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EPISODE2-3【学校の怪談】

レイトキはその本を開いたまま、左腕の端末をかざす。端末から淡い光が広がり、ページ一枚一枚の文字や記録が、まるで記憶をなぞるように吸い込まれていく。スキャンが完了すると、彼は本を元の場所に戻し、複製データを確認しながらはっきりと言う。

「この情報は絶対に必要だからな。俺のアカシックレコードの力を応用して、記録ごと複製しておいた」エピデンドラムはその手際を見て頷く。

「さすが包括の歯車だ。失われる恐れのある記録を、確実に手元に残す——それも重要な役割の一つだな」久美子は端末を操作し、複製データを全員と共有する。

「これでいつでも内容を確認できるわ。それに、他の怪談の記述もまだ隠されているかもしれないから、移動しながら読み解いていきましょう」レイトキは本棚を振り返り、足を踏み出す。

「ああ。夕暮れまでの時間も無駄にはしない。この怪談の真相を、全部確かめてやる!」学園に戻った一同は、部活の合間に休んでいる生徒たちに声をかけ、話を聞いて回る。

「最近、姿を消した人たちって、いつ頃いなくなったんだ?」

生徒たちは不安そうに顔を見合わせながら、次々と証言する。

「だいたい放課後、日が沈む前くらい……夕方になってから急にいなくなるんだよ」

「職員室に鍵を返しに行くって言って、それっきり戻らなかった子もいたし」

「薄暗くなり始める時間帯に、特に多い気がする……」レイトキは聞き込みをまとめ、はっきりと確認する。

「やっぱりか。行方不明になるのは、夕方前後に集中しているらしいな」エピデンドラムは頷き、資料と照らし合わせる。

「怪談にあった『鏡が現れる時間帯』と、見事に一致する。奴らも、この時間の流れを利用しているってわけだ」久美子は時計を見上げる。

「もうすぐその時間になるわ。手遅れになる前に、真ん中の階へ急ぎましょう!」レイトキは校舎を見上げ、階数を確かめながらはっきりと言う。

「そうだ、この学園は全部で5階建てだった。ってことは、真ん中の階は3階ってことになるな」エピデンドラムは頷き、足早に階段の方へ向き直る。

「怪談の記述と、時間帯の証言、どちらも合わさった。間違いない、その鏡は3階に現れる」久美子も身構え、端末を起動させる。

「行きましょう。あの鏡が、行方不明者たちのいる場所へ通じる入口かもしれないんだから!」一同は足を速め、真ん中の3階へと続く階段を駆け上がっていく。階段を上り3階の踊り場に辿り着いた瞬間——そこには、ありえないはずの姿があった。

木の縁に縁取られた大きな姿見が、ぽつりと壁際に置かれている。埃一つついていない鏡面が、夕暮れの光を受けて不思議な輝きを放っていた。レイトキは目を見張り、確かめるように言う。

「確かに、ここには普段絶対に置いてない鏡だ。まさに伝承の通りだ」その時、背後の廊下から突き刺すような生徒の叫び声が響き渡る。

「きゃあああっ! 誰か、助けて!」

続いて、重くひたひたとした足音のような音が、だんだんとこちらへ近づいてくるのが聞こえた。音は床を這うように響き、どこか不気味な重みを帯びている。

「来るぞ!」レイトキは仲間たちに合図を送り、構えを固める。「鏡の向こうから来たのか、それともこちら側にも何かがいるのか——いずれにせよ、叫び声の主を守らなきゃならない!」エピデンドラムは前に立ちふさがり、低く呟く。

「この足音、ビヨンダードの侵略タイプの特徴と一致する。奴らがこちらの世界へ出てきたか……!」レイトキは一歩踏み出し、左腕の端末と胸のアカシックレコードを共鳴させる。

「この歪んだ動き、俺が正してやる!」彼は手をかざし、模型に流れ込んだビヨンダードの干渉データを的確に捉え、その結び目を一つずつ解き放つ。関節から漏れ出ていた黒い煙が消え、模型はガクッと体勢を崩し——そのまま、あるべき静かな姿で動きを完全に止めた。

「よし。操り糸は全部切れた」レイトキは息を整え、理科室のドアを見据える。

「だが、まだ終わりじゃない。本当に奴らが隠れているのは、この先だ!」人体模型の件が一段落した直後、背後の廊下から突然、不協和音が混じった楽器の音が鳴り響き渡る。ピアノの鍵盤が無茶苦茶に叩かれ、バイオリンの弦が軋むような音、それに重なって太鼓が不規則に鳴り響く。

レイトキは眉を寄せ、首を振る。

「妙だ。放課後の部活予定は確認済みだ。今、音楽室に生徒は誰もいないはずなのに……まさか、奴らが!」

その瞬間、音楽室の扉の向こうから、か細く絶望的な生徒の悲鳴が突き刺さるように響いた。

「きゃあああ! 助けて、こっちに来ないでーっ!」

「間違いない! 生徒たちがそこにいる!」レイトキは一気に駆け出し、音楽室の扉へと突進する。

「待ってろ、今助けてやる!」レイトキは勢いよく扉を蹴り開けると、左腕の端末から伸びる光の触手を次々と放つ。部屋の中で宙を舞い、不気味な音を立てていたピアノ、バイオリン、太鼓などの楽器を一つずつ素早く絡め取り、その動きを完全に封じる。

「さあ、今のうちだ! 早く外へ出て!」楽器の影に隠れていた数人の生徒たちは、その合図で我に返り、恐怖に震えながらも一目散に廊下へと駆け出していく。レイトキは最後の楽器を静かに床に置くと、仲間たちを振り返り、厳しい表情で告げる。

「まだ残っている。奴らの本体は、この先にいるぞ!」生徒たちが無事に廊下へ抜けた直後、今度は別の方向から切り裂くような悲鳴が響いてくる。レイトキは音の方向を即座に見極め、はっきりと告げる。

「今度は美術室からか! まだ隠れている奴らがいるんだ!」エピデンドラムはすぐに追従し、警戒を強める。

「怪談を次々と使って、我々を引き離し、生徒を個別に攫おうとしている。絶対に逃さない!」一同は足を速め、再び廊下を駆け抜け、美術室の扉へと突進していく。扉を開けた先、壁に掛かった古びた肖像画の瞳だけが、不気味な紅い光を放っていた。その光に捉えられた生徒は、体が凍りついたように一歩も動けず、声すら出ない。

「な、なに……体が、動かない……!」

リジェが即座に前に出て、緑の炎を翻し、肖像画の顔を覆い隠すように燃え上がらせる。光の視線が遮られた瞬間、生徒は肩を震わせながら自由を取り戻す。

「視線に干渉されてたんだな!」リジェは声を張り上げる。

「この炎は長くは持たないわ! 今のうちよ、速く外へ出て!」生徒は我に返り、全力で扉から駆け出していく。レイトキは肖像画を睨み、手を構える。

「こいつも、ただの絵じゃない。ビヨンダードの干渉が、この絵に乗り移ってるんだ!」生徒が無事に駆け出した直後、今度は廊下の奥、図書室の方からまたもや悲鳴が響き渡る。レイトキは唇をきつく結び、苛立ちと決意を込めて呟く。

「次から次へと、よくもこれだけ手を回してくれたものだ」エピデンドラムは顔を曇らせ、状況を読み解く。

「これは単なる嫌がらせじゃない。校舎全体を『怪談のフィールド』に塗り替え、我々を振り回している隙に、本命の攫獲を進めているんだ」

「だが、もう引き返さない!」レイトキは足を踏み出し、先頭に立つ。「全部ぶつ切りにしてやる! 行くぞ、図書室だ!」図書室の扉を開けた瞬間、棚に並ぶ書物のページが次々とめくれ上がり、紙片が人の形をなして浮かび上がる。文字や挿絵がそのまま模様となったファントムが、十数体も通路を塞ぐように現れ、一斉にこちらを睨んでいる。


レイトキは構えを固め、眉を寄せる。

「本当に厄介だ。こいつらは数が多い上に、書物の記憶を盾にしているから、むやみには壊せない」エピデンドラムは状況を見極め、補足する。

「ビヨンダードの干渉が、この図書室に残る無数の物語や記憶に結びついているんだ。一つ一つが別の情報の塊で、攻撃の仕方を間違えれば、この場所の記録そのものが消えてしまう」

「ならば、干渉の糸だけを断ち切ればいい!」レイトキは左腕の端末を輝かせ、的確な動きで前に出る。

「アカシックレコードで、どれが本物の記憶で、どれが乗っ取られたものか、見分けてやる!」久美子は素早く生徒たちのもとへ駆け寄り、手を引きながら出口へと誘導する。

「こちらよ! みんな、慌てなくていいから、速く図書室から出て! 外まで案内するわ!」彼女は光のバリアで生徒たちを守りつつ、足早に扉へと導いていく。レイトキたちがファントムの注意を引きつけている隙に、一人残らず安全な廊下へと送り届ける。

「みんな無事よ!」久美子が確認の声を上げると、レイトキは頷き、再びファントムたちへと向き直る。

「よし、邪魔はいなくなった。これで、遠慮なく干渉の糸を断ち切れる!」レイトキは左腕の端末を強く輝かせ、無数の光の触手を伸ばす。それらは書物から浮かぶファントムたちへと真っ直ぐに届き、ビヨンダードの干渉だけを選び取って絡め取り、糸を引き抜くように解きほぐす。


干渉の力が剥がされたファントムたちは、元の紙片へと戻り、ひらひらと書棚へと収まっていく。一陣の風が過ぎた後、図書室にはもう脅威の姿はなく、あるべき静けさが戻っていた。

「よし、これで全部だ」レイトキは触手を収め、額の汗を拭う。

「だが、まだ鏡の先には本命の拠点が残っている。急ごう!」レイトキは状況を整理しながら、はっきりと指摘する。

「理科室、美術室、そして図書室——どれも昔から学校の怪談が語り継がれてきた、まさにその場所だ。もしかしたら、まだあと三カ所以上も狙われている可能性がある!」その声が途切れる間もなく、大きな空間が響く体育館の方から、鋭く絶望的な悲鳴が響き渡った。

「聞け! まさにその通りだ!」エピデンドラムは足早に向き直る。

「奴らは校舎全体の『怪談のポイント』を全て使い、隙間なく我々を攪乱している!」レイトキは拳を握りしめ、先頭を切って走り出す。

「全部回収してやる! 行くぞ、体育館だ!」体育館の扉を開けた瞬間、無数のボールが誰の手も借りずに宙を舞い、床や壁を激しく叩きつけている。バレーボール、バスケットボール、サッカーボールが縦横無尽に飛び交い、逃げ惑う生徒たちに次々と直撃する。


「きゃあー!」「いたい、いたいよ!」


悲鳴と痛みの声が響き渡る中、レイトキは即座に判断して叫ぶ。

「ボール自体が操られてるんだ! 干渉の糸を全部たどって、まとめて止める!」彼は光の触手を一斉に伸ばし、飛び交うボールを一つ残らず絡め取る。勢いを吸収し、操る力を断ち切ると、ボールたちは音を立てて静かに床に落ち着いた。久美子はすぐに生徒たちを集め、出口へと誘導する。

「もう大丈夫よ! 速く体育館から出て、みんなと合流して!」レイトキは床に転がったボールを見下ろし、厳しい表情で言う。

「まだ終わらない。奴らは校舎中の怪談を全部起こすつもりだ。次の場所も、絶対に見逃さない!」体育館の生徒たちを送り出した直後、水しぶきの音と共に、プール側から絶え間ない悲鳴が響いてくる。レイトキは足を止めず、方向を指し示す。

「次はプールだ! 水場は干渉の力も伝わりやすい、急げ!」エピデンドラムも警戒を強める。

「水に映る影も、鏡と同じく境界の媒体になりうる。生徒たちが水に引き込まれる前に、間に合わせる!」一同は廊下を全力で駆け抜け、プールへと続く渡り廊下を目指す。プールサイドに駆けつけた一同が目にしたのは、水面から伸びる無数の水の手に、生徒たちが引きずり込まれかけている姿だった。


「しまった、間に合ってないか! だが、これ以上は絶対にさせない! 斗愛、プールの水をまとめて凍らせろ!」


斗愛は即座に手をかざし、冷気を放つ。水面が一気に白く凍りつき、さらに闇の膜が表面を覆い尽くすと、水の手は跡形もなく消え、掴まれていた生徒たちはそのまま氷の上に解放された。

「みんな、早くここから出て! 外は安全だから!」生徒たちがサイドへと逃げていくのを確認し、レイトキは次の場所を睨み据える。

「奴らが狙う怪談の場所は、まだ残っている。次はおそらく家庭科室だ。急ごう!」レイトキたちは足を速め、家庭科室へと続く廊下を突き進む。ドアが見えてきたその瞬間、内側からかすれた悲鳴が漏れ響いてくる。

「間違いない、ここが最後の現場だ!」レイトキは扉に手をかけ、勢いよく開き放つ。

「待ってろ、今助けてやる!」家庭科室に踏み込んだ一同が目にしたのは、異様な光景だった。


テーブルにはどろどろと黒く濁った謎の料理が並び、口にしてしまった生徒たちは、虚ろな目でふらつき、まるで別人のように笑ったり呟いたりしている。隅には力なく気絶し、うつ伏せになっている生徒の姿もあった。


「これは……ビヨンダードの干渉を練り込んだ料理だ! 食べた者の意識を奪い、操るための罠だったんだ!」エピデンドラムは即座に見抜く。レイトキは拳を固め、前に進み出る。

「まだ間に合う! リジェ、頼む! この毒気を浄化し、意識を取り戻させてくれ!」

「任せて!」リジェは緑の炎を柔らかく広げ、部屋中を包み込む。炎は優しく生徒たちを撫で、体内に入った干渉の糸をゆっくりと溶かし出していく。やがて、ふらついていた生徒たちははっと我に返り、気絶していた者も目を覚まし始めた。

「さあ、みんな、ゆっくりでいいから外へ出て。もう危ないものは何もないから」久美子が一人ずつ手を添え、安全な場所へと導いていく。レイトキは部屋の奥を見据え、静かに言う。

「これで、校舎中の怪談の罠は全部潰した。後は、あの鏡の先にいる、黒幕そのものを相手にするだけだ!」一同は再び3階の踊り場に戻ってくる。さっきまでと変わらず、そこには夕暮れの光を映して不思議な輝きを放つ、あの大きな鏡が静かに佇んでいた。レイトキは鏡を真っ直ぐに見つめ、仲間たちを振り返ってはっきりと告げる。

「この鏡こそが、奴らの拠点へ通じる唯一の道なんだな。みんな、覚悟はいいか。行くぞ!」彼が一歩踏み出して鏡面に手を触れると、ガラスが水面のように波打ち、向こう側の不気味な歪んだ景色がぼんやりと浮かび上がる。一同は互いに頷き合い、次々と鏡の中へと踏み込んでいった。

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