進まなければならない重圧。心の奥底に沈めていた闇が、容赦なく這い出そうとしていた。悪夢の靄が晴れた先に、冷たい金属の壁に囲まれた実験施設の光景が浮かび上がる。無機質なスピーカーから、冷徹な声が次々と降り注いでくる。

「お前は我らに従えばいい。余計な思考は捨てろ」

「さあ、失敗した対象を殺せ。無価値なものに用はない」

「やれ! ただ従えばいいんだ!」視線の先には、怯えた瞳でこちらを見つめる、まだ息のある実験体の姿。レイトキは体が動かされるように一歩踏み出し、手には自動的に処分用の器具が握られていく。

「違う…、こんなの…、俺は…」心の叫びは届かず、ただ命令だけが絶対の重みで胸を押しつぶし——記憶の中の自分は、その手を下ろしてしまった。

「ぐあっ…!」レイトキは悪夢の中で拳を握り締め、額に脂汗を浮かべてうめき声を上げる。それは彼が一生背負い続ける、最も重い後悔の記憶だった。悪夢の闇が切り裂かれ、その場にふわりと倒れかかるように現れたのは——血まみれになった久美子だった。記憶には決してない、そんな姿。なのにその冷たくなった手が、まるで本当に触れているかのようにレイトキの腕に触れる。かすれた声が、一つずつ、胸を抉るように響く。

「レ…イ…… な…ん…で……」その瞳には、言いようのない絶望と、それでも名前を呼んでくれた温もりが混じっていた。見たこともないはずの光景なのに、心臓が凍りつき、息が詰まり、全身の力が抜け落ちそうになる。

「俺は…俺は…! こんなの、嫌だ、嫌だーーーーっ!!」レイトキは両手で頭を抱え、声の限りに絶叫する。それは、自分が一番守りたいと誓った存在を、自分の手で傷つけてしまうかもしれない——そんな最悪の恐怖が、ありのままに突きつけられた瞬間だった。現実の闇の中で、ソムニウムは骸骨の顎を鳴らし、乾いた嘲笑を響かせる。

「そうかそうか、やはりそうだったか。レイトキ、お前が一番怖いのは、大切な存在を失ってしまうことなんだな」黒い靄がさらに濃くレイトキを包み込み、その心の隙間につけ込むように続ける。

「守りたいと思えば思うほど、失った時の絶望は深くなる。その痛みこそが、最高の糧になるんだ…!」夢の中では冷たい雨が絶え間なく降りしきり、レイトキの体を濡らし、心まで凍らせていく。足元はぬかるみ、視線の先はぼやけて何も見えない。彼は肩を落とし、力なく呟き続ける。

「俺は…、俺は…、何も…、何も守れなかった…」喉は掠れ、拳は力なく開いたまま。過去の後悔と、目の前の悪夢の恐怖が一つに溶け合い、自分の無力さだけが際限なく広がっていくようだった。現実では、倒れたままの久美子たちが、眠りの奥から必死に抗い始めていた。悪夢に飲み込まれそうになりながらも、歯を食いしばり、額には汗を噴き出し、手を握り締めてはっきりと声にならない叫びを上げる。「負けない…」「レイトキを信じてる…」——心の絆と、自分たちが選んだ道を決して否定しない強い想いが、黒い靄を少しずつ押し返し始めていた。

「そんなものに、心を折られたりしない…!」誰かが力強く拳を突き上げ、眠りの檻を打ち破ろうともがいている。真っ先に瞼を開いたのはジャンヌだ。黒い靄を弾き返すように身を起こすと、手のひらから清らかな光が湧き立つ。


「こんな幻、通用しない!」


聖魔法の光が波紋のように広がり、悪夢の鎖を一本ずつ断ち切っていく。彼女は眠りに沈む仲間たちへと光を送り込み、久美子たちを次々と目覚めさせていく——ただ、レイトキだけが、まだ深い闇の中に取り残されたままだった。

「レイトキ、あと少しだ。私たちがここにいる!」雨音がぴたりと止み、視界は一気に真っ暗になる。その暗闇の中で、レイトキの声はひどく細く、崩れ落ちるように零れる。

「俺は… 全部、失ってしまうのか…? これまでも、これからも… 何もかも…」拳の力が抜け、肩の力も消えていく。絶望が心の根元を蝕み、最も大事な絆さえも否定しかける。

「だったら… 一緒にいる意味なんて… 仲間なんて… いらない…」

その瞬間、背後から聞き覚えのある声が、ぽつりと響いた。

「それでも、私たちはお前を選んだんだよ」レイトキは思わず声を荒げる。

「勝手に選ぶなよ! 俺のことを、勝手に決めるな!」だが久美子は、揺るぐことなく真っ直ぐに言い返す。

「選ぶのに、いちいちレイの了承なんて必要ある? 私たちがお前を選んだのは、私たち自身の意思だ。だから——自分を過小評価して、私たちにまで見損なわせないでほしいよ!」

その言葉が、闇の中で沈みかけたレイトキの心に、まっすぐ届いた。久美子の言葉が胸に突き刺さっても、周りの闇は一向に晴れない。それどころか、もっと濃く、冷たく渦を巻き始める。悲しみ、憎しみ、怒り、嫌悪、妬み——これまで誰にも見せずに隠してきた、ありとあらゆるマイナスの感情が黒いモヤとなってレイトキを包み込み、足元からゆっくりと飲み込んでいく。

「どうしてだ… どうして消えてくれないんだ…」心の声は闇に吸い込まれ、ただ重い絶望だけが、ますますその身にのしかかってきた。漆黒の渦の中心から、ソムニウムの幻影がゆっくりと浮かび上がる。骸骨の眼窩がかすかな闇を灯し、レイトキの心の奥を見透かすように囁きかける。


「君は、あまりにも多くを受け入れすぎたんだよ。それも——君が『包括の歯車』として持つ、生まれつきの性質でもあるんだけどね」


幻影は一歩近づき、誘うように手を差し伸べる。

「でも、それでもいいんじゃないかな? さあ、願いなよ。この胸の痛みも、後悔も、絆も——全部まとめて受け止めて、それをぐちゃぐちゃに壊したいって。そして、誰も傷つけない、新しい世界を作りたいと——」

その声は甘く、心の隙間にすっと入り込み、「壊してしまえば楽になる」という誘惑を、何度も何度も繰り返し響かせた。レイトキは闇を見つめ、どこか諦めたように呟く。

「そうか…。悪夢こそが、俺のすべてなのか。ならば…」その言葉を遮るように、久美子の声が全身でぶつかってくる。

「そんなの、レイじゃない!!そんなレイなんて、絶対に嫌よ!!私たちが知ってるレイは、そんなに簡単に折れたりしない!!」彼女の叫びは、悪夢の誘惑も、自分を責める心の声も、すべて蹴散らすほど真っ直ぐだ。

「弱いところも、痛いところも全部抱えて、それでも前を向こうとするのが、あなたでしょ! だから負けないで!」レイトキは声を荒げ、闇の中で自分自身を否定し続ける。


「受け入れすぎた俺は、悪なんだよ…! 悪は悪らしく、それにまるごと投じてしまえばいいんだ。すべての力を自分に集めて——自分だけが犠牲になれば、崩壊も創造も…」その言葉には、自分一人ですべてを背負おうとする無謀な決意と、それでも何かを救いたいという深い願いが混じっている。周りを巻きつけるマイナス感情のモヤは、その想いに応えるようにさらに濃くなり、レイトキの姿を包み込もうとしている。久美子の声は一瞬沈み、絞り出すような悲痛さが滲む。


「もう…どうにもならないのね…」


だがすぐに、その弱さを蹴り飛ばすように拳を握り締め、声を震わせながらも力強く叫ぶ。

「ならば、なおさらだ! どうにもならなくなったその時こそ、私たちが一緒にいるって言ってるでしょ! あなたが一人で崩れるなんて、絶対に許さないから!」彼女の言葉が、闇の向こうのレイトキの心へと、強く強く届こうとしていた。闇の向こうから、アルビテト、リジェ、ホワンの姿が次々と浮かび上がる。彼らもまたレイトキの心の中にあって、決して彼を一人にはしない。アルビテトは静かに、だが確かな声で告げる。

「一人で背負うことだけが勇気じゃない。アタシたちは、お前の重荷を分け合うためにここにいるんだ」リジェは力強く頷き、拳を掲げる。

「そうだ! お前が壊れるなら、アタシたちも一緒にだ。お前だけが犠牲になるなんて、筋が通らないだろう!」 ホワンも柔らかく、だが揺るがぬ眼差しで言い添える。

「全部受け止めるのがお前の性質なら、なおさら私たちの想いも受け止めてくれ。あなたは一人じゃない——これが、俺たち全員の答えだ」それぞれの言葉が一つになり、渦巻く闇に真っ直ぐ突き刺さっていく。仲間たちの声が幾重にも心を叩いても、闇の渦は怯むどころか、ますます勢いを増してレイトキを飲み込もうとする。重く冷たい絶望の壁が何重にもなって彼を締め付け、体も心も押し潰されそうになる。「俺が一人で消えればすむ話だ」——そんな諦めの念が渦の力を呼び、闇は彼の奥底にある優しさまで黒く塗りつぶそうと、さらに強く、さらに深く、彼を抱きしめるように包み込んでいく。

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