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EPISODE2-8【奪還作戦・前編】

最奥の扉が開き、一行が足を踏み入れた瞬間、レイトキが無感情に告げる。

「排除対象、複数確認。任務開始」

赤黒い靄が瞳を覆い隠し、背中の触手と機械腕が一斉に鋭く伸びる。まるで見慣れた顔も、共に過ごした時間も何一つ残っていないかのように、彼は冷静に標的を定め、第一撃を放った。

「レイ!」久美子は声を張り上げ、だが攻撃を迎え撃とうとはせず、ただ真っ直ぐ彼を見つめ続ける。

「私たちだよ! 迎えに来たんだ!」だというのに、レイトキの動きは一切緩むことなく——今度こそ、本当の心を呼び覚ますための戦いが、始まった。レイトキの機械腕が素早く伸び、久美子の首元に届いて締め付け始める。

「うわあっ…くぅ…」久美子は息苦しそうに声を漏らしながらも、光の腕を一つも彼に向けず、ただ瞳を大きく開けて彼を見つめる。

「レイ…思い出してよ…」その声には痛みもあるが、更多くは温かい想いが込められていた。仲間たちは身動ごとに動けない——攻撃をしたら彼に傷がつくかもしれないという不安と、久美子が自分で彼の心を呼び覚まそうとしているという信頼から。レイトキの手は少しだけ震え、赤黒い瞳の奥にかすかな揺れが見え始めた。だが青いインナーの男が制御盤を叩き、冷たい声で促す。

「インターセプター、猶予はない。排除せよ」

その言葉を受け、彼の手の締め付けは再び強まるが、それでも久美子は決して目をそらさなかった。レイトキは突然、久美子から手を放し、勢いよく振り向く。赤黒い瞳からは無機質さが消え、心の奥底にあった怒りと自我が一気に噴き出す。

「命令するな! これは俺自身が選び、俺自身で動いてることだ!」背中の光の触手が一閃し、青いインナーの男の胸元を貫いた。男は驚きのあまり声も出ず、制御盤から手を滑らせ、その場に崩れ落ちる。レイトキは荒い息を吐きながら、久美子の方を振り返る。瞳にはまだ赤黒い影が残っているものの、確かに彼自身の心が戻り始めていた。

「……クーちゃん」かすかな声で彼女の名前を呼び、そのまま力尽きるように膝をついた。胸を貫かれながらも、男は苦しむ様子もなく不気味に笑い続ける。血も流さず、体がデータの塵へと溶け始めながら、冷たく告げる。

「ククククク…! 私を敵に回したのは、最悪の誤算だ。この部屋に満ちるZXファクターは、最初から貴様が全て吸い尽くすように仕組んであったんだよ。そして、これはお前だけの話ではない——他の歯車たちにも、同じ種が蒔かれているのだ、ククククク!」彼の体が完全に消え去ると同時、室内の紫黒い霧が一気にレイトキへと吸い寄せられ始める。彼の体は激しく光り、歯車の力とファクターが激しくぶつかり合い、空間全体が悲鳴を上げるように歪みだした。

「レイ!」久美子は真っ先に駆け寄り、その背中を支える。

「みんな、力を貸して! 制御しようとするんじゃなく、彼の心と力を繋ぎ止めて!」体内で二つの力が激突し、レイトキは耐えきれずに絶叫する。

「ウオオオオアアアッ!!」その勢いのまま、彼は久美子を思い切り突き飛ばした。

「な、何を!?」久美子は壁に打ちつけられ、驚きと痛みに声を上げる間もなく、レイトキの姿が変わり果てる。瞳は完全に濁った赤黒一色に染まり、表情は一切の感情を失い、背中の触手と機械腕は禍々しく巨大に膨れ上がる。ZXファクターが彼の心も力も、残らず飲み込んでしまったのだ。彼はゆっくりと立ち上がり、まるで別人のように冷たく佇み、一行全員を見据えた。紫黒いZXファクターの濁流が、レイトキから溢れ出るようにして仲間たち全員に襲いかかる。だが体内に入り込んだ瞬間、キクリが施した安定パッチが一斉に輝きだす。ファクターは自我を塗り替えようともがくものの、パッチの防壁に弾かれ、心の奥深くまで根付くことはなかった。

「大丈夫! パッチが効いてる!」アルカが胸を撫で下ろし、「完全には侵されてない!」一同は安心しつつも、レイトキだけが完全に飲み込まれている現実に唇を噛みしめる。彼だけが、その罠の全てを一身に背負わされていたのだ。レイトキの体から人間らしい輪郭が消えていく。肌は光沢のある黒い装甲に覆われ、関節部は紫のラインが走る機械構造に組み替わる。髪の先は光のケーブルのように揺らぎ、顔の半分は制御回路が剥き出しになり、瞳は赤黒い発光体へと変わり果てた。背中の触手は無数のエネルギーアームへと姿を変え、空間を歪ませるほどの重圧を周囲に放つ。もはや彼が「レイトキ」であった面影は、わずかも感じられない——完全に機械仕掛けの存在へと作り変えられていた。エピデンドラムは拳を固く握り締め、苦しみながらも決意を込めて告げる。

「やむを得ん! このままでは空間も、我々も、そして何よりレイトキ自身が滅ぶ! 排除も視野に入れる!」その言葉には、仲間を救いたい想いと、今の彼を止めるためにはそれしか手段がないという、断腸の覚悟が滲んでいた。一同は顔を曇らせながらも、武器を構え直し——だが誰も、本当にその一撃を放つべきか、踏みとどまっていた。久美子は武器を下ろし、赤黒く変わり果てたレイトキを真っ直ぐ見つめ、涙を湛えながらも、揺るぐことのない想いを声に乗せて叫ぶ。

「彼を失うくらいなら、私も後を追うわ! だって、私はレイのことが、心の底から大好きなんだから!」その言葉には、どんな絶望が待ち受けようとも、彼一人にはさせない、共に闘い、共に在るという決意が込められていた。彼女は一歩踏み出し、攻撃の構えを解き、ただ彼の心に届くことを信じて、両手を胸に寄せる。

「だから、レイ、聞いて! あなたは一人じゃない! 私たちが絶対に、あなたを闇から連れ戻すから!」レイトキの機械的な声が、室内に冷たく響き渡る。

「理解不能。優先事項:排除」黒い装甲の腕が残影を残すほどの速さで繰り出され、まず真っ先にエピデンドラムへと一直線に襲いかかる。その拳には一切のためらいも、かつての仲間を思う心のかけらもなく、ただ敵を撃滅するための力だけが込められていた。

「くっ!」エピデンドラムは咄嗟に剣で受け止めるが、衝撃で足元の床がひび割れ、体が後ろへ弾き飛ばされる。レイトキは一撃で弾き飛ばしたエピデンドラムを追い、止まることなく飛びかかる。

「追撃!」無数の拳が残影を描き、雨あられとなって叩き込まれる。一撃一撃が空間を揺るがす重みを持ち、エピデンドラムは防御の剣を必死に振るうものの、衝撃は体を突き抜け、たたきつけられるように床を転がされる。

「ぐああっ!」息もつかせぬ猛攻に、彼の剣の腕が徐々に下がり始める——だが、それでも仲間を傷つけまいと、絶対に反撃の刃を向けようとはしなかった。レイトキは拳を天に掲げ、紫黒い炎の渦を生み出して叫ぶ。

「これで終わりだ!フレアストーム!」灼熱の嵐が一気に吹き荒れ、エピデンドラムを丸ごと包み込む。高温と衝撃が彼の体を容赦なく襲い、彼は絶叫する。

「ウワアアアアーッ!」炎が収まった時、エピデンドラムは全身に無数の傷を負い、力尽きたように地面に崩れ落ちた。与太郎は怒りと憤りを込めて叫び、紅蓮の力を宿した拳を渾身の力で叩き込む。

「レイトキ、お前!」轟音と共に拳が黒い装甲に直撃する。だが分厚い装甲には、かすかなヒビが一筋入っただけだ。

「なっ!?バカな…!混因反応の状態でこれだぞ!?なんて頑丈なやつだ…!」与太郎は拳の痛みも忘れて驚きを隠せず、息を飲む。ZXファクターが包括の歯車の力と結びつき、彼の肉体そのものが想像を絶する強度へと変貌していたのだ。与太郎が見守る中、装甲のヒビは紫黒い光が滲むようにしてみるみる塞がれ、跡形もなく消え去った。

「なんだと!? 再生修復機能まで完備しているのか…!」与太郎は思わず後ずさり、唇を噛み締める。ZXファクターが包括の歯車の根源的な「繋ぎ、保つ」力を歪めて引き出し、破壊されても即座に修復する無敵に近い状態を作り上げていたのだ。これでは、いくら力をぶつけても埒が明かない——そのことが全員の胸に重くのしかかった。アルビテト、ホワン、リジェ、久美子の四人は距離を取り、後方で状況を見据えながら作戦を確認する。アルビテトが真っ先に声を上げ、はっきりと意思を固める。

「私達なら、きっとレイの心を動かせるはず。まずは他のみんなで、彼の攻撃を引き受けて発散させ、その隙を作ってほしい」久美子も強く頷き、決意を込めて続ける。

「そうよ。力で壊そうとしても、すぐに再生されるだけ。私達は、彼が一番大切に思っていた絆や想いを、直接心に届けるの。それしか、彼を取り戻す道はないから!」四人は互いに背を預け合い、前線で奮闘する仲間たちの動きを見守り始める。激しい攻防の先に、彼らだけが担う最後の切り札を放つ時を待っていた。斗愛は影のように駆け巡り、刀を閃かせて次々と鋭い斬撃を叩き込む。白い刃が黒い装甲を切り裂く音が響くが、残るのは細く微かな傷が数筋入っただけ。

「くっ…! どれだけ斬っても、これが限界か…!」彼女は歯を食いしばり、再び距離を取る。ZXファクターが包括の歯車の「繋ぎ留める力」を歪めて使い、どれだけ傷をつけてもすぐに修復してしまうため、決定的な打撃を与えられずにいた。リジェは鋭い視線で動きを注視し、はっきりと指摘する。

「よく見て! レイトキの胸の中央、あれはコアじゃない。何か別のものが、力の中心に隠されているんじゃない?」彼が指し示す先——装甲の割れ目の奥に、紫黒い光の中にわずかだけ、かつての彼の心の色を思わせる淡い輝きが、微かに脈打っているのが見えた。それはまるで、闇の中で消えずに灯り続ける、最後の心の灯火のようだった。久美子は唇を噛み、不安そうに声を震わせながらも、はっきりと思い返す。

「でも…キクリさんが言ってたわ。ZXファクターは一度根源と結びついてしまったら、力ごと引き剥がして分離することはできないって…」言葉と同時に、絶望が胸をよぎる。だがすぐ、リジェが指摘した胸の奥の微かな輝きが目に留まり、彼女は力強く拳を握りしめ直す。

「だけど、完全に消えたわけじゃない! あそこには、まだレイ自身がいる! 分離できなくても、書き換えられただけなら、上から本当の想いを重ねて、塗り替え直せばいい!」ホワンは素早く案を出し、はっきりと告げる。

「だったら、動きを撹乱して一瞬でも止めればいい! 再生も、攻撃も、完全に動きが止まった瞬間には隙ができるはずだ!」その言葉に一同は頷き、作戦が一つに繋がる。

「その通り!」アルビテトが続ける。「みんなで協力して彼の動きを封じ、その隙に心の輝きへと、想いを届けに行く!」リジェは素早くエピデンドラムの元へ駆け寄り、両手から柔らかくも力強い緑の炎を放つ。

「ならば私の最優先はエピデンドラムの回復だ! さあ、目を覚まして! ヒールブレイズ!」緑の炎がエピデンドラムの全身を包み込み、傷ついた肉体と削られた力をみるみる癒やしていく。彼は大きく息を吸い込み、ゆっくりと目を開け、体を起こした。

「すまない…そして、ありがとう。まだ戦える!」エピデンドラムは力強く立ち上がり、再び剣を手に構え直す。ホワンは状況を見据え、はっきりと作戦を告げる。

「エピデンドラムさん、レイトキさんの動きを一瞬でもいいから封じてください。隙ができた瞬間、久美子さん、リジェさん、アルビテトさん、そして私の四人で、胸の奥の心のコアへと直接入り込みます」エピデンドラムは剣を強く握り締め、力強く頷く。

「わかった! 必ずその瞬間を作ってみせる! みんな、あいつの攻撃を引きつけろ! 一斉に動きを封じるぞ!」前線の仲間たちが一斉に配置につき、レイトキの注意を引きつけ始める——心を届けるための、ほんの一瞬の時を創り出すために。エピデンドラムは剣を高く掲げ、全身から光の紋様が浮かび上がると、力強く告げる。

「エルカーノスの装備、ここでフルに活用するぞ!」彼の鎧と剣が一斉に輝きを増し、空間を固定し動きを制する力が周囲に満ちていく。

「みんな、合わせろ! あの一瞬を逃さない!」エピデンドラムは剣を天に掲げ、力の限り詠唱する。

「神獣を束ね縛る鎖よ、いざ、ここに顕現せよ! グレイプニール!」彼の周囲から幾重もの光の帯が噴き上がり、神話に伝わるという魔の鎖へと姿を変える。鎖は空間を裂きながら伸び、レイトキの手足、胴体をめがけて一斉に襲いかかり——その場で動きを封じるため、渾身の力を込めて絡みついた。光の鎖がぴたりとレイトキの手足と胴体に巻きつき、その巨体をがっちりと床に固定する。いかにZXファクターで強化された装甲とはいえ、空間そのものを縛り留めるグレイプニールの力には抗えず、彼の動きは完全に止まった。無数のアームや触手も宙で静止し、再生機能さえも一瞬、機能を停止する——まさにこの瞬間が、最後の好機だ。

「今だ! 四人とも、急げ!」エピデンドラムが力の限り叫び、鎖を支え続ける。久美子、アルビテト、リジェ、ホワンの四人は一斉に駆け出し、胸の装甲の隙間から見える心の輝きめがけて、全身で飛び込んでいく。光の帯が彼らを包み込み、紫黒い靄が渦巻くコアの奥深くへと吸い込まれるように消えていった——これから、彼らだけが辿り着けるレイトキの心の世界で、最後の対話が始まる。

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