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EPISODE1-19【審判など】

一方、ストレンジプレデターの最深部、指令室。薄暗い照明の下、ユーカリは複数のモニターに映し出されたデータを確認しながら、はっきりとした口調で告げる。

「十四の歯車、全ての存在が判明したか…。だが今は、彼らを好きにさせておこう。干渉するのはまだ早い」彼女は画面を切り替え、次元構造の設計図が浮かび上がるのを見据えて続ける。

「我々は別の動きを進めている。ゲート作成機を、あの界域に建設中だ。かつてクリミナルデビルが本拠としていた『悪魔界』、そして『妖精霊界』、さらに『テレス』などの各領域にも、安定化と制御のための補助装置をすでに設置済みだ」側近の幹部が眉を寄せて問いかける。

「それらの領域を繋ぎ、自在に行き来する道を作る……ということですか? 歯車たちが集まるこの時期に、そこまで大掛かりな仕掛けを動かす意図は?」ユーカリは唇に冷ややかな笑みを浮かべ、モニターに映るワタツキ海岸の歪みの記録を指し示す。

「歯車の集結は、我々にとっても絶好の機会だ。彼らが境界を揺らし、世界の仕組みそのものを緩めてくれている今こそ、普通なら辿り着けない領域への道を通すのに最適なんだ。彼らが表で騒いでくれる間に、我々は確実に、誰も予想しない場所への扉を用意するだけだ」室内に静かな操作音だけが響く中、ストレンジプレデターの暗躍が、歯車たちの動きとは別の軸で、着実に進行していた。ホテルの廊下を歩いていたレイトキが、ふと隣にぴったりと寄り添って歩くアルビテトを振り返り、首をかしげながらはっきりと問いかける。

「なあ、アルビテト。ここに来てからずっと偉い付き纏われてるけど、いったいなんでなんだ?」アルビテトはジャッカルの耳をピンと立てたまま、真剣な眼差しでレイトキを見上げ、一切曖昧にせず答える。

「審判の歯車として、貴方という存在を、これからの中心になるべき者を、きちんと見極めなくてはいけませんから」彼女は一歩も離れず歩き続けながら、言葉を補う。

「ただ『包括』だからといって無条件に信じるわけにはいかない。貴方が本当に全てを背負い、繋ぎ導ける人なのか、それともただ運命に選ばれただけの者なのか――それを間違えるわけにはいかないんです」レイトキは苦笑しつつも、その真剣さを受け止めて頷く。

「なるほどな。ならば納得だ。だったら最後まで見極めてくれ。俺も、その期待に応えられるように頑張るからさ」アルビテトは少しだけ口元を緩め、それでもなお鋭い視線を外さない。

「当然です。審判は一度下したら取り消せませんからね」こうして、レイトキの歩みと共に、彼を選ぶか否かの審査も、静かに続いていくのだった。レイトキは眉を寄せ、胸元の共鳴を確かめながらはっきりと問いかける。

「しかし、歯車が集まった影響で、これからもビヨンダードの者が次々と現れるかもしれないな。そういえば、あちらの住民には何か通称や呼び名ってあるのかな?」隣のアルビテトが耳をぴくりと動かし、すぐに応じる。

「まず歯車の影響については、その通りよ。十四の歯車が一箇所に集まったことで、世界の境界線が緩み、向こう側の存在がこちらを感知しやすくなり、呼び寄せられやすくなっている。今後も歪みは増える可能性が高いわ。そして、夢幻、混沌、包括は単独でも境界線の歪みを起こせるわ」彼女は言葉を切り、呼称について説明を加える。

「通称としては、こちらでは『ビヨンダー』『ビヨンダード人』と呼ぶのが一般的ね。また、彼ら自身や詳しい者たちの間では、『境界の民』『外側の者』『歪みの住人』なんて呼び方もされている。特徴としては、データと生命体の中間にあって、クリプトン世界の常識や物理法則に当てはまらない存在だから、『法則外れ』『例外者』といった呼ばれ方もするわ」レイトキは頷き、記憶に留めるようにつぶやく。

「なるほど。向こう側から来た者たちを区別し、理解するためにも、そうした呼び名を知っておくのは大事だな。特徴も踏まえて、今後の対応に活かしていくぞ」アルビテトは真剣な眼差しで補足する。

「注意して。同じビヨンダードの住民でも、友好的な者、中立な者、敵対的な者、そして今回の怪異ウィルスのような存在まで、多種多様だ。名前だけで判断せず、その在り方を見極めることが重要よ」アルビテトはジャッカルの耳をぴくりと動かし、レイトキをまっすぐ見上げながら、核心を突くようにはっきりと告げる。

「レイ、あなた自身も実は半分はビヨンダード人なのよね。しかも、ただの混じりじゃない。かなり高位の存在との血縁や因子が深く混ざり合っている、極めて稀な例なの」レイトキは目を丸くして、自分の胸元を見下ろす。

「えっ? 俺が? そんな話、初めて聞いたんだが……」彼女は頷き、言葉を続ける。

「あなたが歯車の力を受け入れられること、ビヨンダード由来の存在にも干渉できること、そして境界が緩んだときに真っ先に共鳴してしまうこと――全部、そのためなの。普通の者なら弾かれるはずの力を、あなたは自分の一部として受け止められる」

「だからこそ、あなたは向こう側の者たちにとっても特別な存在なの。敵対するにしても、従うにしても、あるいは狙うにしても、放っておけない『接点』なんだよ」レイトキは自分の内側に流れる見えない力を感じながら、改めて自らの立場の重さを噛み締める。

「……そういうことだったのか。だから俺が中心になるしかなかったんだな」アルビテトは厳しくも優しい眼差しで応える。

「そうよ。だからこそ、その力をどう使うか、誰のために使うか――それを見極めるのが、私の役目でもあるの」アルビテトは一歩近づき、言葉の重みが伝わるように、はっきりと核心を告げる。

「そうよ。あなたは、ビヨンダード人と、かつてこの世界の在り方を大きく変えた『ジョースター家』の血縁とのハーフなの」レイトキは息を飲み、自分の過去について断片的にしか知らなかった事実が、一気に繋がっていくのを感じる。

「だからこそ、ストレンジプレデターはあなたを見逃さなかった。二つの異なる系統の力を同時に宿す、極めて希少な素材として、実験体に選ばれたの。そしてその過酷な過程の中で、あなたの中に眠っていた『包括の歯車』が、ついに目覚めたのよ」彼女は指先をレイトキの胸元に向け、その奥にあるものを指し示すように続ける。

「血も、経験も、背負わされたものも、全部が重なって、今のあなたを形作っている。だからこそ、あなたはどちらの世界の者たちとも繋がり、どちらの理不尽も受け止められる――それが、あなたにしか出来ない役割の根源なの」レイトキは拳を強く握りしめ、自分がこれまで辿ってきた道の意味を、ようやくはっきりと理解し始める。

「……俺が、俺である理由が、やっと分かった気がする。だったら、その全部を背負って、俺なりの答えを出してやる」アルビテトはその決意を受け止め、真剣ながらも確かな眼差しで頷く。

「それでこそよ。審判の結果は、その答え次第で決まるのだから」アルビテトは真剣な瞳でレイトキをまっすぐに見つめ、核心を問いかける。

「あなたは、これから何をしたいの?」レイトキは少しもためらわず、自分の心の奥底にある想いを、一つずつはっきりと言葉にする。

「まず、自分自身が心から自由に生きられるようになりたい。そしてその自由の中で、ストレンジプレデターに捕らわれた実験体たちを一人残らず救い出し、彼らが安心して帰れる『居場所』を作ってやりたいんだ」彼は少しだけ頬を染め、続ける。

「もちろん、恋愛だって――好きな人たちと、普通に幸せに過ごす時間も、ちゃんと手に入れたい。それが俺の、本当に望んでいることだ」アルビテトはその言葉を一字一句噛み締めるように聞き、やがて厳しさを少しだけ和らげ、力強く頷く。

「なるほど。それがあなたの選択か。……それは、過去の誰もが描かなかった、本当に新しい答えだ。秩序や崩壊、革命や創世の理屈では測れない、人としての真っ直ぐな願いね」彼女はジャッカルの耳を優しく揺らし、告げる。

「ならば私は、その道が正しいと証明するために、最後まで見守り、審判を下す。その願いが、あなた自身を、そして多くの者たちを救うと信じて――」波の音が響くホテルのベランダの隅で、久美子は手すりに頬をつき、ぼんやりと海面を見つめながら、胸の中のモヤモヤをつい口に出す。

「……レイくん、結局いったい誰を選ぶんだろう」指先で手すりをそっとなぞりながら、小さくつぶやきを続ける。

「さっき本人が言ってた通り、今気になってるのはワタシとリジェとホワンの三人でしょ。それに、よくよく見てたらアルビテトだって、レイくんに特別な好意を寄せてるように見えるし……」彼女は唇を少し尖らせ、足元の砂をつつくようにする。

「誰が一番なのか、それともこのままみんなと仲良くしていくのか……分からなくて、なんだか落ち着かないのよね」背後からそっと近づいたリジェが、そんな久美子の肩にそっと手を置く。

「焦らなくてもいいんじゃない? レイトキは『自分の答えを出す』って言ってた。それがどんな形になるにせよ、本人がちゃんと向き合ってくれるはずだよ」ホワンも後ろから、はにかみながら頷く。

「わ、私は……レイトキさんが選んだ道なら、どんなものでも応援したいです。でも、やっぱり少しだけ、ドキドキしますね……」久美子は二人を見て、少しだけ笑顔を取り戻す。

「そうだね……レイくんが望む未来を、まずはみんなで一緒に作っていくことが一番大事だもんね。その上で、ちゃんと自分の気持ちも伝えていけばいいか」それぞれの想いを抱きながら、三人は再び水平線を見つめる。波が運んでくるのが、どんな答えなのか――まだ誰も知らない。波打ち際に一人佇み、足元で砂がさらわれていくのを見つめながら、レイトキは心の内を独り言のようにつぶやく。

「そうだよな……いずれはちゃんと選択しないといけない時が来るのかもしれない」彼は空を見上げ、複雑な思いを噛み締める。

「今は、アルカ以外の歯車の女性陣――久美子、リジェ、ホワン、それにアルビテトやジャンヌも含めて、みんなから好意を寄せてもらってる。ジョースターミクスタッド皇国皇国の習わしなら、複婚も認められてるから全員と一緒になることだってできる。だけど」唇をきゅっと結び、現実の難しさを思い描く。

「もしこれから先、皇国を離れて暮らすことになったら、複婚が認められていない土地で生きる可能性だってある。そうなったら、やっぱりたった一人を選ばなきゃいけないのかな……」足元の波が大きくなり、水しぶきが足首を濡らす。自分の気持ちも、周りの想いも、そしてこれから歩む道の選択も、全部がまだぼんやりとしたまま、彼はただ静かに、自分なりの答えを探し続けていた。波の音だけが響く砂浜で、ふわりとした気配が背後に近づいたかと思うと、両腕が腰に回り、柔らかな感触が背中に寄り添ってくる。小柄な体でぴったりと背中に抱きついたのはアルビテトだ。身長150cmほどながら、胸をしっかりと押し付け、ジャッカルの尻尾がレイトキの足元をくすぐるように揺れている。

「フフフ、迷ってるんだね、レイ」耳元でくすぐるような笑い声が響き、続いて真剣な口調が落ち着いて届く。

「でも、一つだけ確かなことを言っておくよ。君はジョースターミクスタッド皇国からは離れられない!それはもう決まっている確定事項だ。どの予言の書を紐解いても、歯車の記録を調べても、これだけは絶対に変わらないんだ」レイトキは肩を竦めながらも、その言葉に動きを止める。

「皇国から離れられない……? なんでだ? 別の場所で生きる選択だってあるだろう?」アルビテトは腕を少しだけ強くしがみつき、言葉の重みを伝えるように告げる。

「包括の歯車の中心軸は、ジョースターミクスタッド皇国そのものと深く繋がっているから。君がその役割を背負う以上、皇国の行く末と君の道は、最初から一つに結ばれているの。だから、複婚の心配なんて、今からしなくても大丈夫だよ」彼女は耳をレイトキの背中に寄せ、心音を感じ取るように続ける。

「君が選ぶのは『誰と共に生きるか』だけでいい。場所や仕組みが、君の選択を拒むことはないから」潮風が二人の髪をなびかせ、先の不安が少しだけ和らいでいくような、温かな時間が流れていく。レイトキはアルビテトの腕をそっと解き、向き直って真剣な眼差しで問いかける。

「聖典と福音書なるものも、手に入れなきゃいけないのか。アルビテト、お前もそれを持ってるんだろう?」彼は言葉を続け、核心を確かめる。

「各歯車を完全に目覚めさせるには、それがどうしても必要なんだろう? それに、一部の歯車はそれをきっかけに『進化』するなんて話も聞いたんだが」アルビテトはジャッカルの耳をぴくりと動かし、厳かに頷く。

「その通り。聖典は歯車の根源の定めを記したもの、福音書はその定めを超えて新たな可能性を引き出す鍵となるもの。どちらも、歯車が本来の力を発揮し、さらにその先へと進むためには欠かせない」 彼女は胸元に手を当て、自身の役割との繋がりを示す。

「私は審判の歯車として、その二つの原本の一つを預かっている。だが、もう一つはまだ別の場所に隠されたままだ。完全に揃えて初めて、全ての歯車が真の姿を現し、進化する道が開かれる」レイトキは拳を握りしめ、決意を新たにする。

「ならば、残る一つを探し出し、必ず手に入れる。みんなの力を最大限に引き出し、これからの戦いに備えるためにもな」アルビテトはその言葉を受け、力強く応える。

「その意気よ。その時が来たら、私も預かりし聖典を開き、全ての歯車の目覚めを導く。それが、審判の者としての私の役目でもあるから」アルビテトはジャッカルの耳をピンと立て、確かな手応えを込めてはっきりと告げる。

「包括の歯車に対応する聖典と福音書なら、多分だけどジョースターミクスタッド皇国のどこかにあるわ。特に、皇都を含む中心エリアに隠されている可能性が一番高い」彼女は続けて理由を補足する。

「皇国そのものが、包括の歯車の根源と深く結びついた土地だから。その二つの書物は、全体の在り方を定め直すほどの力を持っているからこそ、最も守りの堅い中心地に置かれているはずなの」レイトキは頷き、探すべき場所の目処がついたことで気持ちを引き締める。

「なるほど。だったら、今後皇国に戻ったときは、まず中心エリアを重点的に調べる。それらを手に入れて、初めて俺たちの本当の準備が整うんだな」アルビテトは真剣な眼差しで応える。

「そうよ。だから焦らず、確実に道を切り開いていけばいい。その時が来るまで、私も情報を集め続けておくわ」レイトキは改めて向き直り、はっきりと問いかける。

「そういえばアルビテト、お前は何でも屋クロノギアのメンバーになるのか?」アルビテトはジャッカルの耳をゆらりと動かし、真剣ながらも柔らかい口調で答える。

「歯車全体の動向や、君たちの歩みを最後まで見極めなければならないからね。だから、一応は協力者という立場で関わらせてもらうわ」彼女は言葉を続け、立場を明確にする。

「ただし、正式な席を持つメンバーではない。審判の役目は、特定の組織に属して判断を歪めるわけにはいかないから。必要なときには手を貸し、情報を共有し、そして最後にきちんと裁きを下す――それが私の居場所なの」レイトキはその答えを聞き、すっきりと頷く。

「なるほどな。それでも共に動いてくれるなら、心強い。困ったときはいつでも頼るからな」アルビテトは少しだけ笑みを浮かべ、応える。

「あら、その代わり、私が審判を下すときは逃げないでね?」レイトキは苦笑いしながら、はっきりと指摘する。

「お前の審判は、からかいや遊び心が混じってるからな。たまに本気なのか冗談なのか分からなくなるぜ」アルビテトはジャッカルの耳をぴょんと傾げ、いたずらっぽく笑いながら反論する。

「あらあら、審判だからって、いつもいつも厳しく真面目で、遊び心なしでやれなんて決まりはどこにもないはずよ」彼女は一歩近づき、瞳をきらりと輝かせる。

「白黒をはっきりさせるのは本気でも、その過程で人の心を和ませたり、本音を引き出したりするくらいの余裕があったっていいでしょ? むしろ、それが本当に正しい判断をするためのコツなのよ」レイトキは肩をすくめて笑う。

「まあ、お前がそれでちゃんと正しい判断をしてくれるなら、それでもいいけどな。あんまりからかいすぎるなよ」

「心得てるわよ~」アルビテトは楽しそうに尻尾を振る。そのからかいの奥には、確かな真剣さが隠されているのを、レイトキはなんとなく感じ取っていた。レイトキは遠く水平線を見据え、胸に湧き上がる想いを、はっきりと力強く言葉にする。

「もしもの話だけどさ、もしジョースターミクスタッド皇国に新しい自治区ができて、そこの自治区長に就任することになったら――絶対に、ストレンジプレデターから救い出した実験体たちも、歯車の仲間たちも、そしてこの世界で居場所に迷う全ての者が、心から幸せに安心して暮らせる場所にしたいんだ」彼は拳を強く握りしめ、理想の姿を思い描くように続ける。

「誰かの命令で生きる必要も、自分が何者なのか怯える必要も、差別や実験に怯える必要もない。それぞれが自分らしく、好きなことをして、好きな人と共に歩める――そんな、本当の意味で自由な自治区を作ってみせる」隣で聞いていたアルビテトは、ジャッカルの耳を優しく揺らし、真剣ながらも柔らかい笑みを浮かべる。

「それは、なんて美しい理想だろう。今まで誰もが『歯車は役割に従うもの』『実験体は道具だ』と決めつけてきたのに、君はその枠そのものを新しく作り変えようとしているのね」

彼女はレイトキをまっすぐ見つめ、告げる。

「その想いこそが、包括の歯車が本当に目指すべき未来なのかもしれない。もし君がその道を選ぶなら、私の審判は、そのとき初めて『正しい』と認めることになるだろう」潮風が二人の間を吹き抜け、遠い未来の約束が、静かに砂浜に刻まれた。潮の光を受けて、レイトキの瞳は漆黒の瞳孔の奥底から、うっすらと黄金色の輝きを放っていた。その色を見た瞬間、アルビテトの言葉が柔らかく、だが確かに響く。

「ああ……その瞳の輝き、お父さんと全く同じだわ。君がジョースター家の血を確かに引いているからこそ、この光が宿っているのよ」彼女はその瞳を見つめ続け、過去の記憶を辿るように続ける。

「あの方もまた、どんなに暗い状況にあっても、心の奥に揺るがない黄金の光を宿していた。それはただの力の証明じゃない。『絶望の中でも希望を捨てない』『誰かのために自分を捧げる強さ』――そんなジョースターの在り方そのものが、瞳に表れているんだ」レイトキは自分の目の輝きを意識し、胸に宿るものを感じながら、静かに問う。

「……俺の父さんも、俺と同じように、多くの人を救おうとしていたのか?」アルビテトは深く頷き、そして優しく微笑む。

「そうよ。だからこそ、その血は君に受け継がれた。そして今、君がその輝きをさらに大きく、誰もが見上げるものにしようとしている――それが、何よりの証拠だ」黄金の光が波間に反射し、父から子へ、そして未来へと続く絆が、ここにはっきりと在った。潮風がシャツの裾をなびかせた瞬間、レイトキの肩甲骨のあたりに、うっすらと浮かぶ星の形をした黒子が見えた。アルビテトはそれを一目見て、はっきりと頷く。

「それもそうね。その星紋の黒子こそが、ジョースター家の者だけに現れる、代々受け継がれてきた証なのよ」

彼女はその場所を指し示すように告げる。

「力の源であり、宿命の印。これがある限り、君は永遠にジョースターの一員であり、同時にジョースターミクスタッド皇国とも切り離せない絆で結ばれている。瞳の輝きも、この紋も、全部が『君がここにいるべき存在』だと教えてくれているんだ」レイトキは自分の背中に手を回し、その印の存在を確かめるように触れる。

「……これが、俺の一部なんだな。父さんから受け継いだ、俺だけの印なんだな」胸の奥が熱くなる。過去も血も宿命も、全部を自分の力に変えて、前に進む覚悟が、また一つ強くなった。翌日、空は抜けるように青く、波は穏やかに砂浜を洗っていた。緊張や任務の重みを一旦脇に置き、レイトキたちは思い切り海辺の時間を楽しむ。久美子が真っ先に駆け出して波打ち際に飛び込み、水しぶきを上げてレイトキを呼ぶ。

「レイくん、早くこっち来て! 気持ちいいよ!」リジェは砂浜にビーチマットを敷き、日差しを避けながら本を読んだり、時折海に入ったりして、いつもと違うゆったりとした時間を過ごす。

ホワンは貝殻を拾い集め、きれいなものを選んでみんなにお土産にしようと、はにかみながら袋に詰めている。斗愛は波の上を軽やかに歩くように泳ぎ、時折刀を模した水しぶきを立てて遊び、アルカは浮き輪をつけてプカプカと波に揺られながら「これが一番幸せ~」と大きな声ではしゃぐ。与太郎やデューク、カグラはビーチバレーや砂浜のかけっこで盛り上がり、汗を流しながら笑い合う。アルビテトもジャッカルの耳を風になびかせ、尻尾を嬉しそうに揺らしながら、時折レイトキに水をかけてからかったり、一緒に遠くまで泳いだりして、いつもの審判らしい厳しさを忘れたように楽しんでいる。昼にはみんなで持ち寄ったお弁当バーベキューを囲み、夜には砂浜に焚き火を囲んで、星を見上げながらそれぞれの夢や、これから行きたい場所の話で盛り上がる。これまでの旅や戦いの中で、初めて心から羽を休められる穏やかな時間。海の青さと太陽の暖かさが、歯車たちの絆をさらに深く、優しく結びつけていくのだった。夜明け前の、まだ空が紺色に染まり、波の音だけが静かに響く時間。レイトキはそっと部屋を抜け出し、ホテルの裏手から砂浜へと歩き出す。足元を見つめながら、つぶやく。

「昨日はみんなと遊んで、すっかり依頼の目的を忘れるところだった。海辺の調査も、ちゃんと続けなくちゃならないんだ。みんなはまだぐっすり寝てるし、わざわざ起こして邪魔するのも野暮だろう」その背後から、小さな足音が近づいてくる。

「レイくん、起きてたの?」驚いて振り返ると、久美子が寝間着の上に薄い羽織をまとい、髪をゆるく束ねて立っている。彼女は少し眉を寄せ、はっきりと問いかける。

「もしかして、一人で調査に行こうとしてたの? みんなを起こさないように、ってつもりだったの?」レイトキは照れくさそうに頭をかく。

「まあな。せっかくの休みだし、昨日は遅くまで遊んで疲れてるだろうから。一人で行けば、少しだけでも異変の兆候を確かめられるかと思ってさ」久美子は一歩近づき、真剣な眼差しで告げる。

「それはダメだよ。危ない目に遭うかもしれないのに、一人でなんて。私も気になって早く起きてたんだ。一緒に行くわ」彼女は手を差し出し、柔らかく笑う。

「『みんなでやる』のが、クロノギアのやり方でしょ? たとえ早朝の調査だって、一人に任せたりしないんだから」レイトキはその言葉に、胸がじんわりと温かくなるのを感じ、頷き返す。

「……そうだったな。悪かった。じゃあ、二人で行くか。まずは歪みの痕跡が残ってないか、確かめてみよう」

二人は並んで、夜明け前の砂浜をゆっくりと歩き始めた。二人は港に係留されていた調査船に乗り込み、エンジンの低い唸りと共に沖へと進み出る。夜明け前の海面は鏡のように静かで、青白い光が波面を滑っていく。

レイトキは手すりに肘をつき、沖の暗がりを見つめながら、はっきりとした口調で想いを語る。

「海ってのは、本当にいろんなことが起こる場所だって聞く。今回、このワタツキ海岸にビヨンダードのゲートが開いたのは、歯車が集まった影響だけが理由じゃないんだろうな」

彼は海面に浮かぶ微かな歪みの気配を指し示し、続ける。

「この場所には、きっとかつてビヨンダード人が何かを残していったに違いない。それが古い痕跡なのか、仕掛けなのか、あるいは彼ら自身も忘れ去ったものなのか――それが、境界を呼び寄せる『磁石』になっているんだ」久美子は探知端末の画面を見つめ、うなずきながら応える。

「確かに、この付近のエネルギー反応には、歯車の共鳴とは別の、もっと古くて沈んだ波長が混ざってる。まるで何かが長い間、海底からこちら側を呼び続けていたみたい……」レイトキは端末に映る緑色の波形を見つめ、決意を込めて言う。

「ならば、その正体を確かめないといけない。このまま放っておけば、またいつ大きな歪みが開くか分からないからな。ゆっくりと、海底の痕跡を追っていくぞ」調査船は静かに針路を変え、まだ誰も知らない秘密を隠した海の深みへと、光を追うように進んでいく。レイトキは手すりを強く握りしめ、波の音に紛れそうな声で、だがはっきりと問いかける。

「なあ、クーちゃん……もし、もしも俺が突然姿を消したり、いなくなったりなんかしたら……お前、どうするだろうな」久美子は体を震わせ、思わずレイトキの腕にしがみつくように両手を伸ばす。瞳にはみるみる涙が浮かび、声は震えながらも、隠し続けた想いを一気に吐き出すように叫ぶ。

「嫌だよ……そんなの絶対に嫌だ! レイくんがいなくなることなんて、考えたくもないの……!」彼女は一度大きく息を吸い、覚悟を決めてまっすぐレイトキを見上げる。

「この際だから、全部言うわ……ワタシ、レイくんのことが、本当に好きなんだよ!」夜明け前の風が二人の髪をなびかせ、波の音だけがその告白を包み込む。レイトキは驚いて目を見開き、次いで優しく久美子の手を包み込むように握り返す。

「……ありがとう、クーちゃん。そんなに想ってくれてるなんて、思ってもみなかった。俺は絶対に、お前たちの前から姿を消したりしない。約束する」久美子は涙を拭いながら、はにかんだように笑みを浮かべ、レイトキの胸元にそっと額を寄せるのだった。二人の間の柔らかな空気を切り裂くように、調査船のソナーがビーッ!ビーッ!と激しく連続して鳴り響く。レイトキは反射的に探知機の画面に駆け寄り、表示された波形を見て声を上げる。

「これは……ビヨンダード由来の反応だ! しかも一つや二つじゃない、海底の広い範囲から、一斉に浮かび上がってきてる!」久美子も端末を覗き込み、顔を引き締める。

「反応の規模が先日の海岸の時よりずっと大きいわ! まるで、この海に沈んでいたものが、私たちの言葉や気配に反応して、目を覚ましたみたい……!」ソナーの音はますます切迫した響きに変わり、海面のあちこちに、かつて見たノイズ状の歪みが、ゆっくりと、だが確実に広がり始めていた。レイトキはソナーの表示を睨みながら、はっきりと声を上げる。


「海底に反応の本体があるのか。だが、どうする? 俺たち、水中で活動できるような水中生物の因子なんて持ってないぞ」途方に暮れかけたその瞬間、沖の暗がりから巨大な影がゆっくりと姿を現す。全長数十メートルはあり、調査船ごと収容できる格納庫を備え、さらに多くの人員を乗せても余裕のある大型潜水艦だ。その艦体には、どこか見覚えのある特徴的な紋が刻まれている。潜水艦の上部ハッチがシューという音と共に開き、そこからズィーベンが顔を出す。彼女はいつものように挑発的な笑みを浮かべ、手を振りながら呼びかける。

「困ってるようだね。なら、アーシが力添えしてあげるわ」レイトキは驚きつつも、その出現が全くの偶然ではないと直感する。

「ズィーベン! どうしてここに? この潜水艦は……」

「ストレンジプレデターの試作艦だよ。水中や深層次元の調査を目的に作られた、特別な仕様なんだ。もちろん、乗員全員には水棲種の因子が導入されてるから、海底でも自由に動ける」ズィーベンは格納庫の扉を指し示す。

「さあ、早く調査船ごと収容しちゃいな。本格的に海底へ潜るなら、これしか方法はないんだから」久美子は警戒しつつも、状況の切迫さを理解してレイトキを見る。

「レイくん……、今はこれに乗るしかないわ。反応がどんどん強くなってるし、このままでは何も調べられない」レイトキは頷き、潜水艦に向かって声を張る。

「分かった。だが、お前たちも本気でこの事態に対処する気があるんだな? 裏切りは許さないぞ」ズィーベンはにやりと笑って応える。

「当然だよ。同じ脅威には、共に備えるのが筋ってもんでしょ?」やがて調査船は誘導されて格納庫へと進み込み、潜水艦はその身を海に沈め、海底の秘密へと向かって潜り始めた。レイトキは潜水艦の格納庫に足を踏み入れ、並び立つ正規品たちを見渡し、苦笑いしながらはっきりと言い放つ。

「まさか、文字通り呉越同舟とはな! 敵対してた相手と同じ船に乗ることになるなんて、夢にも思わなかった。まあ、今はこの事態を乗り切るほかない、仕方ねぇーよな」そこにはズィーベンのほか、フュンフ、ツヴァイ、ゼクス、アハト――ストレンジプレデター正規品の面々が整然と待機していた。彼らの気配はどれも鋭く、だが今は攻撃の意思は感じられない。一歩前に出たツヴァイが、冷静な視線でレイトキと久美子を見定め、落ち着いた口調で告げる。

「なるほど。包括の歯車と心臓の歯車か。確かにこの二人には、迂闊に手を出すと自壊するほどの力が宿っている。危険極まりない存在だと認識している」ゼクスが頷きながら付け加える。

「だからこそ、今は共闘する。この海底の反応は、組織にとっても無視できない異変だからな」アハトは無言で壁に寄りかかり、フュンフは淡々と計器を確認している。敵とも言える者たちとの奇妙な共同作戦が、こうして始まった。フュンフは腕を組み、無骨な笑みを浮かべながらレイトキをじっと見つめ、はっきりと言い放つ。


「おう、ジョーカー。お前、顔つき変わったなぁー。昔はなーんか何を考えてるか分からない、仏頂面って感じだったが、今は生き生きしてるみてぇーじゃねぇか」彼は肩をすくめ、続ける。

「まあ、どっちでもいいっちゃいいんだがな。しかし、お前がビヨンダード人とのハーフだったなんて知った時は、さすがに驚いたぜ。ありえねぇ組み合わせだったからな」レイトキは少しだけ口角を上げ、応える。

「そうだな。俺自身も、最近になってやっと全部を知ったんだ。だが、それが俺の一部だってことも、今はちゃんと受け止めてる」フュンフは頷き、操縦席のモニターを指し示す。

「ならいい。その分、お前にしか出来ないことも多いってわけだ。さあ、もうすぐ最深部だ。気を引き締めろ」

レイトキは探知機の激しい警告音に反応し、全員に向かって声を張り上げる。

「ビヨンダードの反応が急激に強まってるぞ! みんな、最大限気をつけろ!」潜水艦のライトが暗い海底を照らし出した瞬間、全員が息を飲む。目の前に広がっていたのは、岩と珊瑚に覆われた巨大な海底遺跡だ。壁面には見覚えのない幾何学紋様が浮かび、あちこちに埋め込まれた砲塔が、ゆっくりと旋回し――まっすぐ潜水艦めがけて砲口を向けた。ツヴァイが即座に状況を判断し、叫ぶ。

「敵対モードに移行した! この遺跡、自動防衛機構が今も生きてるぞ!」ズィーベンが操縦桿を素早く操作し、艦体をわずかに回避させる。

「砲撃が来る! 全員、衝撃に備えろ!」重く低い起動音が水圧を伝って響き渡り、遺跡の砲口が蒼く不吉な光を帯び始めた。ズィーベンは即座にハッチを蹴り開け、冷たい水圧の中へと身を躍らせる。体中から水竜とサラマンダーの因子が渦巻き、周囲の海水を一気に引き寄せると――

「任せて! アーシの力、見せてあげる!」両手を大きく振り回すたび、無数の水流が分厚い壁となって潜水艦全体を包み込み、重なり合って幾重ものバリアを張り巡らせた。水の壁は内側に炎の熱を帯び、衝撃を吸収しつつ敵のエネルギーを弾き返す二重構造となっている。直後、遺跡の砲口から蒼い光の弾が一斉に放たれる。

ドゴォォォン!!

衝撃波が水中を揺らすが、ズィーベンが張った水流バリアが見事に弾き返し、潜水艦は無事に守られた。彼は笑みを浮かべながら艦内に呼びかける。

「まだ余裕あるわ! この隙に、遺跡の制御装置の位置を探しなさいよ!」レイトキは探知端末の画面を指し示し、全員に向かって力強く呼びかける。


「遺跡の中枢、制御装置は内部にあるみたいだ! おい、艦の防御システムを最大限に引き上げろ!」彼は続けて状況を補足する。

「砲撃はまだ続く。突入した直後が一番危険だ。バリアと装甲、両方を限界まで稼働させ、一気に入り口まで進むぞ!」ズィーベンが外から応え、さらに水流バリアを厚く強化する。

「了解! こっちも壁を三重にするわ! 思い切り突っ込みなさい!」ツヴァイが操縦卓を操作し、艦全体の警報が切り替わる。

「防御レベル、最大へ移行! 全系統、出力限界まで上昇! 衝突と連続砲撃に備えろ!」潜水艦の装甲が鈍く光り、周囲の水が圧縮されるような気配が立つ。遺跡の砲口が再び輝きを増す中、全員が一斉に次の手に備えた。

「全防御、最大稼働! 突入する!」ツヴァイの号令と同時に、潜水艦の装甲が白く輝き、ズィーベンが張った三重の水流バリアが艦体を分厚く覆い尽くす。蒼い砲弾が次々と襲いかかるが、バリアが弾き飛ばし、装甲が残る衝撃を吸収して、びくともしない。潜水艦はそのまま勢いを緩めず、遺跡の外壁に開いた巨大な開口部へと一直線に突っ込んでいく。水圧が急激に変わり、外の砲撃の音が遠ざかると、やがて艦体が緩やかに減速し、古びた石畳のような床にそっと着底した。

「到着。エントランスホールに接続完了」ハッチが開くと、そこには薄暗く広大な空間が広がっていた。壁には見慣れない紋様がうっすらと光り、どこか懐かしく、それでいて厳かな空気が満ちている。レイトキは先頭に立ち、手に力を込める。

「さあ、行くぞ。この遺跡が、この海岸の秘密を教えてくれるはずだ」薄暗いエントランスホールの奥、床から一段高くなった石造りの台座に、レイトキは近づき腰を屈める。

「これは……」手を伸ばして埃を払うと、台座の中央には、この遺跡の雰囲気とは不釣り合いな、スマートなデザインのポータブル端末が固定されていた。表面にはうっすらとビヨンダード由来の紋様が刻まれ、まるで長い間待ち続けていたかのように、近づいた彼の気配に反応して、画面がふわりと青白く灯り始める。レイトキは慎重に端末に触れ、表示を確かめながら仲間たちに呼びかける。

「おい、見ろ。ここには古代の遺物だけじゃなく、ちゃんと記録装置が残されてる。これが、この場所の秘密を記してる可能性が高い」ズィーベンが肩越しに画面を覗き込み、驚いたように声を上げる。

「この起動形式……ビヨンダードの技術と、こちら側の旧世代コードが混ざってるわ。普通の者じゃまず起動できない、特殊な仕掛けだね」レイトキは端末の表示が自分の手に呼応するように変わっていくのを感じ、静かに言う。

「だったら、これが俺たちに託された証拠だ。中身を読み解いて、この遺跡の目的と、残されたものを確かめるぞ」レイトキは端末に指を滑らせ、自身の血と歯車の波動を照合させてロックを解除する。画面が一瞬で青白く輝き、「認証完了」の文字が浮かび上がった瞬間――

ガラガラ…ッ

前面の壁が音を立てて左右にスライドし、隠された通路が開かれた。奥からは柔らかな光が漏れ、古く澄んだ空気が流れ出てくる。

「やった、通れるぞ」レイトキは端末をポケットに収め、先頭に立って通路へと足を踏み入れる。一同も続き、秘密の核心へと近づいていく。通路を進むと、視界が一気に開け、広大な円形ホールが現れる。天井は遥か高く、どこまでも続くような空間だ。そして、壁の内側に沿って、螺旋状に続く巨大な階段が、上へ上へと伸びている。石段には古い紋様が刻まれ、微かな光が段差を照らしていた。

「これは……上層へ続いてるのか」レイトキは階段の先を見上げる。

「制御中枢や、残された記録の核心は、きっと一番上にあるんだろうな」ズィーベンが周囲を警戒しながら言う。

「気を抜かないで。広いってことは、仕掛けや防衛機構がまだ隠されてる可能性が高いんだから」レイトキは頷き、階段を上り始める。

「ああ。ゆっくり確かめながら、上へ向かうぞ」螺旋階段を上りきり、重たい扉を開けると、そこはまるで巨大な心臓のように脈打つ空間だった。


壁一面には無数の光るパネルや、複雑に絡み合ったエネルギーラインが広がり、中央には半球状の制御卓が据えられている。あちこちにビヨンダード由来の紋様が浮かび、空気中には微かな共鳴の音が満ちていた。


レイトキは中央へ歩み出て、はっきりと確かめるように言う。

「そうだ、間違いない。ここがこの海底遺跡の、心臓部たる制御室だ」


ズィーベンも卓の表示を確認しながら補足する。

「防衛システムも、ゲートの安定化も、この場所で全て制御されてるみたいね。ここを押さえれば、海岸の歪みも、遺跡の砲撃も、全部止められる」レイトキは制御卓に手をかけ、ゆっくりと力を込める。

「ならば、この遺跡が本来何のために作られ、何を守り続けてきたのか――その答えを、ここで聞かせてもらうぞ」レイトキが制御卓の画面に表示された古い記録ログを読み上げ、一同は言葉の意味を噛み締める。


「これは……この遺跡を築いた者たちの記録だ」


彼は表示を指し示しながら続ける。

「『この世界は我々が知ってる世界とは違う。我々の世界『クリラトン』とは、こちらの世界の名前は『クリプトン』か。サイバー技術の進展度以外を除くと、我々の世界とほぼ同じだ』」

「『ここを本拠点にして各地に分拠点を作り、我々が住みよくしよう。我々の住民たちは新天地を求めていたから、ちょうどいい』」室内が静まり返る。久美子が驚きの声を漏らす。

「クリラトン……? それが、ビヨンダードの中でも特に古い系統の、元々の故郷の世界だったの?」ズィーベンは腕を組み、頷く。

「らしいね。この遺跡は、新天地を探してこちらへやってきた彼らが、最初に築いた拠点の一つだったってわけだ。この海岸が境界の接点になりやすいのも、元々彼らがここを足場に選んだからこそなんだ」レイトキはログの続きを探しながら、改めてこの場所の意味を受け止める。

「長い時が過ぎ、彼らの計画も記憶も薄れていった。だがこの遺跡だけが、ずっとその時の想いを守り続けていたんだな」かつての移住者たちの願いが、今もこの海底に、静かに残り続けていたのだった。レイトキは制御卓の表示を確認しながら、迷いなく手を動かす。

「防衛プログラムと境界ゲートの起動設定、全てを無害化する」彼は歯車の波動を端末に通わせ、古い指令を上書きしていく。画面の警告表示が次々と消え、赤く点滅していた砲撃システムや歪み誘導装置は、順に安全な停止状態へと切り替わっていく。

やがて最後の操作を終えると、室内の緊迫した警報音も止み、遺跡全体が安らかな静寂に包まれた。

「これで、もう誰も襲わない。海岸の歪みも、この遺跡の防衛機構も、完全に安定した」ズィーベンが安堵したように肩を下ろす。

「これで、この場所がただの脅威じゃなくなった。いつか、クリラトンから来た者たちが戻ってきたときには、ちゃんと彼らの拠点としても使えるようになったね」レイトキは頷き、制御卓を見つめる。

「ああ。ここは彼らの想いを守りつつ、これからはこちらの世界とも、穏やかに繋がっていく場所になるんだ」ツヴァイは静かに専用の記憶媒体を取り出し、制御卓のスロットに差し込む。画面が一瞬切り替わり、境界を制御する特殊なコードデータが次々と転送されていく。転送完了の表示が灯ると、彼はメモリーを抜き取り、手の中で確かめながら淡々と告げる。

「まさか、今回は調査だけの予定だったが、必要なものが手に入った。これが『境界プログラムコード』だ」彼はデータの価値を噛み締めるように続ける。

「これを持って帰れば、上層部も、そして歯車たちの将来のためにも、きっと大いに役立つ。喜ぶだろう」レイトキはその言葉を聞き、頷く。

「これで、境界の歪みを制御したり、安全な往来を作る道も開けるな。ただし、悪用だけは絶対にするなよ」

ツヴァイは厳かに応える。

「心得ている。これは、二つの世界を繋ぎ、守るためのものだからな」さらに階段を上り、最上層の小さな一室にたどり着くと、その中央には古い金属でできた機械じかけの箱が静かに置かれていた。レイトキは慎重に箱の留め具を外し、蓋を開ける。中にはスマートフォンほどの大きさの端末が一つだけ納められている。表面にはクリラトンの紋様が細かく刻まれ、手に触れた瞬間からレイトキの歯車の波動に呼応するように淡く光り始める。彼が左腕の前に差し出すと、端末は自ら浮き上がり、肌に吸い付くようにぴたりと密着。そのまま表面がなめらかに変形し、まるで腕の一部であったかのように完全に一体化した。

「こ、これは……」驚いて腕を見ると、端末は薄い装甲状になって左腕を覆い、必要なときだけ画面が浮かび上がる仕様になっている。同時に、遺跡全体のデータや境界の情報が、直接レイトキの意識にも届くようになった。ズィーベンが目を見張る。

「まるで、最初からあなたのために用意されてたみたいね。これがクリラトンの移住者たちが、次の時代に託そうとしていた最後の遺産なんだわ」レイトキは腕を軽く動かし、違和感なく力が宿るのを確かめ、決意を込めて言う。

「ああ。この力も、この記憶も、全部受け継いで、大切に使っていく。これからの道標にするためにな」最上階から制御室、エントランスまで、手落ちのないように遺跡の各所を確認し終える。防衛機構は安定し、境界の歪みも痕跡ごと封じられ、記録も遺産も確かに受け継いだ。

「これで、この場所の調査は完了だ。あとは、この遺跡がこれからも穏やかに眠り続けることを願うばかりだ」一同は潜水艦に戻り、艦体はゆっくりと遺跡を離れ、深い海の底から浮上していく。やがて水面を割り、朝日に輝くワタツキ海岸が目の前に広がる。調査船を収めた格納庫が開き、レイトキたちは無事に砂浜へと戻ってきた。潮風が左腕の端末をそっと撫で、微かに共鳴する。レイトキは水平線を見据え、新たな一歩を踏み出す覚悟を新たにする。

「さあ、依頼の報告をしに行こう。そして、ここで得たものを胸に、次の道を進むぞ」レイトキは調査の結果をまとめ、依頼人に丁寧に報告する。依頼人は驚きながらも安堵し、はっきりと言葉を返す。

「まさか、ビヨンダード――元は『クリラトン』という別の世界の住民が残した遺跡が、空間の歪みの原因だったとはね。いやはや、長らく謎だった異変の正体が分かり、しかもそれをきちんと沈静化してくれたとは!」彼は笑みを浮かべ、力強く付け加える。

「これで海岸の安全は確保された。報酬は、十分に弾んで用意させてもらうぞい!」レイトキは丁寧に頭を下げる。

「ありがとうございます。これでこの地の人々も、安心して暮らせるようになります」こうしてワタツキ海岸の依頼は、無事に完了した。そして彼らの手には、新たな知識と、二つの世界を繋ぐ大切な遺産が残されたのだった。ミクスタッド皇国の北、広大で霧に覆われた大地。その奥深く、古の石碑が並ぶ丘の上で、一人の影が静かに佇んでいた。風が草を揺らす音だけが響く中、その者は遠く南の空を見据え、はっきりとした内なる声を紡ぐ。

「包括の歯車が、ついにその姿を現したか……。ああ、分かっている。私がこの地に立ち、なすべきことはただ一つ」手を胸元に置き、決意を固めるように続ける。

「『アカシックレコード』――全ての世界、全ての時代の記憶と宿命が刻まれたその記録を、この手で見つけ出すことだ。それが、今回の大きな流れの中で、私に託された役割なのだから」周囲の霧が一筋の光となって彼の周りを旋回し、未知なる道へと誘うように輝き始める。遥か南で歯車たちが動き始めた今、北の地でも、もう一つの探索が静かに始まったのだった。

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