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EPISODE2-1【消えた生徒など】

ワタツキ海岸から戻り、何でも屋クロノギアの店内に足を踏み入れる。潮の匂いがまだ残る中、レイトキはゆっくりと荷物を置き、満足げに笑みを浮かべてはっきりと言う。

「まあ、当初の予定とはだいぶ違う展開になったが……遊びも調査も、全部含めて本当に楽しかったな」隣に立った久美子は、レイトキの横顔を見つめ、柔らかく笑いながら応える。

「レイくん、最近ずいぶんと自分の気持ちを、感性のまま素直に言葉にするようになったわね」彼女は一歩近づき、続ける。

「ビヨンダードとのハーフだったり、ジョースターの血を引いてたり、特別な存在だったりするけど……こうして笑ったり、嬉しがったりするところを見てると、やっぱり私たちと何も変わらない、同じ人なんだなって思うの」レイトキは少し照れくさそうに頭をかき、左腕に一体化した端末を軽く触れる。

「そうかな? まあ、俺は俺だ。どんな血が混ざってようが、どんな役割を背負ってようが、根本は変わらない。お前たちと同じように、幸せになりたいし、楽しく生きたいだけなんだ」その言葉を聞いた仲間たちが、次々と笑顔で頷く。店内は、これまでの緊張がすっかり溶けた、温かな空気に包まれていく。通りを歩く人々の間を、制服姿の学生が軽やかな足取りで歩いていく。太陽がまだ高く、休日最終日の穏やかな雰囲気が街を包んでいた。

「今日は休み最後だし、どこで寄り道して帰ろうかなあ」そう独り言をつぶやいて足を進めた、その瞬間――

スッ…

まるで映像から一コマ消したかのように、その学生の姿が跡形もなく消え失せた。周りの人々は一瞬、足を止めて首をかしげるが、はっきりとした理由も分からず、再び歩き出す。

だが、それは一度きりの出来事ではなかった。公園でベンチに座っていた子供、本屋で本を探していた男性、信号待ちをしていた女性――街のあちこちで、同じように突然、人の姿が消えていく。何の音も、何の気配もなく、ただ「そこにいたはずの人」だけが、ぽっかりと空間からこぼれ落ちていく。やがて、消えた人を探して人々が騒ぎ始め、街の空気が一気に不穏な色に染まっていく。この異変の報せは、間もなく何でも屋クロノギアのもとにも届くことになる――。届いた緊急通報と街の監視映像を確認したレイトキは、思わず声を上げる。

「なんだと!? 休日の街で、学生たちが次々と突然姿を消して行方不明になっただと!」彼は眉を寄せ、可能性を即座に並べる。

「これはストレンジプレデターが何か新しい手を使ったのか、それともビヨンダード由来の怪異が、人そのものをさらうようになったのか……どちらにせよ、普通の事件じゃない」

久美子は端末のデータを睨み、深刻な面持ちで頷く。

「痕跡が全く残ってないの。先日のウィルスや歪みとも違う、まるで存在ごと別の場所に引きずり込まれたみたい……」レイトキは左腕の端末が微かに共鳴するのを感じ、決意を込めて拳を握る。

「とにかく、現場に急行するぞ。行方不明になった人たちを、絶対に取り戻してみせる!」レイトキは事件の第一発見現場に屈み込み、慎重に地面を調べる。すると、人が消えた場所にぴったりと収まる大きさの四角い枠が浮かび上がり、その内側には「0」と「1」の数字が交互に隙間なく並び、びっしりと刻まれているのを見つける。彼は思わず息を呑み、はっきりと確かめるように声を上げる。

「これは……まさか、デジタルの二進法か!」久美子もすぐそばに膝をつき、その数字の並びを解析端末に取り込みながら言う。

「間違いないわ。これはコンピュータが情報を記述するための基礎言語。だけど、こんなものが人間が消えた跡に残るなんて……まるで、存在そのものがデータとして切り取られた、みたいね」レイトキは左腕の端末が激しく点滅し、二進数の波形に強く反応しているのを感じ、顔を引き締める。

「つまり、何者かが対象を『情報』として認識し、別の場所へ転送した証拠だ。ストレンジプレデターの技術なのか、それともビヨンダードの新たな種類の怪異なのか……いずれにせよ、この痕跡が、彼らを追う手がかりになるはずだ」レイトキは左腕の端末をその二進法の痕跡にかざし、解析を実行する。数字の列が光の粒となって浮かび上がり、次の瞬間、空中に立体映像が現れた。そこには、町はずれに佇む古びた校舎の姿が鮮明に映し出されていた。

「これは……俺たちも調べた、あの旧校舎か!」同時に、端末から膨大な情報が次々と流れ込んでくる。

『校舎の鏡には、別の世界が映る』

『消えた者は、データの渦に飲み込まれる』

『選ばれた存在は、“書き換え”の材料とされる』古い言い伝え、未確認の怪談、そしてクリラトン時代の記録が混ざり合い、一つの共通する事実を紡ぎ出す。

久美子は顔を青くする。

「まさか、あの旧校舎が、人をデータごとさらう『転送装置』になっていたなんて……!」レイトキは映像の旧校舎を睨みつけ、決意を込めて叫ぶ。

「行くぞ! 連れ去られた者たちは、絶対にそこにいる! 全員を無事に取り戻すんだ!」旧校舎へ向かおうと足を速めた瞬間、道の先にぼんやりとした黒い靄が次々と集まり、人の形になって立ちふさがった。それはビヨンダードの住人――複数体が、行く手を塞ぐように並び、どれも無機質な光を瞳に灯らせている。

レイトキは一歩踏み出し、構えをとる。

「邪魔をするな。連れ去られた人たちを助けに行くんだ!」だが彼らは言葉を発することもなく、一斉に靄の腕を伸ばしてくる。その動きはまるでプログラム通りに動く機械のように、正確で、それでいて冷たい。久美子は警戒しながら言う。

「この個体たち、先日の敵とは違うわ。まるで転送と書き換えのための警備プログラムみたい……!」レイトキは左腕の端末を光らせ、仲間たちに声をかける。

「ならば、こちらも突破するしかない! 歯車の力で、道を切り開くぞ!」ビヨンダードたちの腕が、まるで光るコードやケーブルのように異常な長さで伸び、地面を這いながら一斉にレイトキめがけて襲いかかる。

「くっ、掴まれるな!」レイトキは身をひらりと躱そうとするが、コード状の手はあっという間に四方を囲み、一本が彼の腕に巻きつき、別の一本が胴体を捉える。力強く締め付け、そのまま引きずり込もうとするかのように、ぐいっと強い力で引っ張ってくる。

「レイくん!」久美子が駆け寄ろうとするが、他のコードが彼女の行く手も塞ぐ。レイトキは左腕の端末を輝かせ、巻きついたコードに自らの歯車の波動をぶつける。

「この程度で、俺を止められると思うな!」レイトキの体を締め付けたコード状の腕が、突然青白く強く光り輝き始める。表面に細かい二進数の文字が流れるように浮かび、まるで彼の存在をスキャンし、内側から情報ごと吸い取っているかのように、光が彼に吸い寄せられていく。

「なんだ、この感覚は……! まるで記憶も力も、データに変換されて抜かれていくみたいだ!」レイトキは奥歯を噛みしめ、抵抗しようとするが、体の力が少しずつ抜けていくような重みに襲われる。左腕の端末が警告音を上げ、激しく点滅する。

久美子は叫びながら駆け寄る。

「レイくん! その腕、相手の力を吸収して自分のものにしようとしてるのよ! それに、もし歯車の情報まで奪われたら……!」レイトキは残る力を振り絞り、歯車の輝きを全身から噴き出させる。

「ならば、奪わせない! 俺の全ては、俺が決める!」レイトキを襲ったコードの束が、次々と枝分かれして広がり、久美子の足元から背中へと巻きついた。彼女が抵抗しようと身をよじる間もなく、別のコードが両腕を捉え、体ごとぐいっと引き寄せられる。

「きゃっ! レイくん!」青白い光が久美子の周りにも広がり、二進数の文字が肌を這うように流れ始める。心臓の歯車の力を宿した彼女の存在も、同じようにスキャンされ、情報ごと吸い上げられようとしているのが分かる。

レイトキは自分を締め付けるコードを引きちぎろうと力を込め、叫ぶ。

「クーちゃん! 負けるな! お前の心臓の力は、そんなものに奪われはしない!」だがコードはますます強く締まり、二人の意識が少しずつ霞み始める――。その瞬間、背後から鋭い風が切り裂かれるような気配が走る。

「この不届きな干渉、許すわけにはいかないわ!」アルビテトがジャッカルの耳をピンと立て、大きく口を開くと、真っ白な裁きの光の息吹が渦を巻いて放たれた。光はコード状の腕に直撃し、焼き切るように激しく輝く。

シュワァァァッ!!

青白いコードは一瞬で黒く焦げ、バラバラと地面に崩れ落ちた。レイトキと久美子を捉えていた束も同時に断ち切られ、二人はその場に崩れ落ちる。 アルビテトは駆け寄りながら告げる。

「法則を無視して存在を奪う行為は、審判の対象よ! さあ、立って! まだ終わらないわ!」レイトキは体を起こし、焼き切れたコードの跡をさすりながら、アルビテトに向かってはっきりと声をかける。

「助かったぜ、アル! あのままだったら、俺たちまでデータにされちまうところだった」久美子も隣で頷きながら、安堵したように続ける。

「本当にありがとう。あの光、さっきの敵には一番効いたみたいね」あルビテトは尻尾を少し揺らしながら、真剣な表情で言い返す。

「審判の力は、法則を曲げて存在を弄ぶような不届きな輩には、天敵みたいなものよ。さあ、油断は禁物! 道を開けたから、急いで旧校舎の中に入りましょう!」先ほどの干渉の余波が抜けず、レイトキと久美子は同時に膝をついてしまう。体の芯から力が抜け、呼吸も浅くなる。レイトキは拳を地面につき、奥歯を噛みしめながら呻く。

「く、クソ……さっきの情報吸収の干渉で、まるで魂ごと削られたようだ……」久美子も額に汗を浮かべ、体を支えるのがやっとの様子で肩を落とす。

「私も……力が入らない。心臓の歯車の鼓動まで、乱されてたみたい……」

アルビテトはすぐ二人のそばにしゃがみ込み、警戒しつつも手を貸す。

「無理をしちゃダメ! あのコードは存在の根源に触れる代物だから、反動も大きいのよ。まずは少しだけ、ここで体を落ち着けて!」その時、風を裂くような軽やかな足音が響き、リジェが駆けつけてくる。彼女は手を高く掲げると、穏やかで生命力に満ちた緑の炎がふわりと広がり、レイトキと久美子を優しく包み込んだ。

「大丈夫? 私の再生の力で、さっきの干渉で削られた分を取り戻すわ!」緑の炎は熱くもなく、むしろ芯から温かく、魂の奥まで染み渡るように作用する。二人の体からは少しずつ力がみなぎり、乱れていた歯車の鼓動も、ゆっくりと確かなものに戻っていく。やがて炎が消えると、レイトキは立ち上がり、肩を回して違和感がなくなったのを確かめ、はっきりと言う。

「ありがとう、リジェ。すっかり元通りだ。さっきの消耗も、魂の擦り切れも、全部癒やしてもらった」久美子も安堵した笑顔で頷く。

「本当に助かった。これなら、最後まで戦えるわ!」リジェは二人の回復を確かめ、周囲の気配を探りながら、はっきりと告げる。

「この動き、あのビヨンダードたちは、ただ人をさらうだけじゃなく、はっきりと歯車そのものを狙ってるようだね」彼女は先ほどの干渉の痕跡を指し示し、続ける。

「さっきの情報吸収も、君たちの力の根源を読み取り、奪い取ろうとしてたのが分かる。一般の人間は『データ』、歯車は『核』として、別格に狙われてるみたいだ」レイトキは左腕の端末を握りしめ、顔を引き締める。

「ならば、旧校舎の奥には、歯車の力を利用して何かを『書き換えよう』としてる奴がいるってことか。絶対に、そんなことはさせない!」レイトキのすぐそばに、ふわりと気配が現れ、キクリが姿を見せる。彼女はいつもの落ち着いた様子を崩し、焦りを隠せないままはっきりと告げる。

「大変だわ! とんでもないことが判明したわ! ビヨンダードの干渉や、こちらの世界への流れ込みを助長し、操っているのは――ストレンジプレデターの大幹部、ユーカリという女よ!」一同は驚きに声を上げる。レイトキは拳を強く握りしめる。

「ユーカリが……! あの女が、この事件の裏にいたのか! なんのために、こんなことを?」キクリは頷き、続ける。

「歯車の力と、ビヨンダードの書き換えの性質を結びつけ、世界の法則そのものを自分の思い通りに作り変えようとしているの。人々をデータとしてさらうのも、その実験と準備の一環なのよ!」アルビテトは鋭く眉を吊り上げる。

「法則を私物化するなんて、最も重い断罪対象だ! ならば、旧校舎の奥には彼女の仕掛けた核心装置があるってことね!」レイトキは決意を込めて前を向く。

「だったら、なおさら急ぐ! ユーカリの野望を、この手で打ち砕いてみせる!」レイトキが足を進めた先、旧校舎へ続く道の真正面に、カトレアが立ちはだかった。彼女の右腕は皮膚が金属質に変わり、機械の関節が鈍く光っている。

「そうはさせない!」レイトキは足を止め、眉を寄せて問い詰める。

「お前は、かつてジョンアイデル様によって収監された重犯罪者の一人だったな。本来ならまだ懲役期間が終わっておらず、自由になれるはずがない。どうしてここにいる?」カトレアは機械の腕を肩まで動かし、冷ややかに告げる。

「解放してくださったのは、他でもないユーカリ様よ。あの方は保釈金を払って、収監されていた囚人を何人も引き取ってくださったの。そして私は、右腕としてスカウトされたってわけだ」彼女は前に踏み出し、機械の腕から威圧的なエネルギーを放つ。

「だから今の私は、ユーカリ様のために動く。お前たちを先に行かせるわけにはいかないのよ!」レイトキはカトレアの構えを見極め、はっきりと見通しを口にする。

「なるほど。ユーカリの右腕ともなれば、幹部並みか、それより少し上の立場ってところか。だが――そこを退け!」カトレアは機械の腕を前に突き出し、鉄壁の構えを崩さない。

「言ったはずよ。通さないって。ユーカリ様の計画を、ここで止めさせはしない!」彼女の腕が青白く光り、周囲の空間がデータのノイズで歪み始める。戦いの火蓋が、この瞬間に切って落とされた。レイトキは左腕の端末を鋭く輝かせ、冷ややかに、だがはっきりと言い放つ。

「じゃあ、デリートされても文句はないな。お前が自らこの道を選んだんだからな」カトレアは機械の腕を振るい、ノイズの刃を生み出して応じる。

「言ってくれるわね。ならば、その力で私を書き換えてみせなさい!」レイトキは仲間たちに合図を送り、一気に駆け出す。

「やるぞ! あの腕の動きを見切り、道を切り開くんだ!」カトレアの機械の腕がめらめらと変形し、先端は鋭く光る刃に姿を変える。彼女は一振りすると、刃の軌跡がそのまま飛ぶ斬撃となり、空間を裂きながらレイトキたちめがけて一直線に襲いかかる。

「消えてなくなれ!」斬撃の表面には二進数のノイズが渦巻き、触れたものをデータごと切り刻む勢いだ。レイトキは左腕の端末を瞬時に展開し、防壁を張って仲間を庇う。

「全員、散れ! この斬撃、当たればデータが欠けるぞ!」アルビテトが光の壁を重ね、リジェが再生の結界を張り巡らせ、一撃をしのぎつつ反撃の機会をうかがう。カトレアは左腕を素早く変形させ、先端を螺旋状の巨大なドリルへと姿を変える。金属の軋む重低音が響き渡り、ドリルが猛烈な勢いで回転を始めると、そのまま地を蹴って一直線に突進してくる。

「これであなたの防御ごと、貫き通してみせる!」回転する刃先からはデータの破片が飛び散り、触れたものを跡形もなく削り取る勢いだ。レイトキは即座に仲間たちに指示を飛ばす。

「硬い一撃だ、真正面から受けるな! 左右に分かれて、軌道をずらすんだ!」彼自身は左腕の端末を最大出力で輝かせ、衝撃を受け流すための薄いが強固な位相シールドを構え、突進を迎え撃つ。カトレアは両腕を元の姿に戻すと、大きく真上へと掲げる。空気がざわめき、黒と紫のエネルギーが一点に集まり、巨大な塊へと収束していく。


「くらえ! ストライクメテオ!」


彼女が両手を振り下ろすと、そのエネルギー弾は隕石のように炎とノイズをまき散らしながら、猛烈な勢いで落下してくる。

「うわぁ~〜!」「きゃぁ~〜!」「ぎゃあああ!」「いやあぁぁぁ!」

回避しきれなかったレイトキたちの真上から、隕石はそのまま直撃した。ドゴォォォォン!! という衝撃音が辺りを揺るがし、砂ぼこりと光の煙が一面に広がる。やがて煙が晴れると、地面には大きなクレーターが刻まれ、一同はその底で崩れ落ちるように倒れていた。レイトキは体中に衝撃の痛みを感じながらも、歯を食いしばって上体を起こす。

「ぐっ……! 一撃一撃が、世界の重みを背負ってるかのようだ……!」衝撃の余韻が収まり、クレーターの底ではレイトキ、久美子、リジェ、アルビテトがそのまま動かず、気を失っていた。カトレアは埃を払いながらゆっくりと歩み寄り、見下ろすように立ち止まり、冷ややかにはっきりと言い放つ。

「弱い! 弱すぎるわ。歯車を集めたと聞いていたが、この程度の力では、ユーカリ様の前では赤子同然ね」彼女は機械の腕を光らせ、その場から踵を返す。

「ここで倒れていてもらうわ。核心装置の起動が完了すれば、この世界も、あなたたちの運命も、全て書き換えられるのだから」そう言い残すと、彼女は旧校舎の奥へと消えていった。一方、倒れた一同のもとには、微かな影が忍び寄ろうとしていた――。埃がまだ揺らぐクレーターの縁に、一人の影が静かに現れる。その者は倒れた一同を見下ろし、真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。

「この者たちをこのまま放っておいたら、本当に危ない!」彼は手にした光の書物をかざし、続ける。

「私は虚空の歯車、アカーシャ。『アカシックレコード』は先ほど無事に入手してきた。傷つき、倒れた歯車たちよ……お前たちの物語は、ここで終わらせはしない!」アカーシャは書物を開き、無数の記録の光が流れ出てレイトキたちを優しく包み込む。魂の奥まで届くその光は、彼らの意識を繋ぎとめ、傷ついた歯車の核をゆっくりと癒やし始めた。

「目を覚ませ。まだ、やるべきことが残っているだろう?」レイトキはまだ霞む視界の中、どうにか声を絞り出す。

「だ、誰だ!? 歯車だと言ったな……お前は一体、何者なんだ?」アカーシャは静かに膝をつき、柔らかくも確かな声で応える。

「私は虚空の歯車、アカーシャだ。全ての記録を司り、行く先を照らす役割を負っている。そなたたちが探していたアカシックレコードも、この手に収めたところだ」彼は光の書物をかざし、その輝きをレイトキたちに注ぐ。

「まだ終わりじゃない。さあ、意識をしっかりと取り戻せ。本当の戦いは、これからだ」レイトキはまだぼんやりとした頭ながら、目の前の男の気配を肌で感じ取り、はっと息を飲んではっきりと言う。

「俺に気配が似すぎる……同じジョースターの血の匂いだ。まさか、お前は……」男は柔らかく、それでいて深い慈しみを宿した瞳でレイトキを見つめ、穏やかに告げた。

「レイトキ、やっと会えたな。すまん、本当に長らく待たせてしまった。俺はお前の父だ」その言葉を聞いた瞬間、レイトキの胸の奥に、これまで感じたことのない温かな衝撃が走った。左腕の端末も、そして彼の心臓の歯車も、父の存在に呼応するように、優しく共鳴し始めた。アカーシャはそっと手を差し伸べ、レイトキの肩に触れながら、真実を一つずつ紡ぎ出す。

「俺も、かつて歯車を宿した者だ。そして、この時代に目覚める次世代の歯車たちを、ずっと見守り、待ち続けていた」彼は瞳に強い決意と優しさを宿し、はっきりと名乗る。

「俺の名はアカーシャ・ジョースター。キクリを娶り、お前を授かった、本当の父だ」その言葉が響いた瞬間、レイトキの胸には、記憶の奥底に眠っていた温かな絆の記憶が次々と蘇り、左腕の端末も、肩甲骨の星の黒子も、父の気配に強く共鳴して淡く輝きを放った。アカーシャはレイトキの手を固く握りしめながら、静かに告げる。

「だが、この虚空の歯車も、いずれ次世代に受け継がれるべきものだ。俺の力も歳月と共に衰え始めている。きっと、ジョンアイデルの子孫に、その役割は引き継がれるだろう」

彼は愛おしそうに息子の顔を見つめ、柔らかく笑みを浮かべる。

「レイトキ、本当に……最後にお前に会えて、よかった」 その言葉を聞いた瞬間、レイトキは堰を切ったように叫ぶ。

「父さん! 嫌だよ! やっと会えたのに、別れるなんて……絶対に嫌だ!」

アカーシャは、その悲痛な声を受け止めるように頷き、穏やかな口調で続ける。

「人はいつか、別れを選ばなければならない時もある。俺は、ジョースターミクスタッド皇国に生まれながら、不老不死の道を拒んだ。自らの生と死を、自分の意思で選ぶことを選んだんだ……だから、この時が来たんだ」彼の体が少しずつ、光の粒となって風に溶け始める。それでも手だけは、最後までレイトキを離そうとはしなかった。レイトキはもう、言葉にならない声を絞り出し、ただ泣き叫ぶ。

「やだ! やだよお父さん! まだ何も教えてもらってないのに、一緒に生きる時間がこれっきりなんて……!」彼は力任せに手を伸ばし、光に溶けゆく父の腕を掴もうとするが、指の間をすり抜けていくばかりだ。肩は激しく震え、涙がとめどなく頬を伝い落ちる。

「せっかく会えたのに……! せっかく本当の父さんに会えたのに……! 置いてかないでくれーっ!」その叫びは、空に、そして静かな旧校舎の周囲に、痛切に響き渡った。久美子はまだぼんやりとしながらも、レイトキの泣き叫ぶ姿を見て一目散に駆け寄り、後ろからぎゅっと強く抱きしめる。震える背中を自分の体で包み込み、彼の痛みを少しでも分けてもらおうとするように。そして耳元で、嗚咽混じりに囁く。

「これで……この苦しみが紛れるかは分からないけど……」彼女は腕に力を込め、もっと強く、絶対に離さないという思いを込めて続ける。

「でも、一人で背負わないで。私たちがずっと、隣にいるから……」レイトキはその温もりに、ようやく少しだけ泣き止み、肩を震わせながら彼女にもたれかかった。レイトキは久美子の胸に顔を埋め、嗚咽を堪えながら、絞り出すように小さく、だが心からの言葉を紡ぐ。

「クーちゃん……ありがとう。お前がいてくれて、本当によかった……」その声はまだ震えていたけれど、久美子の腕の温もりが、彼の凍りつきそうな心を、ゆっくりと溶かし始めていた。アカーシャが残した虚空の歯車の輝きが、風に乗って遥か彼方へと飛び、一人の少年の胸元へと吸い込まれていく。

挿絵(By みてみん)

突然の熱い鼓動が内側から湧き上がり、少年は思わず胸を押さえ、目を見開く。

「これは一体!? 何かが、自分の中に入ってきた……! この不思議な力と、膨大な記憶の流れは、いったい何なんだ!?」少年の手のひらには、微かに星の紋様が浮かび上がり、虚空の歯車が、新たな宿主のもとで静かに目覚めたのだった。アカーシャが遺した光の書物「アカシックレコード」は、ゆっくりとレイトキの胸元へと近づき、そのまま彼の心臓のあたりに溶け込むように吸い込まれていく。レイトキはその膨大な記憶と、世界の理の全てが流れ込む重みに、一瞬目を閉じる。だが不思議と抵抗はなく、むしろ「自分が辿り着くべきものだった」という確信が、心の奥から湧き上がってくる。彼は静かに目を開け、はっきりと自覚して言う。

「これで……俺が、アカシックレコードを受け継いだんだな」左腕の端末が金色に輝き、心臓の歯車、そして包括の歯車が、記録の書と完全に共鳴して一つに繋がった。世界の過去も未来も、その選択の可能性の全てが、今は彼の内にある。

久美子がそっと手を添え、囁く。

「レイくんが、背負うんだね。でも、一人じゃない。私たちも、ずっと一緒だから」レイトキは頷き、涙の跡を拭い、前を向く。

「ああ。父さんが託してくれた想いも、この記録も、全部守り、活かしてみせる。これから進むべき道も、きっとここに書かれているはずだから」アルビテトは驚きを隠せず、ジャッカルの耳をピンと立て、はっきりと言葉を発する。

「これは、どの予言にも書かれていなかったわ! 包括の歯車が、直接アカシックレコードを受け継ぐなんてことは……」彼女はレイトキの内側から湧き上がる膨大な情報と、歯車同士が完全に融合した輝きを感じ取り、更に続ける。

「歴史の記録も、未来の可能性も、全てを束ねる包括が、その『源の記録』そのものを手中に収めた。これはもう、予言の筋書きを超えた、全く新しい道が開かれたってことよ!」レイトキは胸に手を当て、その重みと可能性をしっかりと受け止める。

「ああ。父さんが最後に託してくれた、この選択。俺が自分の手で、これからの運命を作っていくってことなんだな」レイトキたちは気持ちを新たに、旧校舎の扉をくぐり奥へ進もうと足を踏み出す。だが次の瞬間、目の前がふっと白く霞み、気がつくと元の出入り口の前に立っていた。


「なんだ? さっきと同じ場所だぞ?」

レイトキは眉を寄せ、もう一度扉を開けて中へ入る。だが同じように空間が歪み、またもや出入り口へと弾き出されてしまう」久美子は端末を起動し、空間の状態を確かめる。

「結界……いや、記録のロックね。アカシックレコードが書き換えを拒んでいるのか、それともユーカリがこの空間を『未許可領域』に設定しているわ。普通の進入では、この先へは絶対に通さないということみたい」アルビテトは頷き、レイトキを見る。

「ここはただの建物じゃない。世界のデータを書き換えるための、巨大な装置そのものなのよ。だから侵入者を自動的に弾き返す。この壁を破るには――あなたが今受け継いだ、アカシックレコードの力で、この空間のルールそのものを書き換えるしかないわ!」 レイトキは胸に手を当て、決意を込めて頷く。

「ならば、俺がこの扉の前で、新しい道を切り開く。父さんが託してくれた力で、この結界を越えてみせる!」突然、風がさらりと揺らぎ、出入り口の前に狐耳を立てた人物が現れる。藍色の中華服を身にまとい、穏やかながらも鋭い眼差しでレイトキたちを見つめている。

挿絵(By みてみん)

「おっと、アカシックレコードの書き換えなんかを下手に使うと、取り返しのつかない危険が伴いますよ」

レイトキは身構え、記憶をたどりながらはっきりと言い返す。

「お前……確か、過去に法を犯して収監されたことがある、その顔と気配、間違いないな」女は悪びれる様子もなく、軽く肩をすくめる。

「過去の過ちは過去のもの。今は、この場所の結界の仕組みを知っている者として、忠告に来ただけだ。この空間は二重のロックがかかっている。一方的に書き換えようものなら、お前自身の存在までデータごと消し飛ぶぞ?」レイトキは相手の立ち居振る舞いと言葉の端々を見抜き、はっきりと言い当てる。

「なるほど、お前もユーカリの配下の者だな」狐耳の女は胸を張り、畏敬の念を込めて名乗りを上げる。

「私の名はアイラン! ユーカリ様によって収監から解き放たれし者の一人にして、この地の結界管理を任された者だ! 偉大なるユーカリ様こそが、我らの救世主であり、歪んだ世界を正しく導くお方なのだ!」彼女は両手を広げ、結界の壁がさらに強く輝きを増す。

「この先へは、誰も通さない。アカシックレコードの力を悪用しようなど、もってのほか!」レイトキは結界の輝きを見つめ、真剣な面持ちで頷きながらはっきりと言う。

「確かにそうだ。力を無闇に使えば、予期せぬ悪い影響が出ないとは言えない。軽々しく書き換えるような真似は、慎まなければならないな」アイランは少し驚いたように眉を上げ、その上で満足げに口角を上げる。

「ほう、物わかりがよろしいですね。道理をわきまえているではないか。ならばなおさら、ユーカリ様が整えた道を踏み荒らすような真似は、やめていただきましょう」だがレイトキはその言葉を受けて、さらに瞳を鋭くさせて続ける。

「だが、だからといって、お前たちが間違った道を進むのを黙って見ているつもりもない。正しいのか間違っているのか、それを確かめるためにも、俺はこの先へ進む」アイランは狐耳を少し揺らし、真剣な面持ちで告げる。

「一つ、教えてあげましょう。ユーカリ様は、レイトキ、ある意味で貴殿によく似ているのです。生い立ちや境遇は全く違いますが……貴殿と同じく、ビヨンダードとクリプトン、二つの世界の存在が混ざり合った、特別な身の上なのです」彼女は一歩前に踏み出し、結界の光を背景に続ける。

「だからこそ、彼女はこの世界の不条理を痛いほど知っている。だからこそ、歪んだ定めを打ち破り、誰もが等しく生きられる新しい世界を創ろうとしておられるのです!」レイトキはその言葉に思わず息を呑み、拳を強く握りしめる。

「そうだったのか……。だが、だからといって、人の意思や存在をデータとして扱い、勝手に書き換えることが、正しいと言えるのか? 同じ混ざり者だからこそ、俺はそのやり方には納得できない!」アイランは狐耳をピクリと動かし、核心を明かすようにはっきりと告げる。


「そうです。言うならば、貴殿が生まれつきの『先天的』なのに対し、ユーカリ様は自ら選び取った『後天的』なのです」


彼女は一呼吸置き、真実を紡ぎ出す。


「種明かしをしましょう。ユーカリ様は元々、クリプトン――ジョースターミクスタッド皇国のヤクモシティで生まれ育った方なのです。それが、自らの意志でビヨンダードの住民と融合し、それでいてこうして完全に自我を保ち続けておられる」レイトキは驚きを隠せず、思わず前のめりになる。

「同じ皇国の出身で……しかも、自らビヨンダードと融合を選んだ? それほどまでに、彼女が抗いたいものがあったというのか……」アイランは力強く頷く。

「あらゆる痛み、理不尽、諦めを知っているからこそ、彼女は今の世界を捨て、新しい道を創ろうとしておられるのです!」レイトキは真っ直ぐアイランを見据え、はっきりと言い放つ。


「目的だけを聞けば、本来は敵対する理由なんてないじゃないか。みんなが幸せに、理不尽なく生きられる世界を望むのなら、なおさらだ。ただ、やり方さえ間違えなければな」彼は一歩前に踏み出し、続ける。

「今のやり方じゃ、今あるクリプトンの世界、そこで懸命に生きてる人たちの想いまで全部捨てちまうことになる。そんな必要は全然ないだろう? だったら一人で背負い込んだり、力で無理やり書き換えたりするんじゃなく、仲間の力を借りればいいじゃねぇーか!」アイランは言葉を失い、狐耳を震わせながら、初めて迷いの色を浮かべる。その目には、「そんな選択肢があったのか」という驚きが、確かに宿っていた。レイトキは拳を緩め、心の底からの想いをはっきりと言葉にする。


「俺は、ストレンジプレデターの者たちを、みんなまとめて憎んだり恨んだりしてるわけじゃない。ユーカリも、お前も、カトレアも、みんなそれぞれ訳があって今の道を選んだってことくらい、分かってるつもりだ」


彼はアイランの瞳を真っ直ぐに見つめ、続ける。


「ただ、自分が正しいと信じ込んで、そのやり方が間違ってることに気づかず、そのまま進み続けるのだけは、どうしても許せないだけなんだ。傷つく人、消される人が出る前に、一度立ち止まって、違う道を探すことだってできるだろう?」アイランは唇を噛み、狐耳を俯かせた。その胸の内には、今まで誰も言ってくれなかった言葉が、確かに響いていた。空気がふわりと揺らぎ、ユーカリがひっそりと姿を現す。彼女はレイトキを真っ直ぐに見つめ、その瞳には複雑な優しさと強い決意が宿っている。

「レイトキ、君、本当に変わったよね。間違ってると分かっていても、どうしても成し遂げなきゃいけないことがあるのよ」 彼女は少しだけ口元を緩め、続ける。

「でも……ストレンジプレデターの者たち自身を憎んでいない、そう言ってくれたのは、本当に嬉しかったかな」レイトキは彼女の言葉を受け止め、真剣に応える。

「お前が背負ってるものの重さは、少しだけ分かった気がする。だけど、その『成し遂げること』のために、犠牲にしなくてはならないものがあるのなら、それはやっぱり違うと思うんだ。お前の望む世界を、もっと優しい方法で創る道だって、きっとあるはずだ」ユーカリは静かに視線を落とし、そして再びレイトキを見上げる。

「そうね……。だけど、私はもう、後戻りができないところまで来てしまったの。だからこそ、最後まで私のやり方を見届けてほしい」レイトキは一歩も引かず、ユーカリの瞳を真っ直ぐに見据え、力強く言い放つ。

「間違ったやり方で進んでるっていうなら、俺が止めてやる! それが、俺の選んだ道だからだ!」 は胸の内のアカシックレコードと包括の歯車を共鳴させ、その輝きを瞳に宿らせる。

「後戻りできないなんて、誰が決めたんだ? 道は一つじゃない。お前が本当に望む世界を創るために、俺は最後まで向き合う。だから、その歪んだ書き換えの力、俺が正しい形に直してみせる!」ユーカリはその真っ直ぐな想いに、思わず目を見開き、そして微かに唇を結ぶ。その瞳の奥には、諦めとは別の、新たな感情が揺らぎ始めていた。

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