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EPISODE2-11【夢喰い】

レイトキたちが最奥の扉をくぐると、そこには夢か幻かと見紛うほどぼんやりと霞んだ空間が広がっていた。その中央に、なんとレイトキそっくりの姿をした影が佇んでいる。だがその肌は透き通るように青白く、瞳には光がなく、まるで抜け殻のようにぼんやりと佇む様は、先ほどの模倣体とも、心の中の影とも違う、どこか哀しげな気配をまとっていた。影は手に捕らえていた人々を一人、また一人と大きな口の中へと丸呑みにしていく。胃袋に収めたかと思うと、しばらくしてゆっくりと吐き出す——吐き出された人々は、体は無事なのに、まるで何か大切なものをすっかり忘れてしまったかのように、ぽつり、ぽつりと虚ろな表情で佇んでいる。

「アイツは…何をしているんだ?」与太郎が思わず声を潜める。

「夢や、未来への希望、心の拠り所になるような想いだけを選んで喰らい、それ以外をそのまま吐き出しているんだ」レセプトの声がレイトキの心に響く。

「こいつは夢喰い——人の想いを餌とし、自らもまた叶わぬ夢に飢え続ける、哀しい怪異なのだ」影はゆっくりとこちらを向き、レイトキと同じ声で、だがひどく乾いた響きで囁いた。

「僕は…ただ、満たされたかっただけなんだ…」レイトキは影の姿を見つめ、その心の奥に触れるように告げる。

「なるほど…誰かの想いから生み出された存在だったのか。夢喰いなんて不吉な呼び方をされているが、お前の本質は紛れもなく『夢』そのものなんだな」青白い影はゆっくりと頷き、自分の内側を見つめるように囁く。

「僕の名はソムニウム…。僕は何のために生まれてきたのか、その答えを探すために、人の夢を喰らい続けているんだ。他の誰かの夢を知れば、僕自身の意味も分かる気がしたから…」 その声には悪意はなく、ただひたすらに寂しさと、生まれてきたことへの戸惑いだけが満ちていた。ソムニウムの体がふわりと青白く輝き、姿がゆっくりと変化していく。頭部からは彼岸花を思わせる紅い花弁状の装飾が、幾重にも重なりながら広がり現れる。その鮮やかな紅が、透き通るような体とは対照的に、どこか儚く、そして強い未練を宿したように揺らめいていた。

「これが…僕の本当の姿なんだ…」

ソムニウムは花弁を風になびかせながら、レイトキたちを見つめる。その瞳には、まだ迷いと寂しさが滲んでいた。空間の奥から、さらわれていた人々が次々と光に包まれて転送され、ふらりとこの場所に現れる。ソムニウムは紅い花弁をゆっくりと揺らめかせ、先ほどと同じように彼らを一人ずつ引き寄せ、大きな口へと丸呑みにしていく。しばらくしてからまた吐き出された人々は、やはり同じように、希望や願いといった心の一片だけを残してきたかのように、虚ろな目で立ち尽くしていた。

「まだ…足りないの…? 答えが見つからないの…?」ソムニウムの声は、ますます細く、頼りなく響いた。レイトキは胸を締め付けられるような思いで、両手を広げて声を限りに叫ぶ。

「やめろ! やめてくれーーー!!」

彼の声は空間に響き渡り、ソムニウムの動きをぴたりと止めた。

「人の想いを奪っても、お前が探している答えなんて、絶対に見つからない! そんなことを続けていたら、お前も、そして喰われた人たちも、誰一人幸せにはなれないんだ!」ソムニウムは紅い花弁を微かに震わせ、まるで初めて聞く言葉を確かめるように、真っ直ぐ問い返す。

「幸せ…? それは、いったい何なの?」その瞳には疑問だけが浮かび、その言葉がどんな温もりを持つのか、どんな形をしているのか——まるで見当もつかない様子だ。

「僕はただ、生きる意味が欲しいだけなんだ。それが手に入るなら、それでいいと思ってた…」レイトキは思わず言葉を詰まらせ、複雑な面持ちで告げる。

「お前…あれだけたくさんの人の夢や想いを喰らってきたというのに、そんなことも分からないのか…」彼はソムニウムの透き通った瞳を見つめ、続ける。

「人が想いを託すのは、奪われるためじゃない。分かち合うためなんだ。幸せっていうのは、誰かと一緒に感じるもので、一人でどれだけ集めても、満たされるものじゃないんだよ」ソムニウムは紅い花弁を激しく揺らめかせ、大きく見開いた瞳でレイトキを捉え、声を震わせる。

「お前…! 見える…、はっきりと見えるぞ…! 温かく輝く希望と同時に、その奥底に渦巻く、どす黒く濁ったものまで…!」彼は手を胸元に伸ばし、ありのままに感じ取ったまま告げる。

「どうしてだ? 同じ心の中に、光と闇がこれほどまでに混ざり合っているなんて…! お前は何を抱え、何と闘っているんだ…?」ソムニウムは紅い花弁をひらひらと揺らしながら、ゆっくりと久美子たち全員へと視線を移す。

「お前たちもみんな、同じように黒い何かを胸に抱えているじゃないか!」不思議そうに首を傾げ、それでいてどこか愉快そうに声を上げる。

「なのに、どうして壊れたりしないんだ? いや、まだ壊れるほど深く関わっていないだけなのかなぁ…? アヒャヒャヒャヒャ!」その笑い声には悪意はなく、ただ光と闇が共存する人の心の在り方が、彼にはまったく理解できず、不可思議で仕方ない——そんな戸惑いと好奇心だけが滲んでいた。ソムニウムは紅い花弁を勢いよく広げ、瞳にかすかな期待の光を宿して声を上げる。

「そうだ! こんな狭い場所に閉じこもってないで、外の世界へ出て、もっともっとたくさんの夢を吸収すれば——きっと僕が探している答えが見つかるかもしれない!」その考えに駆られるように、体がふわりと浮き上がり、空間の出口めがけて進み出そうとする。

「もっと、もっとたくさん…! きっとそうだよね!」レイトキは一歩前に踏み出し、出口を塞ぐように立ちはだかり、きっぱりと言い放つ。

「そんなこと、させるわけないだろう!」彼は手を差し伸べ、真っ直ぐソムニウムを見つめ続ける。

「外へ出て、もっと多くの人から夢や想いを奪ったところで、お前が探す答えは絶対に見つからない。それどころか、もっと多くの人を傷つけ、お前自身ももっとずっと寂しくなるだけだ!」ソムニウムは紅い花弁を激しく逆立たせ、耳を塞ぐように首を振り叫ぶ。

「うるさい! 僕の邪魔をするなーーっ!」青白く太い触手が幾本も伸び、レイトキの体を勢いよく弾き飛ばす。レイトキは受け身を取りながらも床に強く打ちつけられ、その隙にソムニウムは出口へと急ぐ。

「誰にも止められない! 僕は答えを見つけるんだ!」ソムニウムが出口に手をかけた瞬間、鋭い一閃が走り、頭の紅い花弁が一枚、鮮やかに切り裂かれて舞い落ちた。

「おやおや、どうやら迷い込んだと思ったら、まさにビンゴだったみたいだね」黒服を身にまとい、剣を手にしたエピデンドラムが、静かにその場に佇んでいた。彼は隣に立つジークの姿を認めると、驚きを隠せず声を上げる。

「あなたはパニッシャー、ジーク!処罰の歯車と呼ばれるあなたが、なぜここに!?」ジークは冷ややかな眼差しでソムニウムを見据え、重く響く声で告げる。

「この地の空間を乱し、境界を侵す愚かな存在を罰せよ——そう皇帝から直々に命じられたまでだ。悪いが、このビヨンダーの者は、例外なく全て処罰する!」彼の手の剣が、裁きの光を帯びて一気に抜かれた。ジークは歯車の刃をレイトキへと向け直し、容赦なく付け加える。

「それとな、そこのレイトキってやつも、生きたまま連れてこい——そう皇帝からも厳命を受けているんだ!」

黒い歯車が一斉に唸りを上げ、彼を中心として無数の裁きの刃が周囲に展開される。ソムニウムも、レイトキたちも、まとめて網羅するように、冷徹な光が広間を覆い尽くした。レイトキは体を起こし、ジークを真っ直ぐ見据えてはっきりと問い返す。

「お前、言葉の使い方が少し足りないな。歯車全部が対象なのか、それとも——皇帝が連れてくるように命じたのは、俺だけなのか、はっきりさせろ!」彼は身構えながら続ける。

「目的も、対象も曖昧なままでは、応じることはできない。お前の言う『処罰』と『連行』が、誰を何のためにするものなのか、その線引きを明らかにしろ!」ジークは少しだけ眉を上げ、歯車の刃の回転を一瞬緩めて感心したように言い返す。

「おおっと、こりゃある意味ぶっ飛んでるな! 命令の裏まで読み取って、真意を見抜こうとしてるってわけか!」彼は冷たい笑みを浮かべ、改めて厳しい眼差しを向ける。

「だがな、どれだけ見抜こうが、この歯車が止まることはない。皇帝の意志は絶対だ——お前の覚悟がどれほどのものか、その目で確かめさせてもらうぞ!」レイトキは肩の力を抜きつつも、油断なく構え直し、きっぱりと言い放つ。

「だったら、裏を探ったり推し量ったりするような面倒な真似なんて、最初から必要ないだろう。お前が従うのが絶対なら、なおさらだ。どこまでが命令で、どこからがお前自身の判断なのか——それをはっきり言えば済む話だ!」 彼は拳を固め、真っ直ぐジークを見据える。

「言葉を濁している時点で、絶対なんて嘘だと俺は思ってるけどな!」ソムニウムは慌てて伸ばした触手をレイトキたちに向け、青白い霧状の力を一気に注ぎ込む。

「これで動けなくなれば——!」

その光は体の動きを一時的に鈍らせ、思考をぼんやりと霞ませる効果を持っていた。レイトキたちが足を踏ん張るのがやっと、という状態になった隙に、ソムニウムは紅い花弁を風になびかせ、そのまま空間の最も奥深くへと駆け込んでいく。

「僕は絶対に、答えを見つけてみせるから!」声は次第に遠くなり、彼の姿は奥の闇へと消えていった。レイトキは体の痺れを踏ん張りながら、奥へ消えたソムニウムを睨んで怒鳴る。

「クソ、何か入れられた!? ジーク、テメー、お前が横槍を入れたせいでアイツを逃がしたじゃないか!」

ジークは歯車を鳴らして鼻先で一蹴する。

「自分の隙を突かれただけの不始末を、人のせいにするな。責任転嫁する暇があったら、さっさと追いつく準備でもしろ」レイトキは歯を食いしばり、体の痺れを堪えながら強く言い返す。

「できるものなら、とっくにやってるってんだ! 今の状況をちゃんと見ろよ! 俺だけじゃなく、仲間たちもみんな同じようなものを受けてるんだ!」彼は仲間たちの様子をちらりと確かめ、続ける。

「今はただ動きが鈍くなってるだけに見えるけど、これが後になってどんな影響が出るか、分かったもんじゃないだろ!」ジークは呆れたように舌打ちしながら、手元の黒い歯車を軽くかざす。

「だったら、動けるようになりゃいいだけの話だろう。ったく、余計な世話を焼かせるんじゃねぇよ」歯車の刃が青白い光の筋をなぞると、体に回っていた痺れと靄がみるみる消えていく。レイトキたちの体からは不自然な重みが抜け、ようやく自由に動けるようになった。

「さあ、さっさと行け。アイツを逃がしたままでは、お前も俺も、どちらも始末が悪くなるだけだ」奥へと進むにつれ、ソムニウムの姿がさらに大きく変容していく。下半身はどっしりと重厚な、力強いシルエットへと膨らみ、上半身は透き通るような淡い紫色に染まる。両手だけは柔らかな桜を思わせるピンク色に輝き、先ほどの彼岸花のような紅い花弁とあわせ、夢と現の狭間に佇む存在らしい、不思議な光彩を放っている。

「もっと、もっと奥へ… きっと、ここに答えが…」新たな姿でさらに深く、空間の核心へと踏み込んでいく。レイトキたちはすぐさま駆けつけ、ソムニウムの前に立ち塞がる。

「もう逃げられないぞ!」彼は変わり果てたその姿を真正面から見据え、力強く告げる。

「答えを探すために、自分も周りも傷つける道なんて、ここで終わりにするんだ!」ソムニウムは変容した体を震わせ、奥の光溢れる空間を指して力強く言い返す。

「ここは、数えきれないほどの夢が集まる場所だ! つまり——僕にとっての糧が、無限に広がっている場所なんだ!」ピンクの手を胸に当て、淡紫の上半身が期待に輝く。

「ここなら、きっと… 僕が探し続けた答えが、見つかるはずなんだ!」ソムニウムは両手を大きく広げ、空間に浮かぶ無数の夢の欠片を一気に吸い込み始める。だが、糧を取り込むほどにその姿は歪み、頭部の紅い花弁がしぼんで剥がれ落ち、下からは白く禍々しい骸骨のような骨格が現れる。目の穴は虚ろに黒く染まり、先ほどまでの儚さは跡形もなく、ただ飢え続ける骸の姿へと変わり果てていく。

「まだ… まだ足りない…! もっと、もっと喰らわなきゃ…!」乾いた響きの声が闇に響き、さらに激しく夢を吸い上げ続ける。レイトキは迷いを振り切り、一歩も譲らず真正面から飛びかかり、渾身の拳をソムニウムの骸の胸元に叩き込む。

「いい加減にしろーーっ!」衝撃で吸い込みの勢いがぴたりと止まり、骸骨の顔がゆっくりとこちらを向く。

「喰らい続けても、何も埋まりはしない! それが分からないのか!」ソムニウムは骸骨の顔をゆっくりと傾げ、虚ろな目の穴でレイトキを捉え、乾いた声で囁く。

「そうか、そうか…。僕がこれから何をすべきか、やっと分かったぞ」だがその口調に安らぎはなく、むしろ飢えがさらに深まったかのような冷たい響きを帯びていた。

「全部… 全部喰らい尽くせば、答えも、意味も、何もかもが一つになって見えるんだな!」

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