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EPISODE1-1【転入まで】

朝日がカーテンの隙間から柔らかく差し込み、部屋の中を淡い光で満たす。レイトキは新しい家のベッドでゆっくりとまぶたを開け、まだ慣れない天井をぼんやりと見上げる。施設の冷たい照明とは違う、自然な明るさが、ここが「自分たちの場所」であることを静かに告げていた。

体を起こして伸びをしたところで、テーブルに置いた通信端末が小さく振動し、キキョウからの連絡が届いたことを知らせる。画面を開くと、簡潔な文字が浮かび上がる。

「お前たちに一つ提案がある。身分や経歴に特殊な事情があっても受け入れてもらえる学校がある。場所はハクレイシティ、ヤクモシティ、マタラシティのちょうど三つの街が接する境目の地域にある。」レイトキは端末を持ったまま、少し考え込む。学校――それは「普通」の人たちが通う場所だと、ぼんやりと聞いたことがあった。外の常識を学び、人との関わり方を身につけるには、確かに適した環境かもしれない。隣の部屋からは久美子の足音が近づいてくる。扉が少し開き、彼女が顔を覗かせる。

「レイくん、何か連絡?」

「ああ、キキョウからだ。俺たちでも入れる学校が見つかったらしい。街の境にある場所だそうだ」レイトキは画面を彼女に見せながら説明する。久美子は目を丸くして読み、すぐに嬉しそうな表情に変わる。

「学校……そっか! これから外の世界で生きていくために、一般的な知識やルール、友達だって作れるかもしれないわね。私たちにとって、いい機会かも」レイトキは自分の手のひらを見つめながら、静かに頷く。

「俺には感性も常識も足りない。これがそれを補う一つの道なら、試してみる価値はあるだろう」端末には続けて詳細が送信されてくる。施設を出て自由を得た彼らに、今度は「学ぶ」という新たな選択肢が示されたのだ。未知の日常が、また一歩近づいてくるのを感じながら、二人はこれからの新しい一歩に心を向け始めていた。端末の画面には、キキョウからのメッセージが続けて表示される。

「学校の名前はミュータント学園だ。小・中・高一貫の教育機関で、生まれつき特殊な体質や能力を持つ者、あるいは経歴に特別な事情のある者を対象にしている。身分や過去を細かく問われることもなく、外部の普通の学校よりもずっと環境が合っているはずだ。今回は、君たち全員に高等部から入ってもらう手続きを進める」レイトキはその文字を読み終えると、久美子の方を向いて簡単に伝える。

「名前はミュータント学園だそうだ。特殊な事情のある生徒向けの学校で、俺たちは高等部に編入する形になるらしい」久美子は少し考えるように頷き、柔らかい表情で応じる。

「ミュータント学園……私たちみたいに普通と違う力を持っていたり、経歴が曖昧だったりする人たちが集まる場所なのね。だったら、周りと自分を比べて劣等感を抱いたり、目立ちすぎたりする心配も少ないかも」

「ああ、そうだな」レイトキも同意するように続ける。

「普通の学校に入ったら、力の制御や感覚のズレですぐに不審がられる可能性が高い。ここなら、自分たちのペースで学びながら、生活にも慣れていけるだろう」端末にはさらに、入学までの日程や学校の簡単な案内が追加で送られてくる。未知の世界への一歩が「生活」から「学び」へと変わり、彼らの新しい日常が、また一つ具体的な形を取り始めていた。端末をスクロールして詳細を確認しながら、レイトキは小さく声に出して読み上げる。

「えっと……見学日が今日で、体験入学は週明けから始まる、と書いてあるな」隣で覗き込んでいた久美子は目を瞬かせ、少し驚いたような表情になる。

「今日!? 思ったよりずっと早いのね。まだ家の荷物整理も途中なのに」だがすぐに気持ちを切り替え、前向きな口調で続ける。

「でも、早く始まる分、早く学校の様子も分かって安心できるわ。見学が今日なら、今から準備して向かえば間に合うわね」レイトキも頷き、端末に表示された集合時間と場所を記憶に刻む。

「確かに、のんびり待っているよりは動き出した方がいい。見学で実際の校舎や雰囲気を見て、自分たちに合うかどうかも確かめられる」

彼は端末をテーブルに置きながら、久美子に視線を向ける。

「準備は1時間もあれば済むだろう。他の連中にも連絡を入れておくか。斗愛たちも同じ案内を受けているはずだ」

「うん、私がメッセージ送っておくわ!」久美子はすぐに自分の端末を取り出し、手際よく操作を始める。予想外に早い日程だったが、二人にとっては未知の生活への最初の大きな一歩が、もうすぐそこまで迫ってきていた。レイトキは端末の時刻表示と見学の開始時間を照らし合わせながら、小さく呟く。

「開始時間は8時からか……今はまだ6時30分だ。移動時間と準備を考えても、まだ余裕はあるな」 久美子も自分の端末で時計を確認し、ほっと息をつく。

「そうね! 1時間半もあれば着替えや身支度、朝ごはんだってゆっくり済ませられるわ。慌てずに行けるから安心」レイトキは立ち上がりながら、次の段取りを頭の中で整理する。

「キキョウの手配で送迎車が7時20分頃に家の前に来るそうだ。それまでに荷物も最低限のものだけまとめておけばいい」

「分かった! じゃあ私は朝食の準備をするわ。レイくんは着替えと持ち物を確認してくれる?」

「ああ、任せておけ」二人は自然に役割を分け合い、慌てることなく新しい一日の始まりに向けて動き出す。予定が早くても、時間にはまだ余裕がある――そんな小さな安心感が、未知の場所へ向かう緊張を少しだけ和らげてくれていた。レイトキはクローゼットを開けながら、事もなげに言葉を続ける。

「着替えと言っても、この学校には制服がないらしいけどな。案内書に書いてあった」それを聞いた久美子は手を止め、目を丸くして振り返る。

「えっ!? 制服がないの!? そんな大事なこと、先に言ってくれればよかったのに!」少し頬をふくらませて抗議するような口調だが、すぐに気持ちを切り替える。

「まあ、逆に考えれば好きな服で行けるってことね。窮屈な決まりがない分、気が楽かも」レイトキは肩をすくめながら答える。

「普通の学校はみんな同じ服を着るものだと聞いていたから、ここは随分違うんだな。それだけ生徒の事情に合わせて柔軟なのかもしれない」

「そうだね。じゃあ動きやすくて、あまり目立ちすぎない普段着を選ぶことにするわ」二人は慌てずに着るものを選び始める。予想と少し違う点はあっても、それがまたこの学園の「普通ではない」一面なのだと、ゆっくりと理解していくのだった。レイトキは案内書のページをめくりながら、追加の情報を口にする。

「だけど一応、体操着や実習用の専門着は用意されているらしい。体育の授業や能力訓練の時間にはそれを着る決まりだと書いてある」久美子は手に取っていた服を一旦置き、ほっとしたように頷く。

「なるほど。動いたり体を使ったりするときは専用の服があるわけね。それなら、普段は自由だけど必要な場面ではきちんと決まりがあるから安心だわ」

「ああ」レイトキも頷く。「何もかも自由放題というわけじゃなく、安全や授業の効率を考えた最低限のルールは設けられている、ということだろう。俺たちにとってはちょうどいい塩梅かもしれない」

「そうだね! じゃあ普段着は自分たちが着慣れたもので大丈夫ってことで、決まりだ」二人は再び着る服を選び始め、学園のシステムが少しずつ具体的に見えてくるのを感じていた。久美子はクローゼットの前に立ち、服を並べながらはっきりと言う。

「じゃあ、学校に行くときの服をあらかじめ決めておこうか。とりあえず一週間着続けられるような組み合わせを考えておくわ」レイトキは隣で自分の分を見ながら頷く。

「確かに、毎朝何を着るか迷うより、最初から決めておいた方が手間が省けるな。俺はこういうことにはあまり頭が回らないから、助かる」久美子はくすりと笑って、服を日ごとに分けていく。

「動きやすくて汚れても手入れしやすいもの、あまり派手すぎない色合いのものを中心に選ぶわ。学園では力を使うこともあるかもしれないから、破れにくい素材のものも意識しておくね」

「そうだな、その点は重要だ」二人は並んで服を選びながら、小さな日常の準備を進めていく。施設では「支給されたものを着る」だけだった彼らにとって、自分たちで選び、調整するこの時間自体が、新しい自由な生活の一部になっていた。そして、身だしなみを整える。準備を整えた二人は時間通りに家を出て、徒歩数分の待ち合わせ場所へと向かう。時計の針が7時30分を回る頃、指定された場所に無事に到着した。まもなく、静かなエンジン音と共に黒い送迎車が角を曲がって姿を現し、二人の前に滑らかに停車する。運転席からはキキョウの助手を務めるスタッフが降りてきて、ドアを開ける。

「お待たせしました。ミュータント学園への送迎です」車内にはすでに斗愛、与太郎、カグラ、デュークたちも集まっていて、レイトキと久美子を見ると手を上げて合図する。

「よう、時間通りだな」与太郎がにやりと笑う。

「これからどんな場所か、少し楽しみだぜ」

「見学だけでも実際に自分の目で確かめられるのは安心だわ」斗愛が穏やかに頷く。レイトキたちも車に乗り込むと、ドアが閉まり、車体はゆっくりと走り出す。窓の外にはまだ朝の光が柔らかく街を照らし、彼らの新しい一歩を見守るように続いていく。これから向かう先には、普通とは違う仲間たちが集まる学園が待っている――未知だが、同時に自分たちに合った居場所になるかもしれない、そんな予感を抱きながら、一行は車の中で静かに道のりを進んでいくのだった。送迎車は渋滞もなく順調に進み、7時45分ぴったりにミュータント学園の正門前へと到着した。

車が停まると、一行は次々と外に降り立ち、目の前に広がる校舎と敷地を見上げる。周囲を木々が囲み、建物はどこか落ち着いた雰囲気を持ちながらも、普通の学校とは違う広さと造りになっているのがすぐに感じ取れた。門の脇には「ミュータント学園」と刻まれた看板が立っている。

「予定より少し早く着いたな」レイトキは周囲を観察しながら呟く。

「見学開始の8時までまだ少し時間があるわ」久美子が時計を確認して頷く。

「ちょうど門の外から校舎の様子を眺めていられるわね」カグラは腕を組み、建物全体を見渡しながら言う。

「周囲に高い壁や監視用の機器が目立たない。それでいて、見えない部分には安全対策が施されているような雰囲気だ。特殊な能力を持つ生徒を受け入れるだけあって、よく考えられた設計になっているらしい」デュークも静かに頷き、門の内側を見つめる。

「これから俺たちが通う場所……まずは自分たちの目で、中の様子を確かめていくとしよう」朝の清々しい空気の中、彼らは正門の前に並び、少しの緊張と好奇心を胸に、学園の中へ足を踏み入れる瞬間を待っていた。門をくぐり、敷地内に足を踏み入れると、すぐに周囲の様子が目に入ってくる。登校してくる生徒たちの姿を見て、一行は自然と足を緩め、それぞれに観察し始める。

「なるほど……」レイトキは視線を巡らせながら静かに口にする。

「ここにいる生徒たちは、純粋な人間だけではないようだな」確かに歩いている彼らの姿には、様々な特徴が見受けられた。大半は普通の人間と変わらない外見だが、中には少し尖った耳を持つ者、肌にうっすらと鱗のような模様が浮かんでいる者、背中に小さな翼の痕跡や尻尾を隠している者もいる。

「説明にもあった通り、人間を中心に、人間とのハーフ、それに亜人間たちが主な生徒層らしい」カグラが要点をまとめるように言う。

「種族や出自の違いがあっても、ここではそれが特別なことではないように見える」久美子は周りの様子を見て、少し安心した表情になる。

「私たちみたいに力や体質が普通と違っていても、浮いたり奇異な目で見られたりする心配は少なそうね。みんなそれぞれに違いを持っているんだから」与太郎も周囲を眺めながら肩を落とす。

「なるほど、これなら俺たちが『変わり者』扱いされることもなさそうだ。同じような境遇の連中が集まっているってわけだな」斗愛は柔らかく頷き、校舎の奥へと続く道を見つめる。

「それぞれに違いがあるからこそ、互いの事情にも理解があるのかもしれない。ここなら、自分たちらしくいられる場所になるかもしれないわね」生徒たちはそれぞれに話したり歩いたりしながら自然に過ごしており、「普通」の枠組みに収まらない彼らにとって、この空気は予想以上に居心地の良いものに感じられ始めていた。敷地内を歩いていると、数人の女子生徒のグループがこちらに気づき、目を丸くしてこそこそと話し始める。

「えっ!?あの人たち、新しく来た転入生かな?」「特に今、赤いメッシュの入った髪に狐耳、角も生えてる男子……イケメンじゃん!」「本当だ、雰囲気も落ち着いててかっこいい!」囁くような声だったが、レイトキにははっきりと聞こえてくる。自分のことを指していると気づき、彼はきょとんとした表情で周囲を見回しながら、率直に声を上げる。

「なんだ? 何か俺に用か? それとも何か変なところでもあるのか?」彼には「イケメン」「かっこいい」という言葉の意味が理屈では理解できても、自分に向けられた褒め言葉だとすぐには結びつかない。ただ、周りの視線が自分に集まっていることだけははっきりと感じ取って、戸惑っている様子だ。隣にいた久美子はそんなレイトキの反応を見て、思わずくすりと笑いながら小声で教えてあげる。

「レイくん、別に悪い意味じゃないわよ。『あなたのことを格好いい』って言ってるの」 レイトキは一瞬まばたきをし、さらに首を傾げる。

「格好いい? 耳と角が生えてるだけだろ? 施設では『余分な特徴』としか扱われなかったんだが……」その純粋な反応が、逆に遠くで見ていた女子生徒たちの間では「なんだか天然で可愛い」という新たな評価に変わっているのだった。レイトキに向けられた視線が落ち着くかと思うと、今度は隣を歩く与太郎の方にも生徒たちの目が集まり始める。彼は無愛想な表情で腕を組み、体つきもがっしりとしていて、歩くだけでも何となく迫力がある。女子生徒たちは遠目からその姿を見て、また小さく話し合う。

「あっちの人は……ちょっと怖そうな雰囲気だね」「眉間にしわが寄ってるし、まるで怒ってるみたいに見えるわ」だがすぐに別の意見も続く。

「でも、最初の印象だけで決めつけるのは早いんじゃない?」「そうだよ。こういう人って、見た目は厳しそうでも、実は友達思いで根はいいやつ、ってパターンも結構あるかもしれないじゃん」そんな囁き声に、与太郎はぴくりと耳を動かしてこちらを向く。自分のことが話題になっているのに気づくと、少し眉を上げて舌打ち混じりにぼやく。

「……なんだよ、また見世物か? 俺はただ歩いてるだけだぜ」斗愛が隣で苦笑いしながらたしなめる。

「与太郎、そういう不機嫌そうな顔をするから余計に誤解されるのよ。少しだけ表情を柔らかくしてみたら?」

「はあ? 生まれつきこんな顔なんだ、どうしようもないだろ」与太郎はそっぽを向きながらも、内心では「根はいいやつ」という言葉を意外に悪くは受け取っていない様子だった。こうして新しい環境では、彼らの見た目や雰囲気がそれぞれに勝手な印象を生み出しながら、少しずつ周囲との距離が縮まり始めていくのだった。周囲の視線が次々と自分たちに向けられる中、今度はデュークのところにもじわじわと好奇な目が集まってくる。だが彼はそれを快く思わない。眉間に深くしわを寄せ、舌打ちと共に低く鋭い声を放つ。

「けっ!? 俺たちは見せもんじゃねぇーんだよ! ジロジロ値踏みするように見てんじゃねーよ、このタコ共が!」突然の怒鳴り声に周囲の生徒たちは一斉に身を引き、驚きと不快感の混ざった表情になる。

「うわっ、何コイツ? いきなりキレるなんて」「態度悪すぎだろ、転入生だからって調子に乗ってるのか? 不良か?」「ただ見てただけなのに、何もそこまで言わなくてもいいじゃない……」 ざわめきが広がり、距離を取りながら非難めいた視線がデュークに集中する。カグラがすぐに彼の腕を掴み、低い声でたしなめる。

「デューク、落ち着きな。ここは施設じゃない、無闇に威圧的な態度を取れば、最初から悪い印象しか残らないよ」デュークはまだ不満そうに歯噛みするような表情をしていたが、カグラの力強い制止に渋々口を閉ざす。それでも背中からは「余計なことを言うな」という空気がにじみ出ており、一行の到着早々、微妙な緊張感が周囲に生まれてしまったのだった。デュークの騒ぎが少し収まったかと思うと、今度は久美子とカグラの方にも自然と視線が移っていく。

男子生徒たちは遠巻きに様子をうかがいながら、小さな声で話し合っている。

「おい、あっちの二人もすごいな……えー、結構かわいいじゃないか」「特に雰囲気も落ち着いてるし、スタイルもいい。こんな女子が近々入学してくるのか?」「目の保養……いや、これから同じ学校で過ごすと思うと、なんだか楽しみだな」そんなささやき声が耳に入ると、カグラはわずかに眉を動かし、冷静なまま周囲を見渡すだけで反応は示さない。一方の久美子は少しだけ頬を染めて照れたような表情になりながらも、すぐに隣のレイトキの方をちらりと見る。レイトキはまたしてもその言葉の意味を頭の中で整理しながら、小声で久美子に問いかける。

「また何か言われてるようだが……今度は『かわいい』とか『楽しみ』だと? これはまた褒めてるのか?」久美子はくすりと笑って頷き、耳元だけで答える。

「そうよ、悪い意味じゃない。ただ、こういう視線にも少しずつ慣れていかないとね」だがそのやり取りを見ていた男子生徒たちの間では、「あの狐耳の男子と仲が良さそうだ」という新たな噂話が、すでに静かに広がり始めていた。斗愛のほうにも視線が集まり始める。特に女子生徒たちが中心となって、興味深そうに見つめては話し合っている。

「あっちの人も素敵だわ……何!?凛々しくてかっこいいのに、どこか柔らかくて可愛い雰囲気もある」「短い髪にすっきりした立ち姿、まるで王子様みたい!」「話しかけてみたいけど、なんだか緊張しちゃうわ」そんな囁き声が聞こえてくると、斗愛は少し慌てたように手を前に振り、周りにはっきりと声を上げる。

「えっと、みんな勘違いしないでね! ボク、見た目や話し方がこんな感じだけど、実は女の子だからね」斗愛の言葉に周囲は一瞬ぽかんとした後、すぐにあちこちから「ええっ!?」という驚きの声が上がる。

「そ、そうだったの!? まったく気づかなかったわ」「かっこいいと思ってたけど、女の子だと知るとまた違った魅力に見えてくるわね」「それはそれで素敵だわ! これからよろしくね!」斗愛はほっと胸をなで下ろし、柔らかく微笑み返す。

「うん、こちらこそ。よろしくお願いします」こうして一行が学園に到着した早々、それぞれが周囲に最初の印象を刻みつけながら、少しずつ新しい環境との距離を縮めていくのだった。登校の時間が定刻に近づくと、教務スタッフが迎えに来て、一行を学園内の見学へと案内し始めた。最初に向かったのは教室棟だ。普通の学科授業を行う教室はどれも広く、窓が大きくて明るい造りになっている。机や椅子も体格や種族に合わせて調整できるようになっており、様々な生徒が不便なく使えるよう配慮されているのが見て取れた。次にパソコン室へ。ここでは情報処理や一般教養の補習、外部との連絡などに使われる設備が整っている。能力に関する基礎理論や社会の仕組みを学ぶための教材も豊富に備わっていると説明を受ける。続いて工芸室にも足を運ぶ。ここでは道具作りや武具の手入れ、自分の能力を活かしたものづくりまで、幅広い用途に使われる場所だという。棚には生徒たちがこれまでに作った作品が並んでおり、ただ座って勉強するだけでなく、手を動かして技術を磨く環境が用意されていることが分かった。最後に案内されたのは食堂だ。広々とした空間にテーブルが並び、種族や体質に合わせた多様なメニューが用意されているとのこと。食事を通じて他の生徒と交流する機会にもなる、とスタッフは付け加えた。一通り回り終えると、レイトキは周囲の様子を頭に刻みながら静かに言う。

「必要な施設や設備は一通り揃っているようだ。普通の学校とは少し違うが、俺たちに合わせて作られているのは確かだな」久美子も頷き、食堂の方を眺めながら柔らかく笑う。

「授業だけじゃなく、生活する場所としてもちゃんと考えられているのね。これなら安心して通えそうだわ」一行はこうして、これから学び、過ごすことになる場所の全体像を少しずつ掴んでいくのだった。見学が終わり、最後にスタッフが今後の予定とクラス分けについてはっきりと伝える。

「それでは説明をまとめます。週明けの月曜日から体験入学が始まります。期間は2週間で、その間に学園の雰囲気や授業内容を体験し、自分たちに合っているか確かめてください」彼は資料をめくりながら続ける。

「高等部の1学年は全部で5つのクラスに分かれています。A組からE組までありますが、レイトキさんたち6人は全員C組に配属されることになりました」

「同じクラスか」レイトキは少し安心したように頷く。

「最初から別々だと不安だったが、これなら互いに助け合えるな」 久美子もにっこりと笑みを浮かべる。

「そうね! 知っている人が同じクラスにいるだけで、緊張もだいぶ和らぐわ。体験期間中に授業の進め方や周りの生徒たちのことも、ゆっくり知っていけるわけね」与太郎は肩を落としながらも口調は軽い。

「まあ、知らない場所で一人ぽつんといるよりは、気の知れた連中と一緒の方が楽だ。C組ってことだな、覚えておく」斗愛も柔らかく頷き、カグラとデュークも無言ながら同意の表情を見せる。こうして彼らの新しい学生生活の第一歩が、具体的な形と日程を伴って、はっきりと決まったのだった。二週間の体験入学はあっという間に過ぎていった。最初は緊張と戸惑いの連続だった。授業の進め方、他の生徒たちとの接し方、能力を制御しながら行う実習など、知らないことばかりで戸惑う場面も多かった。だが日が経つにつれ、少しずつ慣れていく自分たちを感じるようになる。レイトキは一般教養の授業で「美しさ」や「感情の表現」といった、これまで理解できなかった概念に触れ、自分の中に少しずつ新しい感覚が芽生えるのを感じていた。まだ理屈でしか捉えられない部分が多くても、「知らない」だけだったことが「学べば分かる」ことだと気づいたのは大きな進歩だった。久美子はクラスに溶け込みながら、レイトキが困っているときにはいつもそばにいて助け、周りの生徒たちにも彼の不器用なところを丁寧に説明してくれた。与太郎は最初こそ「退屈だ」とぼやいていたが、体力訓練や実戦演習の授業で自分の長所を発揮し、「意外と頼りになる」という評価を少しずつ得ていく。斗愛は持ち前の穏やかさで周囲と調和し、裁縫や調理といった生活技術の授業ではクラスの中でも抜きん出た腕前を見せた。カグラは冷静に授業内容を吸収し、理論的な科目で頭角を現し、デュークも最初は周りに敵意を向けていたが、同じように過去に苦労してきた生徒たちと話すうちに、少しずつ口調が柔らかくなっていった。二週間が終わる頃には、彼らはこの学園が自分たちにとってただの「居場所」ではなく、「成長できる場所」になり得ることを確信していた。施設では得られなかった時間と自由、そして同じ境遇の仲間たちとの交流が、彼らの心に少しずつ余裕と希望を与えてくれていたのだった。体験期間が終わり、最後に職員室で担当教員が一行に向き合い、柔らかいながらもはっきりと問いかける。

「さて、この2週間の体験入学はどうだった? 学園の雰囲気や授業内容、周りの生徒たちとの関わりなど、感じたままの率直な感想を聞かせてほしい」最初にレイトキが口を開く。

「正直、最初は戸惑うことばかりだった。何が普通で何が違うのか、自分に合っているのかもよく分からなかった」少し間を置き、続ける。

「だが、授業ではこれまで知らなかったことを学べたし、周りも同じような事情の者ばかりで、必要以上に警戒されることもなかった。ここで続けて学んでいく価値はあると感じている」久美子も隣から頷きながら答える。

「私も同じです。まだ慣れないことは多いですけど、安心して過ごせる場所だと思いました。レイくんたちと一緒なら、これからも頑張っていけそうです」与太郎は肩をすくめながら、ぶっきらぼうに言う。

「退屈な時間もあったが、体を動かす訓練の授業は悪くなかった。このまま通っても損はなさそうだ」斗愛は柔らかく微笑む。

「生活に必要なことも、自分たちの力との付き合い方も学べて、とても有意義でした。正式に入学することに賛成です」カグラは冷静にまとめる。

「設備も体制も整っていて、私たちの事情にも柔軟に対応してもらえる。環境としては最適だと判断できる」最後にデュークが不機嫌そうながらも率直に答える。

「最初は見られるのが嫌でイライラしたが、変に差別したり値踏みしたりする連中ばかりじゃないのが分かった。まあ……続けてやってやってもいい」教員はそれぞれの言葉を聞 き終えると、満足そうに頷いた。

「そうか。率直な意見を聞けてよかった。これで正式な入学手続きに進めるわけだな。これから2年以上、ここで自分たちのペースで成長していってくれ」こうして、体験期間を経て、彼らの学園生活は本格的なスタートへと踏み出すことになった。体験入学の終了と感想確認を経て、レイトキたちは続けて正式な入学手続きへと進んだ。事務室では身分登録、クラス配属の確定、学園の規則や施設利用に関する説明が順に行われる。キキョウやエルカーノスの担当者から事前に引き継がれた書類があったため、経歴や出自の細かい部分を深く問われることもなく、手続きは比較的スムーズに進んだ。一人ずつ必要事項を記入し、生徒証明書、校舎の通行カード、授業に必要な教材リストを受け取る。レイトキは手渡された自分の生徒証をじっと見つめる。これまで「実験体番号」や「任務コード」で呼ばれてきた彼らにとって、名前で登録された正式な身分証を持つことは、「自由な存在」として認められた証のように感じられた。手続きを終えて外に出ると、久美子が自分のカードを見ながら明るく言う。「これで正式な生徒になったわね。これからは『転入生』じゃなく、C組の一員として毎日通うことになるんだ」

「ああ」レイトキも頷き、少しだけ新しい重みを感じていた。「ただ通うだけじゃなく、ここで何を学び、何を身につけるかは俺たち自身で決められる。それが自由ってことなのかもしれない」手続きを済ませて数日が過ぎ、週明けの月曜日。

朝のホームルームの時間、C組の教室には生徒たちがそろい、担任教師が前に立つ。


「皆さん、静かに。今日は改めて、このクラスに正式に加わる転入生たちを紹介します」


教師の言葉に合わせて、レイトキたち6人は教卓の横に並ぶ。体験期間で顔は知られていても、これから本格的に同じクラスの仲間として過ごすための、公式な紹介の場だ。


「左から順に、レイトキ、久美子、与太郎、斗愛、カグラ、デューク。これからこのクラスの一員として一緒に学んでいきます。それぞれ事情も能力も違いますが、お互いに理解し合って接するように」教師の紹介が終わると、レイトキが最初に前に出て、簡潔に口を開く。

「レイトキだ。特別な経歴はないが、これまで普通の生活をしてこなかった。分からないことだらけだが、できる限り努力する。よろしく」続いて久美子が柔らかく笑みを浮かべる。

「久美子です。これから皆さんと仲良く過ごせたら嬉しいです。何かあれば気軽に声をかけてくださいね」与太郎はぶっきらぼうに名前だけ告げる。

「与太郎だ。面倒なことは嫌いだが、やるべきことはやる。よろしく」斗愛は丁寧に頭を下げる。

「斗愛です。力の使い方も生活のことも、これから一緒に学んでいけたらと思います。どうぞよろしくお願いします」カグラは落ち着いた口調で短くまとめる。

「カグラです。理論的なことや状況判断は得意な方だ。何かあれば力になれるかもしれない」最後にデュークは不機嫌そうながらも必要な言葉だけを吐き出す。

「デュークだ。余計な干渉はしないでくれ。それだけ守ってくれれば問題はない」一通りの自己紹介が終わると、教室からはぱらぱらと拍手が起こる。体験期間で抱いた印象があっても、こうして正式に名前と言葉を交わすことで、「新しいクラスメイト」としての距離が少しずつ縮まっていくのを感じられた。この瞬間から、彼らの本当の意味での学園生活が、静かに、だけど確かに始まったのだった。

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