第十二話 いま、そこにある戦争
俺たちは、弥弦 創造氏と夕食を共にすることになった。
水野さんは、主と同席できないらしく、弥弦氏の背後に立っている。落ち着かない。
「そういえば、君たちは、力丸氏の会社の株主になったのだったね」
そう、切り出した弥弦氏。
「私は、ゲーム業界のことは良く知らないのだが、氏の会社はどうなのかな?」
と、背後の水野さんに尋ねる。
「はい、彼の知名度と、ゲームの内容から、ここしばらくは堅調に伸びていくものと思われます」
ふむ、と考え込む弥弦氏。
「ここしばらくは、と言うからには、何か懸念があるのかね?」
「そうですね。皆さんは何が懸念材料かわかりますか?」
うーんうーん、と俺たち、
「会社の規模でしょうか?」
と、璃々。実のところ、彼女は、大株主の方に入っているのだ。役員になれる位。
「確か、完成が遅れているゲームがあったかと」
とは、俺。ゲーム雑誌も読んでるからな。
「まーけっとのおおきさかなぁ」
と、まり。
「一応、それら全部かと思います」
とは、さなえねぇ。ずるい。
水野さんは、満足げに頷いて、
「まりさん、正解です。実のところ、ゲーム業界全般の世界規模でのマーケットの大きさが不安材料ですね。全世界で、家庭用ゲーム機を買える人々の数は、実は、意外なほど少ないのです」
以下、水野さんの説明では、
家庭用ゲーム機本体の世界規模の最大販売可能数は、約二千万台、このあたりで限界らしい。
世帯当たり普及率は一割に満たないそうだ。購買可能な人が西側諸国の富裕層に限られるというのが原因らしい。
さらに、ゲームソフトに限って言うと、この二千万台分全部に売れるゲームなどあるわけもなく。
ドラクエやFFですら、三百万枚が限界で、あとは、売れた数の何割かが中古市場に回るのみ。
全体のマーケットでも、全世界で六千億強程度。
これは、日本一国のパチンコ業界の二兆円。中央競馬の四兆円と比較しても、圧倒的に少ない。
つまり、ゲーム業界に金脈はないのではないか?というのが水野さんの結論だ。
「おそらく、十年もしないうちに、ゲーム会社は、パチンコなどの下請け企業みたいになるのではないでしょうか?力丸氏も、何か別の事業展開を考えねば、かなりの確率で倒産することになるでしょう。と、いっても、あと数年は変なことさえしなければ大丈夫です。念のため出口戦略は立てておいた方がいいでしょうが」
戦慄。ゲームの世界って怖いことになってたんだ。
うちのクラスでも、ゲームデザイナーや、クリエーターになりたいって奴は多かったのに。
濃い雑談のあとに、薄味のコンソメスープが運ばれてくる。
わかめの入った岩塩とブイヨンの味がさわやかだ。
次に、出てきたのは、お土産に持ってきた赤烏賊のくさやだった。
ただし、原型を留めないほどスタイリッシュな一皿になっていた。
上にかかったホワイトソース?が絶品で、あり得ない程うまかった。
「この、コクは、熟成して寝かせた、やえさんの名人芸があってこそだな。こうなると〝くさや〟の名をつけることがもったいないな。何かいいネーミングがあれば、新しい島の名物になるかもね」
ばあちゃんの烏賊、こんなにすごかったのか。感動。
そして、メインディッシュが、鹿肉のスモーク、これに、オレンジソースをかけたもの。定番らしいが、俺たちは、はじめてだ。唯一璃々が、以前食べたことがあったとか。
香ばしいいい香りが肉全体を覆っていた。これは、水野さんが、島に来た頃から準備してスモークしていたらしい。本来の仕事のほかに、俺たちの面倒を見てくれたりしながら、こんな料理も用意していたとは、本当にすごい人だなと、改めて思った。
食後のデザートに出てきたケーキには、女子全員が目をビー玉のようにキラキラさせて感動していた。これも、水野さんの作だそうな。俺のケーキは、璃々が半分、まりとさなえねぇが残りを持っていった。
俺、食べてない。食べてないよ!?
食後のコーヒーまで、ごちそうになって、腹ごなしに軽くトランプをしていた時、気になっていたことを聞いてみた。
「そもそも、どうしてこの島にITの基地を作ろうと思ったのですか?」
弥弦氏が、語った言葉は、今日最大の驚きだった。
「それは、次の戦争で、日本が負けた時に何もかも無くしてしまわないように、保険をかけるためだよ」
せ、戦争!?
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