EPISODE1-9【なんでも屋の準備と解明されること】
翌日の放課後、日差しが柔らかな教室の片隅に集まった面々の間で、久美子が明るい調子で話題を切り出す。
「ねえ、ワタシたちで何でも屋みたいなことを始めてみたいなぁーって思ってるんだけど、どうかな?」レイトキは少し考えるように頷き、はっきりと賛意を示す。
「困っている人たちの助けになるような店、ってことだろ? 悪くない考えだ。俺も賛成だ」リジェは隣で腕を組みながら、仲間たちの顔を順に見渡して続ける。
「斗愛、与太郎、カグラ、デューク、ゼロにアルカまで、みんなが一緒に動いてくれるなら、どんな依頼でも対応できるだけの力と知恵が揃ってる。心強い限りだよ」話を聞いていた斗愛が手を叩いて笑う。
「おお、面白そうじゃないか! 力仕事から護衛まで、僕と与太郎がいれば荒事は任せてくれ!」与太郎も肩を回しながらうなずく
「まあ、普通の仕事から少し変わった依頼まで、手の空いてるときなら付き合ってやるよ」カグラは柔らかい笑みを浮かべて言う。
「古い伝承や儀式、場所の調査などでお役に立てることもあるかもしれませんね」デュークも堂々と頷く。
「秩序を守り、人々を守る――その理念に合致する限り、私も力を貸そう」ゼロは少し渋い顔をしつつも、隣で目を輝かせるアルカに押されるように口を開く。
「まあ……みんながやるって言うなら、ボクも加わる。ただし、無茶な依頼には付き合わないからな」アルカはすぐに手を上げて元気よく宣言する。
「アチシももちろん参加! 水の上も時空だって移動できるから、遠くの場所や届かないところだってすぐに行けるよ♪」こうして、放課後の何気ない提案から、彼らの新たな活動拠点となる「何でも屋」の構想が、にぎやかな雰囲気の中で動き出すことになったのだった。レイトキは構想の具体的な部分を確かめるように、はっきりと問いかける。
「そういえば、何でも屋ってどんな形で始めるんだ? 学校の公認を受けた部活動として登録するのか、それとも学外に本当に店を構えて営業する形にするのか?」久美子は指で顎に手を当て、少し考え込むような表情になる。
「そこなんだけどね……部活動にするには目的が曖昧すぎて、学校側の許可が下りるかどうか微妙なんだ。だって依頼の内容が雑用から護衛、調査まで幅広すぎるから」リジェが話を引き継ぎ、現実的な案を口にする。
「なら、この街の商店街に空いている地下テナントがあるって話を前にキキョウさんから聞いたことがある。規模はそこそこだけど、家賃も手頃で隠れた場所だから、目立ちすぎずに活動できるんじゃないか?」レイトキは目を丸くして頷き、仲間たちの方を向く。
「地下テナントか……学校にも通いやすく、外部の連絡も取りやすい場所だな。表向きは普通の便利屋として営業しつつ、裏で歯車やコードに関する情報収集や対応拠点としても使える。一石二鳥と言えるかもしれない」アルカはわくわくした様子で手を叩く。
「地下のお店? 秘密基地みたいで楽しそう! 看板には何て書けばいいの?」ゼロは肩を落としながらも、どこか前向きな雰囲気に押されている。
「まあ、場所が決まれば動きやすくなるのは確かだ。部屋のレイアウトや看板の文字くらいなら、俺たちで何とかできるだろ」こうして、彼らの新たな拠点は「地下テナント」という形で具体化し始め、名もない便利屋としての第一歩が踏み出されようとしていた。レイトキたちは案内されるまま、街の地下商店街を管理するキキョウの事務所を訪ねた。事務用の机に向かって書類をめくっていたキキョウは、顔を上げて一行を見ると、はっきりとした口調で状況を告げる。
「話は聞いてる。確かに今、空いているテナントは3つあるんだが」彼女は手元の地図を机の上に広げ、3か所に印をつけながら説明を続ける。
「1つ目は入り口に近い通り沿いの店舗。人通りは多いけど、その分家賃も高めで、周りには雑貨店や飲食店が並んでいる。表立って営業するにはいい場所だが、目立ちすぎるきらいがある」次に別の印を指す。
「2つ目は少し奥まった通路の先。広さは一番あるけど、以前の設備が古くなっていて、水道や配線の整備に手間と費用がかかる可能性が高い」最後に、地図の端の一角を示す。
「そして3つ目が、一番奥の区画にある小さめの店舗だ。広さはそこそこだが、通路から少し引っ込んでいて静かだし、家賃も手頃。外部からは見つけにくい代わりに、中からは出入りがしやすい――お前たちが何でも屋を始めるという話を聞く限り、使い勝手は悪くないかもしれない」レイトキたちは地図を覗き込み、それぞれの長所と短所を頭に入れながら、どこを選ぶべきか考え始めるのだった。キキョウは手元の端末に視線を移し、情報をスクロールして確認すると、少し意外そうな口調で告げる。
「……ああ、そうだ。ちょうど今、新しく空いたテナントが出てきたな」画面に表示された詳細を一行に説明しながら指でなぞる。
「地下街の出入り口からそれほど遠くない位置にある。電気配線も水道設備もすでに整っていて、追加で大きな工事をする必要はない。それでいて通りの真ん中に面しているわけでもないから、目立ちすぎず、かといって隠れすぎて客が来ないほど奥まってもいない――丁度いい塩梅の場所だ」レイトキたちは顔を見合わせ、思わぬ好条件に驚きを隠せない。
「そんなに都合のいい場所が急に空くなんて……」久美子がつぶやくと、キキョウは頷いて補足する。
「前の借り主が急な都合で引き払ったばかりでな。広さもお前たち数人が作業したり荷物を置いたりするには十分だし、家賃も3つあった空き店舗の中では真ん中くらいの水準だ。条件だけ見れば、一番合ってるんじゃないか?」レイトキは地図と端末の情報を照らし合わせ、すぐに判断を下す。
「なら、そこを見せてもらえますか? 実際に中を確かめて、最終的に決めることにします」
「ああ、すぐに案内しよう」こうして彼らの新しい拠点となる候補は、予定外だが最も理想的な場所へと定まりつつあった。地下通路を歩きながら店舗の前まで案内してきたキキョウは、ドアの取っ手に手をかける前に振り返り、はっきりとした口調で告げる。
「そうだ、家賃の件だが――値引きすることはできる。半額ほどにしてやろう」レイトキたちは一瞬目を丸くし、互いに顔を見合わせる。
「半額ですか? そんなに大幅に下げてもらって、大丈夫なんですか?」久美子が驚きを隠せずに問いかけると、キキョウは肩を軽く揺らして答える。
「この場所は以前から少し長く借り手が決まらない時期もあったし、お前たちが人助けをする何でも屋を始めると聞いてな。街にとっても悪い話じゃないだろう。それに……きちんと長く使ってくれるなら、管理する側としても安心できるからな」リジェが腕を組み、納得したように頷く。
「条件がいい上に賃料まで抑えてもらえるなんて、まさに渡りに船だね」レイトキも深く頭を下げて礼を述べる。
「ありがとうございます。そこまでしていただけるなら、この場所を借りることに決めます。きちんと責任を持って運営し、街の役に立てるようにする」キキョウはわずかに笑みを浮かべ、鍵を取り出してドアを開けながら言う。
「その言葉、忘れるんじゃないぞ。さあ、中を見てみるといい」こうして費用面の不安も解消され、彼らの新たな拠点となる地下テナントの契約は、一気に現実のものへと進み始めた。店の内部を見渡す一行に向け、キキョウは胸元を張るようにして、はっきりと言葉を続ける。
「それから、他に何か必要な備品や設備があるなら、こちらで用意できる範囲で揃えてやるぞ」
少し誇らしげな調子で自分の立場を明かす。
「私はこの地域の不動産管理だけでなく、商会の会長も務めている。仕入れ先や職人、各業者とのつながりはたくさんある。机や棚、照明、配線の調整から什器まで、言ってもらえれば早く安く手配できる」レイトキたちはまた一つ予想外の支援を受ける形になり、深く感謝の意を示す。
「そこまで面倒を見ていただけるとは……本当に助かります」
久美子も手を合わせるようにして頷く。
「普通なら全部自分たちで探して手続きするところだけど、そんなに広い人脈があるなら、開業までがずっとスムーズになりそうだね」キキョウは笑みを浮かべながら手を振る。
「気にするな。街のためになる仕事を始めようという若い連中には、力になってやりたいだけのことだ。さあ、必要なものをリストアップしてみろ。明日までには見積もりと手配の目処を立てておく」こうして場所だけでなく、設備面まで強力な後押しを受け、彼らの「何でも屋」は着々と開業への準備を進めていくのだった。キキョウは周囲に他の仲間たちがいるのを確かめるように視線を巡らせた後、声を少し落としながら、はっきりとレイトキに向けて告げる。
「それとな、レイトキ。お前にはこれとは別に、直接話しておきたいことがある」一歩近づき、周りに聞こえないように続ける。
「後でエルカーノスのブリーディングルームまで来い。ここでは言えない内容だから、二人きりで落ち着いて話せる場所でな」レイトキは少し眉を上げ、予感めいた緊張感を覚えながら頷く。
「わかりました。他のみんなとの打ち合わせが済み次第、すぐに向かいます」キキョウはそれだけを告げると、再び普段の調子に戻り、残りの手続きの説明へと話を戻す。だがレイトキの心には、これから聞かされる話が、ただの店の準備とはまったく別の重要な内容であることが、はっきりと感じ取れていた。少し時間が経ち、レイトキは指定されたエルカーノスのブリーディングルームへと足を運んだ。
薄い青みがかった照明に照らされた静かな室内、キキョウはすでに中央のテーブルに資料を広げて待っていた。レイトキが入ると、キキョウは真剣な眼差しで彼を迎え、はっきりと切り出す。
「来たな。実はお前の出自について、私なりに調べさせてもらった」指先で資料の端を押さえながら、言葉を選ぶように続ける。
「見た目も生まれもこのクリプトン世界の者でありながら、何か根本的な部分が普通の住人とはまるで違う……そんな感覚がずっとあったんだ」レイトキは静かに正面に立ち、自分でも感じていた違和感に対して、キキョウが何か確かな手がかりを掴んだことを察した。
「俺自身も、どこか自分がこの世界の理に完全には収まりきれていないような感じがあります。調べた結果、何かわかったのですか?」キキョウは頷き、テーブルの上の解析データをレイトキの前に向けて回す。
「ああ。お前の中には、この世界の法則だけでは説明できない『別の系譜』が確かに流れている。次元を越えた存在――つまりビヨンダードの血筋が、はっきりと痕跡として残っているんだ」その言葉に、レイトキは少し息を呑み、自分の出自の謎が一歩ずつ明らかになっていくのを感じていた。キキョウは資料の波形データを指でなぞりながら、論理的に整理するように言葉を重ねる。
「まず最初に気になったのが、お前の感性の値があまりにも低すぎたことだ。普通は『育つ環境が悪かったから』とか『経験が少ないから』という理由で説明できる範囲なんだが、お前の場合はそんな単純な話じゃなかった」一度言葉を区切り、根本から解説するように続ける。
「そもそも感性というのはな、幼い頃の経験や周囲との関わりである程度まで形成され、その後は自分で磨いたり伸ばしたりできるものなんだ。この世界の誰でも、生まれながらにその基盤は備わっているのが常識だ」だがここで口調を強め、レイトキ自身の特異性を指摘する。
「ところがお前の場合は、そもそも『感性』という概念そのものが最初から薄かった。環境や経験の問題ではなく、存在の根幹に関わる部分で、この世界の生き物とは違う仕組みになっていることがデータからもはっきり出ているんだ」レイトキは黙って聞きながら、幼い頃から感じていた「何かが自分には足りないような、あるいは違うような」感覚が、こうして具体的な理由と結びついていくのを感じていた。
「つまり……俺が普通の人と違っていたのは、育ち方のせいじゃなく、最初から持って生まれた性質のせいだった、ということですか?」
「そういうことだ」キキョウは真剣な眼差しで頷く。
「これがただの特徴で済めばいいんだが、次元を越えた血筋が関わっている以上、今後お前自身の変化や力の覚醒にも、この性質が深く関わってくるだろう」キキョウは解析結果の最深部に記されたデータを示しながら、さらに核心に迫る話を続ける。
「そしてさらに詳しく調べていくと、はっきりと一つの名前が浮かび上がってきた。キクリという存在と、お前の存在があまりにも密接に結びつきすぎているんだ」レイトキは眉を上げ、聞き覚えのある名前に心臓が少し跳ねるのを感じる。
「キクリ……? その名前はどこかで……」
「単なる関係や影響というレベルじゃない」キキョウは言葉を強めて続ける。
「解析を進めるほど、お前の体を構成する根源的な情報の中に、キクリ自身の情報そのものが混ざり合っているのが確認できた。まるで最初から一つになるように作られたか、あるいは受け継がれたか――そんな形でだ」テーブルの上の光る波形図を指で示す。
「これまで言ってきた感性の違い、世界の法則に完全に収まりきらない性質、ビヨンダードに似た半データ的な特徴……それらのすべての原因が、この『キクリの情報が混在している』ことに集約されるんだ」レイトキは静かに唇を噛み、自分の出自の輪郭が少しずつ明らかになっていくのを感じる。
「つまり……キクリという存在こそが、俺の中に流れる『別の系譜』の正体だった、ということですか?」
「そう解釈するのが最も自然だ」キキョウは重く頷く。
「彼女が何者で、なぜその情報がお前に受け継がれたのか――そこまではまだ全貌が見えない。だがこれだけは確かだ。お前はキクリと切り離すことのできない存在であり、彼女の持つ力や運命も、そのままお前のものとして宿っているんだ」静かな室内に、二人の間に流れる事実の重みだけが漂っていた。キキョウは次の資料をめくり、系図のように枝分かれした表をレイトキの前に広げ、はっきりと告げる。
「さらにお前の出自を辿っていったところ、驚くような繋がりが見えてきた。ジョースター家と関係があることが判明したんだ」レイトキは息を呑み、耳を疑うように問い返す。
「ジョースター家……あのクリプトン世界でも由緒正しい名門貴族の?」
「そうだ」キキョウは頷き、指で系図の線を追う。
「記録から推測すると、本家の直系ではないかもしれないが、間違いなく分家か、あるいは本家から分かれた血筋に連なっている。そして調査を重ねた結果、お前の父親がこのジョースター家の者であることが明らかになった」室内にはしばらく静寂が流れる。レイトキは自分の過去にぼんやりと浮かんでいた空白の部分に、次々と具体的な形が埋まっていくのを感じていた。
「父がジョースター家……それでは俺の中にある、この世界の住人としての側面は、この由緒ある血筋から来ていたということですか?」
「まさにそういうことだ」キキョウは深く頷く。
「一方に次元を越えたキクリの情報、もう一方にこの世界の名門ジョースター家の血――お前はまさに、二つの大きな流れが一つに交わって生まれた存在なのだ。だからこそ普通の理屈では測れない性質と力を秘めているんだ」こうしてレイトキは、自分の出自を構成する二つの根本的な系譜を、ついにはっきりと知ることになった。それは同時に、自分がこれから背負っていく運命の重さを、改めて実感する瞬間でもあった。キキョウは言葉を区切り、レイトキの目を真っ直ぐに見つめながら続ける。
「そして――お前の父、ジョースター家の者は、次元の彼方ビヨンダードの世界から来た存在を妻に迎えている。お前の母親の名前は……」その先を言い終わる前に、レイトキがはっきりとした口調で答えを引き取る。
「キクリ、というわけですね」キキョウは一瞬驚いたように目を見開き、すぐに重く頷く。
「……その通りだ。解析結果からも、伝承の断片からも、すべてがその答えを指し示している。お前の母こそが、次元を越えた存在キクリその人なのだ」レイトキは静かに拳を握り、これまでの疑問が一気に一本の線でつながっていくのを感じる。
「だから俺にはクリプトンの血とビヨンダードの性質の両方が混ざっていた。感性の仕組みが違うのも、法則に干渉できる力があるのも、すべて母親から受け継いだものだったんですね」
「ああ」キキョウは応じる。
「名門ジョースターの血がこの世界に根を下ろす力を与え、キクリの存在が次元の壁を越える可能性を与えた。お前は二つの世界の境界線そのものとして生まれてきた――それが、お前の正体なのだ」部屋の静寂の中、レイトキは自分という存在の輪郭を初めて完全に理解し、これからの道のりが単なる事件の解決ではなく、二つの世界の運命に関わるものであることを、はっきりと自覚するのだった。キキョウは資料を指で押さえ、話をさらに深く掘り下げるように続ける。
「だがな、キクリはこの世界に永遠に留まることはできなかった。当時、ビヨンダードから続々と侵入してくる勢力を退かせ、この世界の均衡を守るために、裏であらゆる根回しと調整を行わなければならなかったからだ」少し声を柔らかくして、母親としての側面を語る。
「それでも彼女には確かな母性があった。自分が直接側にいて育てられない代わりに、養育と見守りのための分体を作り出したんだ。今で言う端末のような、本体と意識を共有する分身のような存在だな」レイトキは目を細め、幼い頃からどこかで感じていた「遠くから見守られているような感覚」と結びつける。
「つまり……俺が小さい頃から、時折不思議な導きや支えを感じていたのは、その分体を通じて母が関わってくれていたということですか?」
「そういうことだ」キキョウは頷く。「本体は次元の境界やビヨンダード側で事態を収めるために動き続けているが、この分体を介して、お前の成長を見守り、必要なときに力の使い方や危険を察知する感覚を与えてきた。まるで遠くから糸を引くように、だが決して干渉しすぎず、お前自身の歩みを尊重する形でな」レイトキは胸の奥にあった曖昧な寂しさが、少しだけ温かいものに変わっていくのを感じる。
「会ったことはなくても、ずっと側にいてくれたようなものなんですね……」
「ああ」キキョウは静かに答える。「だからこそお前は、ただ血筋が混ざっただけの存在ではない。母の意志と父の誇り、二つの世界の願いを受け継いで生まれてきた、特別な存在なのだ」キキョウは話の核心へと進み、静かだが重みのある口調で告げる。
「そしてだな……偶然なのか、それとも誰かの狙いがあったのか、今となってははっきりしないが、お前はいつしか因子実験体として扱われる立場になった」レイトキは身を乗り出すように聞き入る。
「因子実験体……? 俺自身が何かの実験材料になっていた、ということですか?」
「ああ」キキョウは頷き、続ける。
「二つの世界の血と情報が混ざり合ったお前の体は、歯車やクロノコードといった世界の根源的な力を受け入れる『器』として、まさに理想的な条件を備えていた。それに目をつけた者たちが、お前を試すように因子を注入し、適合テストを行った形だ」だがその結果は予想外だった、と言うように声を強める。
「普通なら拒絶反応か暴走で終わるのが常だった。だがお前は完全に適合し、最終的に『JOKER』と呼ばれる存在へと覚醒した。どの法則にも属さず、どの枠組みにも収まらない――そんな唯一無二の資格を得たわけだ」レイトキは息を呑み、自分の中に秘められていた名前の意味を噛み締める。
「JOKER……だからストレンジプレデターも、俺のことを単なる敵としてだけでなく、どこか警戒しているように見えたんですね」
「その通りだ」キキョウは厳しい表情で応じる
「彼らは『自分たちの計画すら覆しかねない不確定要素』として、お前を恐れている。歯車を進化させ、コードの力を中和または掌握し、次元の境界さえ自在に行き来できる可能性を持つJOKER――それが、今のお前の真の立場なのだ」部屋には、これまでの出自と運命が一つに結びつき、レイトキという存在の全容が明らかになった緊張感が満ちていた。キキョウは話題を切り替え、テーブルの上にクロノコードの一覧図を広げながら、はっきりと告げる。
「これまで話してきたように、オリジン・クロノコードは8つ揃えば次元を越えたり、複数の世界を一つに融合させたりすることが可能になる指で赤から白までの8色の印を順に指し示した後、さらに別の二つの記号を加えるように続ける。
「だがな、実はこれで全部ではない。クロノコードにはさらに2つが存在する――金と銀だ」レイトキは目を見開き、すぐに疑問を口にする
「え? 8つで完結すると聞いていましたが……金と銀、ですか?」
「ああ」キキョウは頷き、説明を重ねる。
「赤から白の8つは『機能を担うコード』、いわば次元や時間を動かすための部品のようなものだ。だが金と銀は、それら8つ全体を制御し、暴走を抑え、あるいは完全に停止させるための『調整役』なんだ」彼女は声を落とし、その重要性を強調する。
「ジョンアイデル様の時代にも、この2つは危険すぎるとして別格に扱われ、通常の記録から外されていた。8つだけでも世界の均衡を崩す力があるのに、金と銀まで加われば、操る者の意思一つで次元の構造そのものを書き換えることさえできるようになる」 レイトキは緊張感を強め、問いかける。
「つまり、ストレンジプレデターが8つを集めようとしているだけでなく、いずれこの金と銀まで狙ってくる可能性がある、ということですね?」
「その通りだ」キキョウは厳しい表情で答える。
「彼らが最初からこの2つの存在を知っているかは不明だが、いずれ解析が進めば必ず気づく。金と銀の在処を知ること、そして必要なら先に確保すること――それが、これからの争いで最も重要な鍵になるだろう」キキョウは手元の端末を操作すると、淡い輝きを放つ二つの球体が浮かび上がった。純金のような光をまとうものと、月光のような銀色にきらめくもの――どちらも精密な電子コードが編み込まれたような構造をしている。
それらを慎重にレイトキの前に差し出し、はっきりと告げる。
「これがオリジン・クロノコードの金と銀だ。記録からも封印場所からも回収してきた。これ以上安全な保管方法はない――お前自身に宿してもらうのが、今のところ最善の選択だろう」レイトキは手を差し伸べ、二つの球体に触れる。すると冷たくも温かい不思議な感触が伝わり、自分の内側にある力と静かに共鳴するのを感じ取った。
「俺に……この二つを? 保管するだけでなく、体の中に宿す、という意味ですか?」
「ああ」キキョウは頷き、理由を説明する。
「金と銀は単独で持ち運んだり保管したりすると、周囲の時間や空間に干渉し、不安定な歪みを生み出す。だがお前はJOKERとして、どんな法則や力にも適合・調整できる器だ。二つのコードの性質を受け入れ、暴走させることなく内に収めておけるのは、今のところお前しかいない」レイトキがそっと手のひらに乗せると、二つの球体はゆっくりと光を弱め、細かい粒子となって彼の肌から染み込むように消えていく。胸の奥に柔らかく収まり、まるで元々そこにあったかのように自然に馴染んでいく。
「……こんなにすんなりと」
「それが適合の証拠だ」キキョウは安堵の色を浮かべる。
「これでストレンジプレデターが残りのコードを集めても、最終的な制御権はお前の手にある。金が全体の力を引き出し、銀がその動きを抑える――二つが揃って初めて、クロノコードの真の使い方と、暴走を防ぐ安全装置が完成するのだ」レイトキは胸元に手を当て、新たな力と責任が自分に加わったことを静かに感じ取っていた。




