第十五話 登竜門への門
週末の土曜日、俺達四人にプラスして委員長と、何故か、貞夫&ヤスまでが、弥弦氏の招待を受け例のログハウスにやって来た。委員長が自分の派閥の人間を連れてこなかったのは、これ以上弥弦氏の印象を悪くしない為だろうが、奴らKYコンビが居ては、そもそも、今回の話が御破算になるのでは? と心配していると、
「俺達は、毎日水野さんと御挨拶する間柄でヤス。試験の件は、こちらからお願いしたら、快く了解してくれたでヤスよ」
などというので、仕方なく同道を許した。
「みなさん、いらっしゃいませ。奥の方で弥弦がお待ちです。さあ、おあがりください」
と、水野さんの案内で弥弦氏の所まで通されると、
「やぁ、いらっしゃい。待っていましたよ」
と、にこやかな弥弦氏のお出迎えを受けて、まずは、お茶をすることになる。
「本日の紅茶は、インド産のセイロン、ファーストフラッシュが手に入りましたので、ぜひご賞味ください」
今一分からない言葉だったが、璃々が、今年の初芽を摘んだものだと教えてくれた。香りがすげー、甘い葡萄みたいな香り。これ一杯で、本土でも、千円じゃ飲めないそうだ。ずいぶんとお高い紅茶ですこと。お茶請けが、また凄い。三段重ねになったトレーに、ケーキと、クッキー、サンドイッチがそれぞれの段にのせてあった。スゲー! 後で、俺と、貞夫&ヤスが同じ顔していたと、注意された。
「ときに、貞夫くんと、宏くん、だったかな。宏くんが、どうしてヤスなのか、私にも教えてくれないかな?」
え?
「聞いた!」「聞いたわ?」「ほえ~」「あー、聞いちゃった」「それ、今関係ある?」「ふむ、流石」
それに対して、ヤスが、
「うちは、代々網野家の番頭をしている家系なんでヤス。で、頭領の家でへりくだって生活してるうちに、家族全員がヤスって言う癖がついたでヤスよ。だから、うちは、祖父も父も、仇名はヤスでヤスよ。代々続いてる由緒正しい仇名なんでヤス」
「説明した!」「説明したわ?」「ほえ~」「ま、いいか」「だから、関係……」「ふむ、天晴!」
「なるほど、君も家族も、誇りを持っているんだね。いや、素晴らしい」
「「「「「「そして、褒められた!?」」」」」」
と、まあ、こんなアホ会話もあったが、本日の本題は、そこじゃない。
「それで、本日のご招待の件ですけれど」
委員長が、代表して話を進めてくれる。ある意味KYだが、俺らから切り出さずに済んで助かる。
「そうだったね。試験を受けてもらうようお願いするのだった」
「へ? 俺たちがお願いする立場なんじゃ?」
「いやいや、まさか、最終的には、自分で決意してもらわねば成立しない試験だからね。だから、自分で判断して、もしダメだと思ったなら断ってくれて構わない。どうだね?」
「わかりました。試験の内容を教えて下さい」
それでも、俺は既に決意していた。璃々まりも、さなえねぇも、同じだ。だから迷いなく聞いた。
「よろしい。では、試験の内容だが、璃々くん、君の株は、上場時に約3000万になっていたね?」
「はい。若干多いくらいですけど、そんなものかと。ただ、今回配当が10%近く付いたので来週には300万ほど増えます」
「おあつらえ向きだな。では、その配当を資本にして、君たちの力で一億円作ってくれたまえ。方法は問わないが、漁以外でこの島から出ないでやること。それと、期限だが、夏休みが終わるまでだ。どうかね?」
ふむ、厳しい内容だが、300万を元手に一億円作るか。思ったよりストレートな試験だったな。
ん? 委員長は顔を青くしているぞ!?
「委員長、大丈夫か?」
「むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむり……」
ぶつぶつと言っているが、どうやら心が折れたようだ。ぽっきりと。
貞夫&ヤスの方はやる気みたいだが、
「「「「「「やります!」」」」」」
そう、言った俺たちを見て、委員長は信じられないものを見たような顔した。
「委員長はやらないの?」
と、璃々は尋ねたが、
「だって、子供だけでそんなお金、仕事をしたって稼げはしないわよ。第一、お金儲けなんかしたら大人に怒られるわよ! それに、学校はどうするの? 勉強する時間は? 第一、お金って、そんなに一杯稼ごうとしたら悪いことでもしなきゃ無理なんじゃないの?」
「ふむ、あっという間に4つも否定する意見が出たね」
「は! 御免なさい。そういうつもりじゃないんです」
「いやいや、君を責めている訳じゃないんだよ。何かを始めるときに否定意見を述べる人は絶対必要なんだ。ただし、その人に引っ張られて全員がマイナスイメージを持つのは良くないがね♡」
と、弥弦氏は、ポーズをお茶目に決めて委員長を気遣っていた。
「ふむ、どうやら、ここには人に言われてマイナスイメージを持つ者は居ないようだ。君たち七人は、意外といいチームになるのではないかな?」
「ええ、そう思いますわ」
ええ? 貞夫たちと? と、思ったがここではあえて別のことを委員長に向けていった。
「実際、璃々はこの島にほぼ無一文で来たけど、今では数千万の資産持ちになった。このお金は別に悪いことをして稼いだお金じゃない。ただ、たまたま巡り合った人達が璃々を支えてくれた善意のお金だ。誰に説明しても、悪いこととは言わせない。それは、ずっと見てきた俺たちが証人だ」
うんうんと頷くまりとさなえねぇ。あ、璃々泣きそう。ヤバ!
「それに、俺たち、普通に漁に出ては分け前というか、自分の船の分だけはしっかりもらってるしな」
「そうでヤス。そのお金は、誰はばかることのないお金でヤスよ」
と、貞夫&ヤスも言う。こいつら、自分たちの船まで持ってんだよな。セコハンだけど。
「勉強に関しては、委員長自身が証人だよな。俺達に負けてべそかいてたよなぁ にやり」
「うっ!」
「最後に残った疑問には、私が答えようか。お金儲けしたら大人に怒られる、ということだが、それに関しては、大人を代表して申し訳なく思っている。結局のところ、この点に関しては、古来より、大人の嫉妬心や独占欲が引き起こした悲劇といっていいだろうね。これは、ユニセフなんかの子供に対する憲章でもあるが、子供が労働を強いられ搾取される環境を作らないよう大人がしっかりしよう、というはずだったが、結局、世の大人がやってることといえば、子供が仕事をしてお金を稼ぐことから追い出そうというキャンペーンにすり替わっている。そうすることで、将来の企業家の芽を摘んだりしてることに気が付いていない」
「あ」
「だから、本来、子供がお金儲けをしようとしてたら、大人はそれを手助けしなければいけないんだ。
私のしていることは、まずそれを多くの人に分かってもらおうという、それだけなんだよ」
それでも、しばらくは逡巡していた委員長であったが、やがて覚悟を決めたような顔つきできっぱりと言い放った。
「わかりました。非才の身ですが、私も試験に参加させてください」
こうして、俺たち七人で、試験を受けることになった。




