第十一話 森の中の賢人
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ガッデム!ひどい目にあったぜ。
無駄口と女は怪我の元とは、よく言ったもんだ。
それにしても、あのBB……、いえ、何でもありません。Aとかいってません!
それよりも、今回は、遂に桜田氏が生涯のメンターとして崇める弥弦氏との初邂逅だ。
この時点では、水野女史のおまけみたいな扱いだけど、どうやら、璃々嬢をはじめ、女性陣の鼻息が荒くなっているようだが……
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今日は、図書館で水野さんがくれた本を読んでいる。
と、いう体裁を委員長に見せるため四人で居残っている。
とはいえ、見せかけでも、本を開いて読んでいると、面白くってとまらない。
まりは、今日は、「賢明なる投資家」を 読んでいる。いつのまにか、一番熱心に読んでいるなぁ。
面白いか?と、聞くと、
「ベンさまのとうしせんりゃくは、ゆ~ゆるで、まりとあいしょうよさそうなの」
とのたまった。こいつは、その内、インテリひらがなキャラで売り出せそうだ。 うひひ。
そんな皮算用をしていると、
「私、東京に帰るために、もっとお金が欲しいの!せっかくだから、あきらさんのお館様に色々アドバイスをしてもらいたいんだけど」
と、璃々が言い出した。
「ええっ!? りりちゃん! わたしといっしょにこのしまで、しんちゃんのにごうさんしようよぉ」
いや、まり、二号さんは一人だけだと 思うぞ。インテリひらがなキャラ終了のお知らせ。
すると、一号本郷が、
「まず、情報を集めてるから、ちょっと待ってね。金髪っちゃん。ああ、来たみたい」
と、ガラガラと図書館の扉が開く。
「げげぇっ! 神童!」
と、入るなりいきなりご挨拶なセリフをくれた野郎は、
「げげぇっ! 貞夫かぁ。なぁーんだ!」
「……。何気にお前の反応の方がひどくね!?」
沢尻湾の網元の首領、桜田家と、多幸湾側の漁師団の統領、網野家は、歴史的に仲がよろしくない。漁場自体はかぶっているわけではないが、この島ではどちらも支配階級なので、金持ち比べをやり始めると歯止めが利かなくなる程エキサイトしてしまうのだ。だから、基本両家の人間は、互いに無視しあうのが平和を保つ秘訣である。
ところが、貞夫のように、桜田の家の者に懸想する奴が出てくると事情が変わる。何とかものにして、桜田家を吸収できれば、支配者は自分達になる。と考えているのか、凄まじいばかりのアプローチを始め逆に桜田が逃げ出すということになる。
これは、東海汽船が航路設定した時、メインを沢尻湾の方に置き、多幸湾を荒天時用の裏港として設定して以来の悲願なのかもしれない。
網野家では、こういう場合特別予算が出るらしく、貞夫は、いつも羽振りがよろしく子分連中に奢ったりして大物感をアピールしている。うざ!
もっとも、そういった心理を利用して貞夫を度々こき使っているさなえねぇも、大概だがな。
「それで、あきらさんの行方はわかった?」
「もち、って言ってもそんな変な所に居るけじゃないけどな」
場所は、町から、多幸湾に抜ける道路の中間地点、島で使うセメントを取るための砕石場がある。
そこの、道路を挟んだ反対側に今は誰も使っていないログハウスの食堂がある。
その建物を改修して、当座の拠点とするらしい。
「よく、見つけたわね」
と、さなえねぇが言うと、
「そうでもないんでヤス。毎朝登校時に自転車で通りかかると、挨拶してくれるんでヤス」
「ば、ばっか! ヤス、余計なこというな!」
「ふーん。つまり、元々知ってた情報で恩を売ろうとしてたんだ」
さなえねぇの声音が怒気を孕んでいる。璃々まりもジト目でねめつけると、貞夫がもじもじし出した。
「「「姑息!」」」
完全なユニゾンだ! この一言で貞夫のHPはゼロとなった。
と、いうわけで姑息な貞夫とヤスをその場に残して、多幸湾行のバスにのる。バスは、森の中を一山超えて島の裏側、多幸湾へと行くのであるが、そのほぼ中間地点。砕石場の辺りで運転手に下ろしてもらう。
運転手は怪訝な顔をしていたが、すぐに、ああ、あのメイドさんの……と、思い出したようだ。
それにしても、水野さん、僅かな時間でどれ程知名度を上げてくるんだろう。
水野さんは、件のログハウスの前で水まきをしていた。
「皆さん、お久しぶりです。お勉強の方、見てあげられなくて申し訳ありませんでした」
「いえ、みんなで一緒に水野さんに頂いた本を読みながら考えていましたから」
「それはそれは、お役に立てたなら幸いです」
と、嬉しそうに言ってくれる。
「私たち、本日お邪魔したのは……」
「ええ、ぜひお館様も会ってお話がしたいと申しておりました」
と、いうことで中に案内される。
意外にも、人の数が多い。工事の人、メイドさんに交じって仕立ての良い立派な背広に身を包んだ男の人がいる
。
「お館様。以前から話しておりました少年、少女が、お館様にお目通りしたいとのことですが」
と、水野さんが話すと紳士は、こちらに向かってやってきた。以外と若い!?
「やぁ、いらっしゃい。私が、弥弦です。水野に君たちの話をよく聞いていたのでね。お会いできて光栄だよ」
あまりにも気さくに声をかけて
くる紳士に対して、
「これ、うちで作ったくさやです。よろしかったら、召し上がって下さい」
と、お土産をわたす。
「おおっ? この臭くないくさやは? もしかして、君は〝民宿 さくらだ〟の関係者かい?」
「はい。孫にあたります」
「そうか。実は、十六年前に一度泊まったことがあるんだよ。源一郎さんや、やえさんは、元気ですか?」
「祖父は、二年前に海難事故で……しかし、祖母は元気にしております。宜しかったら一度宿の方にもいらしてみて下さい。宿は廃業してしまいましたが、きっと祖母も喜びます」
「必ず帰るまでに伺うよ。それにしても、世間はせまいな」
そこまで話したところで、大工さんに呼ばれて弥弦氏は行ってしまった。
「ゆっくりして行って下さい。時間さえ宜しかったら、夕飯をご一緒しましょう」
と、ひと声残して。
この物語は、皆さんの愛情によって提供されております。




