EPISODE1-20【エルカーノス入隊】
朝。レイトキは何気なくポストへ向かった。
「何か届いてるかな……。」郵便受けを開けると、数枚のチラシに混じって、一通だけ黒と銀を基調とした重厚な封筒が目に入る。封筒の表面には、見覚えのある紋章。――エルカーノス。
「……エルカーノスから?」
レイトキは封を切り、中の書類を取り出した。
そこには大きく記されていた。
『隊員募集中』さらに、その下には説明が続く。
『本書類は、実力評価Aランク以上と認定された者にのみ送付されています。正式入隊希望者は、指定日時にエルカーノス本部へお越しください。なお、入隊には適性試験があります。』
レイトキは書類を読み終えると、小さく息をついた。
「本当はこういう組織に所属するのは、俺のガラじゃないんだけどな……。」少し考えたあと、口元にわずかな笑みを浮かべる。
「でも、エルカーノスの権限は何かと便利かもな。」書類を封筒へ戻しながら、静かに呟く。
「何でも屋をやる上でも、活動の制限がかかりにくくなるだろうし。」
レイトキはもう一度、エルカーノスの紋章を見つめる。
「……よし。」
「一度、話だけでも聞きに行くか。」
その決意が、彼の新たな一歩となることを、この時のレイトキはまだ知らなかった。エルカーノス本部。巨大な施設の入口をくぐったレイトキは、受付へと足を運ぶ。
「入隊試験の案内で来ました。レイトキです。」受付係が端末を確認し、微笑んだ。
「確認しました。本日はよろしくお願いいたします。」その時、後ろから聞き慣れた声が響く。
「おっ、レイくんじゃん!」振り返ると、そこには久美子が立っていた。
「久美子も来てたのか。」
「もちろん! 私にも招待状が届いたんだよ!」さらに入口の方からカグラ、斗愛、与太郎、デュークが姿を現す。
「みんな……。」斗愛が肩をすくめる。
「どうやら僕たちも呼ばれたみたいだ。」与太郎は封筒をひらひらと振る。
「Aランク以上限定の招待状だってさ。結構すごいことらしいぜ。」デュークは腕を組みながら静かに頷く。
「実力を認められたということだな。」その直後、もう二人の姿が見えた。紫の髪を揺らしながら歩くアルカと、落ち着いた表情のゼロである。アルカはレイトキたちを見ると柔らかく微笑む
「皆さんも来られていたのですね。」ゼロも静かに口を開く
「予想通りだ。Aランク以上を対象とした一斉招集……というわけか。」レイトキは仲間たちを見渡し、小さく笑う。
「一人じゃないってのは、やっぱり心強いな。」久美子が元気よく拳を握る。
「よーし! 全員で試験を突破して、エルカーノスの隊員になろう!」仲間たちはそれぞれ頷き、受付の奥へと歩き出す。これから始まる試練が、彼らの運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。レイトキたちは受付カウンターへと向かい、それぞれ招待状を提出した。受付係は一人ひとりの身元を確認し、端末へ情報を入力していく。しばらくして、受付係は穏やかな笑みを浮かべた
「確認が完了しました。皆様の入隊試験への参加手続きを受理いたしました。」受付係は人数分の受験証を差し出す。
「こちらが受験証となります。試験中は常に携帯してください。」レイトキが受験証を受け取ると、受付係は説明を続けた。
「なお、この入隊試験は、協会が実施するランク昇級試験と同等、あるいはそれ以上の影響力を持つ試験です。」その言葉に、一同の表情が引き締まる。受付係はさらに続ける
「試験中の能力使用に制限はありません。異能力、特有能力、種族能力など、皆様が有するすべての能力の使用を許可します。また、武装や装備につきましても、安全基準を満たしているものに限り使用可能です。」久美子が小さく目を丸くする。
「つまり……最初から本気で戦っていいってことなんですね。」
「はい。」受付係は静かに頷いた。
「この試験では、皆様の総合的な戦闘能力、判断力、連携力、そして危機対応能力を評価いたします。どうか全力で挑んでください。」レイトキは受験証を握りしめ、仲間たちへ視線を向ける
「遠慮はいらないってことだな。」ゼロは冷静に頷く
「望むところだ。」仲間たちはそれぞれ覚悟を決め、試験会場へと続くゲートへ向かって歩き始めた。試験会場。広大な演習場には、入隊候補者たちが整列していた。レイトキたちも指定された位置に並び、静かに開始を待つ。やがて、演説台の近くへ一人の試験教官が歩み出る。鋭い眼差しで候補者全員を見渡し、力強い声を響かせた。
「――入隊候補者、諸君。」場の空気が一瞬で張り詰める。
「エルカーノスに入るには、必要なものがそろっていなければならん。強さだけでは足りない。冷静な判断力、仲間との連携、使命を全うする覚悟、そして困難に立ち向かう精神力。そのすべてを兼ね備えた者だけが、我々エルカーノスの隊員となる資格を得る。」候補者たちは教官の言葉に耳を傾ける。
「これから始まる試験では、諸君らの実力を余すことなく見せてもらう。」その時だった。
バンッ!
試験会場の扉が勢いよく開いた。
「ご、ごめんなさい! 遅れてしまいました!」肩で息をしながら駆け込んできたのは、リジェとホワンだった。
周囲の候補者たちが一斉に視線を向ける。久美子は思わず手を振る。
「リジェ、ホワン! こっちこっち!」リジェは申し訳なさそうに頭を下げながら駆け寄る。
「本当にごめんなさい……。電車が少し遅れちゃって……。」レイトキは苦笑しながら答えた。
「間に合ったんだから、気にするな。」教官はリジェを一瞥すると、落ち着いた口調で言った。
「……開始前だ。所定の位置につきたまえ。」
「は、はい!」リジェは慌てて列へ加わる。全員がそろったことを確認した教官は、改めて候補者たちへ視線を向けた。
「では、これよりエルカーノス入隊試験を開始する。」教官は手元の端末を操作し、大型モニターにチーム分けを表示した。
「これより、入隊試験のチームを発表する。」候補者たちは一斉にモニターへ視線を向ける。レイトキも自分の名前を探す。
やがて、モニターに表示された。
第一チーム
・レイトキ
・リジェ
・ホワン
・アルビテト
・久美子
「同じチームだ!」久美子が嬉しそうに声を上げる。リジェも胸をなで下ろした。
「知っている人がいて安心しました……。」ホワンはふっと微笑む。
「面白い組み合わせになったわね。」アルビテトは腕を組みながら、レイトキたちを見回す
「よろしく頼む。試験とはいえ、足を引っ張るつもりはない。」レイトキは軽く頷く。
「ああ。全員で合格を目指そう。」教官が再び口を開く。
「チームは実力だけでなく、適性や相性も考慮して編成されている。」
「本試験は個人の能力だけでは突破できない。仲間との連携も重要な評価対象だ。」5人は互いに顔を見合わせ、それぞれ静かに覚悟を決めた。これから始まる試験は、自分たちの力だけでなく、信頼と連携が試される戦いでもあった。試験教官の合図とともに、第一チームは演習ゲートの前へと集まった。目の前には青白い光を放つ巨大なゲートがそびえ立っている。その先にあるのは、エルカーノスが管理する特殊演習施設――演習ダンジョン。教官は5人を見渡し、静かに告げた
「この先は実戦を想定した演習区域だ。内部には様々な地形やギミック、そして訓練用ストレンジが配置されている。油断すれば、試験終了となる可能性もある。気を引き締めて進め。」レイトキはマルチブレイカーに軽く手を添え、小さく頷く
「みんな、行こう。」
「うん!」久美子が元気よく返事をし、リジェも緊張した面持ちで頷いた。ホワンは周囲を警戒しながら微笑む。
「さて、どんな試練が待っているのかしら。」アルビテトは静かに一歩前へ出る。
「まずは周囲の状況を確認しながら進む。無理は禁物だ。」5人は互いに視線を交わすと、一斉にゲートへ向かって歩き出した。眩い光が彼らの姿を包み込む。次の瞬間――
目の前に広がっていたのは、機械質な作りである。レイトキはゆっくりと辺りを見回す。
「ここが……演習ダンジョン。」
試験開始のカウントダウンが鳴り響く。
『演習ダンジョン・第一試験、開始します。』そのアナウンスと同時に、5人は未知のダンジョンへと足を踏み入れた。5人が通路を進み始めて間もなく――。それまで沈黙していた壁面のコンピューターモニターが、突然起動した。ピッ――。機械音とともに画面が青白く発光する。
「!」久美子が驚いて足を止めた。
「急についた!?」ホワンもモニターへ視線を向ける。
「何か始まるみたいね。」画面にノイズが走った後、一人の男性が映し出された。それは先ほど演説を行っていた試験教官だった。
『第一チーム、聞こえるか。』スピーカーから低く落ち着いた声が響く。
『ここから先が本当の試験だ。演習ダンジョンはリアルタイムで構造が変化する可変型迷宮となっている。敵を倒すだけでは突破できない。状況判断、探索能力、そしてチームワーク、そのすべてを見せてもらう。』画面にはダンジョンの簡易マップが表示される。しかし、そのほとんどは黒く塗りつぶされていた。
『最深部にある試験用コアへ到達し、起動させれば第一試験は終了となる。なお、途中でリタイアを申告した場合、その時点で失格だ。』映像が途切れる直前、教官は静かに言い放つ。
『諸君らの健闘を祈る。』プツッ、と通信が切れ、モニターは再び待機画面へと戻った。レイトキは仲間たちを見回し、静かに頷く。
「よし、第一試験開始だ。」5人は警戒を強めながら、機械仕掛けの演習ダンジョンの奥へと歩みを進めた。第一チームは互いに声を掛け合いながら、機械仕掛けの演習ダンジョンを進んでいく。行く手を阻む訓練用ストレンジを撃破し、複雑な仕掛けを一つずつ突破する
「右から来る!」レイトキの声に反応し、アルビテトが敵を迎え撃つ。
「任せろ!」その隙に久美子が支援を行い、リジェが負傷役を回復する。ホワンは幻術で敵の注意を逸らし、安全な進路を確保した。5人の連携は次第に噛み合い、迷うことなくダンジョンの奥へと進んでいく。そして最奥部へ到達すると、巨大な円形の部屋が姿を現した。部屋の中央には六つの台座が並び、それぞれに異なる色のコアが設置されている。
赤。
青。
黄色。
緑。
橙。
レイトキは周囲を見回した。
「これが試験用コアか……。」
すると壁面のモニターが起動し、機械音声が流れる。
『五基すべてのコアを起動してください。」
「一人一つずつだね!」久美子の提案に全員が頷く。レイトキが赤のコアへ。リジェが青のコアへ。ホワンが紫のコアへ。アルビテトが緑のコアへ。久美子が黄色のコアへ。仲間と協力して起動装置を操作した。
「せーの!」全員が同時にコアへ手を触れる。
ウィィィン――。
五色の光が一斉に輝き始め、部屋全体を鮮やかな光が包み込んだ。その瞬間、天井のスピーカーからアナウンスが流れる。
『第一試練クリア。』第一チームの突破を確認しました。第二試練へ移行します。』レイトキたちは互いに顔を見合わせ、小さく笑みを浮かべた。だが、それは試験の始まりに過ぎなかった。六つのコアが輝き続ける中、機械音声が再び演習ダンジョン内に響き渡る。
『第一試練のクリアを確認しました。』一瞬の静寂の後、続けてアナウンスが流れる。
『試練は第三まであります。現在、第一試練を突破しました。これより第二試練を開始します。』部屋全体が低く振動し始める。
ゴゴゴゴゴ……。
「揺れてる……!」久美子が身構える。目の前の壁がゆっくりと左右へ開き、これまで存在しなかった新たな通路が姿を現した。リジェはその先を見つめ、小さく息をのむ。
「まだ終わりじゃなかったんですね……。」ホワンは静かに微笑む。
「ここからが本番ってことかしら。」アルビテトは剣に手を添え、警戒を強める。
「気を抜くな。第二試練がどんな内容かは分からない。」レイトキは新たに開いた通路へ視線を向ける。
「行こう。」
「第三試練まで突破して、全員で合格する。」仲間たちは力強く頷き、第二試練へと続く通路へ足を踏み入れた。第一試練を突破したレイトキたちが新たな通路へ進むと、背後で重々しい音が響いた
ゴゴゴゴゴ……バンッ!
通ってきた扉がゆっくりと閉まり、完全に封鎖される。久美子が振り返る。
「戻れなくなっちゃった……。」アルビテトは冷静に周囲を見渡す。
「つまり、前へ進むしかないということだ。」しばらく歩くと、視界が一気に開けた。そこに広がっていたのは、これまでの機械質な空間とはまるで異なる景色だった。湿った空気。生い茂る木々とツタ。広大な湿地帯が広がり、水辺には巨大な植物が群生している。まるで熱帯ジャングルそのものだった。
「景色が一変したな……。」 レイトキは辺りを見回す。浅瀬と深い水路が複雑に入り組み、徒歩では進みにくい地形になっている。その時、岸辺に一隻の小型船が停泊しているのを見つけた。レイトキは船へ近づきながら呟く。
「船があるな。」船体を軽く叩き、安全を確認する。
「ある程度は船で移動か。」リジェも船を覗き込み、安心したように微笑む。
「歩くよりはずっと速そうですね。」ホワンは水面を見つめながら静かに言う。
「でも、水の中にも何か潜んでいそうね。」その言葉に全員が自然と警戒を強める。レイトキは船に乗り込み、仲間たちへ手を差し伸べた。
「よし、第二試練を進もう。」5人は小型船へ乗り込み、静かな湿地ジャングルの奥へと漕ぎ出した。5人は船へ乗り込むと、周囲を警戒しながらそれぞれの持ち場についた。レイトキが周囲を見回し、指示を出す。
「船の上じゃ死角ができやすい。全方向を警戒しよう。」
「了解!」久美子は元気よく返事をすると、右前方へ移動し、水面と進行方向を注意深く見つめる。リジェは左前方に立ち、周囲の気配を探りながら、いつでも回復支援ができるよう身構えた。ホワンは右後方につき、背後からの奇襲に備えて静かに周囲を観察する。アルビテトは左後方に立ち、武器を構えながら船尾付近の警戒を担当した。そしてレイトキは、全員の姿が見渡せる船の中央付近へ立つ。
「これなら誰かが襲われても、すぐに援護へ入れる。」仲間たちはそれぞれ頷き、警戒を一層強める。静かな水面を船がゆっくりと進んでいく。風で木々が揺れる音と、水をかく音だけが湿地ジャングルに響いていた。しかし、その静けさは長くは続かなかった――。静寂に包まれていた湿地ジャングル。その時、レイトキの索敵能力が周囲の異変を捉えた。
「……!」水面の奥から、複数の反応が高速で接近している。レイトキは一瞬で方向を見極め、ハキハキとした声で指示を飛ばした。
「左後方から敵性反応あり! 対応しろ!」
「了解!」左後方を警戒していたアルビテトが即座に武器を構える。次の瞬間、水しぶきが激しく上がった。
バシャァッ!
湿地の水中から訓練用ストレンジが飛び出し、船へ襲いかかる。
「来たか!」アルビテトが迎撃に出ると、ホワンも右後方から援護を開始する。
「幻影で動きを止めるわ!」久美子は前方から支援の態勢を整え、リジェはいつでも回復できるよう魔力を集中させた。レイトキは全員の動きを確認しながら、次の指示を出す。
「慌てるな! 連携を崩さず迎え撃つぞ!」5人は息を合わせ、湿地から現れた敵へと立ち向かった。レイトキは左後方へ視線を向ける。そこには船に備え付けられた回転式の砲台が設置されていた。
「アルビテト! 左後方の砲台を使え!」
「了解!」アルビテトは素早く砲台へ駆け寄り、照準を敵対生命体へ合わせる。
水面を走るストレンジをロックオンすると、引き金を引いた。
ドォン!!
砲弾が轟音とともに発射され、水面を一直線に駆け抜ける。直撃した敵対生命体は大きく吹き飛び、そのまま光の粒子となって消滅した。
「一体撃破!」しかし、レイトキの索敵能力はさらなる反応を捉える。
「まだ終わってない! 左後方からさらに三体接近!」アルビテトは砲台を素早く旋回させる。
「まとめて片付ける!」
ドドォン! ドォン!ドォン!ドドォン!ドォン
連続して放たれた砲撃が湿地を揺らし、迫っていた敵対生命体を次々と撃ち抜いていく。水柱が立ち上り、最後の一体も爆発とともに消滅した。レイトキは周囲を見渡しながら冷静に指示を出す。
「左後方は制圧完了。引き続き全方向の警戒を維持するぞ。」5人はそれぞれの持ち場を守りながら、船をさらに湿地ジャングルの奥へ進めていった。最後の敵対生命体を撃破すると、船は静かな水路を進み続けた。
やがて、生い茂っていた木々が少しずつ途切れ始める。湿った空気は次第に冷たくなり、水面には薄い氷が浮かび始めていた。
「……寒くなってきた。」リジェが肩を抱きながら周囲を見回す。ホワンは空を見上げる。
「気候が変わってる……。」船が水路の終点へ到着すると、岸には白銀の大地が広がっていた。一歩足を踏み出した瞬間、足元の雪が静かに音を立てる。
ザクッ。
見渡す限り、一面の雪景色。鋭い氷柱が大地から突き出し、吹き荒れる冷たい風が視界を白く染めていく。アルビテトは辺りを警戒しながら呟く。
「湿地の次は氷原か……。環境が極端すぎる。」レイトキは冷たい風を受けながら、前方を見据える。
「演習ダンジョンだからこそできる環境変化なんだろう。」その時、ダンジョン内のスピーカーから機械音声が響いた。
『第二試練エリアを突破。第三試練エリアへ移行します。』レイトキは仲間たちへ視線を向ける。
「ここが最後の試練だ。気を引き締めていこう。」5人は雪を踏みしめながら、吹雪が待ち受ける氷原へと足を踏み入れた。5人が氷原を進み始めた、その時だった。ダンジョン内のスピーカーから電子音が鳴り響く。
『ピーッ……。』続いて、どこか気まずそうなアナウンスが流れ始めた。
『第一チームの皆様へ、お知らせがあります。』レイトキたちは思わず足を止める。
『試練の構成について確認したところ……。』一瞬の間が空く。
『どうやら、間違えて四部構成の演習ダンジョンを割り当てていました。』
「……は?」久美子が思わず間の抜けた声を漏らす。リジェも目をぱちぱちと瞬かせる。
「えっ……間違いだったんですか?」ホワンは苦笑いを浮かべる。
「そんなことってあるのね……。」アルビテトは額に手を当て、小さくため息をついた。
「試験で手違いとは、笑えないな。」レイトキは肩をすくめながら前を向く。
「まあ、ここまで来たんだ。四部だろうが五部だろうが、やることは変わらない。」その言葉に仲間たちは笑みを浮かべる。すると、アナウンスが続いた。
『そのため、本試験は第四試練まで実施されます。ご迷惑をおかけしますが、そのまま試験を継続してください。』
「了解。」レイトキは短く答え、マルチブレイカーを握り直した。
「最後まで付き合ってやる。」5人は吹雪の舞う氷原へ向かい、再び歩き始めた。吹雪の中を、レイトキたちは慎重に歩みを進めていた。踏みしめる雪が静かに音を立てる。周囲は一面の銀世界。冷たい風が頬を切り裂くように吹きつける。その時――。
ゴゴゴゴゴ……。
大地が小さく揺れ始めた。
「……止まれ。」レイトキが手を上げると、全員がその場で足を止める。次の瞬間、前方の巨大な氷山が砕け散った。
バキィィィン!!
氷の破片が吹き飛び、その中から巨大な影が姿を現す。全身を氷のように透き通った青白い鱗で覆い、鋭い爪と長い尾を持つ巨竜。口からは白い冷気が漏れ、翼を広げるたびに吹雪が激しさを増していく。
「グルルルルル……!」ドラゴンは低く唸り、黄金色の瞳でレイトキたちを睨みつけた。リジェは思わず息をのむ。
「ドラゴン……!」ホワンが静かに身構える。
「しかも、氷属性ね。」アルビテトは武器を構え、敵を見据える。
「この圧力……訓練用とは思えない。」レイトキはマルチブレイカーを構えながら、仲間たちへ指示を飛ばした。
「全員、戦闘態勢!」
「油断するな。相手はこの第四試練の番人だ!」巨大な氷竜は咆哮を上げる。
「グオオオオオオオオォォォッ!!」咆哮とともに猛烈な吹雪が巻き起こり、第四試練最大の戦いが幕を開けた。
「私が先に仕掛けます!」リジェは一歩前へ出ると、両手を前にかざした。周囲に魔力が集まり、真紅の炎が渦を巻く。
「フレイムバースト!」轟音とともに巨大な火球が放たれ、氷竜へ一直線に飛んでいく。
ドゴォォン!!
火球は氷竜の胸部へ直撃し、爆炎が辺りを包み込んだ。熱気によって周囲の雪が一瞬で溶け、白い蒸気が立ち上る。
「やった……!」しかし、爆炎が晴れると、氷竜はなお悠然と立っていた。氷のような鱗の一部が焦げ、わずかにひびが入っている。
「グルルル……。」氷竜は低く唸るだけで、大きくひるんだ様子はない。リジェは驚いた表情を浮かべる。
「効いてはいます……でも……。」アルビテトが冷静に分析する。
「体躯が大きすぎる。一撃ごとのダメージが分散されているんだ。」レイトキはドラゴンを見据えながら頷く。
「攻撃は通る。」
「だが、あの巨体を相手に単発の攻撃だけじゃ決定打にならない。」ホワンも武器を構え直す。
「なら、みんなで連携して畳み掛けるしかないわね。」レイトキはマルチブレイカーを構え、仲間たちへ指示を飛ばした。
「弱点を探しながら攻めるぞ! 一人で倒そうとするな、全員で仕留める!」レイトキは一歩前へ出ると、右目に装着したサイバイザーを起動した。
「──解析開始。」青白い光がレンズを走り、無数のデータが視界に表示される。ドラゴンの全身をスキャンし、体内構造、魔力の流れ、鱗の強度を瞬時に分析していく。数秒後、解析が完了した。
「解析完了!」レイトキは仲間たちへ向け、はっきりとした声で告げる。
「コイツは祖龍の次に強いドラゴンだ。冷氷雪司属龍、グラキドラン!厄介な相手だ!」久美子が驚きの表情を浮かべる。
「祖龍の次って……そんなに強いの!?」レイトキは視線をグラキドランから外さず続ける。
「弱点は解析できた。だが、このクラスのドラゴンは自然治癒能力を持っている。確実なダメージを与え続けないと、時間経過で傷が回復する。」リジェは表情を引き締める。
「じゃあ、一撃離脱じゃ駄目なんですね……。」アルビテトは武器を構え直す。
「攻撃の手を止めるな、ということか。」ホワンも静かに頷く。
「連続攻撃で再生する暇を与えなければいいのね。」レイトキはマルチブレイカーを構え、力強く言い放つ。
「そうだ!全員で連携して攻め続ける! 回復する隙を与えるな!」その瞬間、グラキドランは巨大な翼を広げ、氷雪を巻き上げながらレイトキたちへ向かって咆哮を放った。
「グオオオオオオォォォッ!!」グラキドランは鋭い視線をホワンへ向ける。その喉元に冷気が集まり始め、周囲の空気が一気に凍りついていく。レイトキはその予備動作を察知し、叫んだ。
「ホワン! 避けろ!」しかし、一瞬遅かった。
「グオオオオォォッ!!」グラキドランはホワンの足元めがけて氷雪ブレスを放つ。
ゴォォォォッ!!
吹き荒れる冷気が地面を一瞬で凍らせ、ホワンの足元を厚い氷が覆った。
「しまっ……!」ホワンは体勢を崩し、そのまま両足を氷に閉じ込められる。
「くっ……動けない!」足を引き抜こうと力を込めるが、氷はびくともしない。久美子が焦った表情で叫ぶ。
「ホワンの動きを封じられた!」リジェはすぐに杖を構える。
「今、助けます!」だが、その隙を逃すまいとグラキドランが大きく翼を広げ、再びレイトキたちを威圧する。レイトキはマルチブレイカーを構え直し、冷静に指示を飛ばした。
「アルビテト!俺と一緒に時間を稼ぐ!リジェ、ホワンの救出を優先!久美子は後方支援だ!」
「了解!」5人は即座に役割を分担し、氷に囚われたホワンを守るため動き出した。
「ホワン、今助ける!」リジェは素早く前へ飛び出し、杖を掲げた。淡い魔力が杖の先へ集まり、通常よりも高温の橙色の炎が渦を巻く。
「フレアメルト!」橙色の炎はホワンの足元を包み込み、氷だけを狙って燃え広がる。
ジュウウウウッ――。
厚く凍りついていた氷は蒸気を上げながら次々と溶け始めた。
「あと少し……!」リジェは魔力をさらに注ぎ込む。やがて最後の氷が砕け散る。
パキィン!
ホワンはすぐに後方へ飛び退き、距離を取った。
「助かったわ、リジェ!」リジェはほっと息をつき、微笑む。
「無事でよかったです。」レイトキは二人の様子を確認すると、小さく頷いた。
「よし、ホワンの救出完了!」
「グラキドランは連携を崩そうとしてくる。次も同じ手が来るとは限らない。全員、周囲を警戒しながら戦うぞ!」
「了解!」5人は再び隊形を整え、巨大な氷竜グラキドランへと向き直った。
「次は私の番!」久美子は一歩踏み込み、力強く両手を前へ突き出した。
「多腕展開!」背後に魔力の光が広がり、次々と半透明の巨大な腕が出現する。一本、二本、三本――。幾重もの腕が久美子を囲むように展開され、その拳に魔力が集中していく。久美子は気合いを込めて叫んだ。
「デヤアアアアア~~~~!!!」掛け声とともに、多腕が一斉にグラキドランへ襲いかかる。
ドゴォッ! ドガン! バキィッ!
連続する拳撃が氷の鱗を激しく叩きつけ、巨体をわずかによろめかせる。
「グオオォッ!」グラキドランは苦しげな唸り声を上げ、数枚の鱗が砕け散る。しかし、その巨体はなお健在だった。レイトキはその様子を見逃さず叫ぶ。
「いいぞ、久美子! 鱗にダメージが入ってる!」アルビテトは武器を構えながら頷く。
「今が追撃の好機だ!」久美子は拳を握り締め、力強く笑う。
「まだまだいくよ!」多腕を再び構え、次の連撃に備えた。
「久美子さん、そのまま攻めてください!」リジェは杖を高く掲げ、魔力を練り上げる。杖の先から橙色の炎が渦を巻き、久美子の全身を優しく包み込んだ。
「フレイムエンチャント!」炎は熱を放ちながらも久美子を傷つけることはなく、その力だけを高めていく。レイトキが解析結果を確認しながら叫ぶ。
「能力強化か!攻撃力と破壊力が上がってる! 久美子、そのまま押し切れ!」
「任せて!」久美子は全身に炎をまとったまま地面を蹴り、一気にグラキドランへ接近する。背後の多腕にも橙色の炎が宿り、巨大な拳が灼熱の輝きを放つ。
「デヤアアアアアァァァッ!!」ドゴォン!! バキィッ!! ガガガガガッ!!
炎をまとった多腕が次々とグラキドランへ叩き込まれる。拳が命中するたびに炎が炸裂し、氷の鱗が砕け、白い蒸気が勢いよく立ち上る。
「グオオオォォッ!」グラキドランは苦痛の咆哮を上げ、大きく後退した。レイトキはその様子を見て頷く。
「効いてる!炎の付与で氷の鱗へのダメージが増幅している! このまま連携を続けるぞ!」炎をまとった久美子は闘志を燃やし、さらに次の一撃へと踏み込んだ。久美子がさらに踏み込んだ、その瞬間だった。
バチッ……! バチバチバチッ!!
久美子の身体から青白い雷電がほとばしる。
「これが……!」リジェは驚きながらも、久美子を包む橙色の炎を維持し続けた。炎と雷電は互いに干渉し合い、激しいエネルギー反応を引き起こす。
ゴォォォッ!!
橙色の炎は青白い雷光を飲み込み、眩い白金色の輝きへと変化した。
「プラズマ……!」レイトキはサイバイザーに映し出される数値を見て目を見開く。
「炎のエンチャントと久美子自身の雷電が共鳴したんだ!」
「プラズマ化して攻撃エネルギーが一気に跳ね上がってる!」久美子は全身と多腕にプラズマをまとい、力強く叫んだ。
「これで決めるっ!デヤアアアアアァァァーーーーーッ!!」次の瞬間、プラズマをまとった多腕が暴風のような速度でグラキドランへ襲いかかる。
ドドドドドドドドドッ!!ガガガガガガッ!!バキィィィン!!
連続する拳撃のたびにプラズマが炸裂し、氷の鱗を砕きながら激しい衝撃波を巻き起こす。グラキドランの巨体が押し込まれ、周囲の雪原には無数の亀裂が走った。
「グオオオオオォォォッ!!」これまで以上に苦しげな咆哮が氷原へ響き渡る。レイトキは拳を握り締める。
「いいぞ!鱗を突破して、本体にまでダメージが届いている!」仲間たちはその隙を逃すまいと、一斉に次の攻撃態勢へ移った。久美子の猛攻によって大きく体勢を崩したグラキドラン。
その一瞬の隙を、レイトキは見逃さなかった。
「今だ!」レイトキはマルチブレイカーを構え、武装を切り替える。
「アックスモード、展開!」ガシャンッ!
機械音とともに武器が変形し、巨大な戦斧へと姿を変えた。レイトキは力強く地面を蹴り、一気にグラキドランの懐へ飛び込む。
「これで終わりだ!」全身の力を戦斧へと込め、必殺の一撃を放つ。
「ブレイクスラスト!!」ズバァァァァンッ!!
閃光のような斬撃が走り、戦斧はグラキドランの首へ深く食い込む。勢いそのままに刃が振り抜かれ、巨大な首は胴体から切り離された。
「グオオオオオォォ……!」断末魔の咆哮を響かせながら、グラキドランの巨体はゆっくりと崩れ落ちる。次の瞬間、その身体は青白い光の粒子へと変わり、雪原へ溶けるように消えていった。ダンジョン内にアナウンスが流れる。
『第三試練のボス、グラキドランの撃破を確認。第三試練、クリア。』レイトキはアックスモードを解除し、静かに息をつく。
「みんなのおかげだ。一人じゃ勝てなかった。」久美子は笑顔で親指を立てる。
「やったね!」リジェ、ホワン、アルビテトも安堵の表情を浮かべ、5人は第三の試練を突破した喜びを分かち合った。グラキドランが消滅すると、雪原全体に響いていた咆哮は静寂へと変わった。その直後――。
ゴゴゴゴゴ……。
前方の巨大な氷壁がゆっくりと左右へ開き、新たな道が姿を現す。
「扉が開いた。」レイトキが先頭に立ち、仲間たちとともにその先へ進む。通路を抜けた瞬間、冷たい風は一変した。熱風が頬を打ちつける。
「熱っ……!」久美子が思わず腕で顔をかばう。目の前に広がっていたのは、灼熱の大地だった。赤黒い岩肌。どこまでも続く砂漠。地面の至る所から溶岩が噴き出し、遠くでは火山が轟音を立てて噴煙を上げている。リジェは額に浮かんだ汗をぬぐう。
「さっきまで氷原だったのに……。」ホワンは周囲を見渡しながら苦笑する。
「今度は火山砂漠地帯なのね。」アルビテトは熱気で揺らめく地平線を見据えた。
「極寒の次は灼熱か。演習ダンジョンとはいえ、環境の変化が激しすぎる。」レイトキはサイバイザーで周囲を解析しながら静かに言う。
「まだ試験は終わっていない。この火山砂漠地帯が、第四試練の舞台というわけだ。」5人は灼熱の風を受けながら、それぞれ武器を構え、火山砂漠地帯の奥へと歩みを進めた。火山砂漠地帯へ足を踏み入れたレイトキたち。その時、ダンジョン内に再びアナウンスが響き渡った。
『第一チームへ通達します。』5人は足を止め、周囲を警戒しながら耳を傾ける。
『第四試練のクリア条件を提示します。』一拍置いて、機械音声が続く。
『試練クリア条件は――救出対象の救出保護、及びボスモンスターの撃破です。』久美子が驚いた表情を浮かべる。
「救出対象……?」リジェも周囲を見回す。
「誰かが、この火山砂漠のどこかにいるってことですね。」ホワンは目を細める。
「ただ倒すだけじゃない。守りながら戦う試験ということね。」アルビテトは頷く。
「戦闘能力だけではなく、判断力や救助能力も評価するつもりか。」
レイトキはアナウンスの内容を整理する。
「つまり、ボスを倒すだけじゃ失格。救出対象を無事に連れ出して、初めてクリアってことだ。」その時、レイトキのサイバイザーに微弱な反応が表示される。
「……見つけた。」仲間たちがレイトキを見る。
「救出対象の反応だ。場所は……火山地帯の奥。」レイトキはマルチブレイカーを構え直した。
「行くぞ。まずは救出対象を助ける。そして、最後のボスを倒す。」5人は灼熱の砂漠を越え、救出対象が待つ火山地帯の奥へ向かって走り出した。火山砂漠地帯を進んでいると、レイトキのサイバイザーが反応を示した。
「……何かある。」5人が向かった先には、岩陰に設置された金属製の支給箱が置かれていた。
「試験用の補給物資かしら?」久美子が箱へ近づく。レイトキが安全確認を行った後、ゆっくりと蓋を開ける。中に入っていたのは――。
「これは……。」そこには、第四試練専用と思われる装備が収納されていた。まず取り出されたのは、特殊合金で作られた保護用檻。次に、熱気から身体を守るための調温ドリンク。そして――。
「ツルハシ……?」リジェが首を傾げる。箱の中には複数の掘削道具が入っていた。アルビテトはそれらを確認し、状況を分析する。
「救出対象が地下にいる可能性が高いな。」ホワンも周囲の地形を見る。
「火山地帯……それなら溶岩洞窟や地下空間に閉じ込められているのかもしれない。」レイトキは頷き、装備を分配する。
「保護用檻は救出対象を安全に運ぶため。」
「調温ドリンクは、この環境での活動時間を伸ばすため。」
「そして掘削道具は……救出ルートを作るためだ。」久美子はツルハシを持ち上げる。
「まさか、戦うだけじゃなくて採掘までやる試験とはね。」レイトキは火山の奥を見据える。
「エルカーノスが見ているのは、ただ強いかどうかじゃない。
「どんな状況でも任務を達成できるか……そこを試しているんだ。」5人は必要な道具を手に取り、救出対象が待つ火山砂漠の奥へ進んでいった。火山窟へ続く道を進んでいたレイトキたち。やがて、巨大な岩壁に囲まれた入口が見えてくる。しかし、その手前――。火山窟前の開けた地帯で、何かが動いた。
「……止まれ。」レイトキが手を上げる。5人はすぐに足を止め、前方を警戒する。そこにいたのは――。猫のような耳。しなやかな獣の体つき。そしてコヨーテを思わせる鋭い顔立ち。猫科と犬科の特徴が混ざったような姿をしたモンスターだった。
「……あれは?」リジェが小さく呟く。レイトキはサイバイザーで解析を開始する。
「解析中……。」画面にデータが表示される。
「確認した。フェンビース。猫耳のコヨーテ型モンスターだ。」目の前には、六体のフェンビースが火山窟の入口を守るように立ちはだかっている。一体一体は大型ではない。しかし、六体が連携するように動き、こちらを警戒していた。ホワンは周囲を見ながら言う。
「番犬……ならぬ、番獣ってところかしら。」アルビテトは武器を構える。
「この先へ進むには避けられない相手だな。」久美子も拳を握る。
「なら、突破するだけ!」レイトキは仲間たちへ指示を出す。
「油断するな。数は六体だが、連携型の可能性が高い。短時間で制圧して、救出対象の捜索へ向かうぞ。」六体のフェンビースが低く唸り声を上げる。火山の熱気が吹き抜ける中、最後の試練の新たな戦闘が始まろうとしていた。火山窟前。六体のフェンビースは一斉にレイトキたちへ襲いかかった。しかし――。
「焦るな。」レイトキは冷静に相手の動きを観察していた。フェンビースたちは単純に突撃しているわけではない。一体が前方から注意を引き、その隙に別の個体が側面から回り込む。さらに後方の個体が援護する。
「連携型だ。」レイトキは攻撃をかわしながら分析する。
「でも、完全に同じ動きじゃない。」
一体の動きに合わせて、他の個体も反応している。つまり――。
「リーダー役がいる。」その瞬間、一番後方にいたフェンビースが指示を出すように鳴き声を上げた。
「見つけた。」レイトキは仲間へ合図を送る。
「まず中心個体を狙う!」フェンビースが飛び掛かる。だが、レイトキたちは無理に迎撃せず、攻撃の軌道を読みながら受け流していく。久美子が攻撃をかわしながら叫ぶ。
「動きが分かってきた!」ホワンも敵の動きを見切る。
「右から来る個体は必ず一拍遅れる……そこが隙ね。」アルビテトはその瞬間を逃さず、反撃へ移る。
「今だ!」リジェが炎を放ち、フェンビースの動きを制限する。レイトキは弱点部位を解析する。
「首元……そこに熱源反応が集中している。そこが弱点だ!」5人は一斉に攻撃へ転じる。久美子の拳が敵の動きを止め、ホワンの幻術が回避経路を奪う。リジェの炎が防御を崩し、アルビテトが確実に追撃する。最後にレイトキが弱点へ一撃を叩き込む。
ズドンッ!
フェンビースは光の粒子となって消滅した。残った個体も、統率を失って動きが乱れる。
「今だ、畳み掛ける!」レイトキの指示とともに、5人は連携攻撃を繰り出した。数分後――。六体のフェンビースはすべて撃破され、火山窟への道が開かれた。
「突破したな。」レイトキは奥へ続く暗い洞窟を見つめる。
「救出対象は、この先だ。」5人は装備を整え、火山窟の内部へと足を踏み入れた。火山窟へ入ったレイトキたちは、内部の熱気に注意しながら慎重に進んでいた。溶岩の流れる音が洞窟内に響き、赤い光が岩壁を照らしている。
すると――。
「……待て。」レイトキが足を止めた。洞窟の入口から少し進んだ場所。そこには、小さな影がうずくまっていた。近づいて見ると、それは猫によく似た姿をした生物だった。しかし、普通の猫とは違う。背中には翼が生えており、熱気の中でも傷ついた様子でこちらを見つめている。
「猫……?」久美子が驚いた声を漏らす。リジェも心配そうに近づく。
「怪我をしているみたいです……。」レイトキはサイバイザーで確認する。解析結果が表示される。
「生命反応あり。対象は……救出対象で間違いない。」レイトキは周囲を警戒しながら呟いた。
「これが、エルカーノスが指定した救出対象か。」翼の生えた猫型生物は、弱々しく鳴き声を上げる。
「ニャ……。」久美子はすぐに表情を柔らかくした。
「大丈夫。助けに来たよ。」リジェがそっと手を伸ばす。
「まずは安全な場所へ移しましょう。」レイトキは支給された保護用檻を取り出す。しかし、すぐには入れず、周囲を確認する。
「救出対象を見つけた。でも、試練はまだ終わっていない。この後にボス戦があるはずだ。」5人は翼の生えた猫型生物を保護し、火山窟のさらに奥へ視線を向ける。そこには、巨大な気配が潜んでいた。レイトキは翼を持つ猫型生物を慎重に抱き上げる。
「大丈夫だ。もう安全な場所へ連れていく。」小さな生物は少し警戒しながらも、レイトキの腕の中で静かになる。サイバイザーに表示された情報を確認する。
「対象名……トビネコ。火山窟内で保護されていた救出対象だ。本保護をする」レイトキは支給された保護用檻を取り出した。特殊素材で作られた檻は、内部の温度や空気環境を自動調整する機能が備わっている。
「これなら大丈夫だ。」トビネコを優しく中へ入れると、檻の内部が淡い光で包まれる。トビネコは安心したように丸くなった。久美子が檻を覗き込む。
「よかった……。無事で本当によかったね。」リジェも微笑む。
「後は、この子を連れて脱出すれば……。」しかし、レイトキは洞窟の奥を見つめる。
「まだ終わってない。アナウンスでは、救出対象の救出とボス撃破が条件だ。」アルビテトが武器を構える。
「つまり、この先に試練最後の相手がいる。」ホワンは周囲の気配を探る。
「さっきから、奥から大きな魔力を感じるわ。」レイトキは保護檻を固定すると、マルチブレイカーを構えた。
「トビネコは俺たちが守る。行くぞ。最後のボスを倒して、この試練を突破する。」5人は保護したトビネコを連れ、灼熱の火山窟のさらに奥へと進んでいった。その先で待ち受ける存在を知らずに――。火山窟の最深部。レイトキたちはトビネコを保護した檻を守りながら、ゆっくりと奥へ進んでいた。すると――。
ゴゴゴゴゴ……。
洞窟全体が大きく揺れ始める。溶岩の流れが激しくなり、前方の巨大な岩壁が崩れ落ちた。その奥から、巨大な影が姿を現す。
「……来たか。」レイトキはすぐに戦闘態勢へ入る。現れたのは、一体の巨大なワイバーン型ドラゴンだった。黒曜石を思わせる漆黒の翼。赤茶色の鱗と、影のように黒い皮膚。そして、ガラス細工のように鋭く輝く爪。燃え盛る火山の光を反射し、その姿はまるで破壊の化身だった。赤い瞳が、レイトキたちを捉える。
「グルルルル……。」低い唸り声が洞窟内に響き渡る。久美子が息をのむ。
「さっきのグラキドランとは、また違う迫力……。」リジェも警戒しながら杖を構える。
「黒い翼……あれは普通のドラゴンじゃないですね。」レイトキはサイバイザーを起動する。
「解析開始。」データが次々と表示される。しかし、表示された情報量はグラキドラン以上だった。
「……。」レイトキの表情が少し険しくなる。
「こいつが……第四試練のボス…。」巨大なワイバーンは翼を広げ、火山の熱風を巻き起こす。レイトキは仲間たちへ告げる。
「名前は――、デザヒードラン。黒曜翼と灼熱の力を持つ、超危険種だ。」デザヒードランは赤い眼光を光らせ、鋭い爪で地面を削る。救出対象のトビネコを守りながらの戦い。最後の試練が、ついに始まろうとしていた。デザヒードランと対峙した瞬間――。火山窟内に、今までとは違う緊迫した警報音が鳴り響いた。
ピィィィィィンピィィィィィン――!
赤い警告ランプが点滅し、壁面のモニターが強制的に起動する。そして、通常の試験アナウンスとは異なる、緊急音声が流れ始めた。
『警告。警告。ドルマゲン反応を確認。』その言葉を聞いた瞬間、レイトキの表情が変わる。
『原因不明。原因不明。対象が元から演習ダンジョン内に存在していたものなのか、外部から迷い込んだものなのか、現在解析不能。第一チームの試験ダンジョン内に、高危険度生命体反応あり。』久美子が驚いて声を上げる。
「ドルマゲン……!?」リジェも緊張した表情でデザヒードランを見る。
「まさか……このドラゴンが……?」ホワンは冷静に状況を分析する。
「つまり、エルカーノスが用意した試験用ボスではない可能性があるってことね。」アルビテトは武器を握り直す。
「予定外の敵……というわけか。」レイトキはデザヒードランから目を離さない。赤い瞳。黒曜石の翼。異常なまでの存在感。サイバイザーの表示には、通常のモンスターとは異なる警告表示が出ていた。
「解析不能領域がある……。」レイトキは小さく呟く。
「こいつ、本当にただの試験相手じゃない。」その時、再びアナウンスが響く。
『第一チームへ通達。試験継続、または撤退判断はチームに委ねます。ただし、救出対象を保護した状態での脱出を最優先としてください。最優先任務は救出対象の保護し回収することです』レイトキは仲間たちを見る。後ろには保護したトビネコ。前には未知のドルマゲン――デザヒードラン。しかし、彼は迷わなかった。
「……俺たちは進む。トビネコを助ける。そして、目の前の脅威を止める。」デザヒードランが大きく翼を広げる。灼熱の風が火山窟を満たす。予定外の最終戦が、幕を開けた。デザヒードランは赤い瞳でレイトキたちを睨みつける。次の瞬間――。
「グオオオオオオォォォッ!!」巨大なワイバーンは大きく息を吸い込む。周囲の熱気が一点へ集まり、火山窟内の温度がさらに上昇していく。レイトキは即座に反応した。
「来るぞ!」デザヒードランの口内に、赤黒い炎のエネルギーが収束する。そして――。
ゴォォォォォォッ!!
灼熱のブレスが放たれた。一直線に迫る炎の奔流。
「散開!」レイトキの指示で、全員が左右へ飛び退く。ブレスは地面をえぐり、岩盤を一瞬で溶かしながら進んでいく。
ドォォォン!!
着弾した場所から溶岩が噴き上がり、周囲の地形が変化する。久美子が驚く。
「威力が桁違い……!」リジェはトビネコの保護檻を確認しながら警戒する。
「このままじゃ、檻まで巻き込まれる!」ホワンは炎の軌道を見て分析する。
「単純な火炎攻撃じゃないわ。熱量そのものが危険ね。」アルビテトはデザヒードランを睨む。
「これがドルマゲン……。」レイトキはマルチブレイカーを構え直す。
「みんな、絶対にトビネコから離れるな。相手は予定外の敵だ。今までの試験とは別物として戦う!」デザヒードランは再び翼を広げ、次の攻撃態勢へ入る。黒曜石の翼が火山の光を反射し、赤い瞳が鋭く輝いた。最後の試練は、もはや試験ではなく――本当の戦闘へと変わっていた。デザヒードランが再びブレスの準備に入る。その瞬間――。
「今だよ!」久美子が前へ飛び出した。
「多腕展開!!」背後から複数の巨大な腕が展開され、火山の赤い光を反射しながら拳を構える。デザヒードランが久美子へ視線を向ける。しかし、すでに遅かった。久美子は一気に跳躍する。
「くらえぇぇぇ!!」巨大なワイバーンの頭上へ回り込み――。
「デヤアアアアアァァァ!!」多腕による拳の連打を、デザヒードランの脳天へ叩き込む。
ドドドドドドドドドッ!!
重い衝撃音が火山窟内に響き渡る。
黒曜石のような頭部の鱗に拳撃が連続で炸裂し、火花と衝撃波が巻き起こる。
「グオオオオォォッ!!」デザヒードランは頭を大きく揺らし、体勢を崩す。リジェが驚く。
「効いています!」レイトキはサイバイザーで確認する。
「防御力は高い……でも、衝撃は通っている!」久美子は空中で回転しながら着地する。
「硬いけど、全然効かないわけじゃないね!」デザヒードランは怒りの咆哮を上げる。
「グルァァァァッ!!」赤い瞳が久美子を捉える。しかし、その隙にレイトキは敵の動きを分析していた。
「よし……攻撃は通る。なら、連携で押し切る!」5人はドルマゲン・デザヒードランへ向け、再び戦闘態勢を整えた。久美子の連続攻撃によって、デザヒードランがわずかによろめく。その隙を逃さず、アルビテトが前へ出た。
「今なら……動きを止められる。」アルビテトは静かに手を掲げ、魔力を集中させる。周囲の温度が急激に低下し、火山窟内に異質な冷気が広がっていく。
「冷酷なる冷気よ――!仇なす者を凍りつかせよ!コキュートス!!」瞬間。アルビテトを中心に、極寒の冷気が爆発的に広がった。
ビキビキビキッ!!
デザヒードランの足元の地面が凍りつく。さらに、その氷は赤茶色の鱗を伝い――。両脚。巨大な黒曜石の翼。そして、ブレスを放とうとしていた顎までもが氷に覆われていく。
「グ……グオオッ!?」デザヒードランは翼を動かそうとするが、凍結した部分が動きを阻害する。リジェが驚く。
「すごい……! 動きを完全に封じています!」ホワンも頷く。
「短時間だけど、攻撃の隙ができたわね。」レイトキはその瞬間を見逃さない。サイバイザーでデザヒードランの状態を確認する。
「凍結によって防御行動が低下している!」
「今が最大の攻撃チャンスだ!」久美子は拳を握り、リジェは炎の魔力を高める。アルビテトは息を整えながら告げる。
「長くは持たない。決めるなら今だ。」5人は凍りついたデザヒードランへ向け、総攻撃の構えを取った。デザヒードランの動きが凍結によって止まった。その一瞬を、レイトキは逃さなかった。
「今だ……!」レイトキはマルチブレイカーを構える。
「アックスモード、展開!」
ガシャンッ!!
機械音とともに武器が変形し、巨大な戦斧へと姿を変える。黒曜石の翼を持つドルマゲン――デザヒードラン。その強大な力を前にしても、レイトキの目には迷いがなかった。
「みんなが作ってくれたチャンスだ。無駄にはしない!」レイトキは一気に踏み込み、跳躍する。狙うのは、凍結によって無防備になった首元。
「これで終わりだ!」全身の力を込め、戦斧を振り抜く。
「ブレイクスラスト!!」一閃。強烈な斬撃がデザヒードランの首元を走る。
ズバァァァン!!
凍結した鱗ごと斬撃が通り抜け、デザヒードランは大きくよろめく。
「グ……オオ……。」巨大なワイバーンは最後の咆哮を上げる。そして次の瞬間――。その身体は黒と赤の光の粒子へと変化し、火山窟の中へ静かに消えていった。同時に、ダンジョン内へアナウンスが響く。
『ドルマゲン反応消失を確認。デザヒードラン撃破。第四試練、クリア条件達成。』レイトキはアックスモードを解除し、仲間たちを見る。
「……終わったな。」久美子は笑顔で拳を握る。
「やった!」リジェも安心したように息を吐く。
「トビネコも無事です……。」アルビテトとホワンも頷く。しかし、レイトキはまだ気を抜かなかった。
「帰るまでが試験だ。」
「トビネコを連れて、エルカーノス本部へ戻るぞ。」5人は救出対象を守りながら、長かった演習ダンジョンの出口へ向かって歩き始めた。デザヒードランが消滅した跡。そこには、通常のモンスターとは異なる二つの光が残されていた。
「……何だ、あれは?」レイトキが近づくと、二つの赤黒いコアが宙に浮かび上がる。一つは灼熱の炎を思わせる輝き。もう一つは、黒曜石のような深い光を放っていた。
サイバイザーが反応する。
『特殊コアを確認。ドルマゲン由来因子を検出。』リジェが驚く。
「ドルマゲンのコア……?」すると、二つのコアは突然動き出した。一つはリジェの方へ。もう一つはレイトキの方へ。
「えっ!?」リジェが手を伸ばす間もなく、炎色のコアが彼女の身体へ吸い込まれる。
シュウウウウ……。
「くっ……!」
リジェの身体を橙色の炎が包み込む。しかし、その炎は彼女を傷つけるものではなく、新たな力として馴染んでいく。
「……温かい。」
一方、もう一つの黒赤色のコアはレイトキの胸元へ吸い込まれる。
ドクンッ……。一瞬、レイトキの周囲に黒い炎と赤い光が走る。
「……!」サイバイザーに新たな情報が表示される。
『ドルマゲン因子との融合を確認。適合率……異常値。』レイトキは拳を握る。身体の奥から、今までとは違う力を感じていた。久美子が心配そうに近づく。
「レイくん、大丈夫?」
「ああ……。」レイトキは自分の手を見つめる。
「力が増えた。」
「でも、制御できる。」リジェも新たな力を確認する。
「私の炎も……前より強くなっています。」ホワンは二人を見ながら呟く。
「デザヒードランの力が、二人に受け継がれた……ということかしら。」
その時、ダンジョン内にアナウンスが響く。
『想定外イベントを確認。第一チーム、第四試練を完全突破。帰還ゲートを開放します。』レイトキは仲間たちと保護したトビネコを見る。
「今は戻るぞ。試験結果の確認は、それからだ。」5人は新たな力を宿し、エルカーノス本部への帰還ゲートへ向かって歩き出した。帰還ゲートを抜けたレイトキたちは、エルカーノス本部の試験会場へ戻ってきた。
そこには試験教官と、多くの職員が待機していた。
教官は端末に表示された試験結果を確認し、しばらく沈黙する。
そして――。
「……発表する。」会場全体に響く声で告げた。
「今回の入隊試験。合格者は――」
一瞬の間。
「半数だ。」候補者たちの間にざわめきが広がる。しかし、教官は続ける。
「ただし、単なる合格ではない。第一チームは、想定外のドルマゲン反応が発生した状況でも任務を継続。救出対象の保護、敵性生命体の撃破、そして試練の完全達成を確認した。」レイトキたちは静かに話を聞く。教官は一枚の評価データを表示する。
「特に功績が大きかった者を発表する。」
「レイトキ。」
「リジェ。」
「久美子。」
「アルビテト。」
「ホワン。」
名前を呼ばれた5人が前へ出る。
「君たちは通常の入隊基準を大きく上回った。よって――」教官ははっきりと言い放つ。
「EXランクへ昇格する。」会場が騒然となる。久美子は驚いた表情を浮かべる。
「EXランク……!?」リジェも目を丸くする。
「入隊したばかりで……?」アルビテトは冷静に結果を受け止める。
「それほど評価されたということか。」ホワンは少し驚きながらも微笑む。
「予想以上の結果ね。」レイトキは静かに拳を握る。
「EXランク……。」教官は続ける。
「エルカーノスにおいてEXランクは、特別な任務への参加資格を持つ者だ。君たちには、それだけの実力と判断力があると認められた。」そして、視線をレイトキへ向ける。
「特にレイトキ。ドルマゲン・デザヒードランとの交戦時、チーム全体を指揮し、救出任務を完遂した判断力を評価する。」レイトキは短く答える。
「仲間がいたからです。」久美子、リジェ、アルビテト、ホワンが彼を見る。教官は小さく頷いた。
「その考え方も含めての評価だ。」こうして――。エルカーノス入隊試験は終了した。そして、新たなEXランク隊員たちの物語が始まる。エルカーノス入隊試験を終えた後。レイトキたち、なんでも屋クロノギアのメンバーはエルカーノス本部の最上階――総帥室へと案内されていた。
重厚な扉が開く。その部屋の中央には大きな机があり、その奥の椅子に一人の男が座っていた。
「……!」レイトキはその人物を見て、思わず足を止める。
「あなたは……。」椅子に座っていたのは、SMOの総帥――ヤンロエルだった。レイトキは驚きを隠せず、問いかける。
「貴方はSMOの総帥ですよね。」ヤンロエルは静かに笑う。
「ああ、そうだ。だが、驚く必要はない。」ヤンロエルは立ち上がり、窓の外に広がるエルカーノスの施設を見る。
「エルカーノスは、そもそもSMOから派生した組織だからな。」久美子が首を傾げる。
「派生組織……?」ヤンロエルは頷く。
「SMOは世界規模で異常存在や脅威への対応を行う組織だ。対してエルカーノスは、より現場に近い。依頼を受け、調査し、討伐し、時には人々を助ける。こちらは研究機関や軍事組織というよりは、ギルドとしての側面が強い。」リジェが納得したように頷く。
「だから入隊試験も、単純な戦闘力だけじゃなくて……。救助や判断力まで見ていたんですね。」
「その通りだ。」ヤンロエルはレイトキたちを見る。
「クロノギアの諸君。君たちは、なんでも屋として様々な依頼を受けている。しかし、これから先は個人の力だけでは対応できない脅威も現れるだろう。」レイトキは静かに聞き入る。ヤンロエルは続ける。
「だからこそ、エルカーノスやSMOという後ろ盾を持つ意味がある。活動範囲も広がる。」一息置いて次のセリフを言う
「そして――君たちのような存在を正式に認めることができる。」レイトキは仲間たちを見る。久美子、リジェ、アルビテト、ホワン、斗愛、与太郎、カグラ、デューク。全員が新たな道へ進もうとしていた。ヤンロエルは微笑む。
「ようこそ、エルカーノスへ。EXランク隊員――クロノギアの諸君よ。」ヤンロエルは机の前に立ち、クロノギアのメンバーを見渡す。そして、いつもの穏やかな雰囲気とは違う、はっきりとした声で告げた。
「EXメンバーについて説明しておこう。」レイトキたちは姿勢を正して話を聞く。ヤンロエルは端末にランク表を表示する。
「EXランク隊員は、特別隊員や特務隊長クラスに相当する。通常隊員とは扱いが大きく異なる。」久美子が驚く。
「特務隊長クラス……。」
ヤンロエルは頷く。
「そうだ。EXランクに到達した者には、重要任務への参加資格が与えられる。」
「そして――」
画面の表示がさらに上位ランクへ切り替わる。
「S☆ランク以上からは、状況に応じた単独行動もある程度許可されている。」リジェが目を丸くする。
「単独で任務を?」
「完全な自由というわけではない。」ヤンロエルは補足する。
「危険度、任務内容、本人の判断力によって許可される。だが、それだけの信頼と実力がある者として扱われるということだ。」そして、ヤンロエルはクロノギアのメンバーを見る。
「つまり――今ここに集まっている君たちクロノギアのメンバーは、状況次第では各自で行動することが可能だ。」アルビテトは静かに頷く。
「それぞれが専門分野を持っているからこそ、別行動も戦術になるということか。」ホワンも納得する。
「チームで動くこともできるし、必要なら個別任務にも対応できる……。」ヤンロエルは笑みを浮かべる。
「その通りだ。」レイトキは新たに与えられた権限の意味を理解する。
「なんでも屋クロノギアとしての活動範囲が、さらに広がるということですね。」
「そういうことだ。」ヤンロエルは力強く告げる。
「君たちはもう、ただの民間組織ではない。エルカーノスに認められた、S☆ランクおよびEXランクの実力者だ。」総帥室に、新たな責任と可能性を持った言葉が響き渡った。ヤンロエルは続けて、さらに重要な説明へ移る。
「そして、EXランクの権限は単独行動だけではない。」レイトキたちは静かに耳を傾ける。ヤンロエルは端末を操作し、EXランクの権限一覧を表示した。
「EXメンバーには、S☆ランク以下の隊員を任務内容に応じて指揮する権限が与えられている。つまり――、自分たちより下のランクの者を、状況に応じて動かすことが可能だ。」
久美子が驚く。
「指揮官みたいな役割もできるってこと?」ヤンロエルは頷く。
「そうだ。もちろん、無意味に命令できるわけではない。任務達成のための部隊編成、配置、作戦指示などに限られる。」アルビテトは表示された内容を見る。
「部隊編成権限……。」ヤンロエルは続ける。
「さらに、特殊武装やエルカーノス管理装備の使用許可も与えられる。危険度の高い任務では、それに見合った装備が必要になるからな。」リジェは納得したように頷く。
「強い力を持つだけじゃなく、それを扱う責任も求められるんですね。」
「その通りだ。」ヤンロエルはレイトキを見る。
「相応の実力者とは、単なる強者の証ではない。判断し、仲間を動かし、結果を出す者に与えられる資格だ。」レイトキは静かに拳を握る。
「力だけじゃなく、判断力も必要……。」
「理解しました。」ヤンロエルは満足そうに頷く。
「だからこそ、君たちクロノギアを相応のものとして認めた。今後、君たちは自分たちの依頼だけではなく、必要ならエルカーノスの部隊を率いる立場にもなる。」総帥室に、クロノギアの新たな立場を示す言葉が響いた。ヤンロエルの説明が終わると、総帥室に静かな空気が流れる。
EXランクという新たな立場。それに伴う権限。そして、それ以上に重い責任。レイトキは仲間たちを見る。久美子、リジェ、アルビテト、ホワン、そして、ほかのメンバー。全員が同じ意志を持って頷いていた。
すると、レイトキは一歩前へ出る。
「代表して返事します。」ヤンロエルは静かに視線を向ける。レイトキはまっすぐな目で告げた。
「私たちクロノギアは、それなりの評価に見合った責任を負います。与えられた権限を、自分たちの都合のためだけには使いません。」
「そして――」一呼吸置く。
「迂闊な行動をしないことを宣言します。」その言葉に、久美子たちも続けて頷く。リジェが微笑む。
「力があるからこそ、慎重に使わないといけませんから。」アルビテトも同意する。
「権限は、振りかざすものではなく任務を達成するためのものだ。」ホワンも静かに言う。
「信頼される存在になるためにも、責任ある行動を取るわ。」ヤンロエルはしばらくレイトキたちを見つめる。そして、満足そうに頷いた。
「その答えを聞けて安心した。EXランクたちに必要なのは、力だけではない。自分の力が周囲へ与える影響を理解することだ。」ヤンロエルは窓の外を見る。
「クロノギア。君たちはこれから、多くの依頼と脅威に関わることになるだろう。その時、今の言葉を忘れないでくれ。」
レイトキは力強く返事をする。
「はい。」こうして――。なんでも屋クロノギアは、ただの便利屋ではなく。エルカーノスに認められた実力ある組織として、新たな一歩を踏み出した。
【用語解説】
[ドルマゲン]
変異モンスターの一種。竜種など上位種モンスターが変異したモノ
❲危険レベル❳
{下級}
1〜19
辛うじて撃破可能。一般の冒険者でも十分な準備があれば対処できる。
{中級}
20〜29
ベテラン冒険者数名がかりで撃破可能。
{上級}
30〜39
Aランク冒険者数名で対処可能。
{災害級}
40〜49
Sランク冒険者数名で対処可能。国家レベルで警戒される。
{カラミティ}
50〜59
EXランクが対処可能とされるが、大半の個体は人類が容易に手を出せる相手ではない。
{アンケノー}
60以上
最上位の危険領域。ゴアディザイアや一部のディメンサーもここに含まれる。基本的に対処不可能。




