EPISODE2-2【残された情報】
ユーカリはレイトキを真っ直ぐに見据え、はっきりと告げる。
「君はまだ、ストレンジプレデターの本当の目的も、ビヨンダードという存在の正しい分類も、何一つ知らないまま戦っているのよ」彼女は手を翳すと、空間に無数のデータの断片が浮かび上がり、整理されていく。
「まずビヨンダードのこと。彼らは単なる異界の侵略者でも、怪物でもない。元はクリラトンという、このクリプトンと並ぶもう一つの世界の住民だ。二つの世界が衝突した衝撃で、境界が溶け、存在そのものが『データと実体の間』に置かれてしまった、哀れな被災者たちなの」レイトキは驚き、言葉を失う。
「そうだったのか……。だが、なぜ攻撃してくる? なぜ人を攫うんだ?」
「それが、ストレンジプレデターが隠し続けてきた部分よ」ユーカリは続ける。
「彼らは『世界の歪みを修復する』ことを名目にしているが、本当はビヨンダードの力を『部品』として集め、歯車の力と組み合わせ、自らの望む法則を作り出そうとしている。幹部たちの中には、その事実すら知らされていない者も多い」彼女は一歩近づき、核心を突く。
「そしてレイトキ、君が受け継いだアカシックレコードには、その全ての真実と、次元の歪みを止めるための、もう一つの方法が隠されている。だが今の君では、その情報にたどり着くことすらできない」レイトキは胸に手を当て、膨大な記録の奥底に、確かにまだ見ぬ答えが眠っていることを感じ取る。
「ならば、どうすればそれを見つけ出せる? 隠された情報を、読み解く方法はあるのか?」ユーカリは静かに頷き、一つの手がかりを残す。
「まずは、組織が隠している『境界の記録』を手に入れること。それがあれば、アカシックレコードの扉も開けられる。そして……その記録が、すぐそばまで来ているわ」その瞬間、レイトキの左腕の端末が、警告音と共に激しく点滅し始めた。ユーカリは指を三本立て、分かりやすく整理しながらはっきりと告げる。
「まずビヨンダードの住民は、性質によって大きく三つのタイプに分かれる」彼女は一つずつ説明を加えていく。
「一つ目は『中立タイプ』。元の世界の記憶を失い、ただ漂っているだけの者たち。危害を加えるつもりはなく、ただ居場所を探しているだけなの。二つ目は『友好タイプ』。クリプトンの人々と共存する方法を探し、情報を伝えたり、境界を守ろうとしたりする者たち。君が旧校舎で出会ったファントムの中にも、このタイプが多いわ」そして最後に、声を引き締めて核心を明かす。
「そして三つ目が『侵略タイプ』。二つの世界の衝突を恨み、全てを壊してでも元の姿に戻そうとするか、あるいは力で支配しようとする者たち。ストレンジプレデターは、この侵略タイプとだけ手を組み、他の二つは邪魔者として排除しようとしているのよ」レイトキは初めて聞く分類に、胸のつかえが取れるような思いがする。
「だから、出会うビヨンダーによって、態度や目的がバラバラだったんだな。全部が全部、敵じゃないってことか!」
「そういうこと」ユーカリは頷く。「だから安易に敵味方を決めつけず、一人ひとりの本音を見極めることが、ストレンジプレデターたちに抗う最初の一歩になるわ」レイトキは疑問をぶつけるように、はっきりと問いかける。
「じゃあ、キクリはどうしてストレンジプレデターにも、俺たちにも情報を与えるんだ? 裏にある事情や危険だって、彼女が一番よく分かってるはずだろう」ユーカリは微かに視線を和らげ、キクリの本質を明らかにする。
「キクリ様は、この世界を見守る高次元意思の一つ。完全なる『中立』を貫く存在なのよ」彼女は続ける。
「彼女は特定の誰かの味方にも、敵にもならない。元はクリラトンの住民でありながら、境界の崩壊と共に世界そのものの『調整役』としての道を選んだ。だからこそ、正しい判断ができるように、必要な情報を両者に等しく伝える。どちらが勝つかではなく、どちらも自らの選択で真実に辿り着けるように、道を照らしてくれているだけなの」レイトキはその答えを受け、胸の奥にあった違和感がすっきりと消えていくのを感じる。
「だから、どちらの側にも立たず、ただ選択の機会を与え続けている……そういうことだったのか」突如、レイトキの左腕の端末が緊急通知の赤いランプを点滅させ、メッセージが表示される。
『【エルカーノス特別任務発令】行方不明者続出!原因の特定及び可能ならば不明者の救出保護せよ!動けるものは全員動け!』レイトキは画面を確認し、仲間たちを見回してはっきりと告げる。
「俺たち何でも屋クロノギアも、正式にエルカーノス所属だからな。この任務は、断るわけにはいかない」久美子が端末を覗き込み、真剣な面持ちで頷く。
「行方不明者の件は、先ほどのビヨンダードの干渉とは無関係じゃないわね。急ぎ現場に向かいましょう!」アルビテトも審判の光を宿らせ、身構える。
「これはただの捜索じゃない。世界の境界が壊れ始めた証拠よ。行くぞ!」レイトキは端末を握りしめ、決意を新たにする。
「ああ。行方不明になった人たちを必ず見つけ出し、そして、何が隠されているのか、この目で確かめてみせる!」一同は一斉に移動態勢に入り、緊急任務へと向かって歩み出す。ユーカリは背を向けかけながら、最後に静かながらもはっきりとした声で告げる。
「目に見えたまま、当たり前のまま動いていたのでは、本当の道は開かれないこともあるわよ。時には、いつもと違う視点から物事を見つめ直してみるのも、必要なんじゃないかしら」その言葉を残すと、彼女の姿は空間の歪みに溶けるようにして、その場から去っていった。レイトキはその背中を見送りながら、言葉を胸に刻み込む。
「違う視点か……。分かった。俺なりの答えを見つけてみせる」そして仲間たちを振り返り、任務へと足を踏み出す。
「さあ、行くぞ。行方不明者たちを、絶対に救い出すんだ!」レイトキは状況を整理し、はっきりと方針を告げる。
「旧校舎にはこのままじゃ入れない。だから、手がかりを探しに行こう。学校の図書室や、それからマタラ図書館なんかにも寄ってみる。古い記録や隠された資料があれば、何か分かるかもしれない」久美子がすぐに頷く。
「アカシックレコードにも、この世界の歴史や境界の変動について、図書館に関する記述があったわね。行く価値は十分あるわ!」アルビテトも耳を立てて同意する。
「書物や記録には、時に誰も気づかなかった真実が残されているものだ。さっそく向かうとしよう!」レイトキは足取りを軽くし、先を進む。
「よし、行くぞ。きっと、道を開く鍵が、どこかに隠れているはずだからな」街の喧騒を抜け、レイトキたちは目的地へと歩を進める。遠くからでも一目で分かる、巨大な大樹をそのまま建物にしたような姿——マタラ図書館が、青空を背景にそびえ立っていた。幹を模した外壁には無数の窓が並び、枝葉が広がるように屋根が張り出し、どっしりとした落ち着きと、ありとあらゆる知恵を宿した重みを感じさせる。
「これがマタラ図書館か……」レイトキは見上げ、その荘厳な姿に思わず声を漏らす。
「ここには、この地が生まれてからのありとあらゆる記録が、分野を問わず保管されていると聞くわ」
久美子は胸のアカシックレコードの気配を確かめるように、ゆっくりと頷く。
「隠された境界の記録やビヨンダードに関する手がかりも、きっとどこかに眠っているはずよ」一同は大樹の根元にあたる正面玄関へと向かい、そっと重い扉を押し開いた。玄関を入ると、木の葉を思わせる緑色の制服を着た司書が、静かに声をかけてくる。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」レイトキは携帯端末を取り出し、操作してエルカーノス特別任務ライセンスを表示し、見せる。
「エルカーノス所属、クロノギアのレイトキです。緊急任務に関する資料を閲覧したくて来ました」司書は端末を確認すると、厳かな表情から柔らかな笑顔に変わり、深く頷く。
「確認いたしました。エルカーノス認定ライセンスをお持ちですね。でしたら、一般公開されていない『境界記録』『異界関連史料』の閲覧も可能です。案内しますので、こちらへどうぞ」司書の案内で、図書館の奥深くへ続く階段を下りていく。階を下りるごとに、木のぬくもりに包まれた地上の雰囲気は消え、空気がひんやりと、そしてどっしりと重みを増していく。地下の閲覧室に足を踏み入れた瞬間、一同は不思議な感覚に包まれる。棚に並ぶ資料は、本の形をしていながらページが微かに光り、データの粒が浮かんでは消える——まさに「実体と情報のちょうど中間」にあるような、曖昧で不思議な存在だ。
「ここは……境界に近い場所なのか?」レイトキは手元の資料に触れ、その感触に思わず呟く。指先には紙の感触と電子信号の感触が、同時に伝わってくる。司書は静かに頷く。
「この地下収蔵庫は、世界の記憶をそのまま留めておくため、わざとこのような空間に作られています。ここにあるものは、すべてが『確定した事実』でもなく、『ただの情報』でもない。あなたたちの探す真実も、きっとこのどこかに、そういう形で眠っているはずです」レイトキはアカシックレコードの気配を頼りに、一歩踏み出す。
「ならば、手がかりを探し出す。この空間だからこそ見えるものが、きっとあるはずだからな」レイトキは棚から一冊、表紙が銀色に光る資料を引き出し、ページをめくって核心の記述を指でなぞりながら読み上げる。
「『空間の歪みの向こうへ行くには、大きく分けて二つの方法がある』」
彼は仲間たちを振り返り、続きを説明する。
「一つ目は、歪みそのものを直接通り抜ける方法だ。だがこれは危険が大きく、歪みが不安定だと、行き先が定まらなかったり、存在そのものがばらばらになったりする恐れがある」
そして次の行を示しながら、もう一つの道を明かす。
「二つ目は、別の場所に置かれた『鏡のように表面に何かを映すアイテム』を介する方法だ。こちらは歪みの影響を受けずに行き先を特定しやすく、安全度は高い。ただし、そのアイテム自体が境界と繋がっている必要があるし、使い方を誤れば逆に閉じ込められることもある」
久美子は端末に記録しながら頷く。
「つまり、旧校舎の結界を越えるにしても、ビヨンダードの領域へ行くにしても、どちらの手段を選ぶかが鍵になるってことね」アルビテトは審判の光を宿らせ、補足する。
「どちらにも共通するのは、『通じる先を見定めること』だ。アカシックレコードと、その鏡のような媒体——もしかしたら、お前の左腕の端末もその役割を担えるかもしれないな」レイトキは資料を閉じ、決意を込めて言う。
「ならば、両方の可能性を探ってみる。まずは、この図書館の中にも、その『映すアイテム』や、それに関する記録がないか、さらに詳しく調べてみよう」重々しい空気の地下収蔵庫に、新たな足音が響く。現れたのはエピデンドラムだ。彼は一同を見渡すと、すぐに状況を見抜いたようにはっきりと言い放つ。
「お前らも、エルカーノスの原因究明及び行方不明者救出任務を受けて来たのか。行方不明者たちが転送された先の場所は、大方の目星はついているらしい。だが、そこへ通じる侵入経路がどうしても確保できない——といったところだな?」
レイトキは手にしていた資料を示しながら応える。
「その通りだ。今ちょうど、歪みの先へ行くための方法を調べていたところだ。直接通り抜けるか、それとも『映す媒体』を介すか、二つの道があるらしいが」エピデンドラムは頷き、腕を組む。
「その二つのどちらも、今は通用しない。向こう側から経路を塞がれ、鏡や媒体までもが干渉されている。だからこそ、ここに眠る記録が必要だったのだ」彼は棚の奥へと視線を向ける。
「もし本当に、この図書館に安全な道を開く鍵があるのなら——我々も手を貸そう。行方不明者たちの時間は、もうあまりないんだ」レイトキはエピデンドラムを真っ直ぐ見据え、はっきりと言い放つ。
「その通りだ。正面からの突破はもう完全に不可能だ。それに、今回の一件はどうもただの行方不明事件じゃ済まない気がする」
彼は資料を握りしめ、核心を突く。
「ビヨンダードの侵略タイプの連中が、あのエリアを完全に占拠し、そこをこちらの世界へ攻め込むための本格的な拠点にしようとしているんだ。そうとしか思えない!」
エピデンドラムは鋭く眉を寄せ、納得したように頷く。
「なるほど……だからこそ境界も経路も、ありとあらゆる道を塞いだわけか。奴らにとっては、こちらから侵入されることだけが最大の障壁だったってことだ」
「だが、塞がれた道があるなら、必ず開ける道もあるはずだ」レイトキは瞳に決意を宿らせる。
「俺たちはその道を探し出し、奴らの計画を、そして行方不明者たちを、絶対に止めてみせる!」レイトキが足元に視線を落とすと、さっきまでなかった一冊の本が、ひとりでに床に滑り出てきた。表紙は古びてくすんだ黒色、金の文字で「旧校舎の伝承と境界の記憶」と書かれている。まさに、学校の怪談話をまとめた一冊だ。
「これは……」彼はそっと手に取り、ページを開く。すると、昔の生徒たちが語り継いだ噂の数々の合間に、境界の歪みや、誰も入れない空間に通じる「隠し鏡」の記述が、細かく書き込まれていた。
「学校の怪談だって、ただの噂じゃなかったんだな」レイトキは目を輝かせ、仲間たちに見せる。「ここには、旧校舎の結界をすり抜ける、もう一つの道が書かれている!」レイトキはその記述を指でなぞり、仲間たちに読み聞かせるようにはっきりと告げる。
「ここにはこう書かれている——『今の校舎の真ん中の階には、普段は決して置かれていない鏡が、ある時だけ現れることがある。その時間帯は、夕暮れから夜にかけてだという』」
エピデンドラムは眉を上げ、頷く。
「なるほど。まさに先ほど調べた『表面に何かを映すアイテム』、境界へ通じる媒体そのものだ。しかも、普段は隠され、特定の時間にだけ姿を現す——侵入者が探し当てにくいように、あらかじめ仕組まれていたのかもしれないな」久美子は時計を確認しながら言う。
「今はまだ昼間だけど……あと数時間でちょうどその時間帯になるわ。このチャンスを逃すわけにはいかない!」レイトキは本を閉じ、決意を込めて言う。
「よし。夕暮れを待って、真ん中の階へ向かう。その鏡こそが、閉じ込められた人たちのもとへ通じる、唯一の道かもしれないんだ!」




