第十三話 見えない 戦争
「戦争、ですか?」「戦争が起こるんですか?」「いつせんそうになるんですか?」「日本が負けるんですか?」
俺達は、かなり混乱していた。そのせいで、同時にしゃべって弥弦氏を困らせていたことに気づいていなかった。
「一つだけ言えるのは、戦争自体は、既に始まっているということだね。ただ、例えば君達が直ちに戦場で殺し合いをしなければいけないというわけでもないがね」
弥弦氏の言葉は優しく落ち着けるよう諭すような語りだ。ただ、それでも、〝既に始まっている〟という言葉の重さは、俺達のイメージしていた世界が壊れていくような気がして、落ちつけなかった。
「水野くん。そろそろ、みんなをお送りした方がいいんじゃないか?」
「畏まりました。皆さん、おうちまで車をだしますので、ご用意をお願いします」
時刻は、十時を回っていた。
「また、近いうちに遊びに来てくれると嬉しい。その時に今日の続きをお話しよう」
そう言って、俺達を送り出して下さった。
水野さんが運転する車(多分役所で借りたものだろう)で、送ってもらった帰り道、水野さんが言っていた言葉が少しだけ俺達の心を救ってくれた。
「恐らく、お館様は、皆さんに試験を受けてもらおうと思ったのでしょう。この、現実を受け止めた上で何を考え、何を目指すのか、自分が話をするに値するかどうか、確かめてみたくなったのだと思います。多分、皆さんならお館様の試練なんか簡単にクリアできると、私は信じておりますよ」
そう、言ってくれて、うれしかった。弥弦氏も、水野さんも、俺達を子供扱いしないでくれたのだ。
そう思ったら、余裕も出てきた。彼の言葉の真意を調べてみよう。そういって、さなえねぇと、まりと別れた。
「ただいま」「ただいまかえりました」
そう言って家に入る。
「お帰り」
と、ばあちゃんが迎えてくれた。
「弥弦氏は、昔うちに泊まったことがあったらしいよ。ばあちゃんに宜しくと言ってた」
と、言うと嬉しそうにしていた。
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明けて翌日のこと、委員長に、弥弦氏の所に行ったことがばれていた。貞夫とヤスのせいだ。
「弥弦氏は、私のことは、何かいってなかった?」
そう聞かれても、別になぁ。璃々、まり、と共に首を横に振る。すると、委員長がorzのポーズ。
「私は、毎日必死で勉強してるのに、どうして、あんた達だけ可愛がられてるのよ! 狡いわ!」
何と答えて良いやら。ただ、弥弦氏の求める頭の良さは、彼女のものとは違うものだよなぁ。
どう、答えたらこの違いを理解してもらえるだろうか?
とりあえず、昨日の話をしてみた。
「はあっ? 戦争が今始まってる? 馬鹿なこと言って私をからかってんの? 新聞見ても、ニュース見ても、そんなこと言ってるところなんかあるわけないじゃない」
そうだ、こう言われるのは判ってた。俺は、弥弦氏の言葉に嘘偽りは全くないと確信している。
でも、委員長には、見えていない。多分、島の大人たちの目にも見えていない。
敵が誰かもわからない。味方が居るのかもわからない。
これは、見えない戦争なんだ。
裸の王様の話を思い出した。
でも、今回の戦争では、みんなが裸の王様なんだ。
そして、それを指摘する子供は、弥弦氏一人なのかもしれない。
もしかしたら、真実を告げる子供は、多数決で負けるのかも。
そうしたら、嘘つきは、子供の方になる。
そして、戦争をしかけた奴らは、それが目的なのか。
だとしたら、
弥弦氏の言ってた通り、なにもかも、
仕掛けた奴らに取り上げられる。
弥弦氏は、言っていた。
そうならないための保険だと。
ここは、そういう場所になるのだと。
そういう事だったのか。
「だからこそ、委員長は、弥弦氏と仲良くなれないんだ」
ぽつりと、言ってしまった。
多数派の裸の王様は、説得できない。
「何それ! 意味わかんない!」
委員長が怒った。
「よかったの? あんな言い方しちゃって?」
璃々が声をかけてきた。
「昨日の話、少し判りかけてきたみたいだ」
「せんそうのはなし?」
まり も、心配そうに見てる。
「俺達は、たとえ少数派であっても、世の中を正しい知識で見ている人々の味方にならなきゃ。正しい答えを啓示してくれる人を見捨てちゃいけないんだ」
たぶん、それが結論だ。
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